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九郎の休日
カラス
しおりを挟む「九郎、参りました」
「きたか、これが頼みたい仕事だ」
父、前ノ坊一進。にこやかな表情の裏は策略をめぐらせ、油断すれば息子であろうと策に喰われる。
仕事の内容はたいしたものじゃない、俺たちの近状を知るべく呼びだしたようだ。会話に関係をたしかめる質問を織りまぜてくる。もちろん関係は良好だけど当たりさわりのない答えをかえす。
「近々、宴席を催すが顔を出してはどうかね?」
「……いいえ、私は」
【烏】があつまる宴席へのさそい、自分自身にわだかまりの残る俺はそれを辞退した。あごヒゲへ手をそえた父は残念そうにうなる。
幼少期に厄災のカケラに憑かれ、数年まえ発露してしまった。まわりを巻きこみ暴走し、【月読】である明の力に封印され収まったのは記憶に新しいできごと。烏は魔をはらう退魔師、禍々しい厄災の力を忌みきらう。父はよくても身内に俺のような者がいるのは許せないだろう。
いままでどおり接する者、距離をおく者、対する態度はさまざまだった。俺は烏だが彼らとは相容れない、隔離された存在として月読の烏となった。
妬まれようが誹られようが、ゆるぎない意思と居場所をあたえるのは明その人。
こう考える俺を彼は重いと言うだろうか?
「彼を家に待たせてるゆえ、これで失礼します」
「おや、陽太くんがそちらへ行ったのでは?」
「今日は私がいるので断りました」
「そうか、宴席の件は気がむいたら顔を出しなさい」
烏の屋敷は実家、もっともなれ親しんだ場所だ。ふるい板ばりの廊下に活気のある雰囲気はかわらない、だが厄災のカケラを身にやどす俺への反応は以前とはちがう。遠まきにこちらをうかがう気配を感じ、足早に玄関へむかった。
追ってきた気配のひとつが動き、天井から影がぶら下がる。
「めずらしいヤツ見っけ! 久しぶりだな、九郎!!」
梁から飛びおりた小さな影は三宅太郎、烏の道場で修行をともにした兄弟子だ。
「太郎くんっ、どうしていつも先走るかなぁ。やあ九郎」
「ども」
追いかけてきたのは同じく兄弟子の白猪、そして金村も姿をあらわす。彼らは態度の変わらない数少ない友人、俺の肩へ飛びのった三宅は顔へ垂れさがりうっとうしく訴える。
「くろう~、最近ちっとも道場に来ないじゃん。おかげで月読まで来ないから、みんな意気消沈してんだぞ。顔だせよぉ、なぁ~」
「……わかった。こんど誘ってみるよ」
「おっ、すなおに応じたな。約束だからな! ちゃんと月読にも伝えろよ、兄弟子サマの命令だぞ!」
少年みたいに口をとがらせ念をおす兄弟子に俺の口元もゆるむ。おせっかいすぎる面もあるけど人と人のあいだをとりもつ資質、明がこの兄弟子を気に入ってるのは自ずとわかる。
潜在的なライバル――だがしかし、口うるさい兄弟子の背中へ白猪がじっとりした視線をおくっていた。
からんでくる兄弟子の追撃をふりきり帰宅した。玄関のカギは開き、2足の靴が居座っている。居間には悪びれもせずほほ笑む千隼と、寝ぼけまなこの明がのんべんだらりと過ごしていた。
台所から美味しそうな匂いがただよい、エプロンをかけた陽太が現れた。
「あと5分くらいで焼きあがりま――わわっ、九郎さんおかえりなさい! 千隼さんに引っぱられて勝手におじゃましてますです!!」
「しっかし、居ないなんて平然とウソつくんだから。ひとり占め? ぼくの目を欺こうなんてムダムダ」
「月読様を休ませてあげたいという配慮ですって! 僕らのせいで月読様、起きてしまいましたし……」
ニヤニヤ笑う千隼のよこで陽太が擁護する。実際そこまで配慮してたわけじゃない、気立てのよい陽太の発言に俺の良心が痛む。
数分して手づくりのピザが焼きあがった。俺も昼食メニューを考えていたが、相伴にあずかることにした。ドーナツ然りパン然り、陽太は小麦粉をつかう料理にとても精通している。米派の俺でもおもわず唸るほどだ。
ねむたい明はピザの匂いに反応するものの蜃気楼のように漂っている。切りわけたピザを口元へもっていけば、目をつむったままモソモソと口をうごかした。
「九郎さんずるい~、それぼくもやりたい~」
「あああ月読様っ!? 千隼さん、やめて差し上げて!」
両側からピザを口へ押しこまれる明は苦悶の表情をうかべた。
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