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第百七十八話:不死の王討伐6
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皆の待つ宿屋へと帰って来た俺は、自身の身に起こった事を説明していた。
「今日から一人きりの行動は禁止するからな」
ユイやルーも幻術の効果はあるだろうけど、アリスは機械の為、人のいわゆる五感を狂わすような幻術に効果はない。
「お兄ちゃんをそんな目に合わせていたなんて許せない!こっちから倒しに行こうよ!」
ユイの怒った顔は俺的にはデジャビュなんだよね・・
なるべく思い出さないようにしよう。
「大凡の居場所は分かるから、こっちから先制する事は可能だけど・・・」
ユイが身支度を整え始める。
まさか、本当に行くのか?今から?まだ夜明け前だけど?
そのユイの行動に、ルーとアリスも続く。
「ユウさんをいじめた罪は重いです!」
「マスターの痛みは私の痛み」
おいおい、まじかよ。
「言っておくが今回の敵は強いぞ?みんな覚悟は出来てるのか?」
「お兄ちゃんの敵は私の敵だもん、それに危なくなったら守ってくれるでしょ?」
「ユウさんと一緒なら、まさに鬼に金棒!魔王でもなんでも来やがれですよ」
「マスターとなら、どんな相手にだって負けません」
討伐隊が揃うのを待つ事は出来るが、確かに生半可な人選だと、俺達にとってはかえって足手まといになり兼ねない。
不死の王については、ちょっとしたエッセイ本が出版出来るほどに勉強したつもりだ。
そして、実は奴には弱点がある事が分かった。
それは…右胸の下辺りに聖なる力を宿した武具で貫く事。そうすれば、その無尽蔵の生命力を断つ事が出来るそうだ。
聖なる力を宿した武具とは、恐らく聖剣の類だろう。
俺は以前、古都ツガール帝国から持ち帰った、聖剣アスカロンを持っている。
例の封印については、結局何処にも記載してなかったが、封印じゃ意味がない。
決して自信過剰な訳ではない。
相手の事を知ったからこそ、倒せるという結論に至ったんだ。
俺達なら勝てると。
「なら、俺たちでいっちょ倒しに行くか!」
「「おー!!」」
その後、一眠りした後に討伐の為の作戦会議をしていると、不意に訪問客が訪れた。
「朝早くに申し訳ない」
早朝の為か少しテンション低めの勇者の姿がそこにあった。
「ギールさん、おはようございます。どうしたんですか?こんなに朝早くから」
「討伐前にどうしてもユウ殿に話しておかなければならないと思ってね」
「えっと、部屋を変えましょうか?」
「いやいや、気にしなくていいよ」
終始真剣な表情のまま、ギールさんは語り出す。
「不死の王には絶対に勝てない。勝てないんだ・・それが僕が直接対峙して掴んだ印象だ。あいつは強すぎる。次元が違う」
イキナリの降参宣言。
勇者がそれで良いのかよと思ってしまうが、ギールさんは、実際にこの目で見たらしい。
唯一の弱点だと思っていた右胸の下への攻撃が効かなかったらしい。
勇者は当然の事ながら聖剣を持っている。
俺と同じように事前に情報を仕入れ、実際に試したのだろう。
不死である存在に対しての唯一の弱点。
それが失敗に終わり、戦意を喪失していると言う事か。
弱点の件も俺的には多少は期待していた程度だったので、使えないならそれだけに過ぎない。
当初の予定通り粉微塵にするだけだ。
「これから俺達は単独で不死の王を狩りに行きます。当然勝算はあるつもりです」
「ダメだ!無謀過ぎる!」
「ですが、ただ人数だけを揃えてもあいつの前で無意味なのは、実際に対峙したあなたなら分かるはず」
「だが、それでもみすみす殺されに行くようなものだ!君達は強いのだろう。だけど、実際に対峙して受けた印象は規格外のバケモノって事だけだ・・。人族じゃあいつには勝てない!」
「復活してまだ日が浅いです。力だってまだ完全には取り戻してはいないようですし、仕掛けるならば早い方がいい」
その後何度かやり取りが続いた。
「どうしても行くのかい?」
「はい、なるべく早い方がいいと思ってますから」
「分かった・・・ならば僕らも行こう」
え?僕ら?
再び、部屋のドアが開かれた。
うん、確かに部屋の外に誰かがいるのは範囲探索で分かっていたんだけど、、
「マーレ、ゴエール、ミーチェ、一緒に行ってくれるかい?」
「私はどこまでもギールについて行きます」
「兄さんの仇をこの手で取る為なら」
「俺がいないと、お前らが心配だからな」
この展開は正直考えていなかった。
しかし、他の冒険者ならいざ知らず、勇者とその一行ならば実力は申し分ないだろう。
と言う事もあり、勇者一行と俺達の総勢8名で不死の王の討伐に赴く事となった。
流石にギルドに黙って出発する事は出来ないと言うので、しかし、正直その時間も惜しい為、伝令だけを他の者に頼み、急ぎ出発する事となった。
「私、空飛ぶのは初めてです・・」
恐る恐る下を覗き込むマーレさん。
初めての人は、大体皆同じリアクションを取っている気がする。
「バーン帝国のムー王女から今回の討伐の任を受けて拝借した空飛ぶ絨毯ですよ」
「すげえな・・」
「ギール、この魔導具欲しいな」
「無理言わないでくれ、この絨毯だって、確か国宝扱いだったはずだよ」
え、そんなに凄い物なのこれ・・
普通に貸してくれたけど・・
戦場に赴く前のせめてもの優雅な空旅の時間だった。
「場所は把握してるんですか?」
「ええ、この間対峙した時にマーキングしたので、大まかな位置は分かります」
と言っても、半径1km以内に入らないと正確な位置は分からないんだけどね。
その後も優雅な空の旅を続けていると、眼前に不可解な何かを発見する。
「大勢の何かが下にいますね」
下を注意深く観察していたミーチェさんが指をさしてギールさんを引っ張っている。
あんまり、引っ張ると勇者落ちるよ・・。
俺の範囲探索にも複数の反応を捉えているが、敵対反応ではないようだ。
しかし、気になると言う理由から満場一致で降りて確認する事になった。
「こいつは、驚いたなぁ」
まず声を出したのは、この中でも最も大柄な体躯であるゴエールさんだ。
それもそのはず、複数の反応の正体は彼よりも更に大きな体躯を持つ熊人族だったのだ。
その姿は人族寄りではなく獣人寄りの為、まんま大型の熊が重装備を身に付け、二足歩行で歩いている。
その数20弱。まさに圧巻という言葉が妥当なのだが、その中に人族寄りの熊人族が一人混じっていた。
熊耳の獣人とは珍しい。
警戒しないように離れた場所に降り立ち、話し掛けて見ようという事になった。
というのも、熊人族達の進んでいる方向が俺達の向かっている方向と同じだった為だ。
先方がこちらに気が付き、警戒の為か、その手に持つ槍をこちらに向けて構えを取る。
「待って下さい!こちらに敵意はありません。少し話をさせてもらう為に来ました」
ギールさんが、前に立ち言葉を交わす。
その言葉に対してか、熊人族達は仲間内でヒソヒソと話している。
暫くすると、後ろの方にいた人族寄りの熊人族が前に出てくる。
「まずは、威嚇してしまった事を謝罪致します」
ペコリとお辞儀する彼女は、2mを優に超える大柄な熊人族の中にいてその身長は、俺よりも少し低いくらいの何とも見目麗しい、若い女性だった。
熊の丸い耳がその存在感を誇張するようにピクピクと動いていた。
「いえ、急に現れたこちらの方に責任があります。警戒されるのは当然ですよ」
出た。勇者スマイルだ。
前から思ってたけど、何で勇者って揃いも揃って皆イケメンなんだろうね。
イケメンじゃないと勇者になれないとか?
でも、ブサイクな勇者はそれはそれで、どうなんだよって気もするけどね。
っと少しだけ嫉妬してみる。
(私は、彼なんかよりユウさんの方がずっと素敵ですよ)
(あ、セリアちゃん抜け駆けはズルいよ。私が先に言おうと思ってたのに!)
頭の中で何か聞こえた気がしたが、よくある空耳の一種だろう。
驚いたのは、熊人族達の目的は、俺たちと同じだった。
「今日から一人きりの行動は禁止するからな」
ユイやルーも幻術の効果はあるだろうけど、アリスは機械の為、人のいわゆる五感を狂わすような幻術に効果はない。
「お兄ちゃんをそんな目に合わせていたなんて許せない!こっちから倒しに行こうよ!」
ユイの怒った顔は俺的にはデジャビュなんだよね・・
なるべく思い出さないようにしよう。
「大凡の居場所は分かるから、こっちから先制する事は可能だけど・・・」
ユイが身支度を整え始める。
まさか、本当に行くのか?今から?まだ夜明け前だけど?
そのユイの行動に、ルーとアリスも続く。
「ユウさんをいじめた罪は重いです!」
「マスターの痛みは私の痛み」
おいおい、まじかよ。
「言っておくが今回の敵は強いぞ?みんな覚悟は出来てるのか?」
「お兄ちゃんの敵は私の敵だもん、それに危なくなったら守ってくれるでしょ?」
「ユウさんと一緒なら、まさに鬼に金棒!魔王でもなんでも来やがれですよ」
「マスターとなら、どんな相手にだって負けません」
討伐隊が揃うのを待つ事は出来るが、確かに生半可な人選だと、俺達にとってはかえって足手まといになり兼ねない。
不死の王については、ちょっとしたエッセイ本が出版出来るほどに勉強したつもりだ。
そして、実は奴には弱点がある事が分かった。
それは…右胸の下辺りに聖なる力を宿した武具で貫く事。そうすれば、その無尽蔵の生命力を断つ事が出来るそうだ。
聖なる力を宿した武具とは、恐らく聖剣の類だろう。
俺は以前、古都ツガール帝国から持ち帰った、聖剣アスカロンを持っている。
例の封印については、結局何処にも記載してなかったが、封印じゃ意味がない。
決して自信過剰な訳ではない。
相手の事を知ったからこそ、倒せるという結論に至ったんだ。
俺達なら勝てると。
「なら、俺たちでいっちょ倒しに行くか!」
「「おー!!」」
その後、一眠りした後に討伐の為の作戦会議をしていると、不意に訪問客が訪れた。
「朝早くに申し訳ない」
早朝の為か少しテンション低めの勇者の姿がそこにあった。
「ギールさん、おはようございます。どうしたんですか?こんなに朝早くから」
「討伐前にどうしてもユウ殿に話しておかなければならないと思ってね」
「えっと、部屋を変えましょうか?」
「いやいや、気にしなくていいよ」
終始真剣な表情のまま、ギールさんは語り出す。
「不死の王には絶対に勝てない。勝てないんだ・・それが僕が直接対峙して掴んだ印象だ。あいつは強すぎる。次元が違う」
イキナリの降参宣言。
勇者がそれで良いのかよと思ってしまうが、ギールさんは、実際にこの目で見たらしい。
唯一の弱点だと思っていた右胸の下への攻撃が効かなかったらしい。
勇者は当然の事ながら聖剣を持っている。
俺と同じように事前に情報を仕入れ、実際に試したのだろう。
不死である存在に対しての唯一の弱点。
それが失敗に終わり、戦意を喪失していると言う事か。
弱点の件も俺的には多少は期待していた程度だったので、使えないならそれだけに過ぎない。
当初の予定通り粉微塵にするだけだ。
「これから俺達は単独で不死の王を狩りに行きます。当然勝算はあるつもりです」
「ダメだ!無謀過ぎる!」
「ですが、ただ人数だけを揃えてもあいつの前で無意味なのは、実際に対峙したあなたなら分かるはず」
「だが、それでもみすみす殺されに行くようなものだ!君達は強いのだろう。だけど、実際に対峙して受けた印象は規格外のバケモノって事だけだ・・。人族じゃあいつには勝てない!」
「復活してまだ日が浅いです。力だってまだ完全には取り戻してはいないようですし、仕掛けるならば早い方がいい」
その後何度かやり取りが続いた。
「どうしても行くのかい?」
「はい、なるべく早い方がいいと思ってますから」
「分かった・・・ならば僕らも行こう」
え?僕ら?
再び、部屋のドアが開かれた。
うん、確かに部屋の外に誰かがいるのは範囲探索で分かっていたんだけど、、
「マーレ、ゴエール、ミーチェ、一緒に行ってくれるかい?」
「私はどこまでもギールについて行きます」
「兄さんの仇をこの手で取る為なら」
「俺がいないと、お前らが心配だからな」
この展開は正直考えていなかった。
しかし、他の冒険者ならいざ知らず、勇者とその一行ならば実力は申し分ないだろう。
と言う事もあり、勇者一行と俺達の総勢8名で不死の王の討伐に赴く事となった。
流石にギルドに黙って出発する事は出来ないと言うので、しかし、正直その時間も惜しい為、伝令だけを他の者に頼み、急ぎ出発する事となった。
「私、空飛ぶのは初めてです・・」
恐る恐る下を覗き込むマーレさん。
初めての人は、大体皆同じリアクションを取っている気がする。
「バーン帝国のムー王女から今回の討伐の任を受けて拝借した空飛ぶ絨毯ですよ」
「すげえな・・」
「ギール、この魔導具欲しいな」
「無理言わないでくれ、この絨毯だって、確か国宝扱いだったはずだよ」
え、そんなに凄い物なのこれ・・
普通に貸してくれたけど・・
戦場に赴く前のせめてもの優雅な空旅の時間だった。
「場所は把握してるんですか?」
「ええ、この間対峙した時にマーキングしたので、大まかな位置は分かります」
と言っても、半径1km以内に入らないと正確な位置は分からないんだけどね。
その後も優雅な空の旅を続けていると、眼前に不可解な何かを発見する。
「大勢の何かが下にいますね」
下を注意深く観察していたミーチェさんが指をさしてギールさんを引っ張っている。
あんまり、引っ張ると勇者落ちるよ・・。
俺の範囲探索にも複数の反応を捉えているが、敵対反応ではないようだ。
しかし、気になると言う理由から満場一致で降りて確認する事になった。
「こいつは、驚いたなぁ」
まず声を出したのは、この中でも最も大柄な体躯であるゴエールさんだ。
それもそのはず、複数の反応の正体は彼よりも更に大きな体躯を持つ熊人族だったのだ。
その姿は人族寄りではなく獣人寄りの為、まんま大型の熊が重装備を身に付け、二足歩行で歩いている。
その数20弱。まさに圧巻という言葉が妥当なのだが、その中に人族寄りの熊人族が一人混じっていた。
熊耳の獣人とは珍しい。
警戒しないように離れた場所に降り立ち、話し掛けて見ようという事になった。
というのも、熊人族達の進んでいる方向が俺達の向かっている方向と同じだった為だ。
先方がこちらに気が付き、警戒の為か、その手に持つ槍をこちらに向けて構えを取る。
「待って下さい!こちらに敵意はありません。少し話をさせてもらう為に来ました」
ギールさんが、前に立ち言葉を交わす。
その言葉に対してか、熊人族達は仲間内でヒソヒソと話している。
暫くすると、後ろの方にいた人族寄りの熊人族が前に出てくる。
「まずは、威嚇してしまった事を謝罪致します」
ペコリとお辞儀する彼女は、2mを優に超える大柄な熊人族の中にいてその身長は、俺よりも少し低いくらいの何とも見目麗しい、若い女性だった。
熊の丸い耳がその存在感を誇張するようにピクピクと動いていた。
「いえ、急に現れたこちらの方に責任があります。警戒されるのは当然ですよ」
出た。勇者スマイルだ。
前から思ってたけど、何で勇者って揃いも揃って皆イケメンなんだろうね。
イケメンじゃないと勇者になれないとか?
でも、ブサイクな勇者はそれはそれで、どうなんだよって気もするけどね。
っと少しだけ嫉妬してみる。
(私は、彼なんかよりユウさんの方がずっと素敵ですよ)
(あ、セリアちゃん抜け駆けはズルいよ。私が先に言おうと思ってたのに!)
頭の中で何か聞こえた気がしたが、よくある空耳の一種だろう。
驚いたのは、熊人族達の目的は、俺たちと同じだった。
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