『北の大地のファーストペンギン2025~限界集落復興と結婚したい訳あり男女達の物語~』

M‐赤井翼

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第2部 エピソード2024

「2度目の冬」

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「2度目の冬」

 超音波籾殻燻炭の商品化が決まった翌日、うっすらと初雪が降った。根雪になる前に、神標津酪農家の所有する牧草地に籾殻燻炭を蒔くために、典史と龍二は忙しくトラクターを走り回らせた。
雪が積もると表での作業は無くなるが、今年はしっかりと屋内の野菜工場での仕事が待っていた。「町田メロン」は一度技術者が訪問してくれて、ポンプの調整と点検をしてくれた。予想以上にしっかりと根が広がり、第1期の苗が一株当たり40個から50個の実をつけているのを確認し、来月の初収穫を待つこととなった。育成が好調なことからメロン製造のラインを増設し、低温室で時間差をつけて毎週のように新たな苗を増やし続けた。

 野菜工場は日々、麗が責任者として室温、湿度、水温、溶媒液の状態を丁寧にチェックし、写真を「町田メロン」とイチゴの技術指導担当にメールで送っている。
「もう二度と同じ失敗はできないから毎日のチェックは怠らないわ。龍二君と新婚旅行はハワイに行こうって決めてるからしっかりと稼がないとね!
 全滅させちゃったイチゴはクリスマスには間に合わないけど、今度はJA栃木とJA愛媛からの技術指導員さんのアドバイスをしっかり受けてるから、来年の夏にはしっかりとしたイチゴを出荷できるようにするね!」
と明るい笑顔で昼食時に皆に状況を報告するのが日課になっている。

 広志の家のプレハブ冷凍庫には副島から「この間の台風で落ちてしもた「20世紀梨」と「新甘泉」を激安で仕入れて来たからそっちに送るわな。使い方は今度行ったときに説明するからとりあえず冷凍庫に放り込んでおいて。」との電話一本で4トントラックいっぱいに送ってこられた梨が詰め込まれている。晶は何の為に送ってこられたのかを理解しているようで、十数個の梨を厨房に持ち帰って那依とまりあと共に試作品づくりに入っている。

 男性チームは年明けに経験した「大寒波」の再来に備えて、メンバーと組合員の畜舎へドラム缶ストーブと薪、コンポスト牛糞燃料の備蓄と牛の飲料水を確保するための雪を溶かす大鍋を設置して回った。
 健司が作った地下水循環空調も村の畜舎全軒に設置を済ませたため、各畜産家のこれから5か月の暖房に使う灯油、重油の燃料費削減に役立ち喜ばれている。直の家の子牛舎では100頭を超える生後3カ月までの牡の子牛が美咲と凛、蘭の哺育によりすくすくと育っている。上坊の店での「仔牛ステーキ」、「仔牛カツレツ」のセールスも好調で、既存取引先関係者にもその情報は広まり1歳の仔牛肉の発注は好調で回転率は高く新規売り上げの核となっている。

 11月半ば、3日間にわたり降り続いた雪で牧草地は完全に雪の下に隠れ、来年4月までは白い世界に囲まれての生活となる。
「あー、いよいよ積もってしもたなぁ…。緑の大地とはしばらくおさらばやな。」と稀世は感傷的に窓の外を眺めていると、直が燗したワンカップを片手にこの11カ月を振り返った。
「今年もあと一月半じゃな。あの大寒波の時は2割の牛が死んで村が消滅するかと思ったが、稀世ちゃんたちの頑張りのおかげで何とか持ち直したのぉ…。本当にご苦労じゃったな。
 来月出荷予定の「町田メロン」も順調なようじゃし、乳製品も精肉もこの1年で売上げ爆上げじゃったな。わしも「鮭とばのほぐし身入りチーズ」は好物じゃ。「仔牛のジャーキーチーズ」、「牛ハムチーズ」、「半乾燥ホタテチーズ」も旨いよな。上坊さんが銀座、六本木に勧めてくれたおかげで、今では大阪のキタ、ミナミ、神戸元町、京都木屋町、河原町の出荷も安定してくれておる。うちが組合員の余剰乳を受け入れることになって牛乳のニーズが落ちがちな冬場の安定収入になったもんじゃ。
 典史と龍二が頑張った酒粕とデントコーンを混ぜたサイネージも近隣の町への売り上げも好調みたいじゃし、三朗のおかげで籾殻燻炭に竹炭、備長炭もどき・・・も焼き肉屋や焼き鳥屋にペンション、旅館でしっかりとした売り上げが立った。よもやの神標津の地酒となった「ハニーワイン」も完売で2度目の仕込みに入った。
 真一も美咲ちゃんの尻に敷かれながらも立派な牛の助産師になった事で死産や病死がめちゃくちゃ減った。徹や和樹、翔もバクシートや飼料、肥料の販売をよく頑張ってくれた。広志は皆のまとめ役としてこの1年ちょっとで随分と成長した…。
 もちろん女性陣の活躍は稀世ちゃんを筆頭に言うまでもない。粋華ちゃんは東京に行ってちょっと寂しくなってしまったが、カップリングも好調じゃった。今年もめでたい良い年末を迎えられそうじゃな。」

 しみじみと降りしきるぼた雪を眺めながら語る直に、稀世もこの1年を振り返りながら本音を返した。
「私、去年の9月に神標津ここに来てよかったです。直さん、一郎さん、那依さん、まりあさんに青年部のみんな、そして副島のおっちゃんと幸ちゃんが紹介してくれた女性陣と心亜ちゃんと頑張ってこられました。JOCの篠原さん、上坊さんと穴吹さん、地元の造り酒屋さんやOzekiのスタッフさんに支えられてここまで来ました。
 ちょっと気が早いですけど、来年はもっといい年にしたいですね。きっと今日の雪が「根雪」になるでしょうから、真っ白な雪のキャンバスにみんなでどんな絵が描けるのか今から凄く楽しみです。」
 雪は直の家の裏山と牧草地に降り積もり、午後には地面は全く見えなくなった。

 12月に入り、既にラベリングを終えたボトルの殆どを大阪の物流倉庫に送り、在庫が薄くなった二度目の「ハニーワイン」の仕込みが行われ年末には再出荷が可能になり「町田メロン」の初出荷も行われた。
 さくらのオリジナルレシピのスイーツと焼き菓子も穴吹の監修扱いで釧路の菓子工房で製造してもらい空港や道の駅に乳製品や肉の加工品と一緒に「神標津ブランド」として並ぶようになってきた。
 各自が自分の仕事にしっかりとした意識と誇りを持ち、アグリ神標津での毎日は心地よい忙しさの中、カレンダーの残り枚数は減っていった。

 12月31日、昨年に続いて直の家の広間でアグリ神標津スタッフと地元関係者の忘年会が開かれた。昨年から参加者が倍に増えた事で今年は和室にもかかわらず「立食パーティー」となった。
 広志のあいさつで始まった忘年会は、ユーチューブでの生配信で夏子、陽菜と礼、凛、蘭が歌って踊る「ダンシングバター」の大合唱で始まった。途中、事前にメーリングリストとホームページで予告していた豪華プレゼントが用意された「お年玉プレゼント企画」や「フォアローゼス」のオンライン参加などもあり、大みそかの午後7時にも関わらず「約2万人」の「アグリ神標津ファン」の視聴があった。
 午後9時の「中締め」前に参加者に振る舞われた「町田メロン」を容器にした「ブランデーメロン」の生中継の後、時間限定の格安メロン販売は一瞬で売り切れてホームページで「お詫び」を入れざるを得ない状況となった。

 すっかり「出来上がった」メンバーの「稀世コール」に応え、稀世がマイクを握った。
「今年も1年、ありがとうございました。いろんなことがありましたが、「飛躍」と「正義感と信用」の「辰年」を終えることができました。
 あと数時間で、「巳年みどし」を迎えることになります。「執念深い」と言われ、あまり良い印象を持たれない「|巳(へび)」ですが助けてくれた人には恩返しを行う義理堅い一面も持っています。また「探求心と情熱」を意味しているという説もあります。
 この一年間、「アグリ神標津」を支えてくださったスタッフ、関係者の皆様、そして弊社商品を支えてくださった消費者の皆様にコスパに見合った良い商品で恩返ししたいと思います。
 来年も「探求心と情熱」をモットーにアグリ神標津が頑張っていきますので、最後に「ぱにゃにゃん!神標津!」の御発声と三本締めで締めたいと思いますのでご発声及びお手を拝借の程、よろしくお願いしまーす!」
の挨拶の後、参加者全員での「ぱにゃにゃん!神標津!」の発声と三本締めで2024年の忘年会は幕を引いた。

「第2部 おしまい」

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