つくよみ閑話

風見鶏ーKazamidoriー

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九郎の休日

花宴

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 まちわびた春が来て、山のすそ野は萌黄もえぎに色づく。今年は気温が低く、三分咲きの桜が迎える。手伝いの者たちはせわしなく、設置した茶釜から湯気があがった。

「これ、ここでいいすかね?」

 金村がグッズの入った段ボールを運んできた。ひさし付きの机へならぶのは可愛いカラス柄のマグカップやストラップ、各家から回収したバザー品等々。
 写真集は秘密クラブでの取りあつかいのみ。情報を駆使し、もとめる者に門戸はひらかれる。ここへならぶグッズは裏への入り口を発見するカギなのだ。

 団子だんごを搬入したころ、桜を見物しに来場者がおとずれた。茶席を団子班にまかせ、物販ブースへもどると人だかりが出来ている。

 グッズが売れたとしても不自然なあつまり方だ。人混みをかき分ければ、中心に桜の木を連想させる着物の男性がいた。こちらをふり向き、花葉色の裏地がひるがえる。

あきら、ゆっくり来ていいと言っただろう」
「家にいても落ちつかなくてな」

 きっちり束ねられた髪にシックな和のよそおい、ほほ笑むと周りの空気がきらめく。昨晩は花見がたのしみで廊下を行き来し、ころんだ挙句そのまま寝てしまったなど誰が想像できようか。

 いまの彼は明ではなく月読、舞いのごとく優美にあるき、発する声は心へひびく。

 身近に触れあうチャンスだと寄る人々も、彼をまえにすると上手く言葉がでてこない。結果、ミーハーな烏たちに囲まれる構図ができていた。

「九郎のとおなじ丹波黒たんばぐろのマグカップ。ほう、そっちはカラスの模様が浮きでる黒楽くろらくの茶碗? ところで私の作ったお守りは置いてないのか?」

「出したとたん、あつまった奴らが買っていったぜ。激レアすぎて数が圧倒的に足りない、もっとキリキリ作れ! 俺のぶんも!」

 会話に加わったのは物販を担当する三宅、パンフレットを読みあげ、ひと通り商品の説明をする。開店そうそう売り切れた品もあって、烏たちの情報収集にぬかりはないようだ。

「このようすだと家の井戸水、1杯1000円で売れるんじゃないか?」

 売り物を見てまわる明がロクでもない提案をしてきたけど即座に却下した。

「月読さま、記念にお札へサインください!」
「ははは、サインしたらお札として使えなくなってしまうよ。かわりにこの飴をどうぞ」
「やった、幸運のあめもらった!」
「幸運の飴だって!? ぜひ私にも!」

 ふつうのノド飴だったが、少年のひと言で「幸運の」飴と化した。売り場へ人々が殺到して三宅が悲鳴をあげる。ノド飴を買ってくるようにと金村をコンビニへ走らせ、明を離脱させた。飴が分配されれば集った人々も落ちつきを取りもどすだろう。



 混乱したブースを離れ、おごそかな雰囲気の茶席へむかった。上流クラスの烏が抹茶をたしなみ、一般の烏たちも背筋を正している。
 桜の下のしずかな席へ移動した。やつれた明のため団子を取りに行こうとしたが、腕を引っぱられて腰をおろす。

 明は2人前の団子を注文した。

「九郎はどうせ夜まで忙しいのだろう? いまのうちに腹へ入れておけ」
「護衛に専念してほしかったか?」
「いいや。おまえを連れていけば彼らに恨まれそうだ。私でなくとも、充分に必要とされてるってことさ」

 彼の目配せする方角にコンビニ袋をかかえて走る金村の姿がみえた。

 つぼみだった桜は花ひらき、春の雪のごとく散るのはすこし後だろう。

「見ごろには早かった」
「咲きはじめの桜もいい。生命力にあふれ、我さきに見てくれと言わんばかりだ」
「満開になったら、また2人で見に来よう」
「……うん」

 照れて伏し目になった明の手に俺のをかさねる。群衆の喧騒は遠く、まるで俗世から切りはなされたみたいだ。

「結界を張ったのか?」
「張ってないよ、たまに流れの異なる場があるんだ。見つけるのは昔から得意だろ」

 ふと気づく人けのない場所、森や都会の片すみにひっそり存在する。

 俺はいつも彼が安息できる場所をさがしていた。かくされた空間に2人きり、自分が明にとって特別な存在になった気がする。
 ふだん甘いものは食べないけど、今日の団子は格別に美味い。さいごの1つへ手を伸ばすと団子は消えていた。小さいおっさんと目が合った。

『花見だんごは格別じゃのう。ああ~ヨモギ餅も持ってきてくれぬか?』

 図々ずうずうしいおっさん――もといミソサザイの羽をまとうおきなは、御山に現れる神々のひと柱。烏の屋敷へ居つき、わずか数センチの身の丈にみずらを結った古代人の格好をしている。こともあろうか、俺に代わり明とたのしくお喋りをはじめた。

『おお九郎よ。そのように殺気を放つとは、まだまだ修行が足りぬの』

「これはこれは、羽の翁もいらっしゃったか。月読殿、よい雰囲気のところ申しわけないが、あちらの者達も待ちわびております」

 羽の翁がなげいた時、もうひとりの恋路クラッシャーが隠された場へ足を踏みいれた。袖手しゅうしゅしながら大らかに笑うのは父の一進、烏の重鎮が腰をすえる席へ明を呼びにきたようだ。
 急に離れたくない気もちになり、抵抗してみるものの父は意に介さない。むしろ俺の反逆を楽しんでいる節がある。

 くっ、手ごわい。



「私はあちらの御仁たちへ挨拶しにいくよ。九郎もすべきことをするといい」

 明の人さし指が俺の縦じわを押した。日ごろ俺がおでこをつつく側だがお返しされたらしい、ほほ笑んだ彼は月読の顔へもどった。

 父とならび去りゆく彼の背を見送る。

『大勢の烏があつまる場で、かの者と2人きりになろうとは大胆不敵、いったい誰に似たのかのう?』

 口ヒゲをなでた羽の翁は意味深に笑う。
 この場へ来ると決め、今日すべき役割を自分で決めた。俺は彼らのもとへ戻るべく皿をかさねる。

『片づけるついでに、あそこであぶっているみたらし団子を持ってきておくれ』

 厚かましいおっさんは最後まで厚かましかった。






――――――――――

 読んで頂きありがとうございます。

 アキラと九郎の花見話でした。九郎の妹・燈子の話が続きます。
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