獣耳男子と恋人契約

花宵

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第十一章 与えられる試練

ようこそ、デスマッチ会場へ

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 酸素足りてないのかな。頭がボーッとする。火照った身体は力が入らないし、まさかクレハがあんな事してくるなんて。
 カナちゃんが言ってた事、もう少し真剣に捉えておくべきだった。
 ある意味、毒蛇より何倍も質が悪いよ……意識したら負けだ、犬がじゃれてきたんだ、よくある事じゃないか。クッキーだってよく顔を舐めてくるじゃないか、それと一緒だ……一緒だ……。

 だけど、一つだけ大きな収穫も得られた。
 多分、私の考えはきっと間違っていない。勾玉も反応していたし、クレハは黙らせただけで否定しなかった。
 口ではひどい事言って精神的に追い詰めてくるけど、直接的に危害を加えられた事はない。
 逆に私が加えてしまったわけだけども……大丈夫かな、お腹。

 普通なら、逆上して殴りかかってきてもおかしくない状況なのに、彼は困ったように笑うだけ。説教されて面食らってたし、温もりに飢えてる感じだった。
 指名手配されて、いつ命を狙われてもおかしくない状況にいて、優菜さんの家にも帰ってないみたいだし、孤独だよね。
 シロに化けてカナちゃんから逃げて走り回ってた時、何気にシロもクレハも楽しそうだった。本当はシロと昔みたいに一緒に遊びたいんじゃないのかな。

 いつまでも、呑気に座ってる場合じゃなかった。美香、大丈夫かな? 心配だ……身体も動くようになったし、そろそろ行かなくちゃ。

 その時、あるものが目に入ってきた。
 ドアノブに28の数字が刻まれている。
 何かの暗号? でも扉は普通に開くし……まぁいいか、行こう。


 扉を開けて視界に映ったのは放課後──私が毎日、特別課外授業を受けていた教室だった。
 しかし、見るからに異様な光景で驚きが隠せない。
 カッターやハサミ、ハンマーや金属バット、拳銃やスタンガンなど、ありとあらゆる凶器が机の上にそれぞれ一つずつ置かれている。
 そして黒板には赤いチョークで『DEAD OR ALIVE』と書かれていた。

 いつの間にかこの部屋に入ってきた時の扉は消えており、開くドアがないか試したがどこも開かない。

 その時、新たな扉が現れ美香がやって来た。

「桜! 大丈夫だった? 怪我はない?」

 こちらに気付くなり美香は駆け寄ってきて、私の身体を入念にチェックし始める。

「え、ちょっと、美香?!」

 スカートとシャツを捲りあげられ、あまりにも入念過ぎるそのチェックに思わずたじろぐ。

「ああ、ごめんなさいね。もしあの性悪狐に乱暴でもされてたらって心配になって。コンテスト控えてるのに、身体に傷なんか言語道断! でもよかった、無事みたいね」

 美香はそう言って、ほっとしたように安堵のため息をもらした。
 むしろ、私がその性悪狐に怪我を負わせてしまったんだけどね。

「うん、美香は大丈夫だった?」
「ええ、強いて言うなら手が少し痛いぐらいかしら」
「大丈夫? 何があったの?」
「最後に美希のフリして現れた愚か者に腹が立って、思いっきりビンタしてあげたの。そしたら、いそいそと逃げていったわあの性悪狐」

 お腹には正拳突きくらって、顔にはビンタ……クレハにとって今日はきっと厄日に違いない。
 その時、構内放送のスピーカーからクレハの声が流れてきた。

「ようこそ。最後のアトラクション、デスマッチ会場へ。この部屋から出るには、教卓の上に設置された箱に入ってる鍵で、後ろのドアロックを解除しなければならない。ただし、出られるのはドアロックを解除した者のみで、その鍵は一度きりしか使えない。制限時間は今から三十分。残された者は一生この空間に閉じ込められるよ。鍵は一つしかないから、脱出したければ偽りの友情は不要だ。君達は加害者と被害者なんだ。必要なのは馴れ合う事じゃない、奪い取る事だ。用意した武器は自由に使ってくれて構わない。拳銃とか、おすすめだよ。真の友情とは何か、面白い答えを期待しているよ」

 プチっと放送が切れる音がして、教室の時計が針を刻み始めた。

「ほんと馬鹿にしてるわね、この武器を使って戦えとでも言うの? そんな事、出来るわけないじゃない!」

 鍵が一人しか使えないのなら、ドア自体をどうにか出来ないだろうか? 素手ではどうしようもないが、幸いここにはありとあらゆる物騒な道具が揃っている。

「美香、ここにある武器を使ってあのドア壊せないかな?」
「それはいい考えね、やってみましょう!」

 それから私達は、机の上に置かれたハンマーと斧を手に取り、ドアを壊そうと試みた。

 しかし、壊れるどころか傷一つつきはしない。鉄バットで窓を叩きつけたり、電動ノコギリを板の部分にあてたりと、色々試してみたがどれも無意味だった。

 時計に目をやると時間はみるみる経過しており、いつの間にか残り半分を切っている。その時、手に持っていた鉄パイプをそっと机に戻した美香が、真剣な面持ちで私に話しかけてきた。

「桜……私が残るから、貴女だけでも脱出して」
「そんな事、出来るわけないよ! 美香を置いていくなんて……」
「美希の過去を見てきて思ったの……あんなに何度も辛い目に遭ってたのにあそこまで耐えてたのは、桜が居てくれたおかげだって。もし貴女に出会ってなかったら、考えたくはないけど、美希はもっと早くに自ら……」

 悲観的な事を言う彼女の言葉を遮るように、私は否定した。

「そんな事ない! 私が居なかったら美希はあそこまで耐える必要なかったよ……先生にでも義理母さんにでも美香にでも相談出来たかもしれない。私が大会出られなくなるのを危惧して、誰にも言えなかったんだ……」
「それくらい、貴女の事が大切だったのよ。だから私は美希の遺志を継ぐためにも、桜だけでも助かって欲しい」

 覚悟したように強い意志のこもった美香の瞳が、真っ直ぐに私を捉えている。

「美香、そんな事言わないで! 私は貴女を置いていくなんて出来ないよ」
「そうよね、桜は優しいから……だったら……」

 美香は部屋を見渡して、ある方向で視線を止めると、そこへ向けて歩き出した。

 彼女の視線の先にあるのは──拳銃だ!

 私が慌てて追いかけようとすると、「来ないで!」と美香は声を大きく荒げた。
 私が一瞬怯んだうちに、彼女はそれを手に取り、自分のこめかみに押し付ける。

「美香、お願い止めて!」
「それ以上、こちらに来ないで。私の方に近付いてきたら引き金を引くわ。それが嫌なら、桜は鍵を持ってこの部屋から出ていって」

 その拳銃をどうにかしたくて近付こうとするが逆効果で、美香はさらに拳銃を持つ手に力を入れた。

「どうして! まだ時間はある、一緒に脱出する方法を考えようよ!」

 必死に説得を試みる私に、美香はそっと首を左右に振ると、静かに心の内を明かしてくれた。

「桜……私は貴女に命を救われたわ。あの時、本当はすごく怖かったの。覚悟はしてたけど、背中に感じる重力が、迫りくる死が、本当は恐ろしくて仕方なかった。そんな時、本当に馬鹿な子が、私の腕を思いっきり掴んでベランダに投げ入れてくれた。地面に横たわる貴女と結城君の姿を見て、何て事をしてしまったんだろうって、本当に後悔した。心のどこかで、貴女にやってしまった取り返しのつかないその引け目をずっと感じてて、どうしたら償えるんだろうっていつも考えてた。だけど、何をしたってその気持ちは払拭する事が出来なくて、すごく苦しかった。胸を張って、私は貴女の友達だって言えるようになりたいの! だから、今度は私が貴女を助けたいの! 貴女には幸せになって欲しいの、だから……お願い! 私を置いて桜だけでもここから脱出して」

 拳銃を持つ手が震えているのを悟られないように、美香はそれを強くこめかみに押し付けている。必死に涙をこらえて気丈に振る舞うその姿に、胸がじーんと熱くなると同時に、強い決意が固まった。

 美香……やっぱり貴女はかけがえのない、私の大事な友達だよ。だからこそ、絶対に貴女を置いていったりしない。どちらかを犠牲にしたんじゃ意味がないんだよ。

 必ず二人で、脱出してみせる!
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