『北の大地のファーストペンギン2025~限界集落復興と結婚したい訳あり男女達の物語~』

M‐赤井翼

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第2部 エピソード2024

「プロの意見」

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「プロの意見」

 歓迎会兼会議の場で、皆の承認を得て心亜が穴吹聖に連絡を入れると「来週お邪魔します。ひとり面白い奴を連れて行きますので2名で3日程お世話になりたいと思います。」とすぐに返事が来た。
 武雄を抱っこした直が「一段と忙しくなりそうじゃのぉ。ところで「面白い奴」っていのはどんな奴なんじゃろか?」と興味津々に尋ねると東京の有名ステーキ店のオーナーシェフで「上坊良一郎じょうぼうりょういちろう」だと心亜は答えた。
「えっ、「ステーキ界の神様」っていう人じゃない!上坊さんにここの精肉を使ってもらえたら東京進出も一気に「追い風」どころか「神風」が吹くわよ!」
と珍しく晶が興奮した様子で高い声を上げた。
 晶から上坊良一郎の略歴と現在の立ち位置の説明を受けると、美咲と真一が声を揃えて夢を語った。
「今年2月に購入した6頭の雌の神戸牛の子牛の育成方法なんかもアドバイスもらえたら嬉しいですねー!6頭とも牛齢1歳で買ったんで来月発情の兆候がでたら人工授精にチャレンジしますんで、10ケ月後の来年5月には初の神標津生まれの「純国産黒毛和牛」が生まれる可能性が高いですからねー!
 上坊シェフのアドバイスを受けて育てたって言えば、それだけで付加価値爆上げですよ!ワクワクしちゃいます!」

 「私は、穴吹さんに会うのが凄く楽しみです。今のお付き合いのあるベーカリーやパティスリーの皆さんと開発中のスイーツも見てもらいたいですし、それこそ「監修」とか「アドバイザー」でお名前を使わせてもらえたらどんなに凄い事かって思っちゃいます!
 典史君と「神標津の「土産物」としての焼き菓子なんかも出したいね。」って言ってたところだったんでこんなタイミングで「最&高!」のサプライズですよ。
 「心亜ちゃん」ウエルカム・トゥー・神標津ですよー!」
と興奮気味にさくらも典史と一緒にはしゃいだ。
 その日の宴会は、皆で「アグリ神標津の将来」を語り、大いに盛り上がった。

 翌週、羽田発で根室中標津空港午後4時45分着の全日空便でやって来た穴吹と上坊を広志と心亜が迎えた。
 穴吹と上坊は神標津村に到着するなり、予定していた歓迎会の前に畜舎の環境と与えている酒粕と米粉入りの飼料、冷凍・冷蔵設備、野菜工場の視察に入るプロの仕事意識を見せつけられた。
「開業1年、かつ春先に大きな事故があったと聞いて心配していたのですが、予想以上の内容で安心しました。」
「いくつかの課題はありますが、十二分に私たちのニーズに応えてもらえる内容に満足しています。」
と肯定的な言葉をもらいメンバー一同は「ほっ」とした。

 歓迎会は定番の夏子、陽菜と礼のトリオによるダンシングバター造りのパフォーマンスで始まった。晶は完全無農薬の水耕栽培の野菜と熟成肉で渾身のコース料理を振る舞った。
 「失礼を承知でのお願いなんですけど、俺と良一郎ちゃんに厨房を少し貸してもらえませんか?」
 穴吹の申し出を受け入れた晶の目の前で、ジャージー種の肉質にマッチした添えのソースやサワークリームなどを目の前で作って見せてくれた。穴吹のパティシエらしい天然生クリームやバターをうまく活用した肉料理用のアレンジソースや上坊の作るルッコラのピクルスで作るタルタルソースは晶の目から鱗を落とさせた。
 上坊のデザートとして食べられる薄切りローストビーフのはちみつ和えをロール状に巻き、その上に穴吹の作ったオリジナル香料が加えられた天然生クリームで作ったホイップクリームを載せた「牛肉ケーキ」とジャージー牛の乳で作ったアグリ神標津オリジナルのゴールデンアイスを薄切りロースで巻き、ブラックペッパーと山椒で味をつけて、バーナーで炙った「牛焼肉アイス」は初めて食べる未知の味でアグリ神標津メンバーの「ど肝」を抜く美味さだった。

 「さすがに「世界」で戦ってきた男たちは「別格」じゃのぉ!」とプロ中のプロの作る至極の味に舌鼓を打ちながら、直が穴吹と上坊にある質問を投げかけた。
「神標津の肉と乳、神標津の野菜ときたら、最後は神標津の「酒」やと思うんじゃが残念ながらこの村には造り酒屋はないんじゃ。周辺の街には「日本酒」、「ワイン」、「焼酎」に「地ビール」と何でも揃っとる…。ここの産物に合う「酒」となると何になるんかのう?」
 穴吹と上坊は、アグリ神標津での製造を前提に考えているのかを直に尋ねた。その話に興味を持った広志と三朗、そして稀世が2人のテーブル前に集まって来た。
「フルコースを全て「神標津産」の物で提供できるのが理想です。その中には当然「アルコール」も含まれるべきだと僕は考えてるんですけど、酒造免許を新たに取得するのって製造量の問題や技術面の難しさもあってハードルが高いんですよね?」
 三朗が珍しく前に出て意見を述べた。
「そうですね…。長期熟成のウイスキーやワインは10年タームで考えないと難しいと思います。しかし、日本では普及していませんが、免許さえあれば誰でも簡単に作れるアルコール飲料もあるんですよ。」
と上坊が返事をすると、「ピン」と来た穴吹が「世界最古・・・・の「酒」を言ってるのかい?」と上坊に投げかけると、黙ってうなずいた。

 「地酒を造るっていろんなところがチャレンジしてますよね。日本酒は「総理大臣とアメリカ大統領が一緒に飲んだ」とか「Amazon」で「1位」を獲るとかよほどのトピックスがないとヒットしないですよね。「どこどこの金賞」くらいじゃ消費者ニーズをつかみきれないのが実際ですね。
 商品点数としては凄く多い焼酎は北海道で言うと白糠町の「鍛高譚たんたかたん」なんかは全国区ですね。「紫蘇」という隙間を狙った戦略で女性客に受け入れられたのが勝因ですね。全国には「ミルク焼酎」、「イチゴ焼酎」みたいな変わり種もありますが、やっぱり「麦」、「芋」、「米」が圧倒的に強いです。
 地ビールは群雄割拠の激戦区で「一抜け」してる商品を選べと言われると難しいですね。まあ、作ること自体は設備さえあれば家庭でもできるものなので…。」
と上坊の酒講釈の後、「ちょっと調べものをしてから続きは話したいので、明日でもいいですか?」と言われた後、「神標津の花と言えば何ですか?」、「それはこの近くで群生していますか?」、「その花が咲く季節はいつ頃ですか?」、「ちなみに今厨房に「イースト菌」はありますか?」と逆に上坊からの質問が続いた。

 有意義な宴会は午後11時にお開きとなり、話を聞き足りない広志と三朗は穴吹と上坊を直の裏山麓のサウナに誘った。男4人でゆっくりとサウナの中で先ほどの続きの話となった。穴吹と上坊が揃って言う「旨い・・モノ」と「売れる・・・モノ」は違うという言葉が理解できなかった三朗が質問を投げかけた。
「旨けりゃ売れるんじゃないんですか?もちろんそこには「価格」は関わってくるんでしょうけど…、もう少しわかりやすく教えてもらえませんか?」
 2人の食の世界の巨匠が言うには、「旨いは絶対条件」であるがそれだけではダメで、モノが売れるためには、消費者の購買意欲を沸き立てる「イメージづくり」と「販売戦略」が必要だという。
 店舗であれば立地や店の内外装や調度品から制服まで含めてのコーディネートで「そこで食べてみたい。」という気持ちを演出していくのだが、食材商品というのは商品単体で無限にある競合品と戦わなければならない為、その商品を使ってみたいという「イメージ」とその意識を植え付ける「販売戦略」が必要だという事だった。
「それが最後に聞かれてた神標津の花とどういう関係があるんですか?」三朗の素朴な疑問に穴吹と上坊は丁寧に答え、気が付くとサウナ内の時計は午前0時を指していた。

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