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第十一話:ダンジョン探索【魔族との遭遇】
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1日かけて、俺達は王都へ戻ってきた。
討伐メンバーとは、到着するなり解散した。
広い王都とはいえ、また何処かで会えるだろう。
そしてもう1人の仲間と合流していた。
精霊のセリアだ。
合同任務を受ける際に、セリアはお暇の許可を俺に求めてきた。なぜ許可が必要なのか聞いてみたが、精霊にとって宿主は崇高な存在で、何をするにも宿主の許可が必要なのだそうだ。
ご主人様みたいなものなのだろうか?
とはいえご苦労な事だ。
俺達は、まずギルドへ向かい報告と報酬を貰いにいく。
報酬額がかなり多い。依頼を受ける際は、報酬の事よりも魔女の正体が気になっていたので、報酬の事は頭になかった。
銀貨にしておよそ100枚だ。金貨1枚分に相当する。
報酬を受け取り、ギルドを後にした。
俺は、もう少ししたらこの街を出ようと思っている。
しかしその前に最後に行っておきたい場所があったのだ。
貴族街?違う。行ってはみたいが、今じゃなくていい。
そこは、街の南側に位置する場所で、大きな横穴が掘られている。
そう、ダンジョンの入口だ。
この世界にはどういう事か、大きな街や都市にはダンジョンが1つだけ存在しているらしい。
一説によれば、ダンジョンがある所に後から国を建造したそうなのだが、このダンジョン自体、遥か昔からその場所に存在しているそうだ。
ダンジョンには、各階層毎にモンスターが生息しており、下の階層に降りて行くほどにモンスターのレベルが上がっていく。
冒険者がダンジョンに潜る理由は大きく分けて二つある。
まず一つは、魔導具による一攫千金狙いだ。
この世界に存在する魔導具のほとんどがダンジョン算出品だ。
魔導具は多数存在が確認されており、一つとして同じものは存在しない。全く価値のない魔導具も存在すれば、とんでもない価値の魔導具も存在する。
故に冒険者は、ダンジョンへ潜るのだ。
もう一つは、レベル上げだ。ダンジョンはレベル管理されたモンスターがいるのでレベル上げがやりやすいのだ。
じゃ、俺の場合は?
どちらでもないだろう。強いて言うならば、興味本位というやつだろうか。
ダンジョンなんていう言葉だけで中二心をくすぐられる。
だが何度も言うが、俺は中二病じゃないからね。
というのは置いておいて、本当の目的は、ユイのレベル上げだ。
ユイは強い。だが、今回のシルの件やドラゴンの件もある。
ユイのレベルをもっと上げておきたい。
ダンジョンは低階層に潜れば、効率よく高レベルのモンスターを狩ることが出来る。
俺がいるから、よっぽどがない限りは大丈夫だろうが、モンスター以外にもう一つ注意する点があった。
目立ち過ぎない事だ。
周りからコイツ強すぎ。と思われてはだめなのだ。
先生も言っていたが、昔からこの世の中、圧倒的な力を持つ者は、政治に利用されるか、暗殺されるか勇者になるかのどれかしかない。
俺の場合は、剣は扱えない魔術バカなだけなので、勇者にはなれない。なるつもりもないけど。
どちらにしても良いことはない。
従って、目立たないようにする必要があったのだ。
今日1日はダンジョン探索の準備に当て、探索は明日からやるつもりだ。
俺は、この事をユイとセリアに話した。
ユイは、ダンジョンわーい!と言って何故か喜んでいる。
セリアは、分かりました。と一言だけ。
ダンジョンには5階層おきに安全層という階層があり、安全層にはモンスターが生息していないそうだ。
小休止目的で活用されたり、そこに寝泊まりする者もいる。
俺もそのつもりだった。俺の場合はストレージがあるので、食料や荷物は持ち運ぶ必要がなく、且つ無制限に持っていく事ができる。
食料や日用品を購入しては、ストレージにしまっていく。
ユイは、遠足にでも行く気分なのだろか。終始ルンルンだ。
おやつはいくらまで?と聞いてきそうな雰囲気だ。
ちなみに精霊は飲食を必要としないそうだ。セリアも例外ではない。
ある程度の準備を終えた所で、日も暮れてきたので宿屋へ戻る。
夜中ベッドで寝ていて何度かユイに起こされた。
ユイは寝相が悪い。しかも極端に。
なぜ俺はユイと一緒に寝ているのかと言うと、ユイが譲らなかったからだ。
同じ部屋はまだいいとして、せめてベッドは別々を考えていた。
しかし、ユイは兄弟は同じベッドで寝るの!の一点張りで、結局俺の方が折れる羽目になった。
次の日。俺は少し寝不足だったが、ユイに悪気はない。
外は晴れている。絶好のダンジョン日和だなんて考えながら朝食を食べていた。
「さて、腹も膨れたし、行くかね」
俺は、宿屋をチェックアウトする。
何日も戻ってこれないだろうしね。ホリーさんに挨拶しておく。
ココナの姿が見えなかったので、お世話になったと伝えてもらう事にした。
俺達は、ダンジョン入り口のある街の南側へ向かう。
宿からは15分くらいの距離だった。
入り口の穴は直径3mほどだろうか。槍を構えて門番がいる。
どうやら中に入るには簡単な申請が必要なようだ。
滞在時間も申告が必要なようで、この期間を過ぎると救援チームが派遣されるらしい。
俺は数日篭る気でいたので、とりあえず1週間と答えた。
門番は凄く驚いていた。
日数にではなく、日数の割に荷物が少ない為だ。一応偽装工作として、カバンをそれぞれが肩に掛けてはいるが、それでも圧倒的に持ち物が少ないのだろう。
そんな門番の疑問など知る由もない。
俺達はダンジョンの中へと入っていった。
第1階層は、最弱クラスのモンスターがいるらしいのだが、果たしてどんなのが出てくるのか。最弱といえば、どうしてもスライムを想像してしまう。
隣にいるユイは相変わらず楽しそうだった。
手を繋いでピクニック気分だった。
ユイめ、楽しいのも今のうちだぞ。
俺はここへ来た目的をまだユイに伝えていない。
そう、鬼のようなスパルタがユイを待っているのだ。
さて、目の前にモンスターがいる。
いや、ネズミがいる。
ん?とうやらコイツはモンスターの類のようだ。
レベルは1か。逆に小さすぎて攻撃が当てにくいんじゃないだろうか。
と思ったが、ユイはなんの躊躇もなく小さなネズミを狩っていく。
その後2階層に続く階層にたどり着くまでに20~30匹は倒していた。
言うまでもないが、全てユイによる一撃必殺だ。
気が付くと俺達は第5階層の安全層まで降りていた。やはり下層へ降りるごとにモンスターのレベルが上がっていく。
第4階層は、レベル7程度だった。
それでも、まだまだ俺達の相手にもならない。
ここまでで特に変わった事はなく、道中何チームかの冒険者とすれ違う程度だった。
ダンジョンに入った時から俺には気になることがあった。
洞窟と言うのは光源がなければ本来真っ暗なはずなのだが、中は以外と明るい。
天井に照明でもあるかのようだった。
ダンジョンに潜り3時間ほどが経過しただろうか、いつの間にか12階層まで降りていた。
11階層以降は洞窟は格段に広くなった。フィールドと言っても過言ではない。天井なんて遥か先だ。
どんな構造になっているのか非常に気になったが、調べる術もないので諦める。
ここのモンスターのレベルは20前後だ。
攻撃は全てユイに任せて、危険な時は俺が手助けする。ユイのレベルよりモンスター共のレベルは上なのだが、5匹に囲まれてもユイは余裕そうだった。
そのまま15階層まで降りて来た。
少し休憩しよう。ここまで4時間弱ブッ通しで進んで来たためさすがのユイも疲れているようだ。
俺はストレージから、暖かいスープとスモールベアの串焼きを取り出した。
もちろん焼き立てだ。
安全層には、本当にモンスターが沸かないらしく、テントを張り野営している冒険者がチラホラ見える。どのパーティーも最低5人以上いて、こちらが2人しかいない事を不思議な眼差しで見ていた。目立ちたくなかったが、充分目立っているようだ。
俺達は休憩を終え、16階層へと降りていく。
モンスターのレベルが30を超え出していた。数体までならユイでも倒せるが、4体以上同時に来られるとさすがにキツそうだったので2体以上は、俺が受け持つ事にした。
俺は雷撃で敵を一掃していく。
ふと思い付いた事がある。
同じ階層にいるモンスターの弱点属性は同じなのだ。上の階層もモンスターは何種類といたが、全員同じ属性だった。
この階層のモンスターの弱点属性は水だ。
という事は、魔術付与が有効という事だ。
得意属性の場合の攻撃力は2倍になる恩恵がある。
早速ユイに使ってみよう。それと、速度強化があるのを思い出したため、同時に使用した。
「体が軽い!何か強くなった気がするよ!」
ユイが騒いでいる。
いくらなんでもそんな簡単に強くなれるはずが、・・なれるはずが・・・・・・なれているな。
ただでさえ素早かったユイが、一層速さを増している。、魔術付与による攻撃力アップも加わってバッタバッタと敵をなぎ倒していた。
「これは、もうこの階層には俺の出番はないな」
名前:ユイ・ハートロック
レベル:28
種族:獣人族 狐人
職種:盗賊
スキル:盗作Lv2、殴打Lv2、反撃打Lv1、連撃斬Lv3
レベル上がりすぎ・・。それに新しいスキルを覚えている。
たしかこのダンジョンに潜る前に確認した時は、レベル20だったはずだ。
半日足らずでこの成長速度とは・・。
実際、道中のパーティーを見ていても多人数で1匹を狩るのに時間を掛けていたし、こんなにサクッと、しかも1人で倒せるはずがないのだよね。
「そりゃ、レベルも上がるの早いよね」
ユイが、どうかしたの?という顔をしている。
振り向いたユイは、モンスターを倒した時に浴びた血しぶきまみれになっていた。
俺は、洗浄を使う。
よし、キレイになった。
「ユイは、いろいろとスキルを覚えているみたいだけど、使わないの?」
戦闘でまったくスキルを使っていなかったので、聞いてみた。
何か理由でもあるのだろうか?
ユイは少し考えた後に返事をする。
「そーいえば、そんなのあったっけね!私スキルなんて生まれてから一度も使ったことなかったから、存在自体忘れてた!」
あ、そーですか。なるほど。
その後の戦闘では、ユイはスキルを使い、その威力に自分が驚いていた。
時々俺も戦闘に参加する。
参加すると言っても、魔法で一撃という簡単な作業なんだけども。
さて、あれから更に下層へと降りてきた。
次第にすれ違う人も減り、この2階層くらいは誰にも会っていない。
俺達は20階層まで降りていた。
「今日はここで寝泊まりしようか」
「はーい!」
ユイが元気よく返事を返す。
こういう仕草は、本当に妹って感じなんだけど、戦闘中はまったく雰囲気が違う。獲物を仕留める獣のような雰囲気になるのだ。
俺はストレージからテントを取り出す。
テントはわざわざ張らずとも、張ったままの状態でストレージに入れていたので、出したらそのまま使える。実に便利だ。
ストレージから食事を取り出し、ユイと食べながら俺は考えていた。
このペースで降りて行っても、モンスターのレベルも上がり、ユイでは勝てない相手も出てくる。
この20階層を拠点として、ユイのレベルを少しずつ上げていくことにするか。
レベルの上がりは良いようだから、目標は40くらいだな。40になったら、25階層を目指そう。
そんな事を考えていると、隣のユイがコックリコックリしていた。
さすがに丸一日戦闘しっぱなしだったのだから、疲れていても無理はない。
もう寝るぞ。とユイに言い、テントに入った。
戦闘はほとんどユイがこなしていたため、正直俺自身は疲れていなかったのだが、自然と横になると眠ってしまった。
「・私・願い・け・。私の・・界を・・て・・守・・。・願・・」
何かが俺に囁きかける。
ハッと起きたとき、すでに朝になっていた。
なぜ俺にはこの陽の光の届かないダンジョンの中で時間が分かるのか。
それは、ダンジョンに潜る前に、魔導具屋で1つの魔導具を購入していた。
それは、クロックウォーカーという名前の置物だ。
置物には、針のようなものが付いている。
この針が、1時間に1回ずつ動いていくのだ。
そう、つまり時計だ。俺はその置物に数字を書いていた。
今の時間が正確とまではいかないが、だいたいの精度で把握できる代物だ。
良い買い物をしたと思っている。
当面の間は21階層で狩りを行う事にする。
ここのモンスターの弱点属性は水だ。
俺はユイに水の魔術エンチャントを施している。
手助けする必要はないのだが、いくつか魔術の試し打ちをしていた。俺自身多数の魔術を会得しているが、使った事のないものが大半だったのだ。
俺は一つ一つ魔術の特製を確かめながら撃ち放っていく。
今試しているのは、無属性魔術の重力だ。
重力魔術で、対象エリアに重力場を発生させる事ができる。
レベル36のモンスターが簡単にグシャリと潰れている。
かなり強い魔術のようだから使い所に注意する必要がありそうだね。
レーダーに白い反応が1つ現れた。この階層で初めて出会う冒険者だな。
しばらくレーダーの動きを見ていたが、何やら動きがおかしい。
右に左に、まるで何かから逃げているようだった。
気になるので、ユイと一緒にレーダーの反応が指し示す場所へと急行する。
姿が見えてきた。
やはりモンスターに囲まれている。今にも殺されそうになっていた。
ユイに指示し、全速力で取り囲んでいるモンスターを1匹残らず駆逐していく。
狩人の青年のようだ。
酷くダメージを負っていたので、俺は治癒で傷を癒す。
「あ、ありがとうございます、助かりました・・」
青年は酷く動揺していた。
無理もない。先ほどまで命の危機に瀕していたのだ。
「仲間たちが、この奥に取り囲まれてるんです。助けて下さい・・・」
どうやら他に仲間がいるようだ。レーダーに反応が無いので、かなり奥なのだろう。
「ユイ、敵の数が多いかもしれない。油断するなよ」
ユイは、ラジャーのポーズを取っている。
青年と一緒に仲間たちの元へと向かう。
道中のモンスターをユイと一緒に排除しながら、先へと進んでいく。
そしてレーダーに反応が現れた。
数は、1、2・・6人だな。
さり気無く青年に人数を聞いてみる。
「私を入れて7人です」
良かった全員、無事なようだ。今のところは。
目の前の敵を倒し、奥へと進んでいく。
青年も後ろから援護してくれていた。
よく見ると、この青年なかなかにレベルが高いぞ。
まぁ、この21階層に来ると言うだけあって、それなりにはレベルは高いのだろう。
そして俺達は青年のパーティーの所まで辿り着いた。
モンスターに囲まれて、苦戦しながらもなんとか攻撃に耐えている感じだ。
そこにユイが疾風のごとく凄まじいスピードでモンスターを次から次へとなぎ倒していく。
俺の出番はなさそうなので、6人を順々に治癒をかけていく。
Lv3なので全回復なはずだ。
ユイが敵を全滅させ、俺の所に戻ってくる。
「よくやった、えらいぞ」
そう言ってユイの頭をなでなでする。
青年がパーティーの元へ駆け寄り、抱き合っている。
全員無事で何よりだった。
全員上級者レベルでそれなりに、この階層で狩をしていたのだが、突如モンスターが大量に襲ってきたのだそうだ。
そのモンスター達は、どこか統率が取れている感じで、奥の方に黒い球体のようなやつがいたのだそうだ。段々とこらえきれなくなり、撤退する事にしたのだが、あまりに数が多く、青年が1人助けを求めて駆け出したのだと言う。そこに俺達が登場したってわけだ。
皆、感謝していた。
といっても、いつまでもこんな危ないところでトーク出来ないわけで、俺達はここに残り、青年のパーティーは、一度地上に戻ることになった。ここでお別れのようだ。
地上で会ったら、酒でもご馳走するよと約束して別れた。
さて、どうしたものか。
さっき話の出てきた黒い球体というのが非常に気になる。
危険かもしれないが、このレベル帯なら、まだ大量沸きしても何とかなるだろう。
しかし、油断は禁物だ。俺とユイは、心してこの先に進むことにした。
レーダーに大量のモンスター反応が見える。
数えるのもめんどくさい。恐らく100体以上だろう。
ユイを自分の後ろに下がらせる。
杖に魔力を込めた。雷嵐を最大レベルでチャージしておく。
その状態のまま、敵の大群の方へ近づく。
モンスターが視界に入ってきた。
恐ろしい数だ。
モンスターもこちらに気が付いたのか、一斉に俺達目がけて襲い掛かってくる。
確かに動きが妙だ。
モンスター同士が一斉に同じタイミングで襲い掛かってくるなんて、今までなかった。
まぁ、排除するまでだけど。
俺は杖をモンスターの大群の方へ向ける。
「サンダーストーム!」
どういった原理かは不明だが、何もない上空から雷の嵐がモンスターの大群目がけて降り注いでいる。
すり抜けてこちらへ向かってくる奴は、単発で風撃で沈めていく。
ユイが後ろで目をキラキラさせている。
「お兄ちゃんヤバつよ」
そういえば、ユイの前で本気の魔術を放ったことはなかったな。
しばらくすると、レーダーに反応する赤い点が1つを残して全て消えていた。
これだけの雷嵐を喰らって無事な奴がこの階層にいるのか。
先ほどの青年たちの言葉が脳裏を過る。
黒い球体か・・。
レーダーに唯一残っている赤い点が、その黒い球体だったのだ。
名前「????」
レベル55
種族:魔族
弱点属性:聖
スキル:????
「おいおい、魔族ってなんだよ」
俺の言葉にユイが反応する。
「マゾク?」
たしか、前に先生たちに聞いたことがあったが、たしか魔族は何十年も前からなりを潜めているって聞いたことがあった。
まさかこんなにすぐに会えるとは思っていなかった。
というか、出来れば会いたくなかった。
HPバーを見ると半分くらい削れていた。
とりあえず、相手のレベルとHPの減り具合を考えても、なんとか勝てそうな相手だが・・。
と、その時だった。
パリパリっと突如黒い球体にヒビが入った。
まるで卵の殻が割れるように。
嫌な予感しかしない。中から魔族の王、魔王が現れました。なんてごめんだ。
俺達と黒い球体との距離は約30m。
もしヤバいのが出てきたら、全速力で走って逃げよう。
石壁で妨害しながら進めばなんとかなるだろう・・。
俺達が警戒していると、黒い球体の中から何かが出てきた。
黒い犬のようだ。
名前「ヘル・ハウンド」
レベル55
種族:魔族
弱点属性:聖
スキル:遠吠え、呪怨Lv1、時限転移、ブラックホールLv1、黒焔弾Lv2
名前が出ている。
って、HPは全回復かよ。
チート反対!とか思いながら、撤退するか考えていた。というのも、、時限転移ってなんだよ・・。
と思っていたら、黒犬が消えていきなり目の前に現れた。
!?
俺は驚いて杖を構えようとしたが、黒犬は待ってくれなかった。
至近距離で黒い炎の玉を連射してきた。
さすがに予期していなかった為、俺は咄嗟にユイを抱きかかえ、背中に黒炎の玉を受ける。
もろに攻撃が当たってしまった。
ユイがお兄ちゃん!?と叫んでいる。
俺は恐る恐る自分のHPを確認したが、10分の1くらい減っていた。
なんだ10分の1か。
少しばかり焦ったじゃないか。
俺はユイの頭をなでなでする。
「いいか、ユイ。ピンチの時は兄が妹を守るものなんだぞ」
別に今ここで言うセリフでもなかったのだが、ユイがひどく動揺していたので、和ませる意味でもあった。
「さてと、反撃してやろうじゃないか。な、ユイ」
ユイが反応する。
「お兄ちゃんに攻撃するなんて、私、絶対許さない!」
ん?ユイさんが、げきおこモードになっている。
次の瞬間、抱きかかえている俺の両腕からユイが消え、黒犬に一撃を浴びせていた。
え?今の動きは俺でも見えなかったぞ?
名前:ユイ・ハートロック
レベル:35
種族:獣人族 狐人
職種:盗賊
スキル:盗作Lv2、殴打Lv2、反撃打Lv1、連撃斬Lv3
状態:バーサク
状態にバーサク?
これか、ユイの体から湯気のような物が出ている。
風呂に入った後に体全身から出てくる湯気をもうちょっと濃くしたような感じだ。
今まで以上の速度で、黒犬をミンチにしていく。
黒犬が動けないでいるうちにどんどんHPがなくなっていく。
そして20秒もしない間に黒犬が煙となって消えてしまった。
どうやら倒してしまったようだ。
バーサクやばいな。というかユイを怒らせたらヤバいぞ・・。
ユイが俺の方に駆け寄ってきた。
近づいても大丈夫だろうか・・。
ユイはいつも通りの表情だ。
良かった、大丈夫なようだな。
そして俺はユイに叱られた。
「お兄ちゃんを守るのは妹の私なんだからね!私を守って死んじゃうなんて絶対やだからねっ!」
気持ちはすごくありがたいのだが、逆の立場も考えて欲しいものだ。
「分かった。でもユイに守られなくてもいいくらいに俺は強くなるからな。ユイ、お前も俺に守られなくてもいいくらいに強くなってくれよ」
ユイが抱き着いてくるので俺も抱きしめてやった。
そして、俺たちは20階層の安全層まで戻ってきた。
討伐メンバーとは、到着するなり解散した。
広い王都とはいえ、また何処かで会えるだろう。
そしてもう1人の仲間と合流していた。
精霊のセリアだ。
合同任務を受ける際に、セリアはお暇の許可を俺に求めてきた。なぜ許可が必要なのか聞いてみたが、精霊にとって宿主は崇高な存在で、何をするにも宿主の許可が必要なのだそうだ。
ご主人様みたいなものなのだろうか?
とはいえご苦労な事だ。
俺達は、まずギルドへ向かい報告と報酬を貰いにいく。
報酬額がかなり多い。依頼を受ける際は、報酬の事よりも魔女の正体が気になっていたので、報酬の事は頭になかった。
銀貨にしておよそ100枚だ。金貨1枚分に相当する。
報酬を受け取り、ギルドを後にした。
俺は、もう少ししたらこの街を出ようと思っている。
しかしその前に最後に行っておきたい場所があったのだ。
貴族街?違う。行ってはみたいが、今じゃなくていい。
そこは、街の南側に位置する場所で、大きな横穴が掘られている。
そう、ダンジョンの入口だ。
この世界にはどういう事か、大きな街や都市にはダンジョンが1つだけ存在しているらしい。
一説によれば、ダンジョンがある所に後から国を建造したそうなのだが、このダンジョン自体、遥か昔からその場所に存在しているそうだ。
ダンジョンには、各階層毎にモンスターが生息しており、下の階層に降りて行くほどにモンスターのレベルが上がっていく。
冒険者がダンジョンに潜る理由は大きく分けて二つある。
まず一つは、魔導具による一攫千金狙いだ。
この世界に存在する魔導具のほとんどがダンジョン算出品だ。
魔導具は多数存在が確認されており、一つとして同じものは存在しない。全く価値のない魔導具も存在すれば、とんでもない価値の魔導具も存在する。
故に冒険者は、ダンジョンへ潜るのだ。
もう一つは、レベル上げだ。ダンジョンはレベル管理されたモンスターがいるのでレベル上げがやりやすいのだ。
じゃ、俺の場合は?
どちらでもないだろう。強いて言うならば、興味本位というやつだろうか。
ダンジョンなんていう言葉だけで中二心をくすぐられる。
だが何度も言うが、俺は中二病じゃないからね。
というのは置いておいて、本当の目的は、ユイのレベル上げだ。
ユイは強い。だが、今回のシルの件やドラゴンの件もある。
ユイのレベルをもっと上げておきたい。
ダンジョンは低階層に潜れば、効率よく高レベルのモンスターを狩ることが出来る。
俺がいるから、よっぽどがない限りは大丈夫だろうが、モンスター以外にもう一つ注意する点があった。
目立ち過ぎない事だ。
周りからコイツ強すぎ。と思われてはだめなのだ。
先生も言っていたが、昔からこの世の中、圧倒的な力を持つ者は、政治に利用されるか、暗殺されるか勇者になるかのどれかしかない。
俺の場合は、剣は扱えない魔術バカなだけなので、勇者にはなれない。なるつもりもないけど。
どちらにしても良いことはない。
従って、目立たないようにする必要があったのだ。
今日1日はダンジョン探索の準備に当て、探索は明日からやるつもりだ。
俺は、この事をユイとセリアに話した。
ユイは、ダンジョンわーい!と言って何故か喜んでいる。
セリアは、分かりました。と一言だけ。
ダンジョンには5階層おきに安全層という階層があり、安全層にはモンスターが生息していないそうだ。
小休止目的で活用されたり、そこに寝泊まりする者もいる。
俺もそのつもりだった。俺の場合はストレージがあるので、食料や荷物は持ち運ぶ必要がなく、且つ無制限に持っていく事ができる。
食料や日用品を購入しては、ストレージにしまっていく。
ユイは、遠足にでも行く気分なのだろか。終始ルンルンだ。
おやつはいくらまで?と聞いてきそうな雰囲気だ。
ちなみに精霊は飲食を必要としないそうだ。セリアも例外ではない。
ある程度の準備を終えた所で、日も暮れてきたので宿屋へ戻る。
夜中ベッドで寝ていて何度かユイに起こされた。
ユイは寝相が悪い。しかも極端に。
なぜ俺はユイと一緒に寝ているのかと言うと、ユイが譲らなかったからだ。
同じ部屋はまだいいとして、せめてベッドは別々を考えていた。
しかし、ユイは兄弟は同じベッドで寝るの!の一点張りで、結局俺の方が折れる羽目になった。
次の日。俺は少し寝不足だったが、ユイに悪気はない。
外は晴れている。絶好のダンジョン日和だなんて考えながら朝食を食べていた。
「さて、腹も膨れたし、行くかね」
俺は、宿屋をチェックアウトする。
何日も戻ってこれないだろうしね。ホリーさんに挨拶しておく。
ココナの姿が見えなかったので、お世話になったと伝えてもらう事にした。
俺達は、ダンジョン入り口のある街の南側へ向かう。
宿からは15分くらいの距離だった。
入り口の穴は直径3mほどだろうか。槍を構えて門番がいる。
どうやら中に入るには簡単な申請が必要なようだ。
滞在時間も申告が必要なようで、この期間を過ぎると救援チームが派遣されるらしい。
俺は数日篭る気でいたので、とりあえず1週間と答えた。
門番は凄く驚いていた。
日数にではなく、日数の割に荷物が少ない為だ。一応偽装工作として、カバンをそれぞれが肩に掛けてはいるが、それでも圧倒的に持ち物が少ないのだろう。
そんな門番の疑問など知る由もない。
俺達はダンジョンの中へと入っていった。
第1階層は、最弱クラスのモンスターがいるらしいのだが、果たしてどんなのが出てくるのか。最弱といえば、どうしてもスライムを想像してしまう。
隣にいるユイは相変わらず楽しそうだった。
手を繋いでピクニック気分だった。
ユイめ、楽しいのも今のうちだぞ。
俺はここへ来た目的をまだユイに伝えていない。
そう、鬼のようなスパルタがユイを待っているのだ。
さて、目の前にモンスターがいる。
いや、ネズミがいる。
ん?とうやらコイツはモンスターの類のようだ。
レベルは1か。逆に小さすぎて攻撃が当てにくいんじゃないだろうか。
と思ったが、ユイはなんの躊躇もなく小さなネズミを狩っていく。
その後2階層に続く階層にたどり着くまでに20~30匹は倒していた。
言うまでもないが、全てユイによる一撃必殺だ。
気が付くと俺達は第5階層の安全層まで降りていた。やはり下層へ降りるごとにモンスターのレベルが上がっていく。
第4階層は、レベル7程度だった。
それでも、まだまだ俺達の相手にもならない。
ここまでで特に変わった事はなく、道中何チームかの冒険者とすれ違う程度だった。
ダンジョンに入った時から俺には気になることがあった。
洞窟と言うのは光源がなければ本来真っ暗なはずなのだが、中は以外と明るい。
天井に照明でもあるかのようだった。
ダンジョンに潜り3時間ほどが経過しただろうか、いつの間にか12階層まで降りていた。
11階層以降は洞窟は格段に広くなった。フィールドと言っても過言ではない。天井なんて遥か先だ。
どんな構造になっているのか非常に気になったが、調べる術もないので諦める。
ここのモンスターのレベルは20前後だ。
攻撃は全てユイに任せて、危険な時は俺が手助けする。ユイのレベルよりモンスター共のレベルは上なのだが、5匹に囲まれてもユイは余裕そうだった。
そのまま15階層まで降りて来た。
少し休憩しよう。ここまで4時間弱ブッ通しで進んで来たためさすがのユイも疲れているようだ。
俺はストレージから、暖かいスープとスモールベアの串焼きを取り出した。
もちろん焼き立てだ。
安全層には、本当にモンスターが沸かないらしく、テントを張り野営している冒険者がチラホラ見える。どのパーティーも最低5人以上いて、こちらが2人しかいない事を不思議な眼差しで見ていた。目立ちたくなかったが、充分目立っているようだ。
俺達は休憩を終え、16階層へと降りていく。
モンスターのレベルが30を超え出していた。数体までならユイでも倒せるが、4体以上同時に来られるとさすがにキツそうだったので2体以上は、俺が受け持つ事にした。
俺は雷撃で敵を一掃していく。
ふと思い付いた事がある。
同じ階層にいるモンスターの弱点属性は同じなのだ。上の階層もモンスターは何種類といたが、全員同じ属性だった。
この階層のモンスターの弱点属性は水だ。
という事は、魔術付与が有効という事だ。
得意属性の場合の攻撃力は2倍になる恩恵がある。
早速ユイに使ってみよう。それと、速度強化があるのを思い出したため、同時に使用した。
「体が軽い!何か強くなった気がするよ!」
ユイが騒いでいる。
いくらなんでもそんな簡単に強くなれるはずが、・・なれるはずが・・・・・・なれているな。
ただでさえ素早かったユイが、一層速さを増している。、魔術付与による攻撃力アップも加わってバッタバッタと敵をなぎ倒していた。
「これは、もうこの階層には俺の出番はないな」
名前:ユイ・ハートロック
レベル:28
種族:獣人族 狐人
職種:盗賊
スキル:盗作Lv2、殴打Lv2、反撃打Lv1、連撃斬Lv3
レベル上がりすぎ・・。それに新しいスキルを覚えている。
たしかこのダンジョンに潜る前に確認した時は、レベル20だったはずだ。
半日足らずでこの成長速度とは・・。
実際、道中のパーティーを見ていても多人数で1匹を狩るのに時間を掛けていたし、こんなにサクッと、しかも1人で倒せるはずがないのだよね。
「そりゃ、レベルも上がるの早いよね」
ユイが、どうかしたの?という顔をしている。
振り向いたユイは、モンスターを倒した時に浴びた血しぶきまみれになっていた。
俺は、洗浄を使う。
よし、キレイになった。
「ユイは、いろいろとスキルを覚えているみたいだけど、使わないの?」
戦闘でまったくスキルを使っていなかったので、聞いてみた。
何か理由でもあるのだろうか?
ユイは少し考えた後に返事をする。
「そーいえば、そんなのあったっけね!私スキルなんて生まれてから一度も使ったことなかったから、存在自体忘れてた!」
あ、そーですか。なるほど。
その後の戦闘では、ユイはスキルを使い、その威力に自分が驚いていた。
時々俺も戦闘に参加する。
参加すると言っても、魔法で一撃という簡単な作業なんだけども。
さて、あれから更に下層へと降りてきた。
次第にすれ違う人も減り、この2階層くらいは誰にも会っていない。
俺達は20階層まで降りていた。
「今日はここで寝泊まりしようか」
「はーい!」
ユイが元気よく返事を返す。
こういう仕草は、本当に妹って感じなんだけど、戦闘中はまったく雰囲気が違う。獲物を仕留める獣のような雰囲気になるのだ。
俺はストレージからテントを取り出す。
テントはわざわざ張らずとも、張ったままの状態でストレージに入れていたので、出したらそのまま使える。実に便利だ。
ストレージから食事を取り出し、ユイと食べながら俺は考えていた。
このペースで降りて行っても、モンスターのレベルも上がり、ユイでは勝てない相手も出てくる。
この20階層を拠点として、ユイのレベルを少しずつ上げていくことにするか。
レベルの上がりは良いようだから、目標は40くらいだな。40になったら、25階層を目指そう。
そんな事を考えていると、隣のユイがコックリコックリしていた。
さすがに丸一日戦闘しっぱなしだったのだから、疲れていても無理はない。
もう寝るぞ。とユイに言い、テントに入った。
戦闘はほとんどユイがこなしていたため、正直俺自身は疲れていなかったのだが、自然と横になると眠ってしまった。
「・私・願い・け・。私の・・界を・・て・・守・・。・願・・」
何かが俺に囁きかける。
ハッと起きたとき、すでに朝になっていた。
なぜ俺にはこの陽の光の届かないダンジョンの中で時間が分かるのか。
それは、ダンジョンに潜る前に、魔導具屋で1つの魔導具を購入していた。
それは、クロックウォーカーという名前の置物だ。
置物には、針のようなものが付いている。
この針が、1時間に1回ずつ動いていくのだ。
そう、つまり時計だ。俺はその置物に数字を書いていた。
今の時間が正確とまではいかないが、だいたいの精度で把握できる代物だ。
良い買い物をしたと思っている。
当面の間は21階層で狩りを行う事にする。
ここのモンスターの弱点属性は水だ。
俺はユイに水の魔術エンチャントを施している。
手助けする必要はないのだが、いくつか魔術の試し打ちをしていた。俺自身多数の魔術を会得しているが、使った事のないものが大半だったのだ。
俺は一つ一つ魔術の特製を確かめながら撃ち放っていく。
今試しているのは、無属性魔術の重力だ。
重力魔術で、対象エリアに重力場を発生させる事ができる。
レベル36のモンスターが簡単にグシャリと潰れている。
かなり強い魔術のようだから使い所に注意する必要がありそうだね。
レーダーに白い反応が1つ現れた。この階層で初めて出会う冒険者だな。
しばらくレーダーの動きを見ていたが、何やら動きがおかしい。
右に左に、まるで何かから逃げているようだった。
気になるので、ユイと一緒にレーダーの反応が指し示す場所へと急行する。
姿が見えてきた。
やはりモンスターに囲まれている。今にも殺されそうになっていた。
ユイに指示し、全速力で取り囲んでいるモンスターを1匹残らず駆逐していく。
狩人の青年のようだ。
酷くダメージを負っていたので、俺は治癒で傷を癒す。
「あ、ありがとうございます、助かりました・・」
青年は酷く動揺していた。
無理もない。先ほどまで命の危機に瀕していたのだ。
「仲間たちが、この奥に取り囲まれてるんです。助けて下さい・・・」
どうやら他に仲間がいるようだ。レーダーに反応が無いので、かなり奥なのだろう。
「ユイ、敵の数が多いかもしれない。油断するなよ」
ユイは、ラジャーのポーズを取っている。
青年と一緒に仲間たちの元へと向かう。
道中のモンスターをユイと一緒に排除しながら、先へと進んでいく。
そしてレーダーに反応が現れた。
数は、1、2・・6人だな。
さり気無く青年に人数を聞いてみる。
「私を入れて7人です」
良かった全員、無事なようだ。今のところは。
目の前の敵を倒し、奥へと進んでいく。
青年も後ろから援護してくれていた。
よく見ると、この青年なかなかにレベルが高いぞ。
まぁ、この21階層に来ると言うだけあって、それなりにはレベルは高いのだろう。
そして俺達は青年のパーティーの所まで辿り着いた。
モンスターに囲まれて、苦戦しながらもなんとか攻撃に耐えている感じだ。
そこにユイが疾風のごとく凄まじいスピードでモンスターを次から次へとなぎ倒していく。
俺の出番はなさそうなので、6人を順々に治癒をかけていく。
Lv3なので全回復なはずだ。
ユイが敵を全滅させ、俺の所に戻ってくる。
「よくやった、えらいぞ」
そう言ってユイの頭をなでなでする。
青年がパーティーの元へ駆け寄り、抱き合っている。
全員無事で何よりだった。
全員上級者レベルでそれなりに、この階層で狩をしていたのだが、突如モンスターが大量に襲ってきたのだそうだ。
そのモンスター達は、どこか統率が取れている感じで、奥の方に黒い球体のようなやつがいたのだそうだ。段々とこらえきれなくなり、撤退する事にしたのだが、あまりに数が多く、青年が1人助けを求めて駆け出したのだと言う。そこに俺達が登場したってわけだ。
皆、感謝していた。
といっても、いつまでもこんな危ないところでトーク出来ないわけで、俺達はここに残り、青年のパーティーは、一度地上に戻ることになった。ここでお別れのようだ。
地上で会ったら、酒でもご馳走するよと約束して別れた。
さて、どうしたものか。
さっき話の出てきた黒い球体というのが非常に気になる。
危険かもしれないが、このレベル帯なら、まだ大量沸きしても何とかなるだろう。
しかし、油断は禁物だ。俺とユイは、心してこの先に進むことにした。
レーダーに大量のモンスター反応が見える。
数えるのもめんどくさい。恐らく100体以上だろう。
ユイを自分の後ろに下がらせる。
杖に魔力を込めた。雷嵐を最大レベルでチャージしておく。
その状態のまま、敵の大群の方へ近づく。
モンスターが視界に入ってきた。
恐ろしい数だ。
モンスターもこちらに気が付いたのか、一斉に俺達目がけて襲い掛かってくる。
確かに動きが妙だ。
モンスター同士が一斉に同じタイミングで襲い掛かってくるなんて、今までなかった。
まぁ、排除するまでだけど。
俺は杖をモンスターの大群の方へ向ける。
「サンダーストーム!」
どういった原理かは不明だが、何もない上空から雷の嵐がモンスターの大群目がけて降り注いでいる。
すり抜けてこちらへ向かってくる奴は、単発で風撃で沈めていく。
ユイが後ろで目をキラキラさせている。
「お兄ちゃんヤバつよ」
そういえば、ユイの前で本気の魔術を放ったことはなかったな。
しばらくすると、レーダーに反応する赤い点が1つを残して全て消えていた。
これだけの雷嵐を喰らって無事な奴がこの階層にいるのか。
先ほどの青年たちの言葉が脳裏を過る。
黒い球体か・・。
レーダーに唯一残っている赤い点が、その黒い球体だったのだ。
名前「????」
レベル55
種族:魔族
弱点属性:聖
スキル:????
「おいおい、魔族ってなんだよ」
俺の言葉にユイが反応する。
「マゾク?」
たしか、前に先生たちに聞いたことがあったが、たしか魔族は何十年も前からなりを潜めているって聞いたことがあった。
まさかこんなにすぐに会えるとは思っていなかった。
というか、出来れば会いたくなかった。
HPバーを見ると半分くらい削れていた。
とりあえず、相手のレベルとHPの減り具合を考えても、なんとか勝てそうな相手だが・・。
と、その時だった。
パリパリっと突如黒い球体にヒビが入った。
まるで卵の殻が割れるように。
嫌な予感しかしない。中から魔族の王、魔王が現れました。なんてごめんだ。
俺達と黒い球体との距離は約30m。
もしヤバいのが出てきたら、全速力で走って逃げよう。
石壁で妨害しながら進めばなんとかなるだろう・・。
俺達が警戒していると、黒い球体の中から何かが出てきた。
黒い犬のようだ。
名前「ヘル・ハウンド」
レベル55
種族:魔族
弱点属性:聖
スキル:遠吠え、呪怨Lv1、時限転移、ブラックホールLv1、黒焔弾Lv2
名前が出ている。
って、HPは全回復かよ。
チート反対!とか思いながら、撤退するか考えていた。というのも、、時限転移ってなんだよ・・。
と思っていたら、黒犬が消えていきなり目の前に現れた。
!?
俺は驚いて杖を構えようとしたが、黒犬は待ってくれなかった。
至近距離で黒い炎の玉を連射してきた。
さすがに予期していなかった為、俺は咄嗟にユイを抱きかかえ、背中に黒炎の玉を受ける。
もろに攻撃が当たってしまった。
ユイがお兄ちゃん!?と叫んでいる。
俺は恐る恐る自分のHPを確認したが、10分の1くらい減っていた。
なんだ10分の1か。
少しばかり焦ったじゃないか。
俺はユイの頭をなでなでする。
「いいか、ユイ。ピンチの時は兄が妹を守るものなんだぞ」
別に今ここで言うセリフでもなかったのだが、ユイがひどく動揺していたので、和ませる意味でもあった。
「さてと、反撃してやろうじゃないか。な、ユイ」
ユイが反応する。
「お兄ちゃんに攻撃するなんて、私、絶対許さない!」
ん?ユイさんが、げきおこモードになっている。
次の瞬間、抱きかかえている俺の両腕からユイが消え、黒犬に一撃を浴びせていた。
え?今の動きは俺でも見えなかったぞ?
名前:ユイ・ハートロック
レベル:35
種族:獣人族 狐人
職種:盗賊
スキル:盗作Lv2、殴打Lv2、反撃打Lv1、連撃斬Lv3
状態:バーサク
状態にバーサク?
これか、ユイの体から湯気のような物が出ている。
風呂に入った後に体全身から出てくる湯気をもうちょっと濃くしたような感じだ。
今まで以上の速度で、黒犬をミンチにしていく。
黒犬が動けないでいるうちにどんどんHPがなくなっていく。
そして20秒もしない間に黒犬が煙となって消えてしまった。
どうやら倒してしまったようだ。
バーサクやばいな。というかユイを怒らせたらヤバいぞ・・。
ユイが俺の方に駆け寄ってきた。
近づいても大丈夫だろうか・・。
ユイはいつも通りの表情だ。
良かった、大丈夫なようだな。
そして俺はユイに叱られた。
「お兄ちゃんを守るのは妹の私なんだからね!私を守って死んじゃうなんて絶対やだからねっ!」
気持ちはすごくありがたいのだが、逆の立場も考えて欲しいものだ。
「分かった。でもユイに守られなくてもいいくらいに俺は強くなるからな。ユイ、お前も俺に守られなくてもいいくらいに強くなってくれよ」
ユイが抱き着いてくるので俺も抱きしめてやった。
そして、俺たちは20階層の安全層まで戻ってきた。
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