おーばー!〜弱小女子野球部の監督に元最強選手の男子高校生が就任してハーレムになった件〜【明鈴高校女子野球部一年生前編】

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進化と理由

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 ついに珠姫からホームランが生まれた。

 それも合宿の時とは違う、ボールを見ずにコースを予測するという奇跡のような打ち方ではない。正真正銘、ボールを見て実力で打ち勝ったホームランだった。

「勝ちに行くぞ」

 一点差、そしてまだワンアウトから五番の亜澄の打席だ。このままでは終われない。

「伊澄、打席入れるか?」

「当然」

 夜空が予定外の交代ということで代打の要員である梨々香を使ってしまった。

 本来であれば伊澄に打席が回れば代打を出し、その後に棗の登板、もしくは伊澄に打席が回らなければ交代した後の棗に代打を出し、次のピッチャー、黒絵へと交代を考えていた。

 ただ、構想上で代打として起用することを考えているのはあとは瑞歩だけだ。もし伊澄の打席でこの瑞歩を代打に送れば、九回裏に回ってくるピッチャーの打席はそのまま黒絵が入るか、守備要員として残してある煌、鈴里のどちらかという選択肢しか残らなくなってしまう。

 せめて八回、ある程度打席が回る選手が確定してから瑞歩を使いたい。そうなれば伊澄の打席で代打を出すわけにはいかなかった。

 続く六回裏、亜澄が打席に入る。

 皇桜は控えのピッチャーも準備している。交代する前になんとか決着をつけなければいけない。

 相手ピッチャーの狩野は打たれたことで少なからず動揺している。叩くならここだ。

「亜澄、デカいの頼んだ!」

「え、うん。……無茶言うなぁ」

 亜澄が出塁し、繋いで一点でも取れれば、もしピッチャーが代わっても三回のうちに攻略していけばいい。ただ、願わくば狩野が投げているうちに逆転しておきたい。

 亜澄への初球、緩い球が亜澄へと向かう。

 カーブで際どいところを狙ってきたか。

 踏み込んだ亜澄はそのまま打つか見極めるか、ギリギリまで引きつける。

 しかし、ボールは変化しなかった。

「ヒットバイピッチ!」

 審判がデッドボールのコールをし、一塁への進塁を促す。

 相手ピッチャーは動揺が隠せていない。良かった制球が乱れ始めている。

 ただ、そのことについて声を出せば挑発行為にもなりかねないため、口を噤む。しかし、これでまた走者が出塁した。

 続く打者は伊澄、このままチャンスを作っていけば、この回で一気に同点、逆転の可能性もある。

「伊澄! 任せたでー!」

 ネクストバッターズサークルに入る陽依が檄を飛ばす。

 伊澄は打席に入る前、陽依に向かって握った拳を出した。それに応えるかのように、陽依も拳を差し出した。

 実際にグータッチをしているわけではない。しかし、二人にとってはそれだけで心が通じたように思える。

 伊澄の打席、右足から打席に入り、バッターボックスの中を整えると左足もバッターボックスに入れる。左足でも軽い整え、その後バットを構える。

 ただ、脱力していい状態で打席に入っていることが窺える。その脱力感が威圧感にもにた雰囲気を放っていた。

 初球、またもや亜澄と同じく、伊澄に向かっていくような緩い球だ。

 しかし、今度は変化する。

 伊澄はそれを見逃さなかった。

 自分の横からストライクゾーンへと滑るスライダーを遮るようにバットを振り、ボールを引っ張った。

 打球はサードの頭を越えて……。

「フェア!」

 レフト線、フェアゾーンへと落ちる。

「レフトォ!」

 レフト線ギリギリフェアゾーンに落ちた打球は転がり、ファウルゾーン奥まで届く。

 そしてその間、ファーストランナーの亜澄は二塁を蹴った。

「ボールサード!」

 相手レフトの大町もボールを処理する。そのまま中継へと送球し、ボールをカットした中継はサードへと送球した。

 亜澄は滑り込む。そしてその先にはボールを待ち、捕球しようとしているサードの湯浅。

 二人が交錯する。際どいタイミングだ。

「……セーフ! セーフ!」

 ボールはこぼれ落ちている。タイミング的にはアウトだったかもしれない。しかし、ボールを落としていればタッチされたところでアウトにもならない。

「ナイスラン!」

 滑り込んで三塁を勝ち取った亜澄にベンチも盛り上がる。しかし、その間に二塁を陥れている伊澄も良いプレーだということは間違いなかった。

 そして次は当たりはないがムードメーカーの陽依、狩野からヒットを放っている白雪と続く。

 絶好のチャンスだ!

 そう思ったところで皇桜の監督が立ち上がる。

 選手交代だ。伝令の控え選手が審判へと伝え、そこから審判がベンチへとやってくる。

「ピッチャー交代」

 交代は予想通りだ。ブルペンで準備をしていたピッチャーがマウンドへ向かう。

 その選手は一年生、入りたての選手だが、夏の大会を見据えて選手を出場させるというのが前提の試合のため、ベンチ入りすることも考えられている選手なのだろう。

 この交代がどのように転ぶのか。

 球速はそこそこだ。変化球は見れていないが、球質は悪くない。速球派の投手というのが窺える。

「巧くん、ちょっといいかな?」

 司に声をかけられ、声のする方向を向く。

「どうした?」

 少し言いづらそうな表情を浮かべながら、司は口を開いた。

「竜崎流花、あのピッチャー、私と同じシニアだったんだ」

 そうか。司は明音ともう一人ピッチャーがいて、その三人で仲が良かったと聞いていた。このピッチャーはその中の一人というわけだ。

「それなら、特徴とかもわかってるってことか?」

「うん、そうだね」

 元よりそれを話そうとしていたというようで、司は竜崎流花の特徴を話し始める。

 ストレートの球威があるということ、あとはカーブがキレるというものだ。変化球で言うとあとはチェンジアップくらいで、コントロールはそこそことよくいるような速球派投手だ。

 ただ、それだけでは強豪校で一年生ながらベンチ入りできる程ではない。つまり、シニアを引退してからか高校入学後にさらに武器を身につけた可能性が高いというわけだ。

 司からの情報を元に、どのように攻略していくか、だ。

 とりあえず陽依には司から聞いている情報を伝える。突然、次の白雪にもだ。

 司は新しく身につけた武器はわからないとはいえ、既存の球種には対応できる可能性がある。打順が回れば一番チャンスのある打者だ。

 ピッチャー交代から投球練習が終わり、陽依が打席に入る。

 初球から外角低めに速いストレートを見せる。

「ストライクッ!」

 球速は百十キロ手前か。黒絵よりも劣る球速だが、球質は黒絵よりも上に見える。

 二球目、内角へ変化していくカーブに空振りをする。変化球のキレもいい。しかし、それは伊澄程ではない。

 三球目はストレートを外角高めに外す。外を意識させたいのだろうか。そうなると決め球は内角か。

 四球目、流花の放ったボールは内角高めへ一直線だ。

 予想通りか。

 陽依も読んでいたのだろう、迷うことなくスイングする。

 しかし、バットは空を切った。

「ストライク! バッターアウト!」

 空振り三振。決め球は……。

「スプリットか」

 司が言っていたのはストレート、カーブ、チェンジアップのみ。となればこの空振りを奪えるスプリットでのし上がったということに予想がつく。

 しかし、巧はどことなく違和感を覚えていた。

「白雪! まだチャンスだ、繋いでいけ!」

 ツーアウトとなったが、ランナー二、三塁は変わらない。ヒットが一本出れば少なくとも同点、上手くいけば逆転のチャンスだった。

 しかし、白雪は翻弄される。

 初球のチェンジアップにタイミングが合わずにバットを引きストライク。

 二球目は緩急をつけるようにストレートを選択し、空振り。

 三球目はスプリットだが、低めからさらに落ちるボールでバットを出さない。

 スプリットでもあわよくば三振を狙っていただろうが、次が勝負球か。

 何が来る? 二球連続のスプリットか、はたまたストレートか。三球種でも翻弄されており、予想がつかない。

 そして四球目、流花の放つ球は遠い。外角へ外れたボール球だ。

 失投か。そう思い、白雪はバットを出さず、巧もボールカウントが一つ増えると考えたその時だ、投球が一気に食い込んできた。

 ボールはミットに収まる。白雪はバットを出せずにボールを見ていた。

「ストライク! バッターアウト!」

 二者連続の三振。ワンアウトランナー二、三塁のピンチだった皇桜は二者連続の三振でピンチを脱した。

 明鈴からすれば手も足も出ずにチャンスを潰した形となった。

 そして、最後のボールは……。

「スライダー……か」

 スライダー、それも高速スライダーだ。ストレートとほぼ変わらないスピードでキレ良く外から内に切れ込むスライダーだった。

 スプリットを投げたことで安心し切っていた。

 流花がシニア時代から身につけた変化球はスプリットだけではない。スプリットと高速スライダー、どちらも完成度の高い、実戦でも通用するような変化球を身につけたことが、一年生ながら強豪校のベンチ入りの候補へと挙がっている要因だということだ。

「違和感はこれか……」

 スプリットも確かに良い球だった。ストレート、チェンジアップ、カーブに加えてスライダーでも厄介な投手であることには変わらない。それでも同レベルの投手は皇桜学園には二、三年生でもいそうなものだ。

 しかし、それに加えて高速スライダーも持っているとなれば、その辺にゴロゴロいるようなレベルの選手ではない。

「キツイな……」

 ストレートの質、変化球、どちらをとってもエースには届かないが、将来のエースの資質を持っている。

 紛れもなく、今後三年間脅威となる存在だ。
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