幻想世界の統合者

砂鳥 ケイ

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第十六話:マルベスの陰謀【後編】

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俺たちは、ガラクが来る前に南門に到着していた。
というのも、荷物を積み込む必要があったからなんだけど。

俺にはストレージがあるので、基本荷物は無いんだけど説明するのが面倒なので、ある程度の食料は馬車に積み込んでおこうと思っている。そのため、集合地点で先に準備しておく必要があった。

ストレージから、食料の入った木箱を5箱取り出し、並べていく。
ちょうど取り出し終わったところで、ガラクが馬車と護衛1人を連れてこちらへとやってきた。

「メンバーと荷物の準備は出来てますかい?ダンナ」
「ああ、丁度出来たところだよ。今日からよろしく頼むよ」
「お兄ちゃん、馬車旅楽しみだね!」
「ああ、そうだな。たまには、のんびり馬車旅もいいもんだな」

荷物を積込み、馬車に乗り込む。

次はいつ戻って来れるか分からないが、クラウさんにもまた会いたいし、せっかく中心街に入れるようになったしね。またいつか戻ってこようと決意する。

そして一行は王国を後にする。

王国を出発してから早6時間が経過していた。旅は順調で、特に問題は無かった。一つを覗いて。

その一つと言うのは・・

することがなさ過ぎて暇すぎる。

ユイも暇なのだろう。さっきから、馬車の揺れに合わせて、あっちへゴロゴロ、こっちへゴロゴロしていた。

エレナは、いつの間にか何処かから仕入れていた本を読んでいる。
昨日、食料調達の際に入手していたそうだ。
実に準備がいい。
仕方がないので、ユイと馬車の中で出来る遊びにトライしてみることにした。
ベタだが、俺はユイにあっち向いてホイを教えていた。
ジャンケンというのは、こっちの世界でも認知されていたので、ユイも知っていた。
さすがにあっち向いてホイは知らなかったけどね。

負けたほうは頭をガードする。勝った方は相手の頭にチョップするというルール付きだ。
反射神経が高いほうが有利な遊びだ。

さて、やってみようか。

・・・。

俺はユイを舐めていた。
知っている遊びだったため、有利と思っていたのだが、10戦行って、ジャンケンの勝敗は五分五分だった。しかし、チョップの成功率は俺は0%、ユイは100%だった。

この子反射神経ヤバいね。経験やレベルなんて関係なかった。俺がいうのもなんだが、チートレベルだ。
ユイがさっきからドヤ顔を決めてくる。

「お兄ちゃん、まだまだだね!」
「ユイ、手加減してくれてもいいんだぞ?」
「だめだよ〜」

くそぅ・・。

そんな事をしていると、俺のレーダーが反応した。
モンスターで数は1匹。
言う前にユイも察知したようだ。

「何かが近くにいるよ!」

それまでもモンスターの反応は何度かあったけど、馬車からは遠い位置であり、無視してもいい距離だったのだが、今回は明らかに進行方向上にいる。
ガラクに、姿が視認出来るところまで進んでもらい、そこで馬車を止めてもらうように指示する。
この馬車には、こういう時のために護衛が乗っている。

名前:バロウ・ザントス
レベル:33
種族:人族
職種:剣士
スキル:ポールスマッシャーLv3、一閃Lv2、旋風乱れ突きLv1

ほどなくして馬車が止まる。

名前:ブラックスパイダー
レベル21
種族:蜘蛛
弱点属性:火
スキル:毒散布Lv2、糸散布Lv1

雑魚ではないけど、Lvは20を超えている。
ユイなら瞬殺だけど、ここはバロウさんの実力も把握しておきたいので、バロウさんに任せる事になった。
事前に見えた情報をアドバイスしておく。

バロウさんが敵と対峙する。

なんというか終わってみると一方的な戦いだった。
レベル差もあったけど、バロウさんの手並みはなかなかのものだった。
これなら、十分に戦力になるだろう。

その後も何度かモンスターと遭遇したが、俺の出番はなく、バロウさんとユイが瞬殺していた。
そしていつの間にか夜になっていた。
夜は街道といえど、照明などの設備はない為、馬車も路肩に止めて朝まで停車するスタイルが一般的となっている。
馬たちにも休息が必要だ。

レーダーの派生機能で範囲内の50m圏内にモンスターを感知すると頭の中にアラームが鳴るように設定しておいた。
これで、寝込みを襲われても察知することが出来る。

朝日が眩しい・・。
結局アラームが鳴ることなく、朝を迎えていた。
早朝から、馬車は出発している。
なるべく時間を短縮させたいので食事は、馬車の中で済ませた。
本当は景色の良い外で、御座でも引いてみんなで食事したいところなのだが、それはまた別の機会にとっておこうと思う。

お昼過ぎまでぶっ通しで馬車を走らせていたので、さすがに馬たちがツラそうだったため、少し休憩することにした。

ユイやクロも外に出て、伸び伸びしている。
近くにモンスターの気配もないので、好きにさせて大丈夫だろう。
ユイが走った後をクロが追いかけている。鬼ごっこだろうか。中々のスピードだ。

暫くして、リフレッシュしたユイとクロが戻ってきたので、俺たちは出発することにした。

エレナは相変わらず本を読んでいる。
ユイとクロは、先ほどの追いかけっこで疲れたのか、今は寝ている。クロを抱いて寝ている姿がなんとも可愛らしい。

俺は、特にすることもなかったので、錬金術師ギルドで貰った本を読んで勉強することにした。
まずは簡単なものから作ってみようと思う。

ストレージから、すり鉢、すりこ木、錬金釜、ビーカーを取り出した。

続いて、材料である赤ハーブと白ハーブ、そして合成液を取り出した。
手順はそんなに難しくなさそうだった。

すり鉢の中に赤ハーブと白ハーブを5枚ずつ放り込む。そしてそれを、すりこ木もとい混ぜ混ぜ棒を使い、
潰して混ぜ混ぜしていく。ある程度混ざった事を確認し、次の段階に入る準備をする。

一連の作業工程をエレナが見て目をキラキラさせていた。
「ユウ様は魔術だけではなく、錬金にも才があるのですね」

才というか、成り立てのレベル1の新人なんですけどね。
ちょっとだけ調子に乗ってみる。
「少しだけね」
さて、言った手前失敗したらカッコ悪いぞ。
集中しよう集中。

錬金釜に合成液を注いでいく。
そして、先ほどすり潰して混ぜ混ぜしたすり鉢に入っているハーブを錬金釜に入れて蓋をする。
最後に呪文を唱える。
当然暗記なんてしていないので、手引きを見ながら、唱えていく。

「・・・マール、エル、サラミーク、セン」

意味はさっぱり分からなかったが、どうやら成功したようだ。
錬金釜の中が紅く淡く光っている。蓋の隙間から僅かに光が漏れているのが確認できた。

そして、俺はストレージから空のポーション管を取り出した。

錬金釜の蓋をあけて、中の液体をビーカーですくっていく。
そして、零さないように慎重に空のポーション管に入れる。
1回の製作でポーション管10本分も作れてしまった。

どれどれ出来栄えのほどは・・

名前:HP回復ポーション(小) 良品
説明:ごく少量のHPを回復する事が出来る。
特殊効果:良品補正 回復量10%UP
相場:銅貨10枚
希少度:★☆☆☆☆☆

良品とかになってるし、初めてだし、大成功なんじゃないだろうか?

そして、その瞬間目の前が点滅した。
久しぶりの感覚だった。レベルアップだろう。
今の製薬で錬金術師のレベルが4になっている。

エレナが''パチパチパチ''と拍手していた。

製薬に必要な材料を覚えるのも大変だけど、俺はこの製薬で商売しようと思っている。仕入値や相場も抑えておかなければならない。
まぁ、時間はたっぷりあるので少しずつ覚えていくことにする。

とりあえず満足したので、錬金セットをストレージにしまう。

今日も平和に終わりそうだった。
日も暮れ始めていたので、ガラクは路肩に停車できる場所を探していた。
その時だった、俺のレーダーに複数の赤い点の反応が現れた。
しばらくレーダーを眺めていたが、動きが不自然だ。
「みんな、気を付けてくれ。モンスターの大群が来るぞ」

そう言えば、先ほど街道沿いに洞窟があったのを思い出した俺は、ガラクに指示をしてUターンしてもらった。
まず、本当に俺たちを狙っているのかどうか確認する必要があったのだ。
そして、四方八方から狙われないためでもある。

5分程だろうか、元来た道を戻り、洞窟の中に馬車を隠した。ちょうど良い深さだった。
俺は用心のため、ロックウォールを洞窟の四方に使い、補強をしておいた。

さぁ、来るなら来い。エレナとクロは、馬車の中に避難させている。
ガラクさんは、万が一の為に何時でも動かせるように御者台にて待機してもらう。

馬車の前には、俺とユイ、バロウさんが構えている。
来るとすれば、前から以外はありえないから奇襲に対応しやすい。

レーダーを確認する。ゆっくりだが、やはり俺たちを狙っているようだ。
本来、モンスターが群れで襲ってくるなどありえない。何かに誘導される、もしくは統率者がいれば、別だが。

もうすぐ日が暮れる。そしたら真っ暗になってしまうし、危険だ。俺は暗視スキルがあるから問題はないこど、俺一人だと何かあった時に対応出来ないかもしれない。
どちらにしても早めにケリをつけないとヤバいな。

モンスターが視認出来る距離まで近付いてきた。
かなりの数だ。
俺は喰い入るようにモンスターのレベルを確認する。

見渡す限りでは、10〜20が大半だが、中には30を超える個体もいた。
数は100〜200匹くらいだろうか。

俺が高レベル魔術で殲滅してもいいんだけど、こちらの実力を見せない方が良い気がする。
というのも、このモンスターの進軍は、エレナを敵対している奴らの仕業なのではないだろうか。
それならば、きっと何処かで見ているに違いない。ならば尚更、こちらの手の内を見せてやる必要はない。
多少時間が掛かるが各個撃破していくしかない。

俺は二人にアジリティアップを付与する。
基本二人が前衛で殲滅を担当し、俺は回復兼前衛が討ち漏らした敵の駆除を担当する。

さぁ、殺戮の開始だ。
前衛の二人が前に出て、敵をバッタバッタとなぎ払っていく。レベルが30を超える奴は、俺がこっそりと全力投球の投石を行う。もちろん二人にはバレていない。

1時間ほど経過しただろうか。
ヒヤリとする場面は何度かあったけど、何とか全ての敵を排除する事に成功した。

「やっと終わった・・」
ユイがドヤ顔で俺の元に駆け寄ってくる。
よく頑張ったと思うので、俺は頭をなでなでしてやる。
ユイは、頭なでなでが好きなのだろうか。
俺的には、ユイの頭と一緒に柔らかな狐耳を無茶苦茶に出来るので、うれしい限りなんだけどね。

ユイは平気そうだったけど、さすがにバロウさんはキツそうだった。息を切らしてゼェゼェしている。
傷はこまめにヒールをしていたけど体力までは回復しないので、休憩が必要だった。
二人には馬車の中で休んでもらい、俺は外で待機して見張りをしていた。

モンスター自体は二人の活躍で撃退できたのだが、結局今回の襲撃の原因が分からないままだった。
何かしらの要因があるのは分かるのだが、それが気にしているエレナ絡みなのかどうかが分からず仕舞いだった。

「レーダーに何か映ればと期待していたんだけどね」
小声で呟く。

ひとまず今夜はこのまま動かずに朝を迎えるしかないだろうな。
夜道の移動は危険だ。

交代で見張りをしながら、朝を迎えた。
俺はモンスター近接アラームを常時つけていたので、寝ていても大丈夫なんだけど、説明出来る訳もなく。

夜襲はなかった。というかモンスターの1匹もレーダーに映る事はなかった。
ここらのモンスターは昨晩ですべて狩り尽してしまったのだろうか?
「おはようお兄ちゃん」
「わん!」
「おはよう」
ユイとクロの頭を撫でる。

さて出発だ。
まだまだ警戒を解くわけにはいかない為、俺もガラクさんと一緒に御者台に座る。

しかし、その警戒も無駄に終わりその日は1日何も起こらなかった。
まぁ、平和に越したことはないのだが、少し気味が悪い。考えすぎだろうか?

ガラクの話では、思ったよりも順調に進んでいるらしく、この調子ならば目的地のエラム高原まであと2日もあれば到着するとのことだ。
このまま平和に行けば良いのだが。

次の日の朝を迎えていた。
何か様子がおかしい。
俺は周りの騒がしさで目を覚ましていた。

昨晩も今もレーダーに反応は無かったはずだ。一体何が起こった?
寝起きの頭をフル回転させる。

あれ?
エレナがいない?

「私が起きた時にはいなかったよ・・」
力が抜けたように耳をしゅんとしながらユイが答える。

どういうことだろうか。
誰かが攫っていったとでも言うのか?
俺はモンスターだけではなく、この4人と1匹以外で反応すればアラームが鳴るように設定していたのだ。

ガラクさんもバロウさんも何も見ていないそうだ。
なんて事だ・・

ひとまず、レーダーを頼りに俺が辺りを探すことになった。もしかしたら、戻ってくるかも知れないので、その他の者は馬車にて待機していてもらう。
セリアにも手伝って貰っている。

しかし、どこにもいない・・・

2人で馬車を中心に半径10kmは捜索した。
諦めて馬車に戻った。

やはり、戻って来ていないようだ。
嫌な予感が脳裏をよぎった。

俺が持っているポータルリングのような魔導具が他にも存在していれば、離れたところからエレナを連れ去ることも可能だろう。
もしかしたら、似たような魔術もあるのかもしれない。
俺は二人きりの時にセリアに確認していたが、セリアも分からないそうだ。だが、次元移動という魔術は過去には存在していたらしい。
次元魔術というこの魔術は、ロストマジック扱いに指定されていて、500年以上も前に失われているようだ。

どちらにしてもこのままではラチが明かない。クラウさんに頼るしかない。
ユイ以外にはバラしたく無かったが、状況が状況なだけに止む終えない。
ユイには留守番してもらい、俺一人でポータルリングを使い、クラウさんに会いに行く。

「クラウさん居ますか!」

焦っていた。
今こうしている間にもエレナに命の危機が迫っているかも知れないからだ。
「開いているから入ってくれ」

俺はドアを開けて中に入る。

「ただ事ではないのだろう?」
相変わらず、察しが良くて助かる。
「馬車の中に一緒に居たはずなんですが、朝起きたらエレナがいなくなってたんです」

クラウさんは何か考えているようだ。

「ひとまず、見てみよう」
そう言い、クラウさんは水晶を取り出した。
そして水晶が映像を映し出す。
!?
そこには、エレナが映っていた。
今見ているのは現在進行形らしいので、どうやらエレナはまだ無事なようだ。

俺は全身の力が抜け、その場に座り込む。

「無事で良かった・・」

クラウさんは、私が確認しておくので休んでいるように気を使ってくれた。
お言葉に甘えようと思ったが、映像のどこに居所のヒントが隠されていか分からないため、一緒に確認することにした。
どうやら何処かの建物の中らしい。
水晶は、衛星からの映像でも、監視カメラの映像でもないため、自由なアングルで見ることが出来ないのだ。
何でもいい、何か手掛かりがあれば・・何か・・

俺は喰い入るように水晶に映し出されている映像を眺める。

何だあれは・・

エレナの側の地面に何か書いたような後が見える。
「ザルムバーン?」
何のことだろうか?

クラウさんが驚いている。

「どうやらエルフ嬢は、厄介な連中に捕まっているようだ」
「厄介な連中?」
クラウさんが詳しく説明してくれた。

ザルムバーンとは、お金さえ支払えば、どんな仕事でも請け負う最低最悪集団で、その中でもTOP3に入るほどの大手が、ザルムバーンと言う集団らしい。
早い話、元の世界で言うヤクザみたいなものらしい。
しかし、彼らのアジトはこの世界に無数に存在しており、エレナがいる場所を特定するのは不可能に近かった。

他に何か手がかりになるものはないか。

再び二人で映像を睨みつけていると水晶が一日先の未来を映し出した。

!?

そこにはエレナと一緒に見覚えのある男が映っている。
そう、マルベスだ。
確か、マルベスたちは俺たちよりもエルフの里へ一日早く先行していたはずだ。
マルベスが映っているという事は、エルフの里に近いところにいるのだろうか。
そうだとしても、絶対そうだという確約が欲しい。
もし間違っていたら、手遅れになってしまうかもしれない。
俺のレーダー機能を使えば、圏内に入ってくれば察知することが可能だが、100m以内にいることが条件だ。
俺は悩んでいた。答えを出せずにいた。

「どうすればいいんだ・・」

気が付けば、水晶が窓の外を映し出している。

「エラム高原だっ!」

突如クラウさんが叫んだ。
ふさぎ込んでいた俺は顔を上げる。
そこに映っていたのは、エラム高原のしかも限定的にしか咲かないフランの花が咲いていた。
フランの花は、ダンジョンに咲いていたモンスターを引き寄せない、サーキュレイトフラワーと同じ効果を持っているらしい。性能はずっと劣るらしいけど。

クラウさん曰く、この花が咲くのはエラム高原の西寄りの地域にしか咲かないということだ。

奥から世界地図を持って来てくれた。
「今の君たちが居る辺りが恐らく・・このへんだ。そして、このままいくとエラム高原の南側に出ることになる。それまでは、ずっと荒野のような街道を進むことになるから、エラム高原は緑豊かな場所なので、到着するとすぐに分かるだろう」

そして、エラム高原に入ると、西を目指すように教えてくれた。

俺は、ユイたちのところに戻り、全速力で目的地であるエラム高原に向かっている。
クラウさんには、礼を言いすぐにこっちへ戻って来た。
ポータルは1日2回だから、今日の分はもう使い切ってしまった。
自体は一刻を争う。俺はこまめに馬たちにヒールとリフレッシュを使っていた。

それが幸いしたのか、俺の気持ちを汲んでか、朝から走っているのに馬たちが一向に音を上げる素振りがない。
夜になっていたが、俺は魔導書専門店で購入して会得したフラッシュを使っていた。
このおかげで夜なのだが、かなりの広範囲を眩い光が照らし出している。
夜間ぶっ通しで走り続けていた。

どこまで差を縮めれたのだろうか。
エラム高原まで残り2日だった距離が、あと僅かのところまで来ていた。

今馬車は停車している。
さすがに休憩を挟んでいた。みんなも寝ていないのだ。

しかし、俺は呑気に寝ていることなんて出来なかった。
どうやってエレナを救出するか作戦を考えていた。
恐らく、ヤクザの連中を相手にすることになるだろう。
どの程度のレベルや人数なのかも定かではない。それに一瞬にしてエレナを攫った魔導具か魔術にも注意しないといけない。
こうしている今にも、いきなり背後からグサリなんてことになるかもしれないからだ。

3時間ほど休憩し、再び馬車は走り出していた。
クラウさんの言った通り、今は荒野のようなところを走っている。

しばらく進むと、道が緑豊かな高原に変わっていた。

「ダンナ、目的地のエラム高原に入りやしたぜ」
西に向かって欲しいとガラクに頼む。
そして1時間ほど進んでいると、駐屯地のような物が視界に入ってきた。
そこから先ら馬車で行くと危険なので、俺が1人で偵察に行くことになった。

すると、レーダーの端にマルベスとエレナの反応があった。

よしっ!

俺は小さくガッツポーズする。
ここで間違いないようだ。

俺は馬車へ引き返した。
元々ガラクには、エラム高原までと言っていたので、ガラクたちとはここで別れる事になった。
食料はだいぶ余っていたけど危険な目に合わせてしまった駄賃として全てプレゼントした。
まだ、ストレージに大量に入っているから問題はない。

どうやら村や町ではなく、駐屯地のようだった。範囲は、だいたい50m。
レーダーに映る反応は20人前後。

果たして、このまま何の作戦もなしで、突っ込んでいって大丈夫だろうか?
こっちにはユイとクロもいる。
ユイは戦力になるが、クロは申し訳ないが、足手まといだった。いや、足手まといのハズだった。

「ワタシ・モ・タタカ・ウ・・」

ユイにしては片言で幼い声だった。
ユイも俺の顔を見ている。
ん、誰の声だ?

「ワタシツヨイ」
再び聞こえた声のする方に視線を送ると、そこにいたのはクロだった。

そう、喋っていたのはクロだったのだ。
成長して喋れるようになったのだろうか?

名前:クロ
レベル:30
種族:魔族
弱点属性:なし
スキル:怪音波Lv1

レベル高っ!
出会った頃は1だったのにいつの間にか今は30になっている。
確かにレベルだけで見るならば、冒険者でいうところの上級者クラスだ。
どのみち、こんなところにおいていく訳にもいかなかった。
「分かった。だけど、無理はするなよ、危険になったら物陰に隠れているんだ。いいね」

クロはコクリと頷く。

偵察に向かっていたセリアが戻ってきた。
現状エレナは無事なようだが、様子がおかしかったと言う。
マルベスも先ほどここへ到着したようで「また会えるとは思っていませんでした」と言った会話をしていたらしい。

ヤクザ連中のレベルは、20~42だった。
中々に高い、モンスターならば最大レベルの魔術をズドンと一発落とすだけで終わるのだが、相手は人だ。
それにエレナもいる。

ヤクザ連中は、全員再起不能にし、マルベスだけは拘束することにしよう。
現在半数はテントの中に入っている。
俺の投石の射程距離は約50mだ。

今回の作戦はこうだ。
まずは射程距離ギリギリから狙い撃ちし、その後、無人のテントを雷撃ライトニングボルトで丸焦げにする。
そこに驚いて出てきたヤクザ連中を遠距離投石で倒していく作戦だ。
なるべく近接戦闘は避ける方向でいく。
ユイは少し不満そうだったが、大事なユイやクロが怪我をしても困る。

セリアには、姿を隠したままエレナの傍についてもらっている。しかし、マルベスに察知される危険があるので、姿を見せないように言っている。

今俺たちは、ホフク前進でゆっくりと進んでいる。

そして、狙い撃ちできる距離になった。
俺は起き上がり、以前購入した魔術書で会得したズームフォルムを駆使しつつ正確にヤクザ連中の腹部に小石を次々と命中させていく。
そして、あっという間に10人全員を倒すことに成功した。

俺は間髪いれずに雷撃ライトニングボルトを放つ。

もの凄い轟音と共にテントが火ダルマになっている。
何人かがテントから出てきたので、全員戦闘不能にする。

残りの人数は・・・3人か。
その中にはマルベスも含まれている。
気がかりなのは、ヤクザ連中と思われる中で一番レベルの高い42の人物もまだ残っている。
しかし、行くしかない。

「ユイ、クロ、行くぞ!」
俺たちは走り出した。

すると、テントの中から3人とエレナが出てきたのが見えた。

こちらを見ている。
マルベスが驚くことなく、不敵な笑みを浮かべていた。
解せない。
襲撃がバレていたのか?
嫌な予感がする。

「まさかこんなところまで追いかけてくるとは、貴殿らは一体何者なんだ?」

こちらの登場に驚いていないのが腑に落ちない。
それに素直に答えてやるつもりもない。

「観念するんだな。エレナを返してもらうぞ!」

突如マルベスが笑いだした。
「何がおかしい!」

俺は、隣にいるエレナがなぜ何も喋らないのか不安だった。
するとマルベスが俺の気を知ってか語り出す。
「エレナ様は、ご自分の意思で今ここにおられるのだ。返せとは些か滑稽だな」

!?

マルベスの言っている意味が分からない。
するとエレナが口を開く。
「ユウ様、お帰り下さい」

再びマルベスが笑っている。

まさか、エレナの口からそんな言葉が発せられるとは思っていなかった為、面食らってしまった。

俺の脳裏にある憶測が思い浮かぶ。

「精神操作か・・」

エレナを鑑定アナライズで確認する。
そこには、確かに精神操作中の文字が書かれていた。
恐らく、さっきからエレナの隣にいるあの緑ローブの男だろう。

マルベスが答える。
「ご名答。しかし、どうするのだ?我々を倒してもこの精神操作を解く術はないぞ。それこそ大神官レベルが使える治癒ヒールでもない限りはな!」

ん?治癒ヒールだと?

大神官レベルというのがどのレベルか分からないが、俺の治癒ヒールレベルはMAXだ。
なんだ、治癒ヒールで治るのか。
驚いて損してしまった。
しかし、相手に悟られてはならない。
俺は強張った表情を崩さないようにする。

「エレナをどうするつもりだ!」
すぐに殺すつもりなら、とっくにそうしているだろう。

「お前たちが一度ならず二度までも私の邪魔をしてくれたおかげで、計画が大幅に狂ってしまったのだ。従って、方法を変えることにした」

マルベスは得意げにベラベラと計画を話してくる。

「この精神操作を使い、人族に酷い目に遭わされた事を自供させるのだ」

なるほど、そういう事か、今度はエルフの里で一芝居打つってことか。皆まで言わなくても奴の考えている作戦が分かった。
しかし、なぜマルベスは敵である俺に作戦を打ち明けたのだろうか。

その時だった。俺は考えに耽っていて、油断してしまった。
いきなり背後に緑ローブの男が現れ、ナイフで俺の胸を一突きしたのだ。

俺は避けることが出来なかった。
というより、避けなかった。

実は、これは作戦通りなんだよね。
コイツらが次元転移系の技を使ってくることは容易に想像できた。
使うとすれば、もっとも厄介な相手に使ってくるだろうことも読めていた。

事前にクロとユイにも説明していた。
もし仮に俺に何が起ころうとも、取り乱して行動しないこと。俺は刺されたくらいじゃ死なないからと。
逆に相手を油断させて、その隙を叩くことになっていた。

ナイフが刺さったはずなのだが、まったく痛くない。恐らくレベル差からくるものだろうが、少し拍子抜けだった。

一応、俺はやられたフリをしないといけない。
黒いローブの男は俺を一突きした後、すぐにまた元の位置に戻っている。
どうやら、相手には手応えがあったらしい。
口元が緩んでいた。

「な、なにが起こった・・」
一応、わざとらしく演技をしてみる。
幸いにも血が出ていたので、これを利用しない手はない。
マルベスが笑っている。
「油断したな!彼はな、1日に2回だけ次元転移が使える魔導具を持っているのだ」

なるほどね。それにしても、マルベスさんは俺の欲しい情報を次から次へと提供してくれる。いい人だな。
そうかそうか。1日2回しか使えないのか。
魔術ではなく、魔導具で助かった。
恐らく、あの指輪がそうだろう。

俺は演技の続きをする。
片膝をつくような形をとって見せた。

ユイとクロは俺の合図を待っている。
ユイはマルベスを、クロは、残っているヤクザの1人を、俺は緑ローブを狙う算段だった。

俺は気が付かれないようにストレージから小石を取り出す。
そして、一瞬のうちに、緑ローブの男を倒した。
それを合図にユイとクロも突進していた。
ユイはもちろんだが、クロも速いし、強い。
体当たりだけで、ヤクザの1人を倒してしまった。
ユイはマルべスの喉元に短剣を突き出している。
これには流石にマルベスも驚いているようだ。
それは、2人の強さというよりは、俺がピンピンして歩いているからであろう。

「な、なぜ貴様が動けるのだっ!なぜ死んでいない!」

さて、仕返しの時間だな。
俺はマルベスに向けてお返しとばかりに不適な笑みを向けた。

「あのナイフには、かすっただけでも致命傷になるように猛毒が塗られていたはずだ」

え?そうなの・・・怖い・・
俺は即座に傷口に治癒ヒールをしていたので、まったく気が付かなかった。

「まぁ、それは企業秘密って事で」

マルベスは、何を言っているか分からないという顔をしている。
マルベスは俺に散々有用情報を提供してくれたが、俺は情報を一切与えるつもりはない。

俺はエレナの元へ向かう。
やはり術者を倒しても精神操作が治ることはなさそうだ。
エレナは魂が抜けたような目をしている。
マルベスが苦し紛れに発言する。
「無駄だ・・精神操作は絶対に解けない!それに、直にここへエルフ族の軍勢が押し寄せる!そうすれば、貴様など簡単に・・」

「黙れ!」
威圧を込めた目で睨みをきかせる。

マルベスが驚き、口を紡ぐ。
それにはユイとクロも驚いていた。

俺は怒っていた。
マルベスにというより、俺自身に。
エレナのことは、恐らく治癒ヒールで直せるとは思うが、今のエレナの姿を見ていると、俺自身の不甲斐なさを感じてしまう。
絶対に守り抜くと誓ったのに。
俺はエレナに誤る。
何度も何度も。
そしていつの間にかエレナを抱きしめていた。
俺はその状態で治癒ヒールを唱えた。

「え・・あれ・・私?・・って、ユウ様!?」
どうやら元に戻ったようだ。

彼女を助けるのは何度目だろうか・・。
それも俺がちゃんと守っていなかったからに過ぎないのだけど。
今回ばかりは、さすがにもうダメかと思った。
エレナの顔が赤くなっていく。
どうやらこの状況が読めないようだった。無理もない、どうやらエレナには洗脳されてからの記憶が全くないようだ。
何かを言いたそうだが、口ごもっている。

マルベスが絶句していた。
「な、なぜだ・・なぜ精神操作が解けているのだ・・ありえない・・一体貴様は何者なんだ!」

マルベスなんて無視だ無視。

俺は抱きしめていた手を優しく放した。
そして、エレナを顔を見る。
彼女は頬を赤らめていて俺の目を直視出来ないでいた。
「エレナ、どこまで覚えている?」
確認しておく必要があった。

少しの間があり、エレナが口を開く。

「た、確かいつものように馬車の中で寝ていたはずなのですけど・・・・あ、思い出しました!何者かに連れてこられたの。そして、監禁されていたのだけど、緑のローブの男に何かを言われてからの記憶がない・・わ・・」
俺に居場所を教えようと何か手掛かりがないか、地面に文字を掘ってみたりしていたらしい。
確かにそれのおかげで居場所を見つけるきっかけになった。

俺はエレナの頭を撫でる。

そして立ち上がり、マルベスの元へと向かう。
依然としてユイに喉元に短剣を突き出されている状態である。
俺はストレージからロープを取り出し、彼を縛り上げた。
途中騒ぎ立て暴れていたので今は静かにしてもらっている。
そしてその他の気絶しているヤクザ連中も縄で縛っておく。
その際、緑ローブの男から次元転移の指輪を抜き取っておく事を忘れない。

そして俺が知っていることをエレナに話しておく。
全てを知ったエレナは、何度も何度も俺たちにお礼を言ってくる。
さすがに今回で3度目の救出劇だったのだが、人族の首謀者もエルフ族の首謀者もこれで捉えたことになるので、さすがにこれでもう終わりだろう。

遠くの方で、多数の馬の足音が聞こえてきた。
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