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第五章 運命の再会
不器用でも頑張ります
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「いらっしゃいませ~って桜やん、何? うちの店で何か買うてってくれるん?」
美香と一緒に店内に入ると、つい先程聞いた覚えのある声が聞こえてきた。
思わず声のした方へ顔を向けると、ニコニコと営業スマイルを浮かべたカナちゃんが立っていた。
「桜、知り合い?」
「あ、うん。さっき少し話した幼馴染みの『西園寺 奏』、通称カナちゃんだよ」
目を丸くして尋ねてくる美香に、私は軽く彼を紹介した。
まさか同じ日に二度も会うとはすごい偶然だ。
カナちゃんは美香にペコリと頭を下げると私と美香を見比べた後──
「わ~えらい別嬪さん連れとるやん。桜、並んどると月とスッポンみたいやで」
ニコニコと悪びれもなく笑った。
「その減らず口、針で縫ってあげようか?」
「あかん、それだけは堪忍してや! 関西人から口とったら何も残らへんやん」
「じゃあ、何か詰め込んであげるよ。その辺の……」
「なになに、俺にわざわざ遠回しにプレゼントでもくれんのん? 嬉しいな~」
口に手を当てて、ニヤニヤとこちらを見るカナちゃんに、
「石でも拾ってくる」
そう言って私はクルリと身体を翻した。
「おう、金塊でも拾ってきてや」
「落ちとるわけないやん!」
思わず振り返ると、カナちゃんはわざとらしくグッと体の前で拳を握ってガッツポーズをしている。
「頑張ればいけるて!」
「いけるか!」
昔のノリで私は彼の頭にチョップを落とした。ちっ、背が高くなった分やり辛くなったものだ。
「奏君、レジお願いできる?」
「はいは~い、今行きま~す。ほんならゆっくり見てってや」
レジの奥から聞こえる声に呼ばれて、カナちゃんは頭をさすりながら去っていった。
「昔からこういう感じなの?」
「うん、よくバカやってた」
「……結城君が妬いた気持ちが少しだけ分かったわ。それに彼は……確か……」
私の言葉を聞いて、美香は小さく呟いた。
「ん? 何か言った?」
「いえ、何も……」
私の問いかけに、苦笑いをもらす美香。
不思議に思っていると彼女はすぐに笑顔を取り戻し、近くの棚にある商品に興味を引かれたようで「ほら、桜! 見てこれ、可愛い」と足を進める。
つられて視線を送ると、そこには精巧なガラス細工の置物があった。兎や猫などの動物から、天使やペガサスなと空想上の生き物まで色んな種類がある。ペンスタンドに使えたり、指輪やピアスを置けたりなど、実用的かつ飾るとインテリアとしても大変可愛らしいもので一石二鳥の代物だ。
それから店内を一回りして、私が一番気になったのは手作りストラップのコーナーだった。
シルバーの狐の可愛いチャームが目に入って、思わず最初に出会った頃の小狐だったコハクを思い出す。
ふわふわで可愛かったよなぁ……狐の姿で抱っこさせてくれる約束、叶う日は来るのかな……
「桜、それを使ってストラップでも作ってみたら? 結城君にプレゼントしたらきっと喜ぶよ」
「私、不器用だからな……」
家庭科とか図工とか手先を使ってやる授業は昔から苦手だった。ナップサックを作る課題とか、『桜に針は持たせられへん』ってカナちゃんが代わりに縫ってくれてたっけ。
「大丈夫、多少形が悪くても貴女が作った事に価値があるのよ。彼にとってはね」
「……頑張ってみようかな」
美香の言葉に後押しされ、私は必要な材料を持ってレジに向かった。
バーコードを通しながら、レジをしていたカナちゃんが驚いた表情で尋ねてくる。
「え、桜がこれ……作るん?」
「そうだよ」
「やめといたがええんとちゃう? 何なら俺が作ったろか?」
「それじゃ意味ないから。自分でやりたいの」
「そう……なら、頑張り。予備はぎょうさん仕入れとくから安心しぃや」
「失敗する前提で言わないで!」
まぁ、私の不器用さを知ってるカナちゃんからすれば無理もない。それでもこれだけは、絶対に完成させてやる!
その日の夜、私はコハクに『叩いてごめんなさい。お互い気持ちの整理をした方がいいと思うから、学校始まるまで時間を下さい』とラインを送っておいた。
コハクもそれに了承してくれて、やっとスマホが静かになる。
たくさん来てた謝罪のメールで、彼が反省している事はよく伝わってきたけれど、直接会って彼の気持ちを知るのが怖かった。
もし、考えたくはないけれど遊びでああいう事をしたと言われてしまったら……辛いけれど、それでも私はきっと彼を嫌いにはなれないだろう。
コハクが私の名前を呼ぶ度に、微笑んでくれる度に、優しく頭を撫でてくれる度に、手を差し出してくれる度に、私の胸は激しく高鳴ってドキドキする。
一度そうなってしまったら、たとえコハクが私に対する気持ちを持っていなくても、私の気持ちはあふれてくるばかりで止まることを知らないから。
美香は嫉妬からだと言っていたけれど……そう言えば、最初にコハクにキスされた時も突然押し倒されたんだっけ。
あの時と似ているような気もするが、今日されたものはあの時より何倍も激しかったと思う。
思い出すと熱くなってくる身体と顔に、やはり私はコハクが好きなんだと再認識させられる。
そして、いい逃げするかのように告白までしてしまった事が、恥ずかしくて仕方がなかった。
「コハクは私の事をどう思ってるのかな……」
狐のチャームを見つめながら、私は一人静かに呟いた。
学校が始まるまでに完成させて、出来るならコハクに会った時に仲直りの印としてプレゼントしたい。
その一心で、悪戦苦闘しながら私はストラップを作り始めた。
美香と一緒に店内に入ると、つい先程聞いた覚えのある声が聞こえてきた。
思わず声のした方へ顔を向けると、ニコニコと営業スマイルを浮かべたカナちゃんが立っていた。
「桜、知り合い?」
「あ、うん。さっき少し話した幼馴染みの『西園寺 奏』、通称カナちゃんだよ」
目を丸くして尋ねてくる美香に、私は軽く彼を紹介した。
まさか同じ日に二度も会うとはすごい偶然だ。
カナちゃんは美香にペコリと頭を下げると私と美香を見比べた後──
「わ~えらい別嬪さん連れとるやん。桜、並んどると月とスッポンみたいやで」
ニコニコと悪びれもなく笑った。
「その減らず口、針で縫ってあげようか?」
「あかん、それだけは堪忍してや! 関西人から口とったら何も残らへんやん」
「じゃあ、何か詰め込んであげるよ。その辺の……」
「なになに、俺にわざわざ遠回しにプレゼントでもくれんのん? 嬉しいな~」
口に手を当てて、ニヤニヤとこちらを見るカナちゃんに、
「石でも拾ってくる」
そう言って私はクルリと身体を翻した。
「おう、金塊でも拾ってきてや」
「落ちとるわけないやん!」
思わず振り返ると、カナちゃんはわざとらしくグッと体の前で拳を握ってガッツポーズをしている。
「頑張ればいけるて!」
「いけるか!」
昔のノリで私は彼の頭にチョップを落とした。ちっ、背が高くなった分やり辛くなったものだ。
「奏君、レジお願いできる?」
「はいは~い、今行きま~す。ほんならゆっくり見てってや」
レジの奥から聞こえる声に呼ばれて、カナちゃんは頭をさすりながら去っていった。
「昔からこういう感じなの?」
「うん、よくバカやってた」
「……結城君が妬いた気持ちが少しだけ分かったわ。それに彼は……確か……」
私の言葉を聞いて、美香は小さく呟いた。
「ん? 何か言った?」
「いえ、何も……」
私の問いかけに、苦笑いをもらす美香。
不思議に思っていると彼女はすぐに笑顔を取り戻し、近くの棚にある商品に興味を引かれたようで「ほら、桜! 見てこれ、可愛い」と足を進める。
つられて視線を送ると、そこには精巧なガラス細工の置物があった。兎や猫などの動物から、天使やペガサスなと空想上の生き物まで色んな種類がある。ペンスタンドに使えたり、指輪やピアスを置けたりなど、実用的かつ飾るとインテリアとしても大変可愛らしいもので一石二鳥の代物だ。
それから店内を一回りして、私が一番気になったのは手作りストラップのコーナーだった。
シルバーの狐の可愛いチャームが目に入って、思わず最初に出会った頃の小狐だったコハクを思い出す。
ふわふわで可愛かったよなぁ……狐の姿で抱っこさせてくれる約束、叶う日は来るのかな……
「桜、それを使ってストラップでも作ってみたら? 結城君にプレゼントしたらきっと喜ぶよ」
「私、不器用だからな……」
家庭科とか図工とか手先を使ってやる授業は昔から苦手だった。ナップサックを作る課題とか、『桜に針は持たせられへん』ってカナちゃんが代わりに縫ってくれてたっけ。
「大丈夫、多少形が悪くても貴女が作った事に価値があるのよ。彼にとってはね」
「……頑張ってみようかな」
美香の言葉に後押しされ、私は必要な材料を持ってレジに向かった。
バーコードを通しながら、レジをしていたカナちゃんが驚いた表情で尋ねてくる。
「え、桜がこれ……作るん?」
「そうだよ」
「やめといたがええんとちゃう? 何なら俺が作ったろか?」
「それじゃ意味ないから。自分でやりたいの」
「そう……なら、頑張り。予備はぎょうさん仕入れとくから安心しぃや」
「失敗する前提で言わないで!」
まぁ、私の不器用さを知ってるカナちゃんからすれば無理もない。それでもこれだけは、絶対に完成させてやる!
その日の夜、私はコハクに『叩いてごめんなさい。お互い気持ちの整理をした方がいいと思うから、学校始まるまで時間を下さい』とラインを送っておいた。
コハクもそれに了承してくれて、やっとスマホが静かになる。
たくさん来てた謝罪のメールで、彼が反省している事はよく伝わってきたけれど、直接会って彼の気持ちを知るのが怖かった。
もし、考えたくはないけれど遊びでああいう事をしたと言われてしまったら……辛いけれど、それでも私はきっと彼を嫌いにはなれないだろう。
コハクが私の名前を呼ぶ度に、微笑んでくれる度に、優しく頭を撫でてくれる度に、手を差し出してくれる度に、私の胸は激しく高鳴ってドキドキする。
一度そうなってしまったら、たとえコハクが私に対する気持ちを持っていなくても、私の気持ちはあふれてくるばかりで止まることを知らないから。
美香は嫉妬からだと言っていたけれど……そう言えば、最初にコハクにキスされた時も突然押し倒されたんだっけ。
あの時と似ているような気もするが、今日されたものはあの時より何倍も激しかったと思う。
思い出すと熱くなってくる身体と顔に、やはり私はコハクが好きなんだと再認識させられる。
そして、いい逃げするかのように告白までしてしまった事が、恥ずかしくて仕方がなかった。
「コハクは私の事をどう思ってるのかな……」
狐のチャームを見つめながら、私は一人静かに呟いた。
学校が始まるまでに完成させて、出来るならコハクに会った時に仲直りの印としてプレゼントしたい。
その一心で、悪戦苦闘しながら私はストラップを作り始めた。
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