幻想世界の統合者

砂鳥 ケイ

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第十五話:マルベスの陰謀【前編】

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時は少し遡る。

エレナは俺たちと別れて、エルフ捜索隊の馬車に乗っていた。

「どういうつもり?なぜ貴方が私を探しに来たの?」

その問いは今回の捜索隊のリーダー格の男マルベスに投げかけられていた。

エレナには理解出来なかった。この男は昔からエレナの事を嫌っていたはずなのに、助けに来るはずがないと思っていた。きっと裏があるに違いない。エレナはそう思っていた。

昔、マルベスが悪事を働こうとしているのを偶然見つけてしまったエレナは、父親に報告し、当時元老院1人だったマルベスはその事が原因で地位も名誉も剥奪された経緯があった。

「せっかく手引きまでして人族に捉えさせたというのに、よもや逃げ帰ってくるとは、そのまま死んでいれば良かったものの」

!?

あまりの衝撃的な発言にエレナは声が出せなかった。
私の事を嫌っているだけではなく、私をあわよくば亡き者にしようと考えているとは、さすがにそこまでは思っていなかったのだ。

「ククク、だが、あの人族もバカだな。真の黒幕がどちらなのかも分からず、せっかく救出した王女をまた私の元へ届けてくれるとはな」

エレナは頭が真っ白になっていた。このままここに居れば、殺されてしまう。そう思っていた。
馬車から降りて逃げようと入口の方に目を向けていると、

「おっと、変な考えは起こさないほうがいいですよ」
「ど、どういうこと?」

マルベスは下卑た笑いをする。

「先ほどの人族の少年を現在我々は監視下に置いています。もし貴女が妙な気を起こせば、私はすぐにでもその少年を殺せと監視している部下に指示を与える事が出来るんですよ」

エレナが目を見開き、大声で怒鳴る。

「この卑怯者っ!彼は関係ないわっ!今すぐその監視を解きなさい!それに・・それに私は逃げも隠れもしません!」
「その言葉がどこまで信用できるか、もう少し見定めさせてもらいます。このままこの馬車は人族の街まで行き、そしてもう一度貴女を突き出します。もしそれまで貴女が私のいうことを素直に聞いていれば、少年には手は出さないと約束しましょう」

エレナにはどうする事も出来なかった。依然として頭が真っ白で、何も考えられない状況ではあったのだが、ただ一つ、彼だけは巻き込んではダメだと、そのことだけをただ一心に考えていた。

恐る恐るエレナが口を開く。
「私をどうするつもりなの?」
マルベスは笑みを浮かべる。
「貴女が人族に捉えられ、万が一でも殺されるなんて事になれば-----」
「そんなのお父様が黙っていないわっ!」
「その通りです」

次第にエレナの顔が引きつっていく。

「まさか、あなた・・」

再びマルベスが笑みを浮かべる。

「そう、私は戦争がしたいのですよ。人族とのね。私は人族が憎い」

なんて恐ろしい事を考えるの・・この人は・・

一体・・私は・・どうすればいいの・・

エレナは、自分に迫る恐怖よりも自分が戦争の引き金にされる事を恐怖していた。
今この場で私が自害しても結局良いように利用されるだけに違いない。生きて戻らなければならない。絶対に。
エレナは強く決心した。
恐怖していた心が気持ちを固めた事で段々と薄まっていくのが実感出来た。

しばらく走っていた馬車が静かに止まる。
目的地に到着したのだろうか?
馬車には窓1つなく、中からは外の様子が一切確認出来ない。

「ここで降りて頂きます。エレナ様」

エレナはマルベスを睨み付ける。
従うしかなかったのだ。彼を巻き込まないために。
無言で席から立ち、馬車から降りる。

そこはどこかの建物の中のようだった。
見覚えがある。どうやら、またプラーク王国の牢獄塔に戻ってきたようだ。

「御機嫌よう。エレナ様」
バタンッ
馬車の扉が閉まり、マルベスを乗せた馬車は、元来た道を戻っていった。

そのまま待機していた騎士団の男に手錠を掛けられる。

「こっちへこい!」
素直に従うしかない。

連れてこられた先は予想通り牢屋だった。

「中へ入れ、判決が下り次第、お前は大罪人として、街の者たちの見せしめとして処刑されるだろう」

エレナが中に入るのを少し躊躇っていると、騎士団の男が、強引にエレナを牢屋の中に押し込む。
そして男はカギを閉めて、何処かへ行ってしまった。

機会を待つしかない、どこかにチャンスがあるはず。
諦めたら駄目・・・
エレナは頭の中で何度も何度も繰り返していた。
何故だが、ユウ様の顔が頭に浮かんでしまう。目には涙も浮かんでくる。

そのまま、朝を迎えた。
エレナはろくに眠れもせずに、牢屋の中で座って、今はただ判決が降りるのを待つしかなかった。

看守だろうか?時折、食事を持ってくる。
しかし、一切口をつけなかった。そんな気になれなかった。
そのまま1日という時間が過ぎていた。
たったの1日なのだが、エレナにはそれが1週間にも1か月に感じられるほど長い時間に思えた。
時折、制裁という形で、棍棒を持った男たちが中へ入り、蹴る殴るの暴行を加えていた。

今エレナの前には身なりのよさそうな男が立っている。

「お前に判決が下ったぞ」

良く聞き取れなかった。エレナ自身、既に極限の状態だった。意識も朦朧としている。
顔を上げて、男の顔を見上げる。

「これより死刑を執り行う」
エレナが再び下を向く。

「お前は本当に災難だったな。ただその場に居合わせただけというのに、エルフとの全面戦争勃発の為の生贄にされるとは」

身なりの良い男は続ける。

「だが安心しろ、苦痛や我慢もこれで終わりだ。これから公開処刑の場へと連れていく。そこでお前の首は刎ねられる。そしたら楽になれるぞ。もう何も我慢することはない」

エレナは朦朧とする意識の中で、最後の方は良く聞き取れなかった。
身なりの良い男が、看守に「コイツを出せ」と言っている声が聞こえる。
2人の看守に抱えられるように牢屋から出される。
もはや1人では歩けないほど衰弱しきっていた。

死刑執行人と思われる2人がエレナを連行していく。
やがて、民衆たちの声が耳に入ってきた。
牢を出された時に目隠しされていたので、周りの様子が分からない。
そして、膝をついた状態で待機させられている。

あぁ、私の人生はどうやらここまでのようです・・

お父様・・お母様・・エルフの里の未来の為に足掻こうと思ったのですが、やはり私には何も出来ませんでした・・
無力で非力な私をどうか許して下さい・・
ごめんなさい・・・ごめんなさい・・

エレナは大粒の涙を零した。

民衆が仰ぎたてる。

「大罪人を殺せー!!」「犯罪者に裁きを!!」
執行人が何かを振り上げる金属音が聞こえた。
エレナは死を覚悟した。

「ユウ様・・・助けて・・」

彼女自身最後になぜこんな言葉を発してしまったのか分からなかった。

ドスッ!!  バタン!!

直後、何かが倒れる音がした。
誰かがこっちへ向かって走ってくる音が聞こえる。

「はぁ・・はぁ・・間に合って良かった・・ほんとに・・」

極限状態に晒されていたエレナだったが、その声は確かに聞き覚えのある声だった。
今一番聞きたかった声だった。
そう、先ほどエレナが死を覚悟した時に助けを求めた、まさにその人物だったのだ。

俺はエレナにかけられていた目隠しを取り、拘束されている縄を解いていく。
ユウ様だ、間違いない・・。
顔を見た瞬間、エレナは大粒の涙を流し、抱き着いていた。
俺は優しく、エレナの頭を撫でる。
「少しだけ待っていて下さい。すぐに終わらせますので」
そう言い、エレナにあわせてしゃがんでいた俺は立ち上がる。

民衆が騒ぎ立てる。
「反逆者だ!人族の反逆者が現れたぞ!」「だれかそいつを捕まえろっ!」
まずは今の民衆を黙らせることが先決だな。

杖を天へと振りかざす。

すると、突如辺りが暗くなり、その直後、轟音と共に天から大きな稲妻が振ってきた。

あまりにも一瞬の出来事だったので、民衆たちも逃げることさえ忘れて、ただ口を開けて呆然と立ち尽くしている。

作戦成功だな。これで静かになった。
少し強引な気もするが、今は手段を選んでる暇はない。

「聞いてくれ!街の者よ」

俺の声は、広場全体に届くような物凄いボリュームだった。しかし、ただ大きいだけではなく、どことなく安堵感を与える感じに聞こえていた。

拡声スキルのおかげのようだ。
いつの間にか取得していたスキルをこの時俺は使っていた。

「今回の件、この子は何も悪くない。首謀者は他にいる!」
俺の言葉に民衆たちが騒めきだす。

「王国騎士団を使い、人族とエルフ族の戦争を目論んでいた人物がいる!」

1人の男を指差して発言した。
民衆の視線がその男に向けられる。

「それは、この壇上にいるアルベルト公爵だ!」

俺に名を呼ばれた公爵が顔を引きつらせて後ずさりする。
そして徐に口を開く。
「な、なにをバカな事をっ!そんな証拠がどこにある!それよりも、はやくこの反逆者を取り押さえぬか!」
その声に反応し、騎士団たちが俺を取り囲む。

「証拠ならある!」

!?

騒ついていた場が再度静まり返る。俺を捉えようとしていた騎士団員の動きも止まった。

すると、檀上に1人の男が現れた。
その男は商人風の姿をしていた。

そう、その人物こそ一番最初にエレナをこの王都まで運んできた運び人だったのだ。
俺が苦労して見つけた証人でもあった。
彼は金で雇われているだけだったので、それ以上の金を積めば簡単に自供してくれた。

その商人の姿を見た公爵が、「なぜ貴様がっ!裏切ったな!」と大声を上げている。
あらあら、この人、自ら罪を認めちゃったよ。
説明する手間が省けて、むしろラッキーだけどね。
民衆が再び騒めく。
公爵は、「しまった!」という顔をしている。そして、苦し紛れのセリフを吐いた。

「わ、私は罠にはめられたのだ!濡れ衣だ!すべてはコイツの策略だ!」
そう言い、公爵は俺を指差す。苦し紛れにもほどがあるだろう。
すると、取り囲んでいた騎士団員たちが俺に向けて槍を構える。
おいおい、そんな言い訳を鵜呑みにするのか?
いや違う。そうだった、こいつらもグルだったのだ。

さすがにこの状況はヤバいかな。
俺1人なら、力付くで突破は出来るかもしれないが、今はエレナもいる。
どうする?危険を承知で全員倒してしまうか。
考えている俺をよそに、今にも騎士団員たちは俺に飛びかかってきそうだ。
「そうだ、そいつを殺してしまえ!」
公爵が追い打ちをかける。

その時だった、民衆が騒めきだす。
処刑台に護衛を連れた1人の男が現れたのだ。
どこか見覚えのある顔だったが、かなり身分が高いのだろう、頭には王冠のようなものをつけている。

王冠?
もしかしてこの国の王様か?
アルベルトを含めた周りの人たちが頭を下げている。
どうやら本物らしい。
今、この場で頭を下げていないのは、俺とエレナだけだった。
「貴様、無礼だぞ!」
騎士団員が俺に告げる。
「良い」
聞き覚えのある声だった。
発したのは王冠を被っている人物のようだ。
しかし、俺には王様と面識などなかった。
「それよりもワシには聞かねばならぬ事がある」
アルベルトは、予期していたのか、地面に顔を伏せたまま、大粒の汗をかいている。

「アルベルト卿、ワシとこの国に誓って本当の事を申してみよ。此度の件、お主が首謀者なのか?」
アルベルトは沈黙していた。

それにしてもすごい迫力だ。身近にいるせいかもしれないが、この迫力に威圧されれば、嘘などつけないだろう。
そして、アルベルトが観念したのか、あっさりと自分の罪を認めた。
「王の仰る・・通り・・です」
再び民衆が騒めきだす。
王は、自分の身辺警護兵にアルベルトを連行するように命令していた。
共犯と思われる、騎士団員も一緒に連行されている。
そして、王は騒ぎは終わりだと、民衆たちを解散させた。

俺とエレナは、王様へ連れられ、王城の一室で待機させられている。
エレナは多少は回復していたものの、まだ衰弱しきっている。
俺は、洗浄ソフトウォッシュ治癒ヒールをエレナに使う。

「ありがとうございました。本当にユウ様には2度も助けて頂いて感謝のしようがありません」

しばらくして、王様が1人で護衛を連れず、部屋の中へ入ってきた。

その顔を見て、ハッっと気が付く。
そう、この人は中心街へ侵入するときに抜け道を教えてくれた人だったのだ。
「やっと気が付いたようじゃの」
エレナは、王の姿を見ると地面に頭をつけている。
「エレナ嬢、いやエレナ王女と呼ぶべきか、どうか顔を上げて下され」

王女?
俺は最初聞き間違いかと思った。
しかし、間違いではなかったのだ。エレナはエルフの里の王の娘だったのだ。

「今のワシは王の衣を脱ぎ捨てておる故、ただの1人の老人に過ぎん。どうか顔を上げてくだされ」
エレナは恐る恐る顔を上げる。
そして、今度は王様自ら、エレナの前で顔をつけて土下座している。
おいおい、一国の王様がこんな事していいのか?

「此度の件、エレナ王女には大変なご迷惑を掛けてしまった。誤って許される事ではないと思うが、本当に申し訳なかった」
エレナが俺の方を振り向くので、静かに頷き返した。

「王様、顔を上げて下さい。この一件に関しましてはエルフ側にも戦争を欲している内通者がおりました。人族とエルフ族の双方の問題です。どうかご自分を責めないで下さい。そしてどうか顔を上げて下さい」

完全に自分がこの場にいるのは場違いな空気に苛まれていた。
無理もない。一国の王様に、エルフ族の王女。身分的にも底辺の俺には入る余地などなかった。

その後、俺たち3人が語りあっている所に、侍女を引きつれた親衛隊と思われる男が入ってきた。
「王様、そろそろお時間です」

王は多忙なのだ。いつまでも話している時間はない。
王は「そうか」と一言呟き、俺たちに一礼する。
「そなたたち2人にこの世界の神の加護があらんことを」
俺たち2人は、跪いて頭を下げた。
やはり、他の者たちの前では、双方が王らしく振舞っておかないとまずいしね。
王は、この部屋を出ていき、俺たちも王城を出ることになった。

王は二つの事を約束してくれた。
今回の騒動の件、変な噂が流れないように情報統制をはかってくれるということ。
もう一つは今回のアルベルトのような輩が二度と現れないように対策を講じること。
そして、この貴族街もとい中心街に入るための証をくれた。

さて、これからどうしたものか。
本来ならば一刻も早くエレナをエルフの里へと連れ帰らないといけない。
恐らく裏切者のエルフが、人族に王女がさらわれた。などと報告しているに違いないからだ。
そうなれば、すぐにでも、ここへエルフの軍勢が攻め入ってくるだろう。

とりあえず一度、クラウさんの所に戻らないといけない。
しかし、まともに向かえば半日以上は掛かってしまう。
今出発すれば、真夜中になること必須だ。
しかし、俺には考えがあった。
以前ダンジョンで見つけた魔導具である指輪を取り出した。
そう、ポータルリングだ。
このリングは、4つの場所をメモしておき、1日に2回だけメモ先へとワープする事が出来る転移系の魔導具だった。
ここへ来る前に、クラウさんの小屋を予めメモしておいたのだ。

エレナはすっかり回復しているようだった。本当に良かった。
精神的には若干まだ心配は残る。当然だ。殴る蹴るの酷いことをされていたのだから。

この先の動向についてエレナに俺の考えを伝えた。
そして最後に、
「エルフの里へ、君の故郷へ送り届けるよ。今度は俺自身が直接ね」
身分が分かっても、俺がエレナと呼んでいるのは、彼女がそうしてくれと言ってきたからだ。
「ユウ様には何から何まで甘えてばっかりですね」
エレナが微笑んでいる。
エレナの故郷はこの王国から西の方向にある。距離にして馬で1週間くらいだ。
かなり遠いな。
そもそもエレナは、王女の身ということもあり、地方の町への謁見の帰路を襲われたのだそうだ。
エレナの考えも俺と同じだった。一刻も早く里に帰って王であるエレナの父親に無事を知らせる必要があると。

俺は旅支度をするべく、エレナと一緒に食料を調達していた。
エレナは一応、フード付きコートを羽織っている。俺の忍び装束だ。
そして重要な問題が1つ。

馬車を調達しなければならない。
馬車など乗ったことがないし、ましてや操作するなど勝手が分からない。
出来れば、操者毎雇えないかと思っていた。

食料調達のついでに探していると、目に留まる物があった。
なんと、運搬のサービスを斡旋している建物があったのだ。
今までは気にもとめていなかったので気が付かなかったのだが、入って見る。

「いらっしゃいダンナ」
閑散としている。建物内から察するに、あまり儲かっていないようだ。
しかし、送り届けてさえくれれば何の問題もない。

「エラム高原まで送り届けて欲しいんだけど」

エラム高原から少し行った先にエルフの里があるということを事前にエレナに聞いていた。

店主は、少し考えていた。
「エラムですか・・あそこは少しばかり物騒でしてね、モンスターもそれなりに強いのが出るといいますし・・」
店主は迷っていた。
あまり好きなやり方ではないが、お金の力を使おう。あまり形振り構っていられないしね。
「お金なら言い値を出すよ」
エレナが俺の顔を見る。
俺は笑顔でエレナを見る。

「そうですか、それならば金貨50枚で引き受けやしょう。護衛も連れていく必要がありますしね、こちらもいろいろと準備をしないといけませんのでからして・・」
「分かった」

!?

店主が、え?っという顔をしている。
まさかそんな大金でOKを出すとは思っていなかったのだろう。
俺はもちろん相場なんて知らないのだが、確かに金貨50枚は大金だろう。
しかし、今の俺にとって金貨50枚は、たいした額ではなかった。

交渉成立だな。
店主自らが、同行するようだ。そして、護衛が必要だと、店の奥からフルプレートの男が現れた。
真新しい甲冑を身に纏った、ベテラン風な剣士が現れた。
どうやら彼も同行するようだ。
奥の倉庫に馬車が止まっていたので、ついでに馬車を見せてもらう。

なかなかに立派だ。それに想像していたよりも大きい。
これならば、全員余裕で乗れるだろう。馬の操作は店主のガラクがするそうだ。

よし、準備は整った。

あとは、ユイたちを連れてくるだけだ。
店主と落ち合う場所と時間を決めて、俺たちは店を出た。
出発は明日の朝9時となった。集合場所は南門だ。

人気のない所まで進むと、早速ポータルの実験をする。
しかし問題が1つあった。多人数が一緒に飛べるのだろうかということだ。
こればっかりはやってみないと分からない。
俺はエレナと手を繋ぎ、恐る恐る発動してみる。
指輪が光りだしたと同時に現在メモされている場所が目の前の空間に表示された。

ポータル1:バステト村 クラウ小屋
ポータル2:プラーク王国 ホリーの宿屋
ポータル3:該当なし
ポータル4:該当なし

念のためにホリーさんの宿屋をメモしておいた。
今回はポータル1だ。俺はポータル1が表示されている部分を押す。
すると次の瞬間、景色が一瞬だけ暗転した。その間は僅か1秒もなかっただろう。

そして目的地のクラウさんの小屋の前に2人はいた。
エレナもちゃんと転移している。どうやら術者と繋がっていれば、何人でも一緒に飛べるようだ。

そして、ノックして中へ入る。

エレナには事前にクラウさんの事は説明していた。
これから行くところは、俺の魔術の師匠の兄弟子の関係の人物だと。
中に入ると俺の胸元にユイが飛び込んできた。
俺は驚いたが、そのままユイを受け止めた。

「心配したんだからねっ!もう・・」

どうやら心配を掛けてしまったらしい。素直に謝っておこう。
「悪かったな、心配を掛けてしまった」
ユイが俺から離れる。
「今度はちゃんと助けられたんだね」
「ああ、大成功だな」
ユイがエレナの方をみる。
「王女様なんだよね・・」
どうやら、クラウさんに聞いたのだろう。
「ユイちゃんも、心配してくれてありがとう。あと、正体を隠していてごめんなさい。私はエルフの里の王女よ。王女と言っても大小無数の集団があるので、単に王女といっても、その一つの集団の王女なので、そんなに偉くはないんですけどね」
ユイは目をキラキラさせている。
「でも王女様なんてはじめて見た!私と年も近いのにすごい!」

ユイ、エルフは見た目に騙されたらだめだぞ、見た目こそお前と同じくらいだけど本当の歳を聞いたら驚くぞ。と心の中で呟いた。

「私の事はエレナと呼んでね。だって私たち、もうお友達でしょ。あと、私の歳はきっとあなたの2倍くらいはあると思うわ」
あまりにも衝撃だったのか、ユイが口をポカーンと開けて驚いている。

「私をのけ者にしないでくれないかな」
奥からクラウさんが現れた。
「クラウさん、ユイとクロの事、ありがとうございました」
「うむ。無事に助けられたようで何よりだ」

俺は、改めてクラウさんの事をエレナに紹介した。

彼に教えてもらったから、エレナを救出する事が出来たことなどを話していた。
エレナはすごく感謝をしていた。
何か俺の時よりもすごい感謝のしようだったのだが、年頃の娘さんはダンディーなおじ様の方がいいのかなと少しだけ嫉妬してしまう。少しだけね。

話している中、ずっとクロがおれの肩に乗って魔力をチューチューしていた。
少し見ない間に少しだけ大きくなったか?

俺は明日の朝すぐにエルフの里に向かって出発することをみんなに話していた。
クラウさんも「それがいいだろう」と、新しく水晶で知り得た情報を教えてくれた。

どうやらマルベスがエレナが助かったことを知ってしまったらしい。
恐らくプラーク王国にスパイが居たのだろう。
マルベスは、現在エルフの里に向かっている。
「次にどんな手を打ってくるか分からんが、向こうもこちらがエルフの里を目指す事くらいは容易に分かる事だ。何か妨害工作をするかもしれない。気を付けて行ってくるんだ」
確かにそうだ。エレナには常時注意しておかないといけない。
今だけは、ユイに持たせてある致命傷を一度だけ身代わりとなってくれるブリックリングをエレナに持たせておいたほうがいいだろう。

「この部屋を使うといい」

クラウさんが寝床を提供してくれた。
どうみても狭い。3人が雑魚寝してもギリギリという空間だった。

クラウさんは俺の耳元で小声で話しかける。
「これも試練だと思え、兄弟子からのね」
といい、ニコッとして出て行ってしまった。

何の試練だか・・。

俺が真ん中で、エレナが右側、ユイが左側に寝ている。クロは俺の足元で丸くなっている。
俺はもう人間として出来上がっているから、今さら若い女の子と一緒に寝るくらいでいちいち動揺したりしないのだ。

そのはずだった・・。クラウさんの言葉のせいで、変に意識してしまい、結局一睡も出来なかった。それにユイの必殺技も何度か炸裂していたのもその要因の一つだった。

一睡も出来ぬ間に朝になった。
「お兄ちゃん、おふぁよー、いい朝だね~」

人の気も知らずに朝からいい笑顔を見せてくれる。

「ユウ様、おはようございます」

「2人ともおはよ」
くそう、完全に寝不足だ。

そして、すぐに身支度をして、ポータルの出番である。
忙しないが、すぐにエルフの里に向かう必要があった。
クラウさんにお世話になりましたと挨拶する。

「今度来るときは、もっとゆっくりして行ってくれよ」
俺は、「はい是非!」と答えて、クラウさんと別れた。

小屋を出て少し歩いたところで、ポータルを発動する。事前にユイにも伝えてある。
3人は手を繋ぎ、ユイがクロを抱えている。
よし、発動だ。
ポータル2の表示部分を触れた。
すると景色が暗転しミリーさんの宿屋の前へとやってきた。
成功だな。ちゃんと3人とクロも一緒だ。

そして、目的地の南門まで向かう。
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バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

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