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九郎の休日
千隼と陽太編 花見イベ!
しおりを挟む裏の見つかりそうにない入り口だったのに、セキュリティーがとつぜん現れた。まるで要人をむかえる厳戒態勢だったけど、かんたんな荷物検査で入場できた。いがいに楽勝。
花見だけあって人の波で混雑している。会場にいるのは烏とその関係者だから数の多さにびっくり。
「わぁ、お祭りみたいですね!」
陽太の声のトーンがあがった。
彼の父親はきびしく、陽太はとても控えめ。しかし僕という解放戦士により、日ごろの抑圧から解放されボルテージが高まっている。
月読の一族だけあって目鼻立ちはととのい、みがけば光る素材なのに気づいてない。気づいても本人の性格からすれば目立ちたがらないのかも。
すこし歩くと屋台が軒を連ねていた。屋台はうちの専売特許、これは敵情視察するっきゃない。アルコールはないけど、夜の気温にあわせて温かい甘酒や汁物がふるまわれてる。ぼくの興味をそそるグッズ展開、やるじゃあないか。
グッズに惹かれてブースへ近づくと、とある人物とバッチリ目が合った。
――――やべ
とっさにフードを引っぱり顔をそらすとサングラスへ指が当たる。サングラスとマスクで変装中だったことを思いだした。
バレてる? 九郎さん眼光まじこわい。極力声を出さないように買い物したらちゃんと売ってくれた。
「お連れさまはどちらに?」
「ん? あれ?」
うん、たぶんバレてる。キョドりながらふり向くと陽太がいない。その場をはなれる口実と迷子を心配した僕は急いでさがしに行った。
「千隼さーん」
弱々しい声がきこえ、人混みへ埋もれる彼を発見した。
「ふぇぇ、置いていくなんてヒドイですよぅ」
「ハハ、ごめんて」
僕のうしろを歩いていたら歩行者の集団に巻きこまれたようだ。人混みにもまれた陽太は萎びたきゅうりと化し、申しわけなく思い甘酒を買って手わたす。これで痩けた頬がもどればいいけど。
ホットな甘酒を飲み休憩していると、見知らぬ人が近づいてくる。ぼくと陽太に緊張がはしったがイベントの案内だった。陽太の希望で見にいくことにした。
広場のテントで出迎えたのは一進さん。爺ちゃんから気をつけろと言われている第1級の要注意じんぶつだ。
「陽太お兄さま?」
「あっ、都ちゃんも来たんだ!」
きれいなお姉さんと着物の少女もテントへやってきた。僕らが来ることを分かっていたように人数分の席が用意されてる。
むこうに座っていたお姉さんが話しかけてくる。変装していた僕が咳ばらいすると陽太があわてて説明する。
「陽太さん、その方は?」
「ええと、その、ぼくの友人のチーハさんです! 花粉症がひどくて目とノドがやられちゃったみたいでェ」
「かわったお名前ですね」
「彼はりゅ、留学生なんです」
チーハこと僕はなんども頭を振ってうなずいた。
「そんなことより燈子さん、月読さまを見かけませんでした?」
「開演までにはいらっしゃると聞き――」
「ひぇっ!?」
必死に話題をそらしていた陽太がとうとう悲鳴をあげた。お姉さんの真うしろに黒入道が出現した。気配が全くなかったからその場にいた全員がおどろいた。
「九郎お兄さま?」
「あっ、月読さま!」
九郎さんが手を引くと背後から月読さまも現れた。緊迫したテントは春の陽気につつまれる。どう説明しようか、つねにやわらか範囲魔法を使ってるかんじ。
「やあ千隼に陽太、それに都と燈子も来たんだね」
ん? ぼく変装してるよね。
むこうの席でひざまずいた九郎さんが繋いだ手をそっと離した。こんな所でいちゃいちゃ――――陽太の従兄妹、美少女だけど目がギンギンでこわい。お姉さんまでゴリラ顔になった。どういうこと!?
異変を察した陽太はおびえて小動物のように震えてる。
誰かなにを叫ぶでもなく、九郎さんがいなくなって終息した。都と燈子の顔も元へもどり、陽太の余震もおさまった。月読さまがほほ笑み、ふたたび柔らかい空気につつまれる。
「都ちゃん、さっきオーラが……?」
「なんでもありません、陽太お兄さま。本日はよい席へ招かれました。チーハさまも悪いイタズラを思いつかれませぬように」
「おっ、若い人どうし話がはずんでるな。千隼はいつからチーハに改名したんだ?」
「2人にはバレてる? さすが【月読】こわいねぇ」
「千隼さんはそれ以前の問題ですって、その格好どう見ても不審者……逆に目立ちますよ。ああ、やっと言えたぁ」
陽太の辛辣なフォローが入る。
月読さまが和やかに笑うと、舞台へ演者が上がり開演を告げた。いろんな歌や演舞は、それぞれ形のちがう自分たちを見ているようだ。拍手喝采がおこり春の夜は深まってゆく。
おわり
――――――――――
読んで頂きありがとうございます。
千隼と陽太編でした。最後はみんなそろいました。
トウコは千隼と陽太をみて思った。
何考えてるか分からない鬼畜メガネ
✕
押しに弱々しい黒髪男子
あらたな萌えを発見?
トウコはそくざに目を閉じて心頭滅却した。
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