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第二章 高校三年生編
第93話 青木颯太は見据えたい
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「はぁ……」
俺は深くため息を吐く。
体育祭が終わるといつもの日常が戻ってくる。
そんな日々を過ごせば、あっという間に期末テストだ。中間が終わったばかりというのに、もうこんな時期になっている。
今は花音と教室に残ってテスト対策をしている。虎徹はバイトで若葉は部活だった。
俺のため息を聞いて、花音は怪訝そうな表情を浮かべた。
「どうしたの? わからないところあった?」
「そういうわけじゃないんだけどさ……」
確かにテストには不安はある。
しかし、俺のため息の原因はそこではなかった。
「この時期に、いまだに進路決まってないのってどうなのかなって」
「ああー……」
進学コースを選択したのだ、意思は概ね進学に固まっている。
花音や若葉はもちろん、進学か就職かで悩んでいた虎徹も、進学の意思を固めていた。曰く、「どうしてもやりたいことが見つかって、上手くいくなら進学はしない」とのことだが、大筋は決めてあるのだ。
そして三人とも、興味のある分野があるため、それぞれが学部まで絞ってある。
しかし俺は興味のある勉強というのがない。
志望校を固めていく三人を見て、俺は一人置いてけぼりを食らっている気分になっていた。
「進路を決めておくのって、早いには越したことがないのかもしれないけど、そんなに焦らなくてもいいんじゃない?」
「そうかなぁ……」
「うん。他の人の話を聞いても、まだ決まってない人はいるよ? それに、先輩とかでも結構ギリギリに決めたって人いるらしいし」
そう言われてみると、自分だけではないという安心感を覚える。
ただ、あまりいいことでもないのだが……。
「逆にさ、無理に決めて、あとで後悔するのは嫌じゃない?」
「確かにそれもそうか……」
それは花音の言う通りだ。
高校までなら最大の選択肢は部活か文理選択くらいだった。
しかし、大学の場合、四年間は同じところに通い、選択した方面の勉強をしなくてはいけないのだ。
「花音はさ、俺には何が向いていると思う?」
「えぇ……」
完全にめんどくさいやつの質問だ。
一瞬だけ『めんどくさい』とでも言いたげな表情をした花音だったが、すぐに表情は真剣なものになっていた。
「面倒見はいいし、先生とかは向いてるかもしれないかな? そうじゃなくても、公務員とか堅実なのは向いてると思う。勉強嫌いでもなんだかんだでやる時はやるし」
「そう、なのかな」
最近は将来に不安を覚え……なんていう理由ではないが、周りの雰囲気に充てられて勉強には力を入れている。
中学生の頃は勉強が嫌いでもそこそこくらいはテストでも点が取れていたこともあって、高校に入学してからはあまり勉強はしてこなかった。
しかし、受験も近づいてくる周りの空気もあり、俺の中の危険信号が警報を鳴らしているのだ。
勉強をしてこなかった負債が溜まっているため、二年生の冬頃は思うように成績が伸びなかった。
それでも三年生になって初めての中間テストでは、少しだけでも成績が上がったことで、確かに手応えを感じていた。
「まあ、私から見るとそういう面もあるよってことで。……でも、前に颯太くんのバイト先に行ったときに、接客とかもいいのかなって思ったよ」
「ああ、双葉と凪沙と来た時か」
「そうそう。人当たりもいいし、一番向いてるってなったら接客かもね」
改めて自分のことを客観的に聞いてみると、少し気恥ずかしくなる。
素なのかわからないが、花音は俺を褒めてくれる。
こんな手放しで性格を褒められることなんて、そんなに機会はないのだ。
俺は花音の顔がうまく見れず、机に広げてあるノートに視線を移した。
「あれ? 照れた?」
「うっさい」
「照れたー」
子供のように無邪気に喜んでいる花音。
この表情を見れるのは嬉しいが、からかわれるのは勘弁してほしい。
そんな俺たちのやり取りを、周りの生徒たちは不思議そうに見ている。
花音は教室でも少しずつ素を出すようにはなっているが、ここまでさらけ出すことはあまりない。
見慣れていない生徒からすると、意外としか言えないだろう。
ただ、これが花音の平常運転なのだ。
「照れてるところ、可愛いねー」
「男子高校生に対しての言葉とは思えないな……」
「颯太くんの反応って面白いんだもん」
……そういえば、最初の頃もそんなことを 言っていた気がする。
俺をからかって、反応が面白いと言っていた。
このままでは花音のペースに持っていかれる。
そう思った俺は話を戻した。
「それより、俺って接客とかが向いてるなら、どういう学部がいいんだ?」
「えー……どこかで専門学校みたいなのはあるって聞いたことあるけど、どこでも変わらないんじゃない? 関係あるかわからないけど、どうやったら売れるかとかで心理学部とか?」
「文系になるなぁ……」
高校時点で受験する科目を履修していれば、受けられるには受けられる。
ただ、せっかく理系を選択したのだから、そこを活かしたいところでもある。
「結局、別の仕事を考えながらの方がいいのかもなぁ」
「そうだね。それかいっそのこと適当に大学に入って、大学生活を楽しむかだよ」
避けたいところではあるが、大卒という一種の資格を取れるだけ、選択肢としてはありなのかもしれない。
人生は何歳からでもやり直せるというが、難しくなるということには違いない。
後悔のない選択をするため、俺は頭を悩ませている。
花音はそんな俺に、現実を突きつけてきた。
「そんなことより! 今は目の前のテストじゃない?」
「……おっしゃる通りです」
「さ、勉強勉強!」
将来への不安はさておき、俺は目の前のこと……成績を上げるため、再び勉強へと意識を戻した。
俺は深くため息を吐く。
体育祭が終わるといつもの日常が戻ってくる。
そんな日々を過ごせば、あっという間に期末テストだ。中間が終わったばかりというのに、もうこんな時期になっている。
今は花音と教室に残ってテスト対策をしている。虎徹はバイトで若葉は部活だった。
俺のため息を聞いて、花音は怪訝そうな表情を浮かべた。
「どうしたの? わからないところあった?」
「そういうわけじゃないんだけどさ……」
確かにテストには不安はある。
しかし、俺のため息の原因はそこではなかった。
「この時期に、いまだに進路決まってないのってどうなのかなって」
「ああー……」
進学コースを選択したのだ、意思は概ね進学に固まっている。
花音や若葉はもちろん、進学か就職かで悩んでいた虎徹も、進学の意思を固めていた。曰く、「どうしてもやりたいことが見つかって、上手くいくなら進学はしない」とのことだが、大筋は決めてあるのだ。
そして三人とも、興味のある分野があるため、それぞれが学部まで絞ってある。
しかし俺は興味のある勉強というのがない。
志望校を固めていく三人を見て、俺は一人置いてけぼりを食らっている気分になっていた。
「進路を決めておくのって、早いには越したことがないのかもしれないけど、そんなに焦らなくてもいいんじゃない?」
「そうかなぁ……」
「うん。他の人の話を聞いても、まだ決まってない人はいるよ? それに、先輩とかでも結構ギリギリに決めたって人いるらしいし」
そう言われてみると、自分だけではないという安心感を覚える。
ただ、あまりいいことでもないのだが……。
「逆にさ、無理に決めて、あとで後悔するのは嫌じゃない?」
「確かにそれもそうか……」
それは花音の言う通りだ。
高校までなら最大の選択肢は部活か文理選択くらいだった。
しかし、大学の場合、四年間は同じところに通い、選択した方面の勉強をしなくてはいけないのだ。
「花音はさ、俺には何が向いていると思う?」
「えぇ……」
完全にめんどくさいやつの質問だ。
一瞬だけ『めんどくさい』とでも言いたげな表情をした花音だったが、すぐに表情は真剣なものになっていた。
「面倒見はいいし、先生とかは向いてるかもしれないかな? そうじゃなくても、公務員とか堅実なのは向いてると思う。勉強嫌いでもなんだかんだでやる時はやるし」
「そう、なのかな」
最近は将来に不安を覚え……なんていう理由ではないが、周りの雰囲気に充てられて勉強には力を入れている。
中学生の頃は勉強が嫌いでもそこそこくらいはテストでも点が取れていたこともあって、高校に入学してからはあまり勉強はしてこなかった。
しかし、受験も近づいてくる周りの空気もあり、俺の中の危険信号が警報を鳴らしているのだ。
勉強をしてこなかった負債が溜まっているため、二年生の冬頃は思うように成績が伸びなかった。
それでも三年生になって初めての中間テストでは、少しだけでも成績が上がったことで、確かに手応えを感じていた。
「まあ、私から見るとそういう面もあるよってことで。……でも、前に颯太くんのバイト先に行ったときに、接客とかもいいのかなって思ったよ」
「ああ、双葉と凪沙と来た時か」
「そうそう。人当たりもいいし、一番向いてるってなったら接客かもね」
改めて自分のことを客観的に聞いてみると、少し気恥ずかしくなる。
素なのかわからないが、花音は俺を褒めてくれる。
こんな手放しで性格を褒められることなんて、そんなに機会はないのだ。
俺は花音の顔がうまく見れず、机に広げてあるノートに視線を移した。
「あれ? 照れた?」
「うっさい」
「照れたー」
子供のように無邪気に喜んでいる花音。
この表情を見れるのは嬉しいが、からかわれるのは勘弁してほしい。
そんな俺たちのやり取りを、周りの生徒たちは不思議そうに見ている。
花音は教室でも少しずつ素を出すようにはなっているが、ここまでさらけ出すことはあまりない。
見慣れていない生徒からすると、意外としか言えないだろう。
ただ、これが花音の平常運転なのだ。
「照れてるところ、可愛いねー」
「男子高校生に対しての言葉とは思えないな……」
「颯太くんの反応って面白いんだもん」
……そういえば、最初の頃もそんなことを 言っていた気がする。
俺をからかって、反応が面白いと言っていた。
このままでは花音のペースに持っていかれる。
そう思った俺は話を戻した。
「それより、俺って接客とかが向いてるなら、どういう学部がいいんだ?」
「えー……どこかで専門学校みたいなのはあるって聞いたことあるけど、どこでも変わらないんじゃない? 関係あるかわからないけど、どうやったら売れるかとかで心理学部とか?」
「文系になるなぁ……」
高校時点で受験する科目を履修していれば、受けられるには受けられる。
ただ、せっかく理系を選択したのだから、そこを活かしたいところでもある。
「結局、別の仕事を考えながらの方がいいのかもなぁ」
「そうだね。それかいっそのこと適当に大学に入って、大学生活を楽しむかだよ」
避けたいところではあるが、大卒という一種の資格を取れるだけ、選択肢としてはありなのかもしれない。
人生は何歳からでもやり直せるというが、難しくなるということには違いない。
後悔のない選択をするため、俺は頭を悩ませている。
花音はそんな俺に、現実を突きつけてきた。
「そんなことより! 今は目の前のテストじゃない?」
「……おっしゃる通りです」
「さ、勉強勉強!」
将来への不安はさておき、俺は目の前のこと……成績を上げるため、再び勉強へと意識を戻した。
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