『北の大地のファーストペンギン2025~限界集落復興と結婚したい訳あり男女達の物語~』

M‐赤井翼

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第2部 エピソード2024

「奥手な三角関係」

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「奥手な三角関係」

 6月に入りゴールデンウイークにいた「一番草」もすっかりと育ち、北海道らしい緑の牧草地が広がる風景の季節となった。半年間の間、サイネージの食事で過ごしていた牛たちにとって待ちに待った放牧が始まった。 
 広志の持つ放牧地にはいつも休日を合わせた唯と葵が訪れるようになっていた。休みにもかかわらず2人そろって作業着を着込んで広志の畜舎を訪れて掃除、給餌、搾乳を手伝い、放牧される牛を見つめながら3人で唯と葵の手作りの弁当を食べるのがルーチンになっている。

 1月の大寒波の5日間を広志の家に応援に入り、後半の3日間は停電でポンプが止まってしまい地下水空調と含水率50パーセント強のサイネージを食すために必要な大量の牛の飲料水を汲み上げる事ができなくなった。唯と葵は畜舎の牛を守るために照明の灯かない暗闇の牛舎の中で夜を徹して薪と牛糞燃料を一斗缶の簡易ストーブで炊き続けた。猛吹雪の中、畜舎の外に出て鍋に雪を詰め込んではストーブにかけて湯を沸かし畜舎内の温度と湿度を10度以上に保ち続け、牛たちに給水を続けた。
 搾乳機用の非常電源として用意されていたガソリン式発電機の燃料が4日目には切れた。乳牛は毎日2回の搾乳を行わないと乳房炎や乳腺炎にかかってしまう為、搾乳用機械の「ミルカー」が動かなくても搾乳せざるを得ない。

 唯と葵はペアを組み、慣れない手つきでバケツに乳を搾り続けた。ミルカーで搾れば数分で終わる作業も手搾りで行うと10分以上かかる。1頭1回の搾乳で約10リットルのノルマを、預かりの牛も含めて100頭以上こなすだけで数時間かかる。
 握力は失われ、腱鞘炎を起こした手首は傷んだ。「俺一人でやるから2人は休んでてください。」とねぎらいの言葉をかける広志は3日間一睡もせず、自分の牛よりも預かりの牛を優先して世話を続けているのを間近で見ていた唯と葵は「大丈夫。社長こそ仮眠とって下さい。」、「私たちは3時間ずつ休ませてもらってますから。」と逆に広志を気遣った。
 そんな中、楽しみもあった。停電した事で広志の母屋の電気コンロも使えなくなった中、出荷見込みのつかない絞った乳にキッチンにあった「酢」を多めに入れて作った少し固めの「なんちゃってモッツァレラチーズ」を薪ストーブで炙り、非常食用に購入していたフランスパンにのせて、搾りたての乳に多めの砂糖を入れて作ったホットミルクの食事だった。
「きゃー、ハイジのパンみたい!モッツァレラチーズ直接火で炙るって贅沢ですよねー!」、「わー、こんなに濃い牛乳飲んだの初めてやわ!体の芯からあったまりますねー!」と広志の給仕に感謝して、畜舎で食べる「質素な・・・食事」に二人は感激した。

 メール広告担当の唯とSEシステムエンジニアの葵はそれまで広志と話す機会が無かったがゆえ、3人での会話は新鮮だった。
 唯は3歳の時に読んだシンデレラや白雪姫の絵本ではまり・・・「いつか王子様が症候群」にかかり、中学3年生で付き合い始めた社会人男性に「初めて」を捧げるも二股をかけられており、最終的には「中学生相手に本気とでも思ってたんか?」と言われる酷い失恋をしてから恋愛歴ゼロで過ごした人生を振り返った。
  葵の両親は名家という程ではないが、いわゆる高学歴で結婚が遅く高齢出産だった事から「早く孫の顔が見たい。一日も早く結婚しなさい。」、「若く元気なうちに出産しないと後が大変よ!もう30歳を超えたんだからとにかく相手を見つけなさい。」と毎朝、毎晩、顔を合わせると両親から言われ続けて、一時は「自殺」まで考えたというここ10年の生活を語った。
 広志も正直に「素人童貞」である事と「年齢=彼女いない歴」である事を告白した。中学、高校時代に好きになった女性はいたが、好みが被る同級生の徹が同じ女性を好きだという事を知り、気遣いしすぎる性格が災いし「自分」を殺し、その女性に徹を推した。
  結果的に徹はふられ続けたのだが、振られたからと言って「実は俺もお前のこと好きだったんだべ。」とは言いだせず、告白した経験の無い「0勝0敗」の恋愛歴を口にした。

 互いの過去を知り、妙な連帯感が生まれた3人はその後「3人デート」を繰り返すようになった。唯は葵を、葵は唯を気遣うが故に積極的に広志にアップローチすることはなく、広志も2人を平等に扱った。
「この間、直さんから「唯さんと葵さんとどっちが好きなんじゃい?」って聞かれたんですけど、「どちらも魅力的過ぎて選べないですよ。」って答えたら「大金持ちになって一人は「正妻」、もう一人を「愛人」にするか、イスラム教徒に「改宗」して国籍をインドネシアに移して嫁さん4人まで合法にするかじゃのう。カラカラカラ。」って大笑いされましたよ。」
と笑いながら唯の作ったローストビーフサンドと葵の作った牛肉の「ブリスケ」の大和煮の入ったおむすびを楽しんだ。
「いいね、直さんの案。くすくす。その時は葵ちゃんが第1夫人で私が第2夫人でお願いしますね!」
「いやいや、唯さんが第1夫人でしょ。私が第2でいいですよ。唯さんの方がお姉さんだしね。けらけら。」
と唯と葵も笑顔で答えた。

 広志が休みの日には3人で釧路湿原や開陽台に遊びに出かけたり、広志の隔週の連休の昨日からは知床半島に足を延ばし、ホエールウォッチングを楽しみ、知床五湖を散策しオホーツク海を眺めながら自分で自由に具材を乗せて作るオリジナル海鮮丼が味わえる北こぶし知床リゾートでの宿泊旅行にも行った。「天へ続く道」や「網走監獄博物館」で3人で並んで記念写真を撮り、神の子池、摩周湖を回り道東の旅を満喫した。

 土産を買って唯と葵が直の家に帰ると、女性陣から質問攻めにあった。「摩周湖行ってきたんやて?湖見えた?」と稀世が興味津々に尋ねると、「霧で真っ白!残念ながらなんも見えんかったわ…。」と唯と葵が答えると、「おっ、これは「婚期」が近いお告げやな。摩周湖には「晴れた摩周湖を見たら、婚期が遅れる」っていう都市伝説があるんやで!私が言ったときなんか「ドッピーカン」で対岸の展望台まではっきり見えてしもたんやで。とほほ…。」と稀世は自虐的に話した。
 下世話な話題が好きな、粋華からは、「泊まりの部屋は社長と一緒やったん?それとも別々?お風呂はどないしてたん?もしかして3人一緒やったりすんの?もしかしてベッドも3人一緒やったりしたん?」と偏った興味の質問が相次いだ。
 照れて何も言えなくなった唯の横で正直者の葵が粋華に向かってうなずいた。どの質問に対する「肯定」の返事なのかわからない粋華は「ところで社長とは「やったん」?」と「ど直球」の質問を投げかけた。
「あの…、粋華ちゃんが期待するような「艶っぽい話」はあれへんよ。お互い、清い関係やからね。まあ、露天風呂はお互いタオルを巻いてやけど3人で一緒に入ったけど…。」
の答えに他の女性陣からも大きな歓声が沸いた。

 女子会トークは直が持ち込んだ「十勝ワイン」と「鍛高譚」でさらに盛り上がった。「他にこっそりでも付き合ってる子は居るんかいのう?」の直の問いに、ガイルが小さく手を挙げた。周知の事実ではあるのだが、健司と良い仲になっていると告白した。
「大寒波の夜に火の番をしながらゆっくり話をしたんです。「俺、元いじめられっ子やから、どつかれる・・・・・者の痛さや辛さはよくわかるねん。ガイルちゃん、大変な思いをしてきたんやなぁ…。」って泣いてくれたんですよ。ついその場でキスしちゃって…。健司君、凛と蘭にも優しくしてくれるし、ちょっと彼との将来を考えてます。」
と照れながら話す「バツ2」のガイルに「今度こそ幸せ掴みや!」、「健司君やったら絶対暴力はないしええんとちゃう!」と皆から応援の声が飛んだ。
 続いて麗が多世とアイコンタクトを取った上で話し出した。
「私と多世ちゃんは唯さんと葵さんみたいにはいかないですけど、龍二君と軽い交際してます。私は龍二君に「私と付き合わない?」って声をかけたんですけど、彼は多世ちゃんの事も気になってるみたいで…。彼も失恋したてって事なんで、多世ちゃんとも「ゆっくり行こうね。」って龍二君にも話してるんです。もしかして龍二君が「二股」かけてるって誤解を受けたら嫌なのでここで告白しておきますね…。
 みんな知ってると思うけど、私、婚活100連敗中で…。北海道の「ある意味・・・・」ヒーローの北海道新ひだか町出身の一度も勝つことなく113連敗で引退した競走馬で私とよく似た名の1歳下の「ハルウララ(※本作執筆中の2025年9月9日に永眠されました。合掌。)」を見習って、龍二君が多世ちゃんを選んでも挫けず頑張っていくつもりなんでよろしくお願いしますね。」涙をこぼすさくらを多世が慰めた。粋華は相変わらず「男と付き合う気はあれへんよ。」とマイペースで、晶は噂では徹と和樹からデートに誘われた事があるらしいが「私は今は仕事に集中したいので…。」と自らの「恋バナ」には積極的には関わらなかった。

 移住組は既に典史と結婚したさくらと真一と同居を始めた美咲以外にも順当に「恋愛」が進んでいる事を再確認し稀世は幸に状況をラインで報告し、その日の女子会はお開きとなった。(そういえば、サブちゃんの名前が一度も出てけえへんかったな…。あんなに真面目やのになぁ…。広志さんと龍二君の件がどちらかに落ち着いてくれたら、サブちゃんにも目を向けてくれたらええのにな。)と稀世は思いながら眠りに落ちた。

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