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第四章 貴方の隣に相応しくなりたい!
36、ハイグランド帝国とは愛を重んじる国です
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「昨日の姫様、とても素敵でした! やはり若様の隣が似合うのは、姫様しか居ません!」
「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、リグレット王国との真の和平が遠退いたよね。本当にごめんなさい……」
昨夜の誕生日パーティーでの出来事を思い出し、思わずため息がもれた。
私がうまく対処できていれば、フォルネウス様にも余計なご迷惑をかけずにすんだのに。
「非礼はあちらにあるのですから、大丈夫ですよ。姫様はなにも間違った事はされてません。あの時、下手をすればセシリア様の命は無かったかもしれませんし」
「ど、どういうこと?!」
「ディートリヒ陛下は今にも火炎魔法を放ちそうなほど怒ってらっしゃいましたし、ソフィア様は手に作り出した氷のレイピアで今にも貫こうとせんばかりでした。若様が行かれたので何とか怒りを沈めておいででしたが、本当に危なかったのです」
「そう、だったんだ……」
二人とも、私の事を心配して下さっていたのね。後でお礼をしておかなければ。
「はい。この国はシエラ様の教えで、愛を大切にする事で成り立っています。だからこそ、大義無く他者を蔑み侮辱するような卑劣な行為や発言はご法度なのです。破った者にはそれ相応の報いが訪れます。若様がワインをかけただけで済んだのは、本当に奇跡でした。普段ならきっと、頭から雷でしたよ……」
「頭から雷?!」
物騒な言葉が聞こえたちょうどその時、フォルネウス様がいらっしゃった。
「待たせてすまない、遅くなってしまった」
「そんな事よりフォルネウス様、頭から雷はダメですよ?!」
「ん? 一体何の話をしていたんだ?」
「昨晩の話ですよ。若様が頭からワインをかけただけで済んだのは奇跡だって話をしてたのです」
「アリシアの視界に、丸焦げになった醜いものを入れるわけがないだろう」
「じゃあ、私がいなかったら?」
「頭から雷だな」
「頭から雷ですね」
フォルネウス様とメルムの声が重なった。
「だめです、頭から雷は反対です!」
この国について結構詳しくなったつもりでいたけど、甘かった。まだ私の知らないことはいっぱいあるんだわ。しっかり勉強しなくては……
「アリシアの大切な父上を侮辱したのだ。頭から雷くらい良いではないか。それに王女ともあろう者が、忠誠を誓った自国の騎士をあのように吐き捨てるなど、到底許されるものではない」
「あの時フォルネウス様が怒って下さって、私はとても嬉しかったです。父の名誉を守るために、ありがとうございました。でもそのせいで、リグレット王国との友好関係に亀裂が入らないかと心配で……」
「安心しろ、アリシア。礼を欠いたのあちらだ。その不始末もつけられないほど、リグレット国王は分別の付かない方ではない。セシリア王女が俺達の前に現れる事は、もう二度とないだろう」
安心させるかのように、フォルネウス様は私の頭を優しく撫でて下さった。
「それよりもだ、これを見てくれ」
渡されたのは分厚い本だった。パラパラとページをめくると、そこには純白のドレスが描かれている。
「気に入るドレスはあるだろうか? 候補をいくつかあげてもらえば、それを元にアリシア専用のドレスをデザインしてもらおうと思ってるのだが」
「あの、フォルネウス様。これって……」
「ウェディングドレスだ。作るのに時間がかかるからな。アリシアに良く似合う最高の一着を仕立てたい」
「ふふふ、それと対になるように若様のタキシードも仕立てる予定ですものね」
どれもとても素敵なドレスばかりで、私に着こなせるのだろうか。
その時、ちょうどめくっていたページのドレスのデザインが、お姉ちゃんのウェディングドレスに似ていることに気付く。
「それが気に入ったのか?」
「このウェディングドレス、姉が着ていたものにそっくりで。お姉ちゃん、とても綺麗だったなと思い出してしまいまして……」
私もお姉ちゃんのように結婚するんだと実感した時、胸にチクりと刺すような痛みが走る。お姉ちゃんもお母さんも、私が結婚することを知らないんだよね。私がこうして、とても温かい人達に囲まれて幸せに暮らしていることも。
お父さんは、お空から見てくれてるかな。私には勿体ないくらい、素敵な人と結婚するんだよってことを。
「アリシア?」
「姫様?」
心配そうなフォルネウス様とメルムの声が聞こえた。
「す、すみません! 変なことを言ってしまって」
理由なく吸血鬼がリグレット王国に行けないのと同じで、理由なく人間もハイグランド帝国には来れない。結婚式に家族を呼びたいなんて、我儘は言えないよね。
「アリシア。結婚式には君のご家族を、こちらに招きたいと思っているのだが、いかがだろうか?」
「家族を、呼んでもよろしいのですか?!」
「勿論だ。アリシアを大切に育ててくれたご家族に、君の晴れ舞台を是非とも見てほしいと思う」
「とても嬉しいです! フォルネウス様、ありがとうございます!」
「よかったらその旨を、手紙に書いてもらえないだろうか? ジルを通して、君の家族に渡してもらえるよう頼んでみよう」
「え、ジルを知ってるんですか?!」
まさかそこで、幼馴染みの名前が出てくるとは思わなかった。
「討伐任務で一緒になる事が多くてな。その時にアリシアの近況報告も兼ねて、定期的に連絡を取っているのだ。家族にもアリシアの無事をきちんと伝えてもらっているから、安心するといい」
「そうだったのですね。まさかジルが、吸血鬼討伐隊に入っていたなんて知りませんでした」
「君を守れなかった事をとても悔やんでいたようだ。もう二度と、そのような犠牲は出したくないと志願したらしい」
私が吸血鬼に襲われたのは、ジルの責任じゃない。普段はからかわれてばっかりだったけど、いざという時は守ってくれた不器用な優しさを持った幼馴染みのジル。
あの日、井戸に水を汲みに行くって言ったらジルは手伝おうとしてくれた。でも来賓の相手を優先してもらって、その申し出を私は断ってしまった。
もしかするとジルは、断られても何で付いて行かなかったんだって、その時の行動をずっと悔やんでいたのかもしれない。ジルのせいじゃないんだよって伝えたいな。
「フォルネウス様。母と姉とジルの三人に手紙を書きたいのですが、届けて頂けるでしょうか?」
「ああ、任せてくれ」
「ありがとうございます」
手紙には、こちらで温かい人達に囲まれて元気に過ごしている事と、一生を共に過ごしたい大切な人に出会えて結婚する事。その結婚式に招待したい事と、それぞれに当てたメッセージを書いた。
お母さんには、今まで女手一つで育ててくれた感謝と、これからはこっちで頑張っていくよっていう決意表明を書いた。
お姉ちゃんには、いっぱい可愛がってもらったお礼と、フレディお兄ちゃんと幸せな家庭を築いてねという祝福のメッセージを書いた。
ジルには、からかわれてばかりだったけど一緒に村で育って楽しかった思い出と、私が吸血鬼になってしまったのはジルのせいじゃないよというメッセージを書いた。
「姫様、お手紙書けましたか?」
「うん、出来たよ」
「若様にお渡ししておきますね。さぁ姫様は、ドレスを選びましょう!」
「ありがとう」
メルムに手紙を預けて、私は再びウェディングドレスのカタログに目を通した。
「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、リグレット王国との真の和平が遠退いたよね。本当にごめんなさい……」
昨夜の誕生日パーティーでの出来事を思い出し、思わずため息がもれた。
私がうまく対処できていれば、フォルネウス様にも余計なご迷惑をかけずにすんだのに。
「非礼はあちらにあるのですから、大丈夫ですよ。姫様はなにも間違った事はされてません。あの時、下手をすればセシリア様の命は無かったかもしれませんし」
「ど、どういうこと?!」
「ディートリヒ陛下は今にも火炎魔法を放ちそうなほど怒ってらっしゃいましたし、ソフィア様は手に作り出した氷のレイピアで今にも貫こうとせんばかりでした。若様が行かれたので何とか怒りを沈めておいででしたが、本当に危なかったのです」
「そう、だったんだ……」
二人とも、私の事を心配して下さっていたのね。後でお礼をしておかなければ。
「はい。この国はシエラ様の教えで、愛を大切にする事で成り立っています。だからこそ、大義無く他者を蔑み侮辱するような卑劣な行為や発言はご法度なのです。破った者にはそれ相応の報いが訪れます。若様がワインをかけただけで済んだのは、本当に奇跡でした。普段ならきっと、頭から雷でしたよ……」
「頭から雷?!」
物騒な言葉が聞こえたちょうどその時、フォルネウス様がいらっしゃった。
「待たせてすまない、遅くなってしまった」
「そんな事よりフォルネウス様、頭から雷はダメですよ?!」
「ん? 一体何の話をしていたんだ?」
「昨晩の話ですよ。若様が頭からワインをかけただけで済んだのは奇跡だって話をしてたのです」
「アリシアの視界に、丸焦げになった醜いものを入れるわけがないだろう」
「じゃあ、私がいなかったら?」
「頭から雷だな」
「頭から雷ですね」
フォルネウス様とメルムの声が重なった。
「だめです、頭から雷は反対です!」
この国について結構詳しくなったつもりでいたけど、甘かった。まだ私の知らないことはいっぱいあるんだわ。しっかり勉強しなくては……
「アリシアの大切な父上を侮辱したのだ。頭から雷くらい良いではないか。それに王女ともあろう者が、忠誠を誓った自国の騎士をあのように吐き捨てるなど、到底許されるものではない」
「あの時フォルネウス様が怒って下さって、私はとても嬉しかったです。父の名誉を守るために、ありがとうございました。でもそのせいで、リグレット王国との友好関係に亀裂が入らないかと心配で……」
「安心しろ、アリシア。礼を欠いたのあちらだ。その不始末もつけられないほど、リグレット国王は分別の付かない方ではない。セシリア王女が俺達の前に現れる事は、もう二度とないだろう」
安心させるかのように、フォルネウス様は私の頭を優しく撫でて下さった。
「それよりもだ、これを見てくれ」
渡されたのは分厚い本だった。パラパラとページをめくると、そこには純白のドレスが描かれている。
「気に入るドレスはあるだろうか? 候補をいくつかあげてもらえば、それを元にアリシア専用のドレスをデザインしてもらおうと思ってるのだが」
「あの、フォルネウス様。これって……」
「ウェディングドレスだ。作るのに時間がかかるからな。アリシアに良く似合う最高の一着を仕立てたい」
「ふふふ、それと対になるように若様のタキシードも仕立てる予定ですものね」
どれもとても素敵なドレスばかりで、私に着こなせるのだろうか。
その時、ちょうどめくっていたページのドレスのデザインが、お姉ちゃんのウェディングドレスに似ていることに気付く。
「それが気に入ったのか?」
「このウェディングドレス、姉が着ていたものにそっくりで。お姉ちゃん、とても綺麗だったなと思い出してしまいまして……」
私もお姉ちゃんのように結婚するんだと実感した時、胸にチクりと刺すような痛みが走る。お姉ちゃんもお母さんも、私が結婚することを知らないんだよね。私がこうして、とても温かい人達に囲まれて幸せに暮らしていることも。
お父さんは、お空から見てくれてるかな。私には勿体ないくらい、素敵な人と結婚するんだよってことを。
「アリシア?」
「姫様?」
心配そうなフォルネウス様とメルムの声が聞こえた。
「す、すみません! 変なことを言ってしまって」
理由なく吸血鬼がリグレット王国に行けないのと同じで、理由なく人間もハイグランド帝国には来れない。結婚式に家族を呼びたいなんて、我儘は言えないよね。
「アリシア。結婚式には君のご家族を、こちらに招きたいと思っているのだが、いかがだろうか?」
「家族を、呼んでもよろしいのですか?!」
「勿論だ。アリシアを大切に育ててくれたご家族に、君の晴れ舞台を是非とも見てほしいと思う」
「とても嬉しいです! フォルネウス様、ありがとうございます!」
「よかったらその旨を、手紙に書いてもらえないだろうか? ジルを通して、君の家族に渡してもらえるよう頼んでみよう」
「え、ジルを知ってるんですか?!」
まさかそこで、幼馴染みの名前が出てくるとは思わなかった。
「討伐任務で一緒になる事が多くてな。その時にアリシアの近況報告も兼ねて、定期的に連絡を取っているのだ。家族にもアリシアの無事をきちんと伝えてもらっているから、安心するといい」
「そうだったのですね。まさかジルが、吸血鬼討伐隊に入っていたなんて知りませんでした」
「君を守れなかった事をとても悔やんでいたようだ。もう二度と、そのような犠牲は出したくないと志願したらしい」
私が吸血鬼に襲われたのは、ジルの責任じゃない。普段はからかわれてばっかりだったけど、いざという時は守ってくれた不器用な優しさを持った幼馴染みのジル。
あの日、井戸に水を汲みに行くって言ったらジルは手伝おうとしてくれた。でも来賓の相手を優先してもらって、その申し出を私は断ってしまった。
もしかするとジルは、断られても何で付いて行かなかったんだって、その時の行動をずっと悔やんでいたのかもしれない。ジルのせいじゃないんだよって伝えたいな。
「フォルネウス様。母と姉とジルの三人に手紙を書きたいのですが、届けて頂けるでしょうか?」
「ああ、任せてくれ」
「ありがとうございます」
手紙には、こちらで温かい人達に囲まれて元気に過ごしている事と、一生を共に過ごしたい大切な人に出会えて結婚する事。その結婚式に招待したい事と、それぞれに当てたメッセージを書いた。
お母さんには、今まで女手一つで育ててくれた感謝と、これからはこっちで頑張っていくよっていう決意表明を書いた。
お姉ちゃんには、いっぱい可愛がってもらったお礼と、フレディお兄ちゃんと幸せな家庭を築いてねという祝福のメッセージを書いた。
ジルには、からかわれてばかりだったけど一緒に村で育って楽しかった思い出と、私が吸血鬼になってしまったのはジルのせいじゃないよというメッセージを書いた。
「姫様、お手紙書けましたか?」
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