幻想世界の統合者

砂鳥 ケイ

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第百六十九話:絶体絶命

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目の前には荒れ果てた大地が広がっていた。

まるで地殻変動でも起きたかのように、大地が凸凹に変形している。
とても、数日前までここに集落があったとは思えない。

「ここが、農村ムールの成れの果てかの?酷いもんじゃ」
「オー爺、これが魔術の仕業なら、残留魔力で何か分かりませんか?」
「うーむ。そうじゃな。少し探ってみるかの」

オーグは、目を閉じブツブツと何かを呟いている。

オーグが大魔導士と呼ばれる所以は、何も魔術ばかりが秀でているからではない。

オーグには、魔術師以外のもう一つの顔があった。
それは、精霊術師だ。

精霊術師は、精霊を使って戦闘する以外に、各地に住んでいる微精霊と対話する事が出来る。

そして、オーグはこの地に眠る大地の精霊と話をしている。

「アースストレインを知っておるか?」
「魔術ですか?聞いた事はないですね」
「私も知らないかな」
「ワシも文献で読んだだけなのじゃが、精霊たちの話では、この農村を襲ったのは、そのアースストレインのようじゃな」
「ただの魔術にこれ程の威力が出せるものなのですか?」
「文献通りならば、アースストレインは国一つをも滅ぼす威力を持っていたそうじゃ。独特なのは、発動の際に、眩いばかりの巨大な閃光柱が発生すると言われておる。目撃者でもいれば信憑性があがるのじゃがな」

ギールとミーチェが目を見開く。

「若いもんはあまり知らんだろうが、今では失われた魔術ロストマジックの一つじゃよ。あまりの威力故に封印されたとも言われておる」
「そんなものを使用出来るなんて事は本当に不死の王ノーライフキングだったりして?」
「それでそいつの向かった先は分かりますか?」
「いや、それは流石に分からんかったわい。痕跡が掻き消えておる」
「そうですか、やはりシャモたちからの連絡を待つしかないですね」

暫く待つと、勇者一行の最後の1人が皆と合流する。

「わりい遅れちまったな!」

大柄な体躯。身長は2m程はあるだろう。
守りの要、防御に特化した盾騎士のゴエールだ。

「ゴエール、何か分かったかい?」

ギールは、ゴエールに周辺地への聞き込みを依頼していた。

「ああ、農村が消失したと思われる3日前の同時刻に轟音と共に上空に巨大な光柱が走ったのを複数の人が目撃していたよ」

ゴエール以外の3人が怪訝そうな顔をする。

「アースストレインで間違いないのぉ」

暫く辺りを散策するが、何もかもが消失しているせいもあり、手掛かりとなるものがない。
時間だけが無駄に過ぎていった。

「シャモのやつ、遅いのぉ」

シャモと別れてから、既に6時間余りが経過していた。陽もすっかり暮れて夜になっている。
シャモの偵察情報次第で、その後の行動を考えていた為、待つ事だけを考えていたが、流石に遅すぎる。

「何かあったんじゃ・・」
「シャモに限ってまさかとは思うが、夜中の移動は危険だ。日が昇る早朝まで待っても戻らないようならば、こちらから探しに行こう」

明日になったら何が起こるか分からない。ギールは、皆にしっかりと休むように伝えていたが、結局寝る者は1人もいなかった。

シャモが帰ってこないかと皆信じ待っていたのだ。

結局その願いは聞き入れられず、夜が明け始めた頃になっても、シャモが戻ってくる事はなかった。

「出発しよう。いいかみんな。いつ何処から襲って来ないとも限らない。周囲に意識を配りながら、ゆっくりと進むぞ」

互の目を見やり、皆小さく頷く。

早朝という事もあり、異様なまでの静けさに逆に気味が悪い。

一行は細い獣道に差し掛かかる。
道の両サイドに別れるようにモンスターたちが、まるで鋭い刃物で斬殺されたように、無残な姿で横たわっていた。

「待つんじゃ」

小声で静止を促すオーグ。

オーグが展開していた索敵魔術に反応があった。
空気が変わった事に、皆の表情が真剣なものへと移り変わる。
口数は少なくともすぐに全員が状況を理解し、各々の役割を全うするべく陣形を取り、構えを取る。
この辺りが、ただの冒険者パーティと勇者一行との違いだろう。

オーグの指差した方向に意識を集中させ、ギールを先頭に更に慎重に進んで行く。

少し進むと、開けた場所へと繋がり、それまで1列だった編隊を前衛、後衛の2列に展開する。
その際、全員の視線はターゲットから逸らさなかった。
まるで待ち構えていたかのように、ターゲットは開けた広間の中心を陣取っていた。

ターゲットの正体は体長3m程の頭が3本あるヒュドラだった。

ヒュドラは固有種によってその強さは天と地程の差がある。
冒険者たちは危険なモンスター程、その情報を詳しく把握している。
それが直接自分たちの命に関わるからだ。
情報は時として、武器にも盾にもなりうる。

ヒュドラの強さは、大きく分けて10段階に分類されている。
その強さを見分けるのは簡単だ。
体長=等級となっている。
目の前のヒュドラは、大凡3m程なので等級3に分類される。
一部例外を除けば、等級1~3でレベルが40未満。
4~6で40~70で等級7以上は70以上と言われている。
国が定めている危険指定種に認定されるレベルは、等級5以上だ。

「等級3かよ」
「油断するなよー良く知っているからこそ見た目に騙される事は意外とあるからね」

盾役のゴエールを先頭に、すぐ後ろからギールが続く。
魔術師のオーグと聖職者のミーチェは、更にその後ろから待機している。

前衛の2人がヒュドラの射程に入ると、ヒュドラはその3本の首を巧みに使い火、水、雷のブレスを吐いた。

盾を正面に構え、3属性の攻撃全てをゴエールが受け止めると、そのまま何事も無いかのように受け止めたまま前へと進む。

両者の距離が5m程になった所で、ゴエールの背後から飛び出したギールが、一瞬の内にヒュドラを一刀両断する事に成功した。

ヒュドラが絶命した事を確認したギールの合図により、後衛の2人も近寄ってくる。

「ヒュドラって珍しいわよね?」
「ああ、ヒュドラは本来海辺の近くに住む習性があるのは周知の事実だからな。こんな大陸のど真ん中にいるのは、確かに妙だな」

オーグの緊張が皆に伝わった。
モンスターを討伐し、多少なりとも穏やかな雰囲気が漂っていた中で、突然空気が変わった。

「どうやら囲まれておるようじゃ」

オーグの索敵がまたしても反応していた。

「数は?」
「5・・6・・7・・12・・じゃな」

ギールには、腑に落ちない点があった。

「感じておるか?ギル」
「ああ」
「え、何のこと?」

ミーチェがギールとオーグの2人に視線を行ったり来たりしている。

「先のヒュドラもそうだったけど、今近付いてくる敵もまた同様に気配が全く感じられないんだ」
「ワシも索敵を発動しとらんかったら、視認出来るまでその存在にも気付かんかったかもしれん」
「妙な話だが、考えてる時間はないぜ2人とも」

盾役のゴエールが金剛を発動する。

金剛は自身の耐久値を大幅に上昇させる効力を持っているスキルだ。

続いて、牽制を同時発動する。

牽制はモンスターたち相手の注意を自分に向けるスキルだ。
他のメンバーに極力攻撃が向かわないようにする盾役の定番スキルでもある。

4人がひとところに集まり、襲撃に備える。

索敵の正体が視認出来る距離まで近付いてきた。

「おいおい、うそだろ・・」

ゴエールがあり得ないものでも見たかのように目を見開く。

4人を包囲するような形で集まったのは、またしてもヒュドラだった。
しかし、先程のヒュドラとは違う。
体長が2倍近く大きいのだ。

先程のレベル程度ならギールたちであれば12体いようが、切り抜ける事は可能だっただろう。
だが、目の前のヒュドラは、明らかに等級5以上、場合によっては6クラスも混じっているかもしれない。

「危険指定種が12体かよ・・」
「まともにやりあっても無理じゃろな」
「1体でも厳しい相手ですよ」
「みんなよく聞いてくれ、逃げようにも退路がない。だから戦うぞ。あれを使う」

お互いの目を見やり、もはやこの場を切り抜けるにはそれしかないだろうと皆が頷く。
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