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第十四章 最終決戦
強がりな背中
しおりを挟む「本当に、大丈夫なの?」
通学中、もう何度この質問をしたか分からなくなるくらい同じことを聞いていた。
「ああ、お前のおかげでよく眠れたからな」
目が不自由なシロの手を引いて歩きながら、心配になり何度も声をかけて横を見上げる。その度にシロはこちらに顔を向けて優しく微笑んでくれる。
「全く心配性だな」なんて喉でクククと笑いながら、「お前がこんなに優しくしてくれるなら、体調崩すのも悪くないな」なんて言い出すシロ。
「その言い方だと、私が普段優しくないみたいに聞こえるよ!」
「基本、怒られてる気がするが?」
「そ、それは! シロがすぐ……」
人前でセクハラしてくるから、その数々の悪行を思いだし恥ずかしくてそれ以上言えなくなる。
「言っただろ? 俺は好きな女ほどいじめたくなるって。お前の顔がどこまで赤くなるか試すのは中々面白いぞ?」
「そんな事試してたの?!」
「ああ。おかげでどうしたら涙腺が緩んでそそる顔で見上げてくるか、どのライン越えたら拳が飛んでくるかも大体分かる」
変なところばかり学習して……
それならもう少し授業を真面目に受けたらいいのに。
「例えば」
シロはこちらに手を伸ばしてきて私の顎にそっと手をかけた。
人差し指のはらでスーっと顎の下をなぞられ、身体にゾクッとした甘い痺れが走る。
顎をくいっと上に持ち上げられ、気がつくとシロは屈んで至近距離まで顔を寄せていた。
「こうすると、お前の頬は赤く染まって少しだけ涙腺が緩む。見えなくても分かるぜ?」
ズバリと言い当てられてしまい、恥ずかしくてさらに一層顔に熱が帯びる。
シロの指で肌を直に撫でられると、そこから快感を伴う甘い痺れが全身を駆け巡って何故か涙腺が緩む。
欠伸をしたときに生理的に涙が出るみたいな感じの条件反射に近い。
「往来の真ん中で、朝から堂々と何してんねや」
「イテッ!」
その時、後ろから現れたカナちゃんにチョップをくらったシロ。
頭をさすりながら振り返った彼は、キョロキョロと辺りを見回してカナちゃんを探している。
しかし、すでにカナちゃんは私の後ろに移動しており、シロはその事に気づかない。
「どこ見てんねや、ほらこっちやで」
挑発しながらカナちゃんは、シロが振り返る逆方向から気づかれないように移動した。
声をたよりにこちらに顔を向けたシロは、私の後ろにあった電信柱に近づいていく。
「おい、西園寺」と電信柱につっかかり始めたシロを見て、カナちゃんが驚いて声をかける。
「……お前なんかおかしない? それ、電信柱やで」
「カナちゃん。実は今、シロの目……ほとんど見えてないの」
それから簡単に事情を説明すると「お前それ、大丈夫なんか?!」と心配して詰め寄るカナちゃんに、シロは「別に大した事ねぇよ」とぶっきらぼうに返していた。
「それより、早く行くぞ。いつまでもモタモタしてたら危ねぇだろ」
そう言って、ポケットに手を突っ込んでツカツカとひとり前を歩いていくシロ。大した事じゃないとわざとアピールするその背中を、私たちは慌てて追いかける。
だけど本当は、その手の震えを悟らせないようにポケットにわざと隠した所を私は見てたんだよ。
後十時間、どうかシロの身体が持ちますようにと強く願う事しか、今の私には出来なかった。
学校に着くなり、私は美香と優菜さんに事情を伝え、今日一日気をつけるように伝えておく。橘先生とウィルさんにも話しを通しておいた。
時間が分かればよかったのだが、クレハはいつも突然現れるから予測しにくい。
常に気を張っていたものの、授業中は何も起こらなかった。三限目の教室の移動を伴う化学の授業は特に警戒していたが、そこも空振りに終わり普通に時間だけが過ぎてゆく。
シロの体調が気になったけど、軽口を叩いてカナちゃんや美香を怒らせている姿はいつも通りだった。
そしてあっという間に昼休みになり、私は制服に護符と照魔鏡を忍ばせている事を再度確認し、言霊を素早く呼び出すイメージトレーニングをしつついつものように屋上へ向かう。
屋上のドアノブに手をかけようとした時、シロが私にまったをかけて「クレハの気配がする」と呟いた。
私はウィルさんの発信器のボタンを押し、何かあった時のために、美香と優菜さんにラインで手早く連絡を入れる。
カナちゃんは忍ばせた御札の確認をして橘先生に連絡を入れ、シロは深呼吸して緊張を鎮めていた。
各々の準備が出来た所で、そっと屋上の扉を開けて中に入る。
警戒しながら中央まで足を進めて周囲を窺うが、クレハはどこにも見当たらない。
その時、クスクスと笑う声が上方から耳に届く。
「やぁ、待っていたよ」
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