幻想世界の統合者

砂鳥 ケイ

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第二百三十六話:フランvs雷姫メルヘス

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男は、たった1人で戦っていた。
一人を複数で取り囲み、嘲笑うかのように攻撃の雨を降らせていた。

降り注ぐ数多の攻撃を既にボロボロの身体でフラフラになりながらも辛うじて躱していた。

現在この男が置かれている状態は、絶望的とも言える状況だった。
常人ならば諦めて地に膝をつけていてもおかしくはない。
しかし、男は必死に攻撃を躱し続ける。

■状態
魔術使用不可
攻撃力大幅低減
移動速度大幅低減

本来ならばこれに状態異常だけでも10種類以上付与されていたが、男にそれは通じなかった。
男には、この世に生を受けた時から、全ての状態異常無効という固定オリジナルスキルを持っていた。

しかし、今回ばかりはそれが裏目に出ていた。
仮に状態異常になっていたならば、もっと早くに決着が着いていただろう。
彼がこんなにも長く苦しまなくて良かったであろう。

しかし、生への執着を彼は最後の最後まで諦めるつもりはなかった。
その身体が動き続ける限り、最後の最期まで足掻いてやろうと、あわよくば寝首を書いてやろうとさえ考えてさえいた。

まさに絶望的なまでの状況に対して、彼がそれでも抗い続けるのは、ひとえに仲間達の為であった。
1分でも1秒でもいい。時間を稼ぐ事だけを考えていた。

しかし、無情なまでに男の動きがついに封じられてしまう。

「やーっと当たったよ。ちょこまかと動き回っていたがこれで終わりね」

ケラケラと甲高い声で笑っているのは、紫電を帯電させながらヒラリと宙を舞う少女。
死神が連れている僕の一人だった。

彼女もまた、遠く昔に死した死人なのだが、ラドルーチの力で再びこの世界へと蘇った。

雷姫メルヘスと言えば、その当時知らない者はいない程の実力者だった。

今から2500年程前、彼女は魔王の片割れにいた。
しかし、魔族ではなくあくまで人族だ。

その力を買われ、人族の身でありながら当時の魔族の8人将に大抜擢された。
本来人族ならば、地界の人族側寧ろ勇者側につくのが定石なのだが、彼女は大罪を侵し、死刑執行を待つ投獄中の存在だった。
そんな折、その噂を聞きつけた他ならぬ魔王自らがメルヘスを助けた。

魔王はそんなメルヘスを鍛え更なる力を与えた。
元々強かったメルヘスだが、魔王の英才教育のおかげか、その強さは当時の魔界での最高戦力である8人の将軍の地位を授かる程になっていた。

しかし、度重なる地界との争いの中で、命を落としてしまった。
魔王は今まで魔族の為に尽くしてくれたメルヘスを労い、人族なのだからと地界に彼女を亡骸を手厚く葬り、墓標を立てた。

ラドルーチは、どこでその情報を知ったのか、地界にあるメルヘスの墓の場所を探し出し、自らの僕としていた。

「それにしてもなんてしぶとさなの貴方。でも流石にあれだけ私の攻撃を喰らえば、もう動けないでしょ?」

(翼と残ってた最後の足まで動かなくなったか。残りHPは……僅かか。まぁ、よく持った方だな。もう指すら動かす力がのこっていない)

「あんた達は手出し無用よ。こいつは私が仕留めるんだからね!」

メルヘスが手を挙げると途端に頭上に槍の形をした光源が出現した。
バチバチと紫電が走っているそれは、雷で形付けられた雷槍だった。

「死ね!」

メルヘスが手を前へと繰り出した。
その動きに合わせて雷槍が男目掛けて飛んで行く。

魔術によって生み出された物は、特殊な武具かあるいは魔術でなければ防ぐ事はおろか弾く事すら出来ない。
魔術を封じられている現状、男に残された道は避ける事だけった。
しかし、動きすら封じられてしまった今、男の命運は完全に詰んでしまった。

男は目を瞑る。

真っ暗闇の中で、男は何を思っているのだろうか。

攻撃が当たるであろうタイミングが過ぎても何の感触もない事に違和感を感じ、目を開ける。

次に男が目を開けた時、視界の先に見えたのは、見知った後ろ姿だった。

「遅くなってすみません、スザク様」

スザクの窮地に駆けつけたのは、他でもない、フランだった。

「…戻って来たという事は、奴等を倒す何か策を思いついたんだな」
「はい。既に皆行動開始しています」

戦いの場に邪魔が入り、メルヘスが怒鳴り散らす。

「ちょっとちょっと何よ、あんたさっき逃げた奴じゃないの。何また戻って来てんのよ、はぁ? 死にたいの? 逃げたままで入ればいいものの馬鹿じゃないの?」
「反撃を開始させて頂きます」

相手を睨みつけるフラン。

「やれるもんならやってみなさいよ! あんた達は手出し無用だからね!」

メルヘスが後ろを振り向くが、そこには誰1人としていなかった。

「ちょっと、あいつらどこ行ったのよ!」

キョロキョロと探すが先程までその場にいた死神とその他4人の姿は何処にも無かった。

メルヘスが前へと向き直すと逆に見知らぬ人物が横たわる男の前に屈んでいた。

「スザク様を安全な場所にお願い」
「はい、応急処置は既に終わりました。頑張って下さいフラン様!」

後方部隊だった2人の魔族に連れられ、スザクはこの場を離れる。

「もう、一体何が起こってるのよ!」

怒りの矛先は、当然フランへと向けられる。

「あんたは絶対に逃さないわ!」
「安心して下さい。逃げも隠れもしませんので。あと、貴女の相手は私ですので」

フランと雷姫メルヘスとの壮絶な一騎打ちの火蓋が切って落とされた。

フランは距離を取り相手の出方を伺う。

メルヘスは先程と同じように、雷槍を頭上に出現させた。
先程は3本だったのに対し今回は数えるのも億劫な程の本数がバチバチと音を発しながら漂っている。

「死に晒せっ、ライジングスピア!」

まさに雨の如く雷槍がフラン目掛けて飛来する。
フランは、余裕でそれらを躱すとお返しとばかりに火炎球を頭上に出現させた。
まるで、先程のライジングスピアを彷彿とさせるような数多の火炎球をメルヘスに向けて穿つ。

「遅すぎるわ」

まるで高速移動しているかのように押し寄せる火炎球の合間を余裕で躱し、フランへと接近する。

雷属性に特化したメルヘスは、自身の身体に微弱な電気を帯びており、それが筋肉を刺激し肉体本来が発揮出来るエネルギーを極限まで引き上げている。
故に細腕の身でありながら、格闘にも秀でていた。

フランは、腹部にメルヘスの掌底を受け後方へと吹き飛ばされた。
唯の掌底ではない。
繰り出される全ての攻撃は電気を纏ったものだった。

メルヘスは尚も追撃する。
飛ばされた先に先回りし、蹴り上げてフランを上空へと飛ばし、自身もそれを追う。
風圧で身動きが取れずにいるフランを、

「エレクトリックハンマー!」

唯の電気を纏った踵落としなのだが、メルヘスが使用する物理系攻撃の中では最大の威力を誇るものだった。

フランは受け身も取れずに派手に地面へと激突した。
地面が爆ぜ、噴煙が舞う。
まるで隕石でも落ちたかのように巨大なクレーターが出来上がっていた。

「あははっ! そうやって這いつくばってるのが、あんたにはお似合いね!」

見た目ほどに対したダメージではないが、若干の身体の痺れと一緒に傷を治癒ヒールで回復する。

「面倒いわねぇ、回復持ちかよ」

魔族の中で治癒ヒールが使用出来るものは人族と比べると非常に少ない。
それが種族的な特徴なのかは定かではないが、フランのように強者であり、尚且つ治癒ヒールが使える者は、魔王を除けば、クオーツにも一人いるだけだった。

あの速さについていかないと私に勝ち目はないわね。

何事も無かったかのようにその場にスッと立ち上がると、はぁーと深く息を吐く。

次の瞬間にはフランの身体が薄紫色に発光していた。
通常の身体強化とは異なる制限時間付きの全体強化だった。
手には、何処かから取り出したフィストと呼ばれる拳専用の武器を装着していた。
以前、7大魔王が1人、アーネストを倒した時に使っていた武器だ。

「では参ります」

フランの姿が消えた。

メルヘスの視界からフランが消えたのだ。
次にその存在を感じたのは、右腹部を殴られた感触だった。

堪えきれずにメルヘスは遥か彼方まで飛んで行く。
何キロ飛ばされたのかも分からず、反転し、地に足を付ける。

「げほっ、くっ、み、見えなかった…この私が全く見えなかったなんて…」

口から少なくない吐血をする。
ダメージも相当なものだった。

見上げると、そこにはフランがニヤリとした笑みで佇んでいた。

メルヘスが手を合わせると、フランの頭上へ轟音を轟かせながら雷が落ちた。

その隙に起き上がると、後方へと退き追い討ちと称して雷の雨を降らせ続けた。

数分もの間降らせ続けると、魔力を使い切ったのか、肩から息をするメルヘス。

幾多もの雷の飛来により、地形が変形し、もはや原型すら分からない程に変貌していた。

やがて、煙が晴れた先に現れたのは、衣服はボロボロになりながらも無傷な姿で、地に立っているフランの姿があった。
口元には、先程と変わらず笑みが溢れている。

女性として、色々と際どい格好になってしまっている。 
見えてはいけない箇所も露わになっているが、この辺りには2人以外には誰1人としていない為何の問題もないだろう。
メルヘスも死者ではあっても性別は女性だ。

「今ので無傷なんて、お前…化け物か」

メルヘスの発した言葉にフランは返答せず、あろうことか敵に背を向けその場を後にした。

途端にメルヘスが口から大量の血を吐き、自身の身体に目を落とすと、胸に大きな穴が開いていた。
そして、暫しの後、爆ぜた。
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