おーばー!〜弱小女子野球部の監督に元最強選手の男子高校生が就任してハーレムになった件〜【明鈴高校女子野球部一年生前編】

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先輩の姿 vs伊賀皇桜学園

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 ワンアウトランナー三塁。一点を失うピンチだ。
 そして二番の的場が打席を迎える。

 三点のリードを持っている明鈴としては、無理にサードランナーをアウトにすることよりも、確実に一つのアウトを取りに行くことが先決だ。
 もちろん、サードランナーをアウトにできるに越したことはない。
 ただ、続くのが三番の鳩羽と四番の和氣だ。
 出来る限りランナーは残したくない。

 しかしながら、的場も好打者だ。簡単に打ち取れるはずはない。
 となれば、選択肢は一つとなる。

 陽依はセットポジションから、早いクイックモーションで初球を投じる。

「ストライク!」

 際どい内角低めにに落としたフォークに、的場のバットは空を切る。
 陽依の変化球では空振りを取りにくいとはいえ、決して取れないわけではない。
 今回は的場のスイングよりも陽依のフォークが上回った、それだけだ。

 これが追い込んだ後であれば最高ではあったが、そう上手くいかないのが野球だ。どれだけ素晴らしい球を投げたとしても、結局最後に打たれればそれも無と化すのだ。

 油断してはならない。そんな二球目も、陽依は内角高めに際どい球を投げ込んだ。

「……ボール」

 ストライクゾーンに入れるようなスライダーだったが、僅かながら外れてしまう。そんな判定に陽依は悔しそうな表情を浮かべた。

 厳しいコースを攻める。それが今の陽依と司バッテリーの方針だ。
 しかし、三球目、四球目と厳しいコースに変化球を投げるが、どちらも僅かながらコースから外れた。

 スリーボールワンストライクの苦しい場面で巧は悩んでいた。


 陽依は間違いなく好投手だ。
 それでも明鈴ではエースにはなれないだろう。
 その理由は簡単で、同じタイプでありながら、投球面に関しては遥かに伊澄の方がレベルの高い投手だ。

 陽依は伊澄と同じく、多彩な変化球と精密なコントロールを持ち合わせているが、球速、球威が足りていない。それ故に躱して三振か打ち取るしかないのだが、伊澄と違う点は三振が奪いづらいことだ。

 ただその一点だけで大きな差を生んでいる。

 それでも陽依は自分の長所を生かしながら戦っていた。

 巧は以前、起用法について尋ねたことがあった。
 それは、様々なポジションをたらい回しにされるということや、必要の際にだけピッチャーとして登板することに不満を持っていないかということ。

 それに対して陽依はこう答えた。

「うちは野球が好きや。やから色んなポジションを守れてお得やと思っとる。うちが色んなポジションを守るっちゅーことは、うちが必要やとされとるっちゅーことやから」

 ポジションを固定されていない。その便利屋とも言える起用が、陽依にとっては一番の起用だということも。
 そして陽依は続けて言った。

「うちが一番嫌なんは、ポジションが空いとるのにうちを使わんことや」

 どんなポジションでもバックアップをする。どんな役割だろうと、チームに貢献できるポジションに就くのが、陽依にとって最高の起用法だと。

 最後に陽依は言った。

「やからうちを好き勝手に使ってや。うちが使えやんと思ったら見限ってくれてええから、使えるなら使って欲しい」

 その言葉を思い出しながら、巧は一人小さく「すまない」と呟いた。



「ボール! フォアボール!」

 五球目、初球と同じように内角高めにストレートで攻めたが、これは残念ながら外れてしまう。

 アウトを一つ奪ったとはいえ、ヒットとフォアボールでワンアウトランナー一、三塁。
 そして打席には鳩羽、和氣と続くクリーンナップだ。
 力で押せない陽依が、長所でいる精密なコントロールでさえも崩れている。

 巧は動くしかなかった。

「投手交代。光、伝令頼む」

 光が審判に交代を伝えに行く。
 そしてグラブを変えるために、陽依と夜空がベンチへと一度戻って来た。

「……こんな交代をしてしまって申し訳ない」

 たった十球。そしてたった一つのアウトでの交代となってしまった。

 しかし、陽依は笑顔を見せながらこう言った。

「ピンチ作ったうちが悪いんやから、うちを使ったんがあかんみたいに言うのやめてやー。まだまだうちにはやることあるし、カントクのやりたいようにやってや」

 そう言いながら陽依は守備位置へと向かう。
 その後ろ姿は悔しさを隠しきれない、不甲斐ない自分に怒りがこもった背中だった。



『明鈴高校、シートの変更をお知らせします。ピッチャー姉崎陽依さんがセカンドに、セカンド大星夜空さんがピッチャーに入ります。
 三番ピッチャー大星夜空さん。背番号4。
 八番セカンド姉崎陽依さん。背番号7。
 以上に代わります』

 夜空をマウンドへと送る。これはただ棗や黒絵の準備が整うまでの繋ぎではない。

 夜空の本職はセカンド。これは間違いなく、夜空自身セカンドにこだわりを持っていた。
 しかし中学時代、男子に比べて球速が劣りながらも、力負けしないピッチングが夜空の持ち味だった。

 中学時代は男女混合のシニアに入っており、強豪だったため他のピッチャーが揃っており、エースの立ち位置には立てなかった。
 しかし、女子だけのガールズに入っていれば、間違いなくエースだっただろう。

 その夜空は今年の明鈴にはピッチャーが揃い、あまり登板機会こそなかったものの、去年までの人数不足だった明鈴を投手としても支えていた。

 パワーピッチングという点に置いては黒絵に劣るものの、黒絵は調子のムラが激しい。
 それに引き換え、夜空は多少のムラはあるものの安定している。
 どちらが上かと問われれば悩ましいが、少なくともピッチャーとしての実力も申し分ない。

 陽依を登板させずに夜空を登板させるという選択肢もあったが、タイプの違うピッチャーのため、良し悪しはある。陽依は夜空の立てなかった清峰シニアにのエースという立場を、そのピッチングスタイルでもぎ取っており、そこを信頼しての起用だった。

 後輩の作ったピンチを先輩が凌ぐ。
 夜空の眼でそう語り、背中で陽依に自分という野球人の生き様を伝えようとしていた。

 そんな夜空は投球練習を終えると、打席に立つ鳩羽に睨みを効かせた。

 ワンアウトランナー一、三塁。ゲッツーが取れるように前進守備から中間守備に切り替えた内野陣のことを考えると、外野フライのみならず内野ゴロでも一点の可能性は高い。
 こうなってしまえば、一点は仕方ないと巧は割り切っていた。

 このリードを守るため、夜空はどのようなピッチングをするのか。
 注目の初球。

「ファウルボール!」

 外角低めの縦スライダー。流れるように落ちる縦スライダーに鳩羽ついていくものの、捉えきれない。打球はバックネットまで転がる、掠っただけのファウルとなった。

 初球から変化球。カウントを確実に取りに行くためではなく、空振りを狙うような球だった。

 どういう意図で初球から空振りを奪いに行く縦スライダーを投げたのかはわからないが、ストライクカウントが増えたことで有利になったことは違いない。

 そして二球目、今度も外角低めを突くボールだ。
 逃げるように変化する球に、鳩羽は見送った。

「ストライク!」

 際どい球だが、審判の手は上がる。

 キレのある鋭いシュートだが、それは変化量の小さいものだ。
 小さいからこそ、逃げるように見えてストライクゾーンに入っている。あわよくば打ち損じを狙える球だった。

 ここまで無駄な球はなく、二球で追い込んだ。
 しかし、簡単に追い込んだからこそ慎重にいかなければならない。

 三球目は様子を見るように、夜空は外角高めに外したシュートを投じた。

 二球連続のシュートを投じたため、次の球でシュートはないだろう。
 流石に三球連続となれば球筋も見極められ、良くてボール球、悪くて痛打を浴びる。

 鳩羽は簡単に打ち取れる打者ではないのだから。

 そうなれば、他の球種で勝負するしかない。
 そんな勝負の四球目。

 夜空の指先から放たれた白球は、司の構えるミットへと一直線で向かう。

 内角低めの際どい球だ。

 鳩羽はその球に応戦する。
 綺麗なスイングから繰り出されるバットは、夜空の球を捉えた。

 しかし鳩羽のバットは、根本に当たっただけの鈍い金属音を奏でた。

「ショート!」

 打ち取った打球。ただ鳩羽の振り抜いたスイングから繰り出された打球は、詰まりながらも鋭い打球となり、夜空の横を抜けてショートの白雪を襲う。

 打球はセカンドベース、ややショート寄りの打球だ。中間守備のためやや前進していたため、追いつくのか際どい打球だ。

 打ち取ってはいる。詰まっている。
 そんな打球をみすみす外野まで運ばせる白雪ではない。

 白雪は打球に目掛けて飛び込んだ。


 ……しかし、あと一歩足りない。


 白雪のグラブは、その打球を弾いていた。
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