おーばー!〜弱小女子野球部の監督に元最強選手の男子高校生が就任してハーレムになった件〜【明鈴高校女子野球部一年生前編】

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歯車と噛み合わせ

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「ナイスプレー」

 巧は、ベンチに戻ってきた夜空と陽依に声をかけた。

 夜空が捕ってベースをタッチ、そのままトスを上げると陽依は素手でキャッチし、一塁へ送球する。まるでプロのプレーを見ているような息が合ったプレーだった。しかし、この二人はそこまで多く二遊間を組んだこともないだろう。

「陽依のおかげだよ」

 夜空はまるで謙遜するような言葉を吐く。しかし、その表情から、それは謙遜などではないとわかった。

「うち、大したことしてないけどなぁ……」

「いや、陽依が色々言ってくれたし、私が思った通りのところにいてくれたから取れたアウトだよ」

 陽依が怒ったことで、それが夜空の心に響いたのだろうか。二人のやり取りを巧は把握していないが、それでも夜空にとってはプラスとなることだったのだろう。

 夜空は、「ちょっと目洗ってくる」と言ってトイレに向かった。

「砂入ったみたいやなぁ」

「まじかよ。それでよくあんなことできたな」

 目が見えにくい状態でベースを探し当て、そのままトスを上げるというのは至難の技だ。巧も感覚や状況から出来るかもしれないが、それでも確実にというわけではない。

 あんなにも堂々と、自信を持っているかどうかもわからないチームメイトに送球を託すというのは、少なくとも巧にはできないことだ。

「昔のことって、どうしても引きずるよな」

 陽依はしみじみとそう言った。

「うちも、チームメイトと仲悪かったわけやないけど、なんか溝がある気してなんか嫌やったわ。伊澄もそう。まあ、あいつは気にしやんタイプやろうけどな。ただ、夜空さんの闇は思った以上に深そうや」

 全部ではないが、大体の方は知っている。夜空と仲良くなった中学時代や、最近でも大地から聞いていた。高校でもそうだが、小中学生の頃も上手くやれていたわけでないことを知っている。

 だからこそ、チームメイトというものに憧れ、欲しているのかもしれない。

「でも、今はみんながいる」

 夜空は自分にも他人にも厳しい。それ故に知らず知らずのうちに誰かを傷つけているかもしれない。そして、時にはチームメイトでありながら圧倒的な実力に自信をなくしてしまう。それでも明鈴高校のみんなは夜空を信頼し、ついていく。

 チームは、全員が同じ実力ではない。ただ、大なり小なりそれぞれが役割を持っている。

 明鈴高校は、そんな大きな歯車や小さな歯車が噛み合って上手く回るチームだと巧は考えている。



 明鈴高校の攻撃は、四番の珠姫から始まる。

 二打数二安打。一回戦から合わせても五打数五安打と、十割、百パーセントの確率でヒットを放っている。

 そんな珠姫に対して、相手は当然策を練ってきた。

「敬遠、か」

 ノーアウトランナーなしからの敬遠。どうせヒットを打たれるのであれば、ツーベースやスリーベース、ホームランよりは敬遠で塁に出した方がマシだという判断だろう。

 ただ、この状況で敬遠ということは、それだけ珠姫が怖いということだ。それは強打者の証だ。

 敬遠が完了するまでの四球、その間だけは七海に声をかける時間がある。巧が二言伝えると、七海は打席に向かった。

『五番サード藤峰さん』

 アナウンスが響き、今度は司がネクストバッターズサークルに入るが、その前に声をかけてきた。

「何話してたの?」

 七海に対してのことだ。巧はニヤリと不適な笑みを浮かべながら答えた。

「ピッチャー降ろしてこいって話だ」

 打てる保証なんてない。ただ、打ち崩すことだけがピッチャーを降板させる条件ではない。

 七海の打席の初球、巧はサインを送る。そして七海はまるで打つ気がないようにボール球を見送った。

 二球目、相手ピッチャーが投球動作へと移り、足を上げた瞬間、珠姫は走った。

「くそっ」

 相手キャッチャーは意表を突かれたように、二塁へ送球する体勢を整えようとする。しかし、七海はスイングし、空振り。視界が悪いだろう。その上投球はワンバウンドしたため、二塁へ送球することすら出来なかった。

「ナイラン!」

 サイン通り、珠姫は盗塁を決めた。

 本当であれば出来るだけ初球から仕掛けたかったが、しなかった理由がある。それは、警戒されている可能性を考えたからだ。

 珠姫の足は遅くない。むしろ打てない時期に走り込みをしたことで、比較的早い部類に入るだろう。それでも今まで盗塁をしなかったのは至極簡単な理由で、そもそも盗塁する状況がなかったからだ。

 一回戦はホームランを三本で、ある意味出塁をしていない。二回戦もツーベースを二本と、三塁への盗塁は難しいことを考えて盗塁させなかった。だから相手も珠姫の走塁技術を知らなかっただろう。

 そして、珠姫が四番ということもあって、警戒は疎かになっていたように思える。あくまでもイメージだが、ホームランを打てる選手は盗塁をあまりしない。近年ではプロでもトリプルスリーと言ったように、三割三十本三十盗塁を達成する万能打者も増えてきたが、それも決して多いわけではない。

 つまり、珠姫が一塁に出塁して警戒してくるのかを見極めるために初球を捨てたのだ。

 運良く初球がボールとなったが、ストライクとなれば盗塁も合わせて追い込まれた可能性もある。こればかりは運が良かったとしか言えないが、追い込まれても七海ならどうにかしてくれるという信頼があるからでもあった。

 そして、それからの戦いも長かかった。

 三球目をファウルにし、カウントとしては追い込まれたが、四球目をファウル、五球目は見逃してボール、六球目もファウル、七球目もファウル、八球目もファウル、九球目はボール、そしてファウル、ファウル、ファウルと十二球を粘った。

 すでに相手ピッチャーも百二十球を超えている。球数としては多いし、さらにここから粘ることで球数も嵩んでいる。相手としては苦しいだろう。

 そして十三球目、耐えきれずに相手ピッチャーはボール球を投げ、七海はフォアボールで出塁した。

 一見、珠姫が盗塁したことが意味のないことのように思えるが、実はそれも大きな意味を持っていた。

 もし、粘っている途中に打ち損なって内野ゴロとなればゲッツーとなっていたかもしれない。それを防ぐためということと、ランナー二塁であればセカンドゴロやファーストゴロも進塁打となる可能性があるため、そこに賭けたのだ。

「巧も大概嫌らしいよね……」

 司はそう呟きながら打席に向かった。

「打ってこいよー」

 巧は背を向ける司にそう声をかけると、ひらひらと手を振って司は返事をした。

「亜澄、準備しておいて」

 もし司がゲッツーに倒れればそのまま光を打席に送るが、チャンスを作れれば、そのチャンスを掴むためにも亜澄を起用したい。

 そして……、

「伊澄、最終回いくぞ」

「了解」

 同点であれば、延長も考えて棗に長いイニングを投げてもらいたかった。しかし、勝ち越しのチャンスがあれば、黒絵、伊澄と繋げられる。

 そして司の打席。司に対して、相手ピッチャーが投じた。その瞬間司はバットを横に構えた。

「サード!」

 バントの構え、相手キャッチャーは瞬時に反応した。そして投球は内角低めへの緩い変化球、カーブだろう。司はそれに合わせて転がした。

 打球は三塁線に転がる。絶妙なバントだ。緩い球であれば打球も勢いは弱くなるため、司は意図的に強くした。強すぎればサードが容易に捕球でき、弱すぎればキャッチャーがすぐに対応できる、その間を突いた絶妙な強さのバントだ。

 司は当てた瞬間、一塁へと走り出した。自分が生きようというセーフティーバント。そして相手サードは三塁の補殺を狙うために元々三塁付近を守っていたため、反応が遅れる。サードが素手で捕球し、そのまま流れるように一塁へと送球する。

 しかし、司も負けじと全力疾走だ。際どいタイミング……。

「セーフ! セーフ!」

「っし!」

 司は一塁を駆け抜けた後、喜びを表現するように太もも付近を軽く叩いていた。

 緊迫した場面ではガッツポーズもしたくなるだろうが、あまり派手にし過ぎると侮辱行為とも捉えられてしまう。そのため昂った感情をそのようにして表しているのだろう。

「ナイスバントー!」

 巧を含め、ベンチの選手たちが声を上げる。

 これでノーアウト満塁の大チャンスだ。

「良い雰囲気だね」

 不意に声が聞こえ、巧は振り向いた。

「白雪、大丈夫だったか?」

「まあね。後で病院行けって言われたけど、今は冷やしてる」

 白雪はアイシングを目元に当てている。直接では冷えすぎるため、タオルを巻いてだが。

 それにしても白雪の表情は浮かばれない。なんとなく白雪の言いたいことはわかった。自分がいなくても勝てるということを見てしまっているからだ。

 それでも、

「病院行って大丈夫だったら、次の試合は出すぞ」

 巧は言い切った。スタメンで出すということは事前であるが、直前に伝えている。白雪に限ってはフライングで伝えた形となる。

 それは白雪の不安を和らげるためだ。

「今日、白雪がいなくて勝てても、次の試合はわからない。俺には、明鈴には白雪の力が必要だ」

 その言葉を聞いて白雪は笑った。

「くさいセリフ……。でもありがとう」

 白雪の表情が変わった。落ち込みではなく、楽しげな表情に。

 そのためには、この試合なんとしても勝たなければいけない。

 だから、次の手を打つ。

「代打だ。亜澄、行ってこい」
 
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