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第十二章 断罪者と救済者
仲間だと、思った私が馬鹿だった
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──カコン
クレハの蹴った缶が宙を舞い、私達は一斉に走りだす。
そこまで広い運動場ではないが、隅の方には遊具や物置小屋、木が生い茂るスペースがあり隠れる場所は結構ある。
とりあえず、物置小屋の裏側に隠れ鬼の様子を窺っていると
「ここ、僕が先に目をつけてたんだから、どっか行ってくれる?」
後ろからクレハに話しかけられた。
どうやら、私とは逆側からここに隠れたらしい。
「び、びっくりした……嫌だよ、今動いたらバレちゃうじゃん。ていうか、どうして座ってるの?」
「動くのが面倒だから」
お腹を押さえ壁にもたれ掛かって座っている彼を見て、あることを思い出す。
「そういえば、怪我……大丈夫?」
「そんなの、もう治ったよ」
興味なさげに呟くクレハ。
その姿を見て、ウィルさんから聞いた話を思いだし、何だか居たたまれない気持ちになった。
いくら一晩寝れば治るっていっても、傷を負った時に痛みは感じるはずだ。
考えたくはないけど、それに慣れてしまうぐらい毎日痛めつけられた結果が、自分の怪我に無頓着な今の彼の態度に繋がったのだろうか。
「何? そんな辛気臭い顔でこっち見ないでくれる?」
「あ、ごめん。お腹を押さえて座ってるからまだ痛むのかなって……」
「動くのが面倒だって言ってるでしょ。目障りだからどっか行って」
シッシッと嫌なものを追い払うかのように手を振るクレハ。しかし、心なしか睨み付けてくる眼光に先ほどまでの鋭さを感じない。もしかして──
「カフェオレを一気飲みして走ったから、気持ち悪いんじゃない?」
「……だとしても、君に関係ないよ」
否定しない所をみると、あながち間違いなではなさそうだ。
350mlのカフェオレを茶化されながら一気飲みして急に走ったら、お腹苦しくて確かに気持ち悪いだろう。
「なんかクレハって変なとこで律儀だよね。嫌なら断ればいいものを。言っとくけど、カナちゃんが貴方にあれ飲ませたのも戦略の一つだよ」
私の言葉に、クレハの眉がピクリと動く。真意を探るように彼は視線だけをこちらへ寄越し尋ねてきた。
「それ、どういう意味?」
「一番手強いと判断した敵の戦力を削ぐために決まってるじゃん。現にほら、見事策略にハマった貴方は座ってるわけだし。落ち着くまで、全力出せないでしょ?」
私の言葉に彼は手で頭を抱えると、皮肉気に呟いた。
「……まったく、姑息な手を使ってくれたものだね。こっちに反則はなしだと言いながら」
「それが缶けりっていう洗練された知略戦なんだよ。始める前からすでに戦いは始まってるの」
「ルールも知らない相手をそこまではめるなんて、人間ってほんと卑怯だね」
「だからこそ、こっちも頭を使うんだよ。鬼は一人しか居ないけど、私達は三人居る。数の利を使って攻めるんだよ!」
その時、遠くで「優菜みーつけた」というカナちゃんの声が聞こえてきた。
「早速、一人減ったよ」
「あぁ……優菜さん……っ!」
なんてことだ、事前に打ち合わせをしておくべきだった。
ショックを受ける私を尻目に、クスクスと嫌みな笑い声を上げると楽しそうにクレハが尋ねてきた。
「それで、その貧弱な頭には後どんな作戦があるわけ?」
くっ、完璧に馬鹿にされている。
彼の皮肉が滲み出た意地悪な笑顔を前に、本当に嫌みな奴だとつくづく思っていると、ある名案が思い付く。
「こうなったらすり代え作戦で行こう。顔を隠しながら誰か判別出来ないようにして突っ込むの。不意を突かれた鬼は咄嗟に服装から相手を判断する。そこでクレハ、その上着を私のと交換して!」
そう言って、私が羽織っていたカーディガンを脱いで差し出すと
「君は馬鹿なの? 女物が僕に入るわけないでしょ」
彼は驚いたように目を見開いてこちらを見ている。
クレハが妖怪の姿の時は着物と長髪で誤魔化され気付かなかった。
しかし、人間に化け洋装を身に纏った彼は女の子でも通用しそうなほど身体が細い。幸いなことに、身長もコハクやカナちゃんほど高くはない。
おまけに、髪も黒いし顔を伏せて走っていたら私と彼は判別し辛いはずだ。
そこに目をつけた私は、確信を持って再度説得を試みる。
「いや入る! 貴方、線が細いし背もそこまでないから十分問題な……」
「何? 聞こえないなぁ」
私の言葉を遮るように声を被せてきたクレハ。
「げ、現実から目をそらすのは、大人の悪い癖だ!」
「何? 僕が女用の服が余裕で着れるほど軟弱な体型してるとでもいいたいわけ?」
重たい腰を上げた彼は、恐ろしく綺麗な笑顔を浮かべてジリジリと歩み寄ってきた。
「だ、誰もそんな事は言ってない。男の人にしてはかなり華奢なだけ……」
「本当によく回る口だね。不快だから二度と開かないように、縫い付けてあげようか?」
言葉を発する度に、何故かクレハのブラックな笑顔指数が上がっていく。
どうやら私は知らず知らずの内に、彼にとっての禁句ワードを連発してしまっていたらしい。
「嫌だな、そんな物騒な事言わないで。ほら、今は味方なんだから」
距離をつめられないよう後ずさっていると
「桜とクレハ発見!」
いつの間にかこっちの方まで探しにきていたカナちゃんに見つかってしまった。
缶けりのルールとして、一人ずつ名前を言って缶を踏まないと捕まえる事は出来ない。
私とクレハが急げば、カナちゃんが私達の名前を言って缶を踏むより先に、缶を蹴ることが出来るかもしれない。
「クレハ、急いで缶まで走って! カナちゃんが缶踏むより先に蹴れたら優菜さん奪還出来るから!」
焦る私とは対照的に、クレハはとても爽やかな笑顔をこちらに向けて
「無理、今気持ち悪くて走れないから」
その表情と実にミスマッチな言葉を返してきた。
「裏切り者!」
「元から、君と手を組んだつもりはないよ」
あの人、絶対さっきのこと根にもってる……
結局、一人必死に走るもカナちゃんの速さに敵うはずもなく「桜みーつけた」と缶を踏まれる。
物置小屋の裏からゆっくりとこちらに歩いてきたクレハもあっけなく捕獲され、最初のゲームが幕を閉じた。
クレハの蹴った缶が宙を舞い、私達は一斉に走りだす。
そこまで広い運動場ではないが、隅の方には遊具や物置小屋、木が生い茂るスペースがあり隠れる場所は結構ある。
とりあえず、物置小屋の裏側に隠れ鬼の様子を窺っていると
「ここ、僕が先に目をつけてたんだから、どっか行ってくれる?」
後ろからクレハに話しかけられた。
どうやら、私とは逆側からここに隠れたらしい。
「び、びっくりした……嫌だよ、今動いたらバレちゃうじゃん。ていうか、どうして座ってるの?」
「動くのが面倒だから」
お腹を押さえ壁にもたれ掛かって座っている彼を見て、あることを思い出す。
「そういえば、怪我……大丈夫?」
「そんなの、もう治ったよ」
興味なさげに呟くクレハ。
その姿を見て、ウィルさんから聞いた話を思いだし、何だか居たたまれない気持ちになった。
いくら一晩寝れば治るっていっても、傷を負った時に痛みは感じるはずだ。
考えたくはないけど、それに慣れてしまうぐらい毎日痛めつけられた結果が、自分の怪我に無頓着な今の彼の態度に繋がったのだろうか。
「何? そんな辛気臭い顔でこっち見ないでくれる?」
「あ、ごめん。お腹を押さえて座ってるからまだ痛むのかなって……」
「動くのが面倒だって言ってるでしょ。目障りだからどっか行って」
シッシッと嫌なものを追い払うかのように手を振るクレハ。しかし、心なしか睨み付けてくる眼光に先ほどまでの鋭さを感じない。もしかして──
「カフェオレを一気飲みして走ったから、気持ち悪いんじゃない?」
「……だとしても、君に関係ないよ」
否定しない所をみると、あながち間違いなではなさそうだ。
350mlのカフェオレを茶化されながら一気飲みして急に走ったら、お腹苦しくて確かに気持ち悪いだろう。
「なんかクレハって変なとこで律儀だよね。嫌なら断ればいいものを。言っとくけど、カナちゃんが貴方にあれ飲ませたのも戦略の一つだよ」
私の言葉に、クレハの眉がピクリと動く。真意を探るように彼は視線だけをこちらへ寄越し尋ねてきた。
「それ、どういう意味?」
「一番手強いと判断した敵の戦力を削ぐために決まってるじゃん。現にほら、見事策略にハマった貴方は座ってるわけだし。落ち着くまで、全力出せないでしょ?」
私の言葉に彼は手で頭を抱えると、皮肉気に呟いた。
「……まったく、姑息な手を使ってくれたものだね。こっちに反則はなしだと言いながら」
「それが缶けりっていう洗練された知略戦なんだよ。始める前からすでに戦いは始まってるの」
「ルールも知らない相手をそこまではめるなんて、人間ってほんと卑怯だね」
「だからこそ、こっちも頭を使うんだよ。鬼は一人しか居ないけど、私達は三人居る。数の利を使って攻めるんだよ!」
その時、遠くで「優菜みーつけた」というカナちゃんの声が聞こえてきた。
「早速、一人減ったよ」
「あぁ……優菜さん……っ!」
なんてことだ、事前に打ち合わせをしておくべきだった。
ショックを受ける私を尻目に、クスクスと嫌みな笑い声を上げると楽しそうにクレハが尋ねてきた。
「それで、その貧弱な頭には後どんな作戦があるわけ?」
くっ、完璧に馬鹿にされている。
彼の皮肉が滲み出た意地悪な笑顔を前に、本当に嫌みな奴だとつくづく思っていると、ある名案が思い付く。
「こうなったらすり代え作戦で行こう。顔を隠しながら誰か判別出来ないようにして突っ込むの。不意を突かれた鬼は咄嗟に服装から相手を判断する。そこでクレハ、その上着を私のと交換して!」
そう言って、私が羽織っていたカーディガンを脱いで差し出すと
「君は馬鹿なの? 女物が僕に入るわけないでしょ」
彼は驚いたように目を見開いてこちらを見ている。
クレハが妖怪の姿の時は着物と長髪で誤魔化され気付かなかった。
しかし、人間に化け洋装を身に纏った彼は女の子でも通用しそうなほど身体が細い。幸いなことに、身長もコハクやカナちゃんほど高くはない。
おまけに、髪も黒いし顔を伏せて走っていたら私と彼は判別し辛いはずだ。
そこに目をつけた私は、確信を持って再度説得を試みる。
「いや入る! 貴方、線が細いし背もそこまでないから十分問題な……」
「何? 聞こえないなぁ」
私の言葉を遮るように声を被せてきたクレハ。
「げ、現実から目をそらすのは、大人の悪い癖だ!」
「何? 僕が女用の服が余裕で着れるほど軟弱な体型してるとでもいいたいわけ?」
重たい腰を上げた彼は、恐ろしく綺麗な笑顔を浮かべてジリジリと歩み寄ってきた。
「だ、誰もそんな事は言ってない。男の人にしてはかなり華奢なだけ……」
「本当によく回る口だね。不快だから二度と開かないように、縫い付けてあげようか?」
言葉を発する度に、何故かクレハのブラックな笑顔指数が上がっていく。
どうやら私は知らず知らずの内に、彼にとっての禁句ワードを連発してしまっていたらしい。
「嫌だな、そんな物騒な事言わないで。ほら、今は味方なんだから」
距離をつめられないよう後ずさっていると
「桜とクレハ発見!」
いつの間にかこっちの方まで探しにきていたカナちゃんに見つかってしまった。
缶けりのルールとして、一人ずつ名前を言って缶を踏まないと捕まえる事は出来ない。
私とクレハが急げば、カナちゃんが私達の名前を言って缶を踏むより先に、缶を蹴ることが出来るかもしれない。
「クレハ、急いで缶まで走って! カナちゃんが缶踏むより先に蹴れたら優菜さん奪還出来るから!」
焦る私とは対照的に、クレハはとても爽やかな笑顔をこちらに向けて
「無理、今気持ち悪くて走れないから」
その表情と実にミスマッチな言葉を返してきた。
「裏切り者!」
「元から、君と手を組んだつもりはないよ」
あの人、絶対さっきのこと根にもってる……
結局、一人必死に走るもカナちゃんの速さに敵うはずもなく「桜みーつけた」と缶を踏まれる。
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