『北の大地のファーストペンギン2025~限界集落復興と結婚したい訳あり男女達の物語~』

M‐赤井翼

文字の大きさ
51 / 78
第2部 エピソード2024

「テレビ取材」

しおりを挟む
「テレビ取材」

 穴吹と上坊を交えた宴会は、いつになく激しい飲み会になっていた。穴吹が持ってきてくれた「町田メロン」を半切りにして種を取り出したところに直は厨房から持ち出してきた調理用のブランデーをなみなみと注いだ。
「わしの好きな「飯テロドラマ」の最後に原作者がドラマで使われた店で飲み食いするコーナーがあるんじゃ。その中で銀座のバーでメロンにブランデーを入れてスプーンで実と一緒に飲み食すシーンがあって、いつかやってみたいと思っとったんじゃ。」
と直がカレー用の大きなスプーンですくい上げ口に入れ恍惚とした表情を浮かべると、我も我もとスプーンを片手にブランデーメロンの周りに輪ができた。

 穴吹と上坊も「この食べ方は初めてですねー!メロンの甘みにブランデーの香りが絡み合うマリアージュが最高ですね。」、「おーっ、これは旨い!グラスにフルーツや果汁を入れることはあるが、フルーツそのものを容器としてブランデーを飲むのはすごい発想ですね。」と喜び、明日のスイーツづくりで使う予定だったメロンの予備も提供してくれたので、4リットルのブランデーのペットボトルはあっという間に空になった。
 試作ミード酒のアレンジカクテルや紫蘇焼酎にドライアイスを入れて作る簡易発泡ソーダは飲みやすく女子スタッフに好評だった。アグリ神標津内でカップリングに成功した典史とさくら、真一と美咲に対して上坊がサーブした十勝ワインの赤とジャージー乳に酢を加えたカクテル「ロマンティックハーモニー」風も大人気で次々とセルフでおかわりを作るメンバーが続出した。
 さらに上坊が厨房に入り、ナチュラルチーズをスライスした上に「ベーコンとあらびき黒こしょう」、「塩味が強い生ちりめんじゃこと青のり」をトッピングして電子レンジにかけて作った「カリカリチーズせんべい」で日本酒も焼酎も次々と空いた。

 翌日も撮影がある為、宴会は午後10時で中締めとなった。皆、酔っ払いフラフラになりながら宴会場を出て行くのを片付け係の女性陣で見送った。ふと、粋華が穴吹と上坊に目をやると穴吹は頭を上坊に預け、手を繋いで2人に割り振られた部屋に向かうのが見え(もしかして「男男だんだん」の関係?)と粋華のアンテナ・・・・が立った。
「那依さん、まりあさん、ちょっと気分が悪くなったので失礼していいですか?」と嘘をついて、2人の後を追った。穴吹と上坊の部屋の隣はいわゆる「布団部屋」で部屋の内部はふすま一枚で繋がっている事は承知だったので、隣の空になった布団部屋に忍び込み、襖に1センチの隙間を空けた。
 目の前でまさに粋華の「望むシーン」が繰り広げられた。(きゃー、ダンディーなシェフに若手イケメンパティシエの夢の競演や。穴吹さんが「ネコ・・」で上坊さんが「タチ・・」なんや!よもやの「生BL」にヨダレが止まらんわ…。)粋華は嘘をついてきたことと覗きをしている背徳感を忘れ、食い入るように絡み合う2人のゲストを目で追った。
 襖一枚であるがゆえに甘い囁きも激しい吐息も全て耳に届き、粋華も大いに興奮した。部屋の2人が果てると同時に、自らを慰めていた粋華も思わず絶頂の声を上げてしまった。
突っ伏して動けなくなった穴吹を布団に残し、立ち上がった上坊は粋華が潜む布団部屋の襖を開けた。その後の出来事は粋華の人生を大きく変える事になった。

 翌朝、ほとんどが二日酔いのテレビ局メンバーの為に「熊笹茶」のやかんを直が用意してくれていた。粋華は稀世、那依、まりあと一緒に朝食と熊笹茶を配膳して回っている。上坊と穴吹の席で少し話し込み、真っ赤な顔をして戻って来た粋華に直が声をかけた。
「粋華ちゃん、どうしたんじゃ?顔、真っ赤じゃぞ。ん?今日は珍しく口紅つけてるんじゃな?昨日、体調が悪くて早めに部屋に戻ったって聞いてたけど、顔はつやつやじゃのぉ。妙に表情も艶やかさが出たような気がするんじゃが…。」
 稀世や那依が直の言葉に反応したので、慌てて粋華は直を廊下に連れて出た。「みんなには黙っててくださいよ。」と断りを入れた上で昨晩あった事を告白した。
「いやぁ、33年「BL一筋」できたことを後悔しましたよ。女の幸せ・・を知ったんでこれからは心を入れ替えようと思います。」
の言葉に犬並みの聴力を持つ稀世が反応して廊下に飛び出てくると、粋華の両肩に手を添えて耳元で囁いた。
「粋華ちゃん、「処女卒業」アンド「趣旨変更」おめでとう。これからは「普通・・の女」として頑張ってな。応援するで!」
 昨晩の粋華の興味本位の覗きが後のアグリ神標津の販売戦略に大きな変化をもたらすのはもう少し先の話であった。

 昨晩「へべれけ」になっていたADが朝食会場に現れると、靖は改めて「立花さんは「顔出し」できない事情がありますので、彼女の映像は使わないようにしてくださいね。」と念押しをしたが、激しい二日酔いの為「わかったわかった。ディレクターに言っておきます。」と軽くあしらわれて会話は短時間で終わった。
 念の為、直が受け取っていたディレクターの名刺のメールアドレスに「アグリ神標津の立花晶シェフは諸事情があり「顔出しNG」です。ADさんに事情は説明していますので善処お願いします。」と送っておいた。

 2日目の取材は直の裏山の「蝦夷竜胆」が群生している沼の訪問撮影で始まった。まだ「蝦夷竜胆」は開花していない為、CG処理で済ませるとの事だった。
 厨房に戻ると穴吹と上坊が「市販の蜂蜜」を前回と同じようにペットボトルで仕込むシーンを撮影した。蜂蜜のラベルは剥がされ、セリフの中では「蝦夷竜胆」の蜂蜜であるかのような説明がなされ、イースト菌も3つの「ワイン酵母」名が挙げられ、その中から最も香りと味の深みがあったワイン酵母を選択したかのようなトークで撮影は行われた。
「まあ、今回の撮影は「ドキュメンタリー番組」でなく旅番組の「バラエティー」の一部のコーナーで使われるものですから、こんなものです。くれぐれも坂川さんと仲田さんは「ありのまま・・・・・」をSNSにアップしたりしないでくださいね。」
と夏子と陽菜は穴吹に釘を刺された。

 その後、穴吹と上坊がチーズ作りやバター作りを行う「仕込み映像」が撮影され、「町田メロン」の最初の苗が水槽にセッティングされ、培養液が流され始めるシーンをカメラに収めた。最後に晶を除くフルメンバーで畜舎の前で「頑張るよ!神標津!」と声を揃えるシーンが撮影された。
「いつもの「ぱにゃにゃん!神標津!」じゃあかんのですか?」と夏子がADに尋ねると「それじゃ、視聴者が理解できないでしょ。そもそも、みんな関西弁っていうだけでも「やらせ」って言われかねないんですから…。あっ、「頑張るよ!」もやめてここは北海道らしく「けっぱるよ・・・・・!」に変えましょう。」
といきなり撮り直しが決まった。(きょうび、礼ちゃんも「けっぱる」なんて言わへんよ。とことん東京目線で番組作りされるんやな…。)と陽菜はいささかうんざりした。
 午後は、ロケ隊は近隣の観光名所に取材に出ることになっていたので、撮影後、そのまま見送った。その際、粋華は上坊とハグした後、穴吹と熱い握手を交わしていた。ロケバスが直の家を出発してようやくいつもの神標津村に戻った。

 今回の取材ロケは9月1週目の全国放送の人気バラエティー番組で取り上げられた。東京にある穴吹のパティスリーと上坊のステーキハウスが映し出され、タレントがスイーツ、食事を口にしての食レポ中に、天然生クリームやバター、使用されている肉が神標津産である事が紹介された。
「こんなにヘルシーで美味しい「素敵な食材」を作っている神標津村と独自の考えで先端農業経営を行っている農業法人「アグリ神標津」を紹介させていただきましょう。」
と穴吹が語り、画面は神標津でのロケ取材場面に切り替わった。
 皆、自分が受けた5分のインタビューが映る事を楽しみに待っていたが、テレビに映ったのは、社長の広志と神標津でカップリングに成功した典史、さくらと真一、美咲のペアに組合長の一郎がそれぞれ1分にまとめられたインタビューが流されただけだった。
 
 そして最後に「アグリ神標津を支える美魔女シェフ」として晶のインタビューが名前のテロップ付きで流された。(えっ、なんで晶さんが放映されてるんや?)と思った靖はテレビの前から席を外し、名刺の裏に書かれたディレクターの携帯電話番号に電話をかけた。
「アグリ神標津の小原です。立花さんの映像は使わないでくださいってお願いしたじゃないですか。なぜ放映されてるんですか!」
と靖は怒りを込めてクレームをつけたが、ディレクターはなぜ靖が怒っているのか全く理解できていないようだった。
 状況を確認すると、ディレクターはメールは読んでいたもののADから何の報告も受けていないとの事だった。放映されてしまった以上、取り返しがつかないと思った靖は電話を切り、「ある男・・・」が今日の番組を見ていないことを祈るしかできなかった。

しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

『80年を超越した恋~令和の世で再会した元特攻隊員の自衛官と元女子挺身隊の祖母を持つ女の子のシンクロニシティラブストーリー』

M‐赤井翼
現代文学
赤井です。今回は「恋愛小説」です(笑)。 舞台は令和7年と昭和20年の陸軍航空隊の特攻部隊の宿舎「赤糸旅館」です。 80年の時を経て2つの恋愛を描いていきます。 「特攻隊」という「難しい題材」を扱いますので、かなり真面目に資料集めをして制作しました。 「第20振武隊」という実在する部隊が出てきますが、基本的に事実に基づいた背景を活かした「フィクション」作品と思ってお読みください。 日本を護ってくれた「先人」に尊敬の念をもって書きましたので、ほとんどおふざけは有りません。 過去、一番真面目に書いた作品となりました。 ラストは結構ややこしいので前半からの「フラグ」を拾いながら読んでいただくと楽しんでもらえると思います。 全39チャプターですので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。 それでは「よろひこー」! (⋈◍>◡<◍)。✧💖 追伸 まあ、堅苦しく読んで下さいとは言いませんがいつもと違って、ちょっと気持ちを引き締めて読んでもらいたいです。合掌。 (。-人-。)

『夏子と陽菜の犯科帳4 THE FINAL~カルト新興宗教「魂の解放」から洗脳娘を救い出せ!~』 

M‐赤井翼
現代文学
第3話から1年開いての「なつ陽菜犯科帳」の最終話です。 過去のお約束通り、最後はなっちゃんも陽菜ちゃんの「花嫁姿」で終わります! 今度の「敵」は、門真に転居してきた「武装カルト宗教組織」です。 偶然出会った、教団に妹を奪われたイケメン日南田大樹(ひなた・ひろき)の為になっちゃん&陽菜ちゃんと「やろうぜ会」メンバーが頑張ります。 武装化された宗教団体になっちゃん、ひなちゃん、そして「やろうぜ会」がどう戦いを挑むのか! 良太郎の新作メカも出てきます! 最終回という事で、ゲストとして「余命半年~」シリーズの稀世ちゃんと直さんも緊急参戦! もう、何でもござれの最終回! 12月29日までの短期連載です! 応援お願いしまーす! (⋈◍>◡<◍)。✧♡

『「愛した」、「尽くした」、でも「報われなかった」孤独な「ヤングケアラー」と不思議な「交換留学生」の1週間の物語』

M‐赤井翼
現代文学
赤井です! 今回は「クリスマス小説」です! 先に謝っておきますが、前半とことん「暗い」です。 最後は「ハッピーエンド」をお約束しますので我慢してくださいね(。-人-。) ゴメンネ。 主人公は高校3年生の家庭内介護で四苦八苦する「ヤングケアラー」です。 世の中には、「介護保険」が使えず、やむを得ず「家族介護」している人がいることを知ってもらえたらと思います。 その中で「ヤングケアラー」と言われる「学生」が「家庭生活」と「学校生活」に「介護」が加わる大変さも伝えたかったので、あえて「しんどい部分」も書いてます。 後半はサブ主人公の南ドイツからの「交換留学生」が登場します。 ベタですが名前は「クリス・トキント」とさせていただきました。 そう、南ドイツのクリスマスの聖霊「クリストキント」からとってます。 簡単に言うと「南ドイツ版サンタクロース」みたいなものです。 前半重いんで、後半はエンディングに向けて「幸せの種」を撒いていきたいと思い、頑張って書きました。 赤井の話は「フラグ」が多すぎるとよくお叱りを受けますが、「お叱り承知」で今回も「旗立てまくってます(笑)。」 最初から最後手前までいっぱいフラグ立ててますので、楽しんでいただけたらいいなと思ってます。 「くどい」けど、最後にちょっと「ほっ」としてもらえるよう、物語中の「クリストキント」があなたに「ほっこり」を届けに行きますので、拒否しないで受け入れてあげてくださいね! 「物質化されたもの」だけが「プレゼント」じゃないってね! それではゆるーくお読みください! よろひこー! (⋈◍>◡<◍)。✧♡

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

処理中です...