【完結】『社畜の鑑』

M‐赤井翼

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「披露宴と新婚旅行」

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「披露宴と新婚旅行」

 午後11時55分、店内の照明が落とされそれまでかかっていたインストロメンタルの有線放送が止まり、昔ながらのウエディングマーチが店内に響いた。店内に再び照明がともると、真っ白なウエディングドレスの晶が黒い留袖姿の母親に手を引かれバックヤードから出てきた。カウンター前でタキシードを着て待っていた靖が晶の母から晶の手を引き継ぎ、狭い店内を一往復した。店に残っていた常連や商店街のメンバーはクラッカーを鳴らし、指笛を吹いて靖と晶を祝福した。
 祥がマイクを握り「レディースアンドジェントルマン、アーンドお父ちゃんアンドお母ちゃん、ただいまより小原靖君と立花晶さんの結婚披露宴を始めたいと思いまーす!皆さま盛大な拍手をもって新たな道を歩み出すふたりをご祝福くださいー!」と大阪独特のノリで結婚披露宴の開会宣言で宴は始まった。

 「靖君、このこと知ってたの?」と靖の耳元で囁く晶に「すみません。祥ちゃんと璃子ちゃんから晶さんにばらしたら「しばく・・・」って脅されてたんで…。」と言い訳すると、「もう、めちゃくちゃ嬉しいじゃない!靖君のバカ!いじわる!」と言って靖の腕をつねった。
 祥の巧みなトークでふたりの略歴が紹介され、「人前婚」のお決まりの客の前での指輪の交換が宣誓されると璃子がリングピローに乗せたふたつのROCCAの結婚指輪をふたりの前に持ってきた。祥の「では、指輪の交換です。ふたりの結婚の意思を皆さんに宣言するためにまずは靖君から晶さんへ。そして晶さんから靖君へ指輪を。」とのマイクパフォーマンスで指輪を互いに交換し合い、大きな拍手が湧いた。
「さて、ここで通常の結婚式であれば「誓いの口づけ」となるのですが、靖君から晶さんへサプライズのプレゼントがあります。」と祥が叫ぶと晶は何があるのか想像がつかず靖の顔を見た。靖は照れながらタキシードのポケットからガラスのケースを取り出し晶に手渡した。それはシャネルのマークが入った最高級のルージュ「トランテアン・ル・ルージュ」だった。
「靖君、こんな高いものもらえないよ…。」と皆に聞こえないように言ったつもりがしっかりと隣にいた璃子のマイクに晶の声は拾われていた。スピーカーから流れる晶の声に驚き、靖はその瞬間、言うべきセリフが飛んでしまった。祥が靖の横に付き耳打ちをした。気を取り直した靖は緊張で棒読みでセリフを口にした。
「あ、晶さん、ひ、ひとりで使うなら高いものかもしれませんがじ、実質半額です。と言うのもあ、晶さんが使って、その都度、少しずつぼ、僕の唇に返してくれたらいいですから。」

 真っ赤になって囁く靖に冷やかしの歓声が飛んだ。璃子は、晶の手からルージュを預かると、薄めの赤の「トランテアン・ル・ルージュ」を晶の唇に引いた。
「さて、靖君がなけなしの貯金で買ったルージュを晶さんには少し返してもらいましょうか!では、結婚の誓いのキスでーす!」の祥の煽りで店内は「キスコール」一色となった。「もう、誰がこんな演出考えたのよ…。でも、会場に水を差すわけにはいかないから、仕方なしよ…。」と靖に文句を言いつつ、満面の笑顔で靖の両頬を両手で引き寄せると晶からの熱い口づけが靖に送られた。靖の唇が晶と同じ薄めの赤色に染まり、店内の盛り上がりは最高潮となった。そこで午前0時を迎えた。
 その後、約90分の披露宴は大いに盛り上がり、晶の母親も目頭を押さえて幸せ満開のふたりの姿を見守っていた。最後にRikkaスタッフを代表して、ふたりの新婚旅行として門真総合病院に通院する日の後の5日間のバリ島旅行のクーポンが送られた。
 璃子から「今まで、連休旅行って無かったと思うんで、5日間は仕事のこと忘れて新婚気分を満喫してきてくださいね。」とチケットが渡された。最後に靖と晶から皆に礼が述べられた。晶の「4月末に靖君を「しばいてくれたふたりの酔っ払い・・・・・・・・・・・・・・・」に感謝しなくちゃいけませんね。くすくす。」の一言は事情を知る者は爆笑し、和やかな雰囲気の中で披露宴はエンディングを迎えた。

 翌週の木曜日に靖と晶はバリ島に飛び、月曜日の昼までの5日間をのんびりと過ごした。ングラ・ライ国際空港から北に上がったウブドを中心に新婚気分を味わった。雨季に入ったところだったので観光客は少なめでどこでもゆったりと楽しむことができた。
 初めての海外旅行で緊張する靖を晶がリードして、テガラランの棚田を望む絶景レストランで現地料理に舌鼓を打ち、お決まりの映えスポットのバリ・スイングでは大自然の中の巨大ブランコを楽しんだ。バリのパワースポットのテグヌガンの滝で自然と湧き出る聖水を手にして口に注いだ。
 多くの寺院に行っては靖は(どうか晶さんが移植を受け入れてくれますように。)と祈り、ありとあらゆるものに神が宿ると言われるバリの街やホテル内に置かれたチャナンと言う小さな花籠にも毎回チップを置き願い事をした。

 旅の後半は南部の街でマリンスポーツや海水浴、ダイビングを楽しんだ。晶は夏にデートした枚方の有名遊園地のプールや須磨の海水浴場で着ていたビキニではなく、日本国内の海やプールではとても着られないであろうパッドレスで地肌色と突起が浮き出て透けたセクシーなマイクロビキニで靖の目を楽しませてくれた。
「あっ、靖君エッチな目になってるよ。今日は早めにホテルに戻ってイチャイチャしようか。」といたずらっぽく言う晶の誘惑にあらがえず、その日は3回戦をこなすことになった。
 5日目の朝で日本から多めに持ってきたはずのコンドームは全て使い果たし、満足顔の晶と靖は早めにホテルをチェックアウトして昼の関西国際空港行の飛行機までスミニャックとクタ&レギャンでRikkaのスタッフと結婚披露宴に来てくれた常連客や商店街の皆に土産を買い、空港に向かった。

 約7時間半のフライトを終え関西国際空港に到着したふたりは多くの荷物がある為に、乗り捨て可能なレンタカーを借りて靖の運転で門真に帰った。一度、晶のマンションに帰り、ふたりの荷物を下ろすと、多くの土産物の入ったトートバッグを持ちRikkaにむかった。
 店の前で晶を下ろすと、靖はレンタカーを地元の営業所に返しに行った。旅行前から帰国後、晶には璃子から「バリの旅行良かったでしょ?5年目の木婚式や10年目の錫婚式で再度行く人が多いんだって。」と切り出し、長生きする気持ちを晶に持ってもらう作戦を立てていた。(旅行中は「移植」の話は厳禁やったから、何とかうまくいって欲しい…。)と思いながらRikkaに靖が戻ると、璃子から「さらっと話題を流されちゃいました。役に立たずにごめんなさい。」と作戦失敗が伝えられた。

 靖と晶は店で祥、璃子や常連客に土産を配り終わるとランチタイムのパートタイマーの土産をバックヤードに残し、軽く食事を済ませると早々にマンションに戻った。風呂を沸かし、先に晶が入っている間に、靖のスマホに晶の母から電話が入った。
 晶の身体状況について一通り尋ね終わると、肝臓移植200例以上の経験を持つ移植専門医がいる病院でセカンドオピニオンを聞きに晶を連れて行って欲しいという話だった。























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