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第一部 西の悪魔 第一章 西の国・迷いの森編
1.繋がれた想い
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小さな窓から入る暖かな朝日がネネの顔を優しく包み、彼女は体を起こす。
彼女の家は山の中部にあり、下部の最も栄えている辺りとは異なり、客が来ることは殆ど無い。
ネネは手短に朝食や朝の雑務を終わらせる。
いつも着ている茶色のワンピースとショルダーバッグを手際よく身に着ける。全体的に地味な印象であるが彼女はこれ以外の洋服はもっていない。
ネネは何も置かれていない綺麗なテーブルを後にし、外へと旅立った。
外は家の中よりも暖かく天気は快晴である。白く柔らかそうな雲たちも所々に散らばっていて、日差しを遮ってくれる。
ネネは緑一面の中に際立つような土で構成された一本道をあるき続けた。
彼女は町を出る前に知人に一人も声をかけなかった。それは純粋にこの旅について話せるほどの人間関係が一つもなかった、それだけである。同年代の知り合いなどもう何年も顔を合わせてないし、何度か世話をしてくれた近所に住むおばさんは合うたびに貼り付けたような笑顔をしてくるため、ネネは嫌らしく感じていた。
太陽が空の頂点に来たため、ネネは近くの草の上に座り昼食を取った。そこに、なにやらゴトゴトと機械的な音が近づいてきた。
「止まってくれ。」
まるで、待ち合わせをしていたかのように丁度ネネの目の前で馬車がとまった。手綱を持っている老人がこちらを向いてきた。
「お嬢ちゃん、乗っていかんかね?」
「え、いや、ちょっと…」
この唐突さは何であろうか。彼女は馬車の手筈など整えていないし、御者との知り合いもいない。
「まあ、乗っていけよ」
老人とは違う男の声が馬車の後方にある荷台から声がした。この馬車は荷台に多くの樽や木箱などがあったので、てっきり人など乗っていないと考えていたがどうやら違うらしい。
ひょこっと荷台から男が顔を出す。
「はやくこいよ」
ーーーーー
「あの、ありがとうございます。」
ネネは荷台の上で目の前の酒を飲んでいる男に感謝の意を示した。
こんな昼から酒を飲んでいるなんて、よっぽど暇な人間か心に闇を抱えている人間くらいだ。さらに、瓶のまま滝のようにガブガブと喉越しがよさそうに候音をだしながら飲んでいる。どうやら、正面の男はアルコール中毒者の線が濃厚だ。
男が座っている木箱の下には既に2本もの空き瓶が転がっている。
「いーや、感謝なんか大丈夫だ。お前、ハロールに行くんだろ?まだ、道のりは、なげーからゆっくりしてけ。」
ネネがまだ行き先を述べていないのにも関わらず、行き先を当てるなんてかなり頭か感が冴えているようだ。
「しっかし、兄ちゃん何で嬢ちゃんをひろったんだい?知り合いかい?」
二人の会話に老人が入ってきた。
ネネを乗せてくれたのは話によると馬車を動かす老人ではなくこの彼女の前にいる男らしい。
「いーや、そうじゃない。彼女が歩きでハロールまで行くのは酷だと思ったからだ。旅人同士が助け合うのは当たり前だろ?実際、爺さんの迷惑にもなってないだろ?」
酒を飲んでいるのに良くもこうろれつも頭も回るものだ。
「そうだね~、一人も二人もそんなに運ぶのに大差はないからね~。」
老人は優しくおっとりとした声で返答した。荷台に乗っているため老人の顔を見ることができないがにこやかな表情であることが目に浮かぶ。将来年を取ったときにはこんな年寄りになりたいものだと密かにネネは思った。まあ、彼女はまだ17歳だからかなり先の話ではあるが。
他愛もない話をしたり、荷台から見える広大な自然を眺めていたりしていると、日が沈み始めていた。
「今日泊まる村が見えてきたよ」
老人が前方にある小さな村を指した。
野宿をして明日を迎えると考えていたネネにとって、寝床があることはとても嬉しかった。正直なところ、初対面の人と話したことで随分と疲れを感じていた。
正面の男はネネの気持ちを一切感じることが無いかのように酒を片手に爆睡をかましていた。
彼女の家は山の中部にあり、下部の最も栄えている辺りとは異なり、客が来ることは殆ど無い。
ネネは手短に朝食や朝の雑務を終わらせる。
いつも着ている茶色のワンピースとショルダーバッグを手際よく身に着ける。全体的に地味な印象であるが彼女はこれ以外の洋服はもっていない。
ネネは何も置かれていない綺麗なテーブルを後にし、外へと旅立った。
外は家の中よりも暖かく天気は快晴である。白く柔らかそうな雲たちも所々に散らばっていて、日差しを遮ってくれる。
ネネは緑一面の中に際立つような土で構成された一本道をあるき続けた。
彼女は町を出る前に知人に一人も声をかけなかった。それは純粋にこの旅について話せるほどの人間関係が一つもなかった、それだけである。同年代の知り合いなどもう何年も顔を合わせてないし、何度か世話をしてくれた近所に住むおばさんは合うたびに貼り付けたような笑顔をしてくるため、ネネは嫌らしく感じていた。
太陽が空の頂点に来たため、ネネは近くの草の上に座り昼食を取った。そこに、なにやらゴトゴトと機械的な音が近づいてきた。
「止まってくれ。」
まるで、待ち合わせをしていたかのように丁度ネネの目の前で馬車がとまった。手綱を持っている老人がこちらを向いてきた。
「お嬢ちゃん、乗っていかんかね?」
「え、いや、ちょっと…」
この唐突さは何であろうか。彼女は馬車の手筈など整えていないし、御者との知り合いもいない。
「まあ、乗っていけよ」
老人とは違う男の声が馬車の後方にある荷台から声がした。この馬車は荷台に多くの樽や木箱などがあったので、てっきり人など乗っていないと考えていたがどうやら違うらしい。
ひょこっと荷台から男が顔を出す。
「はやくこいよ」
ーーーーー
「あの、ありがとうございます。」
ネネは荷台の上で目の前の酒を飲んでいる男に感謝の意を示した。
こんな昼から酒を飲んでいるなんて、よっぽど暇な人間か心に闇を抱えている人間くらいだ。さらに、瓶のまま滝のようにガブガブと喉越しがよさそうに候音をだしながら飲んでいる。どうやら、正面の男はアルコール中毒者の線が濃厚だ。
男が座っている木箱の下には既に2本もの空き瓶が転がっている。
「いーや、感謝なんか大丈夫だ。お前、ハロールに行くんだろ?まだ、道のりは、なげーからゆっくりしてけ。」
ネネがまだ行き先を述べていないのにも関わらず、行き先を当てるなんてかなり頭か感が冴えているようだ。
「しっかし、兄ちゃん何で嬢ちゃんをひろったんだい?知り合いかい?」
二人の会話に老人が入ってきた。
ネネを乗せてくれたのは話によると馬車を動かす老人ではなくこの彼女の前にいる男らしい。
「いーや、そうじゃない。彼女が歩きでハロールまで行くのは酷だと思ったからだ。旅人同士が助け合うのは当たり前だろ?実際、爺さんの迷惑にもなってないだろ?」
酒を飲んでいるのに良くもこうろれつも頭も回るものだ。
「そうだね~、一人も二人もそんなに運ぶのに大差はないからね~。」
老人は優しくおっとりとした声で返答した。荷台に乗っているため老人の顔を見ることができないがにこやかな表情であることが目に浮かぶ。将来年を取ったときにはこんな年寄りになりたいものだと密かにネネは思った。まあ、彼女はまだ17歳だからかなり先の話ではあるが。
他愛もない話をしたり、荷台から見える広大な自然を眺めていたりしていると、日が沈み始めていた。
「今日泊まる村が見えてきたよ」
老人が前方にある小さな村を指した。
野宿をして明日を迎えると考えていたネネにとって、寝床があることはとても嬉しかった。正直なところ、初対面の人と話したことで随分と疲れを感じていた。
正面の男はネネの気持ちを一切感じることが無いかのように酒を片手に爆睡をかましていた。
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