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私を助けて
第三話 少年と少女は出会う
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敷地に侵入したエレノアは、両開きのドアがいくつも並んでいるホールを抜け、左右を見渡す。近くに人の気配がないので、どちらに向かうか逡巡するが、微かに拍手する音が聞こえたので、そちらへと足を向ける。
エレノアは見たこともない材質でできている壁や床などを物珍しそうに眺めながら歩を進める。
(こっちの世界では、こんなモノで建物を作るのね……。どうやって作ってるんだろ)
壁や床を指でコンコンと確かめるように叩きながら、そんなことを考える。敵が見えなくなったことにより、多少の安心と余裕が出てきたのか、悠長に構えられる。構えてしまった。
(もう少しで入口ね。私を助けてくれるような親切な方がいらっしゃればいいのだけれど……)
追われてきたエレノアにとって、近くに多くの人がいるということは、それだけで安心感をもたらした。敵が見えなくなったことにより、緊張が解けたというのもある。
エレノアは油断していた。
そして、その油断が命取りとなる。
もう少しで入り口だと思った時、柱の影からひとりの大柄な男が音もなく飛び出してきた。その恰好から追手の仲間だと見抜いたエレノアだったが、逃亡しようとする行動力よりも驚きが勝ってしまった。
その結果、声を上げる暇もなく両腕を男の左手で拘束される。
そのはずみで持っていたベレッタが明後日の方向に飛んでいき、さらに右手で口を塞がれてしまった。
喚こうにも口が塞がっているし、両腕がとんでもない握力で掴まれているので抵抗もできない。エレノアも、そこらの人間に負けるような筋力ではないのだが、全く抗うことができない。
足蹴にしたいが、両腕を半ば持ち上げるような無理な体勢で拘束されてしまっているので、足を出せないでいる。足を上げてしまえば、腕の関節が外れるくらいでは済まないかもしれない。
何よりもエレノアの抵抗を挫いたのは、この男の顔である。男は口に嫌な笑いを浮かべており、エレノアを見る目をいやらしく歪める。背筋にゾッとしたものが走る。心の底からゾッとしたエレノアは、誰とも知れず助けを求めた。
(……誰か、助けて……!!)
声に出たわけではないがその瞬間、広間のほうから髪の長い人物が飛び出してきて、エレノアを捕まえていた男に問答無用で飛び蹴りを喰らわせた。
いきなりの出来事に驚いた男はエレノアの口を塞いでいた方の右手を離し、飛び蹴りを受け止める。驚いていたにしては、見事に受け止めたものだと、エレノアは場違いな感想を持つ。
そして、手が離れた瞬間にエレノアは助けを求めた。
「助けてっ! 襲われてるの!」
「見ればわかる。少し静かにしていてくれ」
助けに入った少年(エレノアの見た感じの体付きでそう判断した)は言葉は無愛想だが、美少女を見て安心させるように優しそうな微笑をみせる。
もっとも、長い髪のせいで目元から下しか見えないので、見ようによっては不気味である。だが、エレノアにとっては久しぶりに自分へと向けられる好意なので、少年の安心させるという目論みは成功した。
(親父に女の子には、こうしとけば上手くいくって教えてもらったからな)
少年は心の中で独白しながら、優しい笑顔から一転して、厳しい顔つきで私の後ろにいる男を睨みつける。油断のない肉食獣のように目を合わせ、いつでも飛びかかれるように若干身を低くする。
「オイ、男。何をしているんだ?」
殺気の篭った声でそう問い、次の反応を静かに待つ少年。
「貴様に応える義理はない。と言いたい所だが、散々逃げてくれたこの女を捕まえられたんだ。気分がいいから教えてやろう。我が主が言うには、この女はここにいてはいけない存在なんだと。だから、こうしてるってわけさ」
下品に鉄板な悪役のような声で後ろの男がそう言い、下卑た笑いを漏らす。少年としては、この質問の意図が相手から情報を引き出すためだったので、まんまと相手が答えてくれて、内心で笑みをこぼす。応える義理はないとか言いながら律儀なヤツだと呑気に思った。
「ま、教えたとこで、おまえにはここで死んでもらうがな」
その言葉にエレノアが顔を青くする。今までヤツらは一般庶民には全く手出ししていないので、この少年にも危害を加えるとは考えていなかったのだ。エレノアは、自分の迂闊な行動で、この目の前の少年に助けを求めたことを後悔した。
そのせいでこのヒトが死ぬことになると思ったからだ。
「俺はこんな場所では死なないし、死ぬ気は微塵もないぞ」
さっきとは違い、幾分優しそうな、しかし確固たる意志を秘めた声音で少年は言った。その瞳に怯えは全くなく、力強い光が宿っており、エレノアは場違いにもキレイな瞳だと思った。
「……そのような戯言が遺言でいいのか?」
そう不機嫌そうに言い、男は懐から、拳銃を出して正面に構える。リボルバー型のチーフスペシャルと呼ばれる銃だ。見る人が見ればよく訓練されている動きであるとわかる。
少年はそれに気付いていたが、そんな素振りは見せずに挑発をする。
「5発しか入らない銃で俺を殺せると? そう思っているのか、貴様は?」
そんな銃に一瞬だけ視線を動かした少年は、それだけで銃の正体を見抜く。そして、その銃の短所である装弾数の少なさを指摘しながら、まったく動じていない様子で肩をすくめて続けた。
「ま、武器に頼ることしかできないヤツが考えそうなことだ」
明らかに自分よりも弱いであろう少年の傲岸不遜な言葉に、男は憤慨しているようで、怒気を隠すでもなく荒々しく言う。
「減らず口もたいがいにしろよ、小僧。すぐにその口をきけないようにしてやる」
男の言葉に明確に殺気が篭り、改めて銃を構えた。エレノアの存在を忘れてしまったかのように、少年だけをジッと睨みつける。
それを見た少年はまたしても肩をすくめ、なにを思ったのか目にかかるほどの長い髪を手首にしてあったヘアゴムで後ろに一括りにした。その行動により、長髪に隠されていた少年の顔が露わになる。
エレノアはその少年の顔をみて、唖然とした。
なんせ、眼前にいるのは自分とも張り合うほどの美少年なのだ。今までの傲慢なようすが幻覚でもみたのかと思うほどである。
男のほうも唖然としていたが、すぐに顔を引き締め、銃を躊躇いもなく発砲する。乾いた音が二度響きわたり、大勢いた方から聞こえていたざわめきが鳴りを潜める。
「あっ…………!!」
エレノアは銃弾が発射されたときに後悔が滲む声音で声を上げた。
だが、その少年は銃を撃つ寸前に自分が着ていたブレザーを脱ぎ、投げて自分との間に壁を作った。
銃弾はブレザーをなんなく突き抜けたが、その先にいるはずの少年には当たらずに後ろのコンクリートの柱に穴を穿っただけで終わる。
男は立て続けにブレザーの向こうにいるであろう少年に撃ち続ける。だが、全て後ろの柱に当たり、先ほどと同様に穴を穿つだけで終わった。
銃撃が終わり、あたりにはコンクリートの破片が落ち、埃が舞う。
時間が何倍にも引き延ばされたかのような感覚の後、ボロボロになったブレザーが下に落ちると、その向こうに少年の姿は無かった。そして、変わりに男とエレノアがいる左側から声が聞こえた。
「弱い、弱すぎるっ!」
完全に死角であり、なおかつ、いつ移動したのかわからなかったので、その声に男は驚愕する。咄嗟にエレノアの両腕を掴んでいた左腕を離し、エレノアのドレスを乱暴に掴んで盾にするように移動させ、また銃を構えなおした。
そのときにエレノアが着ていたドレスが盛大に破れたが、男は眼前の少年を驚愕と恐怖で彩られた顔で見つめていたため、幸いにも破れた部分は見られなかった。
自分が盾にされていたというのに、そんなことを考えていたエレノア。もっとも、少年の顔には不敵な笑みがニヤリと浮かんでおり、心配は無用だと思ったせいもある。
男が慌てて銃の引き金を引いたが発砲音はせず、そのかわりに金属同士を打ち鳴らす音が響いた。
「だから言っただろう? 5発では俺は殺せないと。まぁ、アンタが相手なら例え千発撃とうと殺せなかったと思うがな」
傲慢な発言をした少年は、興味がなさそうな顔をして男を見る。そして、まだ顔が驚愕と恐怖で彩られている男の顔面に霞むような速度で拳を入れた。
盾にされた少女は、その拳の前には何の意味もなく、悲鳴すら上げずに男は昏倒する。
男の手から離れた少女が倒れかけたところを例の少年が優しく、そっと受け止める。その際に受け止める邪魔となりそうだったは蹴られて追いやられていたが、少女から死角で見えなかった。
「大丈夫か? 怪我は?」
さっきまでの殺気が嘘のように消えている、そのやさしさに溢れる声音にエレノアは噴き出しかけた。というか、実際は微かに笑ってしまった。こんなに緊張感のない声を出せる人が、さきほどの大立ち回りを演じたとは思えなかったのだ。
「大丈夫よ。あなた、すごく強いわね。元の世界でもあれほどの実力者はそんなにいなかったわよ」
素直に感心を含めたエレノアの声に、少年は渋い顔をするが、なぜか途中で目を逸らした。心なしか顔が赤くなっているようにも見える。
「俺の名前は深夜。冬深夜だ、よろしく。君とはこの場限りの縁で終わる気がしないな」
「私の名はエレノア。気軽にエアって呼んでちょうだい、深夜」
こちらへと向き直り、自己紹介を始める深夜に、妙なことを言うヒトだなぁ、と身も蓋もないことを思うエレノア。しかし、その言葉に引っかかりを感じた、エレノアは特に聞き返さずに自らも自己紹介をする。
いつもなら男のヒトが赤面して目を逸らすような魅力的な笑みを見せるエアだが、さすがに深夜はそうはならず逆にこっちがドキッとするような笑みをみせた。
「わかった、エア。それとさ、はい。これ」
深夜は自分のワイシャツを脱ぎ、こっちに投げて寄越した。
エレノアは会ったばっかりでこんな大胆な真似するの!?と肝を冷やしたがどうやら違うらしい。
なぜ、シャツを寄越したのか疑問だったが、深夜の視線の先にある自分の姿を見て悲鳴を上げそうになった。
つまり、ドレスがはだけて豪快に身体の前部分が見えていた。
悲鳴をあげる前に深夜に口を塞がれ大声は出さなかったが、シャツを光の速さで着た。
「っっっーーーー!!!!」
「静かに! 他のヒトに見られてもいいの?」
「なんで、いままで黙ってたのよ」
エレノアが言葉を発した自分自身でもビックリするほど、怨ずるような声音で言った。そんなエアの言葉に、深夜はタジタジとなって話し出す。
「い、いやぁ~。悪かったとは思ったんだけど……ハハハ、役得かって思ってさ~、なんちゃって」
軽い調子で、乾いた笑みを返す深夜。そんな深夜に龍でも殺せそうなほどの眼力で睨み返し、相手を震え上がらせた。
(まったく、このヒトって……!)
エアは心の中でそう思った。
エレノアは見たこともない材質でできている壁や床などを物珍しそうに眺めながら歩を進める。
(こっちの世界では、こんなモノで建物を作るのね……。どうやって作ってるんだろ)
壁や床を指でコンコンと確かめるように叩きながら、そんなことを考える。敵が見えなくなったことにより、多少の安心と余裕が出てきたのか、悠長に構えられる。構えてしまった。
(もう少しで入口ね。私を助けてくれるような親切な方がいらっしゃればいいのだけれど……)
追われてきたエレノアにとって、近くに多くの人がいるということは、それだけで安心感をもたらした。敵が見えなくなったことにより、緊張が解けたというのもある。
エレノアは油断していた。
そして、その油断が命取りとなる。
もう少しで入り口だと思った時、柱の影からひとりの大柄な男が音もなく飛び出してきた。その恰好から追手の仲間だと見抜いたエレノアだったが、逃亡しようとする行動力よりも驚きが勝ってしまった。
その結果、声を上げる暇もなく両腕を男の左手で拘束される。
そのはずみで持っていたベレッタが明後日の方向に飛んでいき、さらに右手で口を塞がれてしまった。
喚こうにも口が塞がっているし、両腕がとんでもない握力で掴まれているので抵抗もできない。エレノアも、そこらの人間に負けるような筋力ではないのだが、全く抗うことができない。
足蹴にしたいが、両腕を半ば持ち上げるような無理な体勢で拘束されてしまっているので、足を出せないでいる。足を上げてしまえば、腕の関節が外れるくらいでは済まないかもしれない。
何よりもエレノアの抵抗を挫いたのは、この男の顔である。男は口に嫌な笑いを浮かべており、エレノアを見る目をいやらしく歪める。背筋にゾッとしたものが走る。心の底からゾッとしたエレノアは、誰とも知れず助けを求めた。
(……誰か、助けて……!!)
声に出たわけではないがその瞬間、広間のほうから髪の長い人物が飛び出してきて、エレノアを捕まえていた男に問答無用で飛び蹴りを喰らわせた。
いきなりの出来事に驚いた男はエレノアの口を塞いでいた方の右手を離し、飛び蹴りを受け止める。驚いていたにしては、見事に受け止めたものだと、エレノアは場違いな感想を持つ。
そして、手が離れた瞬間にエレノアは助けを求めた。
「助けてっ! 襲われてるの!」
「見ればわかる。少し静かにしていてくれ」
助けに入った少年(エレノアの見た感じの体付きでそう判断した)は言葉は無愛想だが、美少女を見て安心させるように優しそうな微笑をみせる。
もっとも、長い髪のせいで目元から下しか見えないので、見ようによっては不気味である。だが、エレノアにとっては久しぶりに自分へと向けられる好意なので、少年の安心させるという目論みは成功した。
(親父に女の子には、こうしとけば上手くいくって教えてもらったからな)
少年は心の中で独白しながら、優しい笑顔から一転して、厳しい顔つきで私の後ろにいる男を睨みつける。油断のない肉食獣のように目を合わせ、いつでも飛びかかれるように若干身を低くする。
「オイ、男。何をしているんだ?」
殺気の篭った声でそう問い、次の反応を静かに待つ少年。
「貴様に応える義理はない。と言いたい所だが、散々逃げてくれたこの女を捕まえられたんだ。気分がいいから教えてやろう。我が主が言うには、この女はここにいてはいけない存在なんだと。だから、こうしてるってわけさ」
下品に鉄板な悪役のような声で後ろの男がそう言い、下卑た笑いを漏らす。少年としては、この質問の意図が相手から情報を引き出すためだったので、まんまと相手が答えてくれて、内心で笑みをこぼす。応える義理はないとか言いながら律儀なヤツだと呑気に思った。
「ま、教えたとこで、おまえにはここで死んでもらうがな」
その言葉にエレノアが顔を青くする。今までヤツらは一般庶民には全く手出ししていないので、この少年にも危害を加えるとは考えていなかったのだ。エレノアは、自分の迂闊な行動で、この目の前の少年に助けを求めたことを後悔した。
そのせいでこのヒトが死ぬことになると思ったからだ。
「俺はこんな場所では死なないし、死ぬ気は微塵もないぞ」
さっきとは違い、幾分優しそうな、しかし確固たる意志を秘めた声音で少年は言った。その瞳に怯えは全くなく、力強い光が宿っており、エレノアは場違いにもキレイな瞳だと思った。
「……そのような戯言が遺言でいいのか?」
そう不機嫌そうに言い、男は懐から、拳銃を出して正面に構える。リボルバー型のチーフスペシャルと呼ばれる銃だ。見る人が見ればよく訓練されている動きであるとわかる。
少年はそれに気付いていたが、そんな素振りは見せずに挑発をする。
「5発しか入らない銃で俺を殺せると? そう思っているのか、貴様は?」
そんな銃に一瞬だけ視線を動かした少年は、それだけで銃の正体を見抜く。そして、その銃の短所である装弾数の少なさを指摘しながら、まったく動じていない様子で肩をすくめて続けた。
「ま、武器に頼ることしかできないヤツが考えそうなことだ」
明らかに自分よりも弱いであろう少年の傲岸不遜な言葉に、男は憤慨しているようで、怒気を隠すでもなく荒々しく言う。
「減らず口もたいがいにしろよ、小僧。すぐにその口をきけないようにしてやる」
男の言葉に明確に殺気が篭り、改めて銃を構えた。エレノアの存在を忘れてしまったかのように、少年だけをジッと睨みつける。
それを見た少年はまたしても肩をすくめ、なにを思ったのか目にかかるほどの長い髪を手首にしてあったヘアゴムで後ろに一括りにした。その行動により、長髪に隠されていた少年の顔が露わになる。
エレノアはその少年の顔をみて、唖然とした。
なんせ、眼前にいるのは自分とも張り合うほどの美少年なのだ。今までの傲慢なようすが幻覚でもみたのかと思うほどである。
男のほうも唖然としていたが、すぐに顔を引き締め、銃を躊躇いもなく発砲する。乾いた音が二度響きわたり、大勢いた方から聞こえていたざわめきが鳴りを潜める。
「あっ…………!!」
エレノアは銃弾が発射されたときに後悔が滲む声音で声を上げた。
だが、その少年は銃を撃つ寸前に自分が着ていたブレザーを脱ぎ、投げて自分との間に壁を作った。
銃弾はブレザーをなんなく突き抜けたが、その先にいるはずの少年には当たらずに後ろのコンクリートの柱に穴を穿っただけで終わる。
男は立て続けにブレザーの向こうにいるであろう少年に撃ち続ける。だが、全て後ろの柱に当たり、先ほどと同様に穴を穿つだけで終わった。
銃撃が終わり、あたりにはコンクリートの破片が落ち、埃が舞う。
時間が何倍にも引き延ばされたかのような感覚の後、ボロボロになったブレザーが下に落ちると、その向こうに少年の姿は無かった。そして、変わりに男とエレノアがいる左側から声が聞こえた。
「弱い、弱すぎるっ!」
完全に死角であり、なおかつ、いつ移動したのかわからなかったので、その声に男は驚愕する。咄嗟にエレノアの両腕を掴んでいた左腕を離し、エレノアのドレスを乱暴に掴んで盾にするように移動させ、また銃を構えなおした。
そのときにエレノアが着ていたドレスが盛大に破れたが、男は眼前の少年を驚愕と恐怖で彩られた顔で見つめていたため、幸いにも破れた部分は見られなかった。
自分が盾にされていたというのに、そんなことを考えていたエレノア。もっとも、少年の顔には不敵な笑みがニヤリと浮かんでおり、心配は無用だと思ったせいもある。
男が慌てて銃の引き金を引いたが発砲音はせず、そのかわりに金属同士を打ち鳴らす音が響いた。
「だから言っただろう? 5発では俺は殺せないと。まぁ、アンタが相手なら例え千発撃とうと殺せなかったと思うがな」
傲慢な発言をした少年は、興味がなさそうな顔をして男を見る。そして、まだ顔が驚愕と恐怖で彩られている男の顔面に霞むような速度で拳を入れた。
盾にされた少女は、その拳の前には何の意味もなく、悲鳴すら上げずに男は昏倒する。
男の手から離れた少女が倒れかけたところを例の少年が優しく、そっと受け止める。その際に受け止める邪魔となりそうだったは蹴られて追いやられていたが、少女から死角で見えなかった。
「大丈夫か? 怪我は?」
さっきまでの殺気が嘘のように消えている、そのやさしさに溢れる声音にエレノアは噴き出しかけた。というか、実際は微かに笑ってしまった。こんなに緊張感のない声を出せる人が、さきほどの大立ち回りを演じたとは思えなかったのだ。
「大丈夫よ。あなた、すごく強いわね。元の世界でもあれほどの実力者はそんなにいなかったわよ」
素直に感心を含めたエレノアの声に、少年は渋い顔をするが、なぜか途中で目を逸らした。心なしか顔が赤くなっているようにも見える。
「俺の名前は深夜。冬深夜だ、よろしく。君とはこの場限りの縁で終わる気がしないな」
「私の名はエレノア。気軽にエアって呼んでちょうだい、深夜」
こちらへと向き直り、自己紹介を始める深夜に、妙なことを言うヒトだなぁ、と身も蓋もないことを思うエレノア。しかし、その言葉に引っかかりを感じた、エレノアは特に聞き返さずに自らも自己紹介をする。
いつもなら男のヒトが赤面して目を逸らすような魅力的な笑みを見せるエアだが、さすがに深夜はそうはならず逆にこっちがドキッとするような笑みをみせた。
「わかった、エア。それとさ、はい。これ」
深夜は自分のワイシャツを脱ぎ、こっちに投げて寄越した。
エレノアは会ったばっかりでこんな大胆な真似するの!?と肝を冷やしたがどうやら違うらしい。
なぜ、シャツを寄越したのか疑問だったが、深夜の視線の先にある自分の姿を見て悲鳴を上げそうになった。
つまり、ドレスがはだけて豪快に身体の前部分が見えていた。
悲鳴をあげる前に深夜に口を塞がれ大声は出さなかったが、シャツを光の速さで着た。
「っっっーーーー!!!!」
「静かに! 他のヒトに見られてもいいの?」
「なんで、いままで黙ってたのよ」
エレノアが言葉を発した自分自身でもビックリするほど、怨ずるような声音で言った。そんなエアの言葉に、深夜はタジタジとなって話し出す。
「い、いやぁ~。悪かったとは思ったんだけど……ハハハ、役得かって思ってさ~、なんちゃって」
軽い調子で、乾いた笑みを返す深夜。そんな深夜に龍でも殺せそうなほどの眼力で睨み返し、相手を震え上がらせた。
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