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「お薬手帳と晶の母からの電話」
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「お薬手帳と晶の母からの電話」
10月末の水曜日午前9時半、駅前でのチラシ配布と店の近隣のポスティングを終えマンションに戻ると玄関に晶の靴は無く、晶の部屋履きのスリッパが綺麗に並んでいた。(あぁ、今日は三角印の日か…。戻りは2時頃になるから昼は先に食べててって言うてたもんな…。晶さん、俺に内緒で門真総合病院の伊庭先生の所に行ってるんやろな。璃子ちゃんがこっそり「消化器内科の診療室の前」で変装して張り込んでくれてるんやったな。)と思いながらリビングに入ると、ソファーの上に「お薬手帳」と「門真総合病院の予約票」が残っていた。
予約票を見ると「午前9時 消化器内科(肝臓分野) 伊庭真一医師」、「CT,超音波、血液検査、肝臓細胞生検予定」、「肝臓生検がありますので前日のアルコール、朝食は抜いてきてください。」との記載があった。靖の予約票を持つ指が震えた。
恐る恐る立花晶様と書かれた「お薬手帳」を開いた。この5月に継続発行されたものだった。そこに書かれていた薬品名は最初は「ベムノディ錠25mg」の記載の下に、「先発品(後発無し)」と「1日1錠」の後に「B型肝炎ウイルス(HBV)の増殖に必要な酵素の働きを阻害することで抗ウイルス作用を表す薬」との注釈があった。
ページを捲り9月に入ると記載されていた薬品名は、「B型慢性肝炎の標準的抗ウイルス薬」の説明がある「パラクルート0.5mg」に「むくみ防止(利尿薬)」の「「ラシックス20mg」、「アルブミン合成が促進され栄養状態が良くなる。BCAA製剤」との説明があった「リーバクト4.15g」と「アンモニア発生に関わる腸内細菌を抑制する(難吸収性抗菌薬)」と解説された「カナマイシン250mg」と一気に4種類になっていた。靖はノートパソコンを立ち上げ、薬剤名を検索していった。「お薬手帳」に書かれていた通り、処方薬を見ると8月までは「B型肝炎ウイルスキャリア」向けの処方が、9月からは明らかにクスリの数も増え、ネットの中で見る分に「肝硬変」の文字が並んでいた。
靖は先日の伊庭の肝炎セミナーの後半の肝臓病の末期を思い出しキーボードを叩く指が震えた。続いて「肝臓細胞生検」を検索した。直接肝臓の細胞を採取する方法で約30分の施術のようだが、術後の安静時間を考慮し病院によっては1泊2日を要するというところもあった。肝臓の「がん化」を調べるのに最も適した検査らしく、その検査を晶が受診していることから「肝硬変」から「肝臓がん」化が懸念されている状況なのかと靖の心は平常心ではいられなくなり、少しでも「安心」できる内容が無いかと検索を繰り返した。しかしそのどれもが悪い想像を掻き立てる内容の情報だった。Rikkaの法人化の話を晶から聞いた際の「私が死んじゃったり…」の晶の言葉が脳内で何度も再生された。
恐怖心に引きずり込まれるように検索し続ける間に時計は午後2時を示していた。玄関のドアが開いた音にも気づかず、「予約票」と「お薬手帳」を手元に置き、靖は画面に集中しキーボードを叩き続けていた。ふと、背後に人の気配を感じ振り返ると、真っ青な顔色の晶が立っていた。
「靖君、それ見たの…?」
靖は一瞬、誤魔化そうかとも思ったが黙って正直に頷いた。ふたりの間に無会話の沈黙の時間が流れた。滝のような冷や汗が流れている靖がようやくの事で喉を振り絞った。
「あ、晶さん…、か、肝硬変なんですか…。俺には正直に言ってください。Rikkaを法人化するっていうのは…。以前「私が死んだり…」って言うてたのはこれがあっての事なんですか。それに晶さん、寝言で「私は夫とお父さんを殺した。」って言った事がありましたけどどういう意味ですか?お父さんの事はわかりませんが拓也さんは肝臓がんで亡くなったと聞きました。晶さんはご主人から感染した被害者じゃないですか。「殺した」っていう訳じゃないでしょ。本当の事を教えてください。」
と靖が叫ぶとショルダーバッグを肩から落とし何も言わず晶は、泣きながら玄関を飛び出して行った。
靖は晶の後を追いかけようとしたがその瞬間、晶のバッグの中のスマホが鳴った。(もしかして病院からの「生検」結果の連絡では…?)と思い、バッグから晶のスマホを取り出した。画面には「お母さん」と表示されていた。取り出すときに受信ボタンに触れたようでスピーカーから年配の女性の声が響いてきた。「晶、今日の検査はどうだったの?肝硬変の方は落ち着いてるの?まさかがん化してないでしょうね。きちんと病院の指示に従って薬は飲むのよ。お父さん、拓也さんに続いてあんたまで亡くすようなことがあったらお母さん、もう生きていけないからね。」と一方的に晶の母は電話の向こうで話し始めた。何もこちらが話していないにもかかわらず、近々の拓也の7回忌予定が語られ父親の7回忌も併せて行いたいけどそれでいいか尋ねて来た。続いて涙声になった晶の母の声がリビングに響いた。
「晶、もう自分を責めるのはおよし。この6年で十分よ。もう心の整理をつけなさい…。悪いのは私だよ…。私が肝炎に罹っていることを知らずに晶を生んだばっかりに…。拓也さんが亡くなったのもお父さんが死んだのも集団検診でB型肝炎にかかっていた私のせいで晶には何の罪はないの…。だからもう自分を責めるのはやめてちょうだい。」
事の真実を知った靖は電話に出た。晶は電話を置いて出かけた旨を伝え、母親に現況を正直に伝えた。肝硬変の状況を伝えられた晶の母は驚いた。靖は現在、Rikkaで働いている事と、同棲している旨を隠さずに伝えた。靖は晶を愛しているが、受け入れてもらえない理由が今日の今、分かったと伝えた上で晶とは同じ血液型なので肝臓移植を申し出たい旨を伝えた。しかし今の日本では生体肝移植には姻族になる必要がある事を話し、「お母さん、初めての会話で申し訳ないですが僕と晶さんの結婚を後押ししてください。」と願い出た。
今日はボツカット供養させてください…。
無数のボツに合掌(。-人-。) 。
10月末の水曜日午前9時半、駅前でのチラシ配布と店の近隣のポスティングを終えマンションに戻ると玄関に晶の靴は無く、晶の部屋履きのスリッパが綺麗に並んでいた。(あぁ、今日は三角印の日か…。戻りは2時頃になるから昼は先に食べててって言うてたもんな…。晶さん、俺に内緒で門真総合病院の伊庭先生の所に行ってるんやろな。璃子ちゃんがこっそり「消化器内科の診療室の前」で変装して張り込んでくれてるんやったな。)と思いながらリビングに入ると、ソファーの上に「お薬手帳」と「門真総合病院の予約票」が残っていた。
予約票を見ると「午前9時 消化器内科(肝臓分野) 伊庭真一医師」、「CT,超音波、血液検査、肝臓細胞生検予定」、「肝臓生検がありますので前日のアルコール、朝食は抜いてきてください。」との記載があった。靖の予約票を持つ指が震えた。
恐る恐る立花晶様と書かれた「お薬手帳」を開いた。この5月に継続発行されたものだった。そこに書かれていた薬品名は最初は「ベムノディ錠25mg」の記載の下に、「先発品(後発無し)」と「1日1錠」の後に「B型肝炎ウイルス(HBV)の増殖に必要な酵素の働きを阻害することで抗ウイルス作用を表す薬」との注釈があった。
ページを捲り9月に入ると記載されていた薬品名は、「B型慢性肝炎の標準的抗ウイルス薬」の説明がある「パラクルート0.5mg」に「むくみ防止(利尿薬)」の「「ラシックス20mg」、「アルブミン合成が促進され栄養状態が良くなる。BCAA製剤」との説明があった「リーバクト4.15g」と「アンモニア発生に関わる腸内細菌を抑制する(難吸収性抗菌薬)」と解説された「カナマイシン250mg」と一気に4種類になっていた。靖はノートパソコンを立ち上げ、薬剤名を検索していった。「お薬手帳」に書かれていた通り、処方薬を見ると8月までは「B型肝炎ウイルスキャリア」向けの処方が、9月からは明らかにクスリの数も増え、ネットの中で見る分に「肝硬変」の文字が並んでいた。
靖は先日の伊庭の肝炎セミナーの後半の肝臓病の末期を思い出しキーボードを叩く指が震えた。続いて「肝臓細胞生検」を検索した。直接肝臓の細胞を採取する方法で約30分の施術のようだが、術後の安静時間を考慮し病院によっては1泊2日を要するというところもあった。肝臓の「がん化」を調べるのに最も適した検査らしく、その検査を晶が受診していることから「肝硬変」から「肝臓がん」化が懸念されている状況なのかと靖の心は平常心ではいられなくなり、少しでも「安心」できる内容が無いかと検索を繰り返した。しかしそのどれもが悪い想像を掻き立てる内容の情報だった。Rikkaの法人化の話を晶から聞いた際の「私が死んじゃったり…」の晶の言葉が脳内で何度も再生された。
恐怖心に引きずり込まれるように検索し続ける間に時計は午後2時を示していた。玄関のドアが開いた音にも気づかず、「予約票」と「お薬手帳」を手元に置き、靖は画面に集中しキーボードを叩き続けていた。ふと、背後に人の気配を感じ振り返ると、真っ青な顔色の晶が立っていた。
「靖君、それ見たの…?」
靖は一瞬、誤魔化そうかとも思ったが黙って正直に頷いた。ふたりの間に無会話の沈黙の時間が流れた。滝のような冷や汗が流れている靖がようやくの事で喉を振り絞った。
「あ、晶さん…、か、肝硬変なんですか…。俺には正直に言ってください。Rikkaを法人化するっていうのは…。以前「私が死んだり…」って言うてたのはこれがあっての事なんですか。それに晶さん、寝言で「私は夫とお父さんを殺した。」って言った事がありましたけどどういう意味ですか?お父さんの事はわかりませんが拓也さんは肝臓がんで亡くなったと聞きました。晶さんはご主人から感染した被害者じゃないですか。「殺した」っていう訳じゃないでしょ。本当の事を教えてください。」
と靖が叫ぶとショルダーバッグを肩から落とし何も言わず晶は、泣きながら玄関を飛び出して行った。
靖は晶の後を追いかけようとしたがその瞬間、晶のバッグの中のスマホが鳴った。(もしかして病院からの「生検」結果の連絡では…?)と思い、バッグから晶のスマホを取り出した。画面には「お母さん」と表示されていた。取り出すときに受信ボタンに触れたようでスピーカーから年配の女性の声が響いてきた。「晶、今日の検査はどうだったの?肝硬変の方は落ち着いてるの?まさかがん化してないでしょうね。きちんと病院の指示に従って薬は飲むのよ。お父さん、拓也さんに続いてあんたまで亡くすようなことがあったらお母さん、もう生きていけないからね。」と一方的に晶の母は電話の向こうで話し始めた。何もこちらが話していないにもかかわらず、近々の拓也の7回忌予定が語られ父親の7回忌も併せて行いたいけどそれでいいか尋ねて来た。続いて涙声になった晶の母の声がリビングに響いた。
「晶、もう自分を責めるのはおよし。この6年で十分よ。もう心の整理をつけなさい…。悪いのは私だよ…。私が肝炎に罹っていることを知らずに晶を生んだばっかりに…。拓也さんが亡くなったのもお父さんが死んだのも集団検診でB型肝炎にかかっていた私のせいで晶には何の罪はないの…。だからもう自分を責めるのはやめてちょうだい。」
事の真実を知った靖は電話に出た。晶は電話を置いて出かけた旨を伝え、母親に現況を正直に伝えた。肝硬変の状況を伝えられた晶の母は驚いた。靖は現在、Rikkaで働いている事と、同棲している旨を隠さずに伝えた。靖は晶を愛しているが、受け入れてもらえない理由が今日の今、分かったと伝えた上で晶とは同じ血液型なので肝臓移植を申し出たい旨を伝えた。しかし今の日本では生体肝移植には姻族になる必要がある事を話し、「お母さん、初めての会話で申し訳ないですが僕と晶さんの結婚を後押ししてください。」と願い出た。
今日はボツカット供養させてください…。
無数のボツに合掌(。-人-。) 。
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