【完結】『北の大地のファーストペンギン2025~限界集落復興と結婚したい訳あり男女達の物語~』

M‐赤井翼

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第2部 エピソード2024

「新たな仲間」

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「新たな仲間」

 6月も後半に入り、春にいた「一番草」の牧草収穫が始まり、酪農家にとって1年で最も忙しい農繁期に入った。アグリ神標津内では分業化が進み、各牧草地を典史と龍二が毎日のように刈り取りを行い牧草ロールを作り、2人の畜舎の牛の世話を別の者がフォローし、効率的に業務をこなしていった。
 ゴールデンウイーク明けに放火事件で全滅した水耕栽培野菜と熟成肉、熟成型チーズも仕上がり発送を再開した為、出荷担当の女性陣も忙しく動き回る毎日だった。
 他の農協や農業法人からの見学依頼や専門雑誌やテレビ局、新聞社等の取材も増えたものに対しては社長の広志に代わり、広報担当者として祥がアグリ神標津の「顔」として活躍している。

 神標津農協メンバーの持つ「空き家」を借り上げ、貸家とすることで内地からの「体験入村者」や近隣の町からのアグリ神標津への就職希望者の見学も増えた。知名度が上がった事で大阪での商品取り扱い商社も増え、積極的に稀世達が営業をかけずとも発注数は右肩上がりになるようになった。新設した大型の冷蔵庫、冷凍庫もフル稼働し始め、輸送用冷凍コンテナ、冷蔵コンテナもシェア利用でなく、借り切りで使えるようになったため全世界的な原油高と円安を背景にして上がっていた輸送コストを相殺できるようになり、利益率は確保できている。
 一時は300人を割りそうだった村民数は「みなし人数」ではあるが、この9か月で完全移住してきたアグリ神標津のメインメンバーも含めて、定住前提で入村してきた人数は50名を超えていた。

 そんな中、大阪でアグリ神標津商品を取り扱ってくれていた晶の大阪時代の取引先担当でもあった小原靖が新メンバーに加わった。
「皆さんの活躍を見聞きして、僕も北の大地で一からやってみたくなりました。また、よろしくお願いしますね。」と来村早々に靖は正月明け以来に顔を合わせた晶に挨拶すると、通りかかった直と一郎を見つけ晶に一礼すると走って2人のもとへ向かった。
 (靖君が来てくれたのなら、大阪の営業は任せて稀世さんといよいよ東京に目を向けられるわね。これは楽しくなって来たわ。)と希望に満ちた目で直と一郎と話している靖の背に視線を送ると、靖にスマホの画面を見せられた直と一郎が眉間にしわを寄せ難しい顔をしている事に気が付いた。すぐに稀世が呼ばれて話が続いている事も気になったが厨房で作業している那依とまりあからもうすぐ仕込みが終わるので戻ってほしいとの連絡が入ったので厨房に戻らざるを得なかった。
 作業終了後、直に靖の話は何だったのか尋ねたが「気にするようなことじゃないでな。」と軽く流された。その後、一郎にも同様の質問を投げたが、一瞬難しい顔をした後、作り笑顔になり「特に何もないよ。そんな難しい顔してたかな?」といなされて終わった。
 
 直と一郎の表情の変化とその後の言動に何かを感じた晶はさらに驚くことがあった。靖は直の家に住み込むことになったのだった。祥も健司も「女の園に男は邪魔じゃい!」と一郎の家に有無を言わさず送られた時とは明らかに違っていた。
 靖には4畳半の個室が当てがわれ、直、稀世、晶、唯、ガイルと凛、蘭に葵、麗、多世、粋華の11人の女性に混ざっての共同生活が始まった。それと同時に新しいルールが加わった。
 「クマに遭遇した時に備えて」という建前のもと、小型の痴漢撃退用のカプサイシンスプレーが配られ、常時携帯することが加わった。
 誰も文句を言わなかったところを見ると何かしらの事前説明があったのだろうが、晶にはそれは無かったが、1人で文句を言う事でもないと判断し、黙ってそれを受け入れた。

 靖は唯、さくらとトリオを組み、元々務めていた食材卸商社の引き継ぎ営業担当と連絡を密にとり、新規営業先としていわゆる「水商売」系への営業をかけ始めた。再出荷が始まった「オリジナルチーズ」に新たに作る「ビーフジャーキー」やスパイスを効かせた「ソーセージ」や「ハム」など「飲み屋」で出す「酒のアテ」のニーズを募集し、商品開発を行う事になった。
 フードコンサルタントでもある靖は肉製品、乳製品に限らず食材知識全般に対し詳しかったのでまだ余裕のある水耕栽培の野菜工場の活用で「スイーツ店」向けの「高級イチゴ」栽培が提案された。昨年、野菜工場を開いた際にイチゴづくりにチャレンジしたものの、初収穫前に火災事故になった為、ノウハウは何もない。
 高級スイーツ店での「無農薬フルーツ」ニーズは根強いものがあり、北海道では作れないとされていた「内地」の高級イチゴ栽培を行うために事前に有名産地の農協と交渉をしてきているとの事なので早速水耕栽培舎に設備機械を導入する事になった。

 そして7月に入った翌週、「準幸結婚パートナーズ紹介システムズ」の幸から連絡があり、さらに新たなメンバーが神標津村に来ることとなった。稀世と深い因縁の関係を持つ子連れの20歳の女だった。
「稀世室長、ご無沙汰でーす!こっちは4月に生まれた「武雄たけお」君でもうすぐ3か月になりまーす!どうです?私に似て可愛いでしょ!」
と相変わらずの人懐っこさで稀世に抱き着いてきた。
 稀世が神標津に来ることのきっかけとなった婚約者だった「株式会社ハピネスフードサービス」の専務だった「武藤兼良むとうかねよし」を寝取った笑顔の「本田心亜ほんだここあ」本人が目の前に立っていた。
「心亜ちゃん、いったいなんでここに…。」
言葉を失った稀世に、昨年10月に兼良と結婚した心亜だったが、結婚後、妊娠6か月目で体調不良もあり、年末休暇をきっかけに産休に入り新婚3か月で実家に戻ったという。4月の出産直前に皆にもらった出産祝いの産着やおもちゃを取りに新居を訪れた際に「浮気」の状況証拠を発見したという。義理父の社長にその旨を報告し、雇った探偵から明らかな「不貞行為」の証拠が挙げられた。出産後、即、多額の慰謝料と引き換えに離婚届と家庭裁判所の親権確保決定を突きつけて来たという事だった。

 (あちゃー、兼良さん、またやらかしてしもたんかいな…。心亜ちゃんには申し訳ないけど、こりゃ心亜ちゃんのおかげで私は大やけどせんで済んだって事なんかな…。)と思いつつ、「それにしても、なんでここに?」と再度尋ねなおすと、「新生児を連れての再婚活動」は難しいと思い、高いホスピタリティーと成婚率を誇る「準幸結婚パートナーズ紹介システムズ」の扉を叩いたところ、担当ADアドバイザーの「薄井幸うすいさち」から偶然稀世の事を聞き、その場で神標津行を前提とした入会手続きを取ってきたという事だった。
「事情はわかったわ。心亜ちゃんも大変やったんやな…。ここはええ人ばっかりやし、女性陣はみんな大阪出身の人やからすぐに馴染むと思うわ。仕事は山ほどあるから頑張ってくれると助かるわ。これから一緒にぱにゃにゃんね!」
と迎え入れた。

 「ちなみに、男の人もここって募集してるんでしょ?一人紹介したい人が居るんだけど稀世室長に言えばいいのかな?」
とスマホをタップした。そこには、テレビ番組でよく見る「イケメンパティシエ」として有名なフランス帰りの「洋菓子の貴公子」と異名を持つ「穴吹聖あなぶきさとし」の写真が写し出されていた。社長秘書室に居た事で多くの有名シェフやパティシエを知っている心亜の強みが出た。
 オリジナルブランドを立ち上げるために、「独創的な食材を探している」という「X」の投稿に心亜がリツイートしたところ「是非とも紹介してください!いい食材の為ならどこにでも行きます。」と返信があった事が伝えられた。
 現在、製造中のゴールデンアイス以外にも靖の企画する高級スイーツ向けのフルーツにリンクする事や晶が過去に試作した「牛肉芯玉・芯芯」のはちみつ漬けが稀世の頭に浮かんだ。
「了解、今晩みんなに会議にかけるから心亜ちゃんも一緒に参加してな。あと「室長」っていうのはやめてな。」
と答える稀世の瞳は戦闘モードに切り替わっていた。

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