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第一部 西の悪魔             第一章 西の国・迷いの森編

2.小さな村 前編

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「こんばんわ。何度もお世話になって申し訳ないね」
「いえ、大丈夫です!ゆっくりして行ってください」
家から出てきた若い女性の村人と老人が仲良さそうに話している。
老人は今回が初めてではなく、幾度もこの道を行き来しているらしい。
「しかし、今日はね、旅人が二人いるんだ。その分のベッドも用意してくれるかね?」
老人がちらりとこちらを見る。
「ええ、できますけど、家が別々になっても構いませんか?」



「どうぞ、遠慮なく入ってください」
老人と村の人に促されるまま、ネネは村の中心部の一軒家に流されていった。
「し、しつれいしま…」
「お客さんだーー!!」
ネネの腹部に突然子供が激突した。
なかなかの勢いであったが、衝撃が少なかったのは子供特有のぷにぷにの皮膚が理由である。
背はネネよりも低く、年は5,6歳だろうか。
「こら!サフラン!お客に失礼だろ!」
サフラン。この目の前にいる子供名前のようだ。
子供をみると目を星のように輝かせながらこちらを見ている。
子供の圧に思わずネネも後ずさりをした。
「すみません。うちの息子が…」
母親らしき女性がネネから子供を引き剥がす。
子供がまだ、ネネに抱き足りないかのように四肢をばたつかせている。
「旅人さんハーブティーでも飲みませんか。」
父親らしき人物が椅子から立ち上がり申し訳無さそうな笑顔をしながらネネを椅子に座るように促した。



木製のカップに注がれた液体は透き通った黄色で、家の雰囲気とよくマッチしている。
「これはすごいな~、こんなもの初めて見た」
机の上に広げられた地図に父親は関心していた。
「地図って普通ないんですか?」
父の地下室に飾ってあった地図を旅に出る前に引き剥がすように持ってきたが、正直こんなに驚かれるとネネは想像していなかった。
「ええ、殆どの人は持ってないわ。持っていたとしてもこんなに広い規模のものなんてないわ。」
母親が目を輝かせている。
「きっと、ネネちゃんのお父さんはとてもすごい冒険家だ」
ネネはその言葉が少し嬉しかった。父の地下室には様々な骨董品のようなものが多くあったが、地下室が開いたときには既に父がいなかったので、どれほどの価値があるのかネネは分からなかった。
「こんなにすごいお父ちゃんなら、きっと今でも冒険を続けてるよ」
地図に夢中だった子供のサフランが顔を勢いよく上げ、ネネに語りかける。
「お父さんは何日家に帰ってないの?」
「5年です。」
「…そ、そっか…。」
母親に対するネネの返答で食卓に気まずき空気が流れる。
両親が何か言葉を探すような顔をしている。
「…でも…何処かできっと生きていると思うんです。父は必ず帰ってくるといっていたんです。」
旅が一般的にどれだけの年月が必要であるかはわからないが、5年も帰ってきていないだけで、父が亡くなったと考えるのは軽率すぎる。
ネネは父は必ず生きていると確信していた。
ネネの言葉に両親の顔は明るくなった。
「そうだね。きっとお父さんは生きていると思うよ。」
この言葉がネネの後押しになったことは言うまでもない。


「ネネお姉ちゃんはこの世界がどうなっているか知ってるの?」
夕食と風呂を済ませた後、ネネはサフランと会話をしていた。
「セカイ?」
家では外のことなど全く話したこともなく、興味もなかった。正確には興味が湧く機会を与えられていなかったというのが正しいだろうか。本という本は全くもってなく、世界のことについての情報が遮断されていた。何処かの栄えた都市では"ガッコウ"というものがあるようだか、それは父の話でしか聞いたことのないものであり、ネネの住む村は小さかったため"ガッコウ"などなかった。
「じゃあ、教えてあげるね!」
サフランは近くにあった本棚の下段から、何冊か並べてある中の最も分厚い本を両手で取り出した。
「これはね、お父ちゃんがね、隣町に行ったときに僕に買ってきてくれたんだ。」
慣れた手つきでペラペラとページをめくり、手を止めた。どうやら、目的のものが見つかったようだ。
「見て!これが世界だよ!」
「!!」
ネネは思わず目を見開いた。
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