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気をつけろ!ヤツはデンジャラス雄っぱいハンター
後日、丙家にて2
しおりを挟む玄関へまわれば、妻のサクラが応対した。
「あらあら月読様、姿がきえたと道場の者がさがしてましたよ。そちらは……千隼さん? この間は子供たちがお世話になり、ありがとうございます」
「へへ、騒ぐだけ騒いじゃってすみません。湯谷っ、おみやげお渡しして!」
サクラはうしろの2人に気づきおじぎをした。曲がりなりにも鬼の当主、あらためて挨拶を交わし、湯谷が紙袋からだした手みやげを渡した。
ケガ人が運ばれた部屋へいく。ドアノブへ手をかけたとたん扉はひらき、腫れどめの湿布をはった九郎がとび出す。湿布だらけの風体だが元気そうだ。
「九郎、おきて大丈夫か? 顔、腫れてるぞ」
「……負けた」
「あれに1人で挑もうなんて無茶もいいところだ。つぎは私たち2人でやるか? 丙を倒す策を考えておくよ」
落ちこんでいた表情は若干やわらぐ。見舞い中の千隼たちをのこし、ひと足さきに大広間へむかった。
広間ではさっそく宴席を準備していた。風呂からあがった丙がまんなかへ座り、試合を見物していた猿たちもせっせとテーブルや座布団を運ぶ。
月読は持参したふろしきの包みをあけた。出てきたのは一升瓶、大胆な墨の文字で名をきざまれた日本酒だった。
数すくない貴重な銘酒、いつ開けようかと迷っていたが祝い酒として皆とわかち合うのも一興。受けとった丙はためらいなく開封し、いくつもの小さな盃へ注いだ。
皆へいきわたり勝者が杯をかかげれば、いっせいに歓声があがる。
「どうした九郎、かわりに俺が飲んでやろうか?」
敗者が杯をみつめていると、ひと嘗めした丙がからかう。九郎はいそいで飲んだが、口内の傷へ染みたようすで顔をしかめる。満足そうに笑った丙はあたらしい酒を注文した。
「酒で傷を消毒、九郎さん、酒呑みの基本です」
満身創痍の東郷が立っていた。千隼と湯谷に肩をささえられ腰をおろす。
「やっと起きたな東郷、おめえの分もあるぜ」
東郷は一礼して酒をのみ干し、盃をおいて正座すると深々と頭をさげた。
「丙のアニキ、今回は本当に世話になりました」
「へっ、止せやい。礼を言われることは何もしてねえ」
漢のケジメというやつなのだろう、東郷は感謝の意をつたえた。ふところが広くて深い、まさに「アニキ」も呼び名に相応しい。しかし月読は知っている、出会ったころからオッサンの丙は東郷よりかなり年下のはず。
たがいに戦った3人は目に見えない絆でまとまった。月読は見守りつつ、あたらしい酒の準備をする。
「おい、遠くから観察すんな。今日のおめえの場所はここだ」
丙が真横の座布団をたたいた。酔っぱらいに絡まれないよう少しずつ距離をとっていた月読は見つかり、しぶしぶとなりへ腰をおろす。
「ちょっと、月読さまのとなりは僕って決まってるんです!」
あいだへ千隼が割りこみ、無言の九郎もはさまった。丙、千隼、九郎、月読と2人ぶんのスペースへ4人がすわり寿司づめ状態だ。
「九郎さん、そっちが僕の席! くっ、ゴリラのうでが重すぎて動けない!!」
「鬼っ子、前みたいに騒ぎおこすんじゃねえぞ。ほれ、酒飲め」
「こんな満タンの酒、飲めるわけないでしょ! たすけて~月読さまぁ」
2人挟まったくらいで動じない丙は、なみなみと酒のはいったグラスを千隼のまえへ置く。
「湯谷……坊が挟まれてるが、大丈夫か?」
「東郷、千隼さまはみずから挟まりにいったのですよ。我々も食事にありつきましょう! 私、いつも作る側だから人様のつくった料理はうれしいです」
東郷は挟まれた千隼を心配したが、湯谷の声はウキウキしていた。
湯谷、東郷、丙千隼九郎月読という席順でおちついた。むろん丙~月読間の混みは解消されてないため狭いままだ。いちばん外側の月読も、九郎の無言の圧力によりそこへ留まった。
千隼はすきまで足掻いていたが、数分後には大人しくなり料理をつつきはじめた。
席争いを皮切りに料理が運ばれてくる。ぐつぐつと湯気のたつジビエ鍋、広間は美味そうな匂いにつつまれる。冷ややっこに揚げたてがんも、名もわからない山菜の天ぷらの味わい。
かまどで炊いた米がおひつへ用意され、九郎が目にも止まらぬ速さで大盛りにした。生たまご付きだった。
「よく食べるなぁ」
体の大きい東郷と丙、千隼は細身なのにたくさん食べる。九郎はいわずもがな、いそがしそうに行き来する箸をながめ月読がなげく。
「明もおなじくらい食べてた。最近、少食になった」
「ああ、あれは体づくりのためだ。前みたいに討伐へいかないし、食べる量はへったかな」
「体重落ちてるのか? やせるとあっちの具合悪くなるぞ、肉喰っとけ」
「なにげに破廉恥な話題!? ちょ、ぼくの前で肉ぶらぶらさせないでっ」
「鬼っ子も肉ほしいか? ほらよ、よく煮えたイノシシ肉だ」
「肉だけ山盛り!? 野菜も……うまっ!」
「だろ?」
ここだけ人口密度がたかく、席のあちこちで会話がなされる。九郎と2人だけの時とはちがう話題も降ってきて新鮮だ。普段、ひとりで飲むことの多い月読はこれも悪くないと笑った。
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