あなたならどう生きますか?両想いを確認した直後の「余命半年」宣告

M‐赤井翼

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『あなたならどう生きますか?~両想いを確認した直後に「余命半年」の宣告を受けました~』

1-46「余命百年の嫁」

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「余命百年の嫁」
 「すいません。こちらに、「安稀世」さん居られますか?」
初老の男性が会場を訪ねてきた。会場にいたものの中に、その男性を知っている者はいなかった。夏子が、「どういったご関係の方ですか?」と聞いた。「半年前に、安稀世さんを救急扱いで診察した医師で本田というものです。」というので、まずは、まりあに伝えた。
 まりあが、その医師に対応した。医師が言うには、「どうしても、今日、直接本人にお詫びしたいことがある。」というので、仕方なく、稀世と三朗の元に連れて行った。(あっ、この顔は。)三朗は、本田の顔を見て、さっき感じたもやもやが一気に晴れた。
 
 まりあと直も立ち合いの中、五人で会場の隅のテーブルをはさんで話した。
「半年のご無沙汰になります。昨年9月3日、そこの総合病院の夜間救急で、安さん、いや、今は長井稀世さんですね。失礼しました。プロレスの試合中の事故で、意識不明で搬送されてきた後の、検査と診察をさせていただきました、医師の本田と申します。
 本日は、長井稀世さんとご主人にどうしてもお詫びしたいことがありまして、お邪魔させていただきました。医師として、とても許される事ではないのですが、長井稀世さんの診察の際、CTとMRIのデータを別の患者のものと取り違えるというとんでもないミスを犯してしまっていました。
 お詫びだけでなく、賠償にも応じるつもりで、本日は覚悟を決めてきております。」
と言って、四人の前で額を床にこすりつけ、深々と土下座をした。三朗が慌てて、
「本田先生、土下座はやめてください。そんなんじゃ、なんの話もできないですから。先生のお話って言うのは、今日、他所でお葬式やられてる、カタカナの名前の「安キヨ」さんの事ですね。」
「はい、おふたりが覚えておられるかわかりませんが、脱臼の触診の後、私が診察室で転倒した際に、カルテの入ったパソコンが再起動してしまい、私が患者名検索の際、アルファベットで「YASUKIYO」と検索をかけたんです。珍しい苗字なので、まさか同姓同名の患者様がおられるとは、つゆ知らず。脳腫瘍とすい臓がん、肺がんの末期の90歳の患者のCT、MRIデータを長井さんのものとして、診察をしてしまってしまいました。お詫びのしようもございません。」
(あぁ、やっぱり。僕が、あの診察室で名前が「キヨ」とカタカナになっていることを指摘していれば良かったんや。)

 「ところで、今日のこの場は、どうやってお知りになられたんですか?」
「はい、稀世さんがテレビに出ておられるのを、何回か見させていただいたことがあったので、この近くに居られることは、知っていました。長井さんが、当時プロレスラーって事と、今回亡くなられた、九十歳の安キヨさんの9月3日のカルテに私が誤って書き込んだ内容から、死亡診断書作成の時に、エラーがかかりました。そこで、医事課に問い合わせて、当日の夜勤看護師を調べ直しました。奥村という看護師なのですが、長井さんの事を問い合わせると、今は、プロレスは引退されて、こちらの商店街のこども食堂をやっておられるとか。奥村看護師が夜勤の時などに、八歳の男の子と三歳の女の子が夕飯などを、長井さんにお世話になっていると聞いています。」
「奥村武雄くんと、凜ちゃんですね?今は一緒に暮らしてるんですね。」
「はい、そのような名前だったと伺っております。先日、近くの市営住宅で、家族四人で一緒に暮らしてると聞いています。彼女から、今日のこの会の事を聞きました。」
(あぁ、奥村さんの奥さん帰ってきはったんや。武雄君も凜ちゃんもよかったな。)
「私は、今月末で私の故郷の山村の診療所に移る予定になっています。退職に伴う転勤となった後は、患者様のデータに触れることはできなくなります。そこで、アポイントもとらずに申し訳ないと思いましたが、突然のお邪魔となったわけです。どうか、このご無礼をお許しください。」

 「ところで、本田先生、稀世さんの本来のCT、MRIの検査結果は、どうだったんですか?」
「いや、さすがはプロレスラーと言いますか、全く問題無しの健康体であることは確認してきました。余命半年などと、間違えてお伝えしたことで、不安な毎日をお過ごしだったと推測します。長井さん、ご主人、本当にすいませんでした。個人として、裁判でも示談でも何でも可能な限り対応させていただきますので、今後の事はこちらにご連絡いただけますよう、よろしくお願いします。」
と本田は、真新しい名刺を三朗と稀世に手渡した。名刺の住所は、鹿児島の聞いたことのない村で、住所には、〇〇島村大字××字△△とある。
「本田先生、ところで、先ほど稀世さんは、全く問題無しの健康体と言われましたが、よ、余命はあとどれくらいあるんですか?」
「病気を持ってられない方に、余命という言い方は通常しないのですが、半年前の長井さんの体組織から行くと長寿ギネスも狙えるくらいだと思います。医学的に、人間は、テロリアと呼ばれる染色体を細胞が入れ替わる時に消耗していきます。一般的に「命のろうそく」なんて言い方もしますが、骨を除く身体組織細胞は半年に一回入れ替わります。日本人のほとんどを含むモンゴロイドは、テロリアの長さが、細胞入れ替わり回数で250回分あると言われています。病気等が無ければ、細胞が250回入れ替わるのに125年かかることになります。ですから、長井さんの場合、現状、まったくの健康体です。この先病気等が無いとすると、現在二十五歳ですので、ちょっと大げさですが、あえて余命というのであれば、「100年」と言っても過言でないお身体されてましたよ。」

 稀世と三朗は、顔を見合わせた。稀世が、本田の手を両手で取り、聞いた。
「せ、先生。あ、赤ちゃんは、子供は作っても大丈夫ですか?」
「はい、妊娠は、神の導きの部分もありますが、ご主人側に何も問題が無ければ、きっとお母さんに似て、元気な赤ちゃんが生まれる可能性の方が高いと思われます。」
稀世の目から、大粒の涙がこぼれた。三朗も泣いている。(あぁ、神様はいるんだ。)ふたりは思った。
「サブちゃん、まりあさん、直さん、聞いてくれました?「余命100年」やて。一気に200倍ですよ。残り一ケ月やったと考えたら、えーっと、1200倍も伸びて、「赤ちゃんもオッケー」やて。これからもずっとサブちゃんと居れんねやて。きゃー、最高やわ!」

 稀世が、会場全体に響くような大きな声を出したので、皆が会場の隅にいる五人に向いた。テレビ局のリポーターとカメラマンが何事かと寄ってきた。
「長く、お話されてたみたいですけど、何かあったんですか?」
「はい、奇跡が起きました。私、死ななくてよくなったんです。「余命半年で残り一ケ月のポンコツの嫁」から一気に「余命100年の嫁」に変わりました。あー、あと100年生きてんねやったら、半年前の記憶飛んでる披露宴にほんま悔いが残るわ。夫婦そろって記憶ないって最悪やなぁ、サブちゃん。」
「稀世さん、そうは言っても、終わってしまったことやから仕方ないですよ。」

 三朗が、稀世をたしなめる。リポーターは状況がつかめず、不思議な顔でふたりを交互に見つめる。それまで腕を組んで、黙って聞いていた直が口を開いた。
「あほボン三朗、仕方ないことなんてあれへん。これから、100年の間、披露宴の思い出無しは、稀世ちゃんにとっては人生の損失や。いや、大損失や。今から、生前葬やめて、もう一回披露宴やり直すで!三朗、急いで醇一と雅子はん呼んで来い。速攻、白無垢スタジオに取りに行かせて、着替え次第、第二回披露宴や。稀世ちゃん、それでええな?」
「えっ、もう一回、披露宴やらせてもらえるんですか?ほんま、ええことありすぎて、死んでまうかも。」
喜び踊る稀世を前に、本田は困惑顔で、
「あの、私のお詫びの件は…。」
と聞くが、稀世は全く聞く耳を持たない。横からまりあが本田に言った。
「先生、この子は謝罪もお詫びも望んでないから安心してくださいな。できたら、ふたりの披露宴を今からやり直すみたいやから、先生も祝っていったって下さいな。」
「は、はぁ…。」
会場の奥から、笹井醇一と雅子が走ってやってきた。
「直さん、いったい何ですか?説明してください。」
「あほ、説明なんか後や。今から、あほボン三朗と稀世ちゃんの二回目の披露宴やるから、マッハ2で白無垢一式持ってこい!」




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