幻想世界の統合者

砂鳥 ケイ

文字の大きさ
96 / 242

第九十七話:大樹海の化物

しおりを挟む
ついにガゼッタ王国を出発する時がやってきた。

今まで滞在した中では一番最長だったかもしれない。
既に宿は引払い、我が愛馬グリム率いる馬車に揺られている。

宿屋の女将であるモアさんと、その娘のリリィには大変お世話になったので、宿代以上にお礼を追加した。
しかし、とうとう俺達以外の客が泊まる事は無かった気がする。大丈夫なのだろうか・・。
一般にも開放されている1階のレストランが賑わっているのは何回か見たけどね。
是非とも繁盛してもらいたいものだ。
置き土産がいい感じに作用してくれればいいんだけど。

さて、気持ちを切り替えて新天地へ向けて出発といこうか。

「ばいばい!ガゼッタ王国のみんな!またね!」

俺の膝に乗って感慨深そうにしているユイ。

「そうだな。またいつか必ず戻ってこよう」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ガゼッタ王国を出発して早10日が経過していた。
馬車を牽引しているグリムも久しぶりで張り切っているのか予想していたよりも移動距離を稼いでいた。

道中はこれといって何も起きる事はなかった。
ま、平和な事に越した事はないんだけどね。
あんまりに暇だと、うちの遊び盛りの二人が退屈してしまい、その相手をさせられる羽目になってしまう。

こまめにモンスターでも沸いてくれれば満足するんだろうけど。

近くにモンスターがいない訳ではない。
しかし、グリムを恐れてか近付いて来ないのだ。
むしろ逃げるように離れていく奴もいる。

俺達が目指す先は、大樹海バアムだ。
ここより、まだ20日程掛かる計算だが、今のグリムの速度ならばもう少し早く辿り着くかもしれない。

大樹海バアムは、あくまでもただの通過点に過ぎず、越えた先には、一面の海が広がっている。

この世界には、3つの大きな大陸がある。
今俺達がいるグリニッジ大陸と、これから向かおうとしているシア大陸、そして未踏の地と呼ばれる神魔大陸がある。

シア大陸の大部分を占めているのはアルゴート共和国で、アルゴート共和国には、この間の晩餐会に来ていたムー王女のバーン帝国やメイ王女のリーデルトン王国などがある。

どちらにしてもまずは、この大樹海を抜ける必要があるのだが、噂によるとこの樹海にも魔女が暮らしているのだとか。
後は、複数の盗賊団のアジトまで。

無事に素通りできる気がしないが、後は神にでも祈る他ないだろう。
きっと俺達の事を監視・・じゃなく、見守っていて下さっているはずだ。


更に数日が経過し、予定通り大樹海バアムに到着する事が出来た。
先程から、馬車は細い小道を進んでいる。
両側には千年杉を思わせる程の巨大な木々がそびえ立っていた。
密集して生えているせいもあって、奥の方は見えない。物理的に見えないのだ。
盗賊が隠れていても分からないだろう。
ま、俺には通用しないけどね。

事前の情報によると、数日はこの景色が続くらしい。
代わり映えのない景色に皆の緊張感は無くなっていた中での絶妙なタイミングだった。

範囲探索エリアサーチに複数の反応が現れた。
モンスターの反応ではない。

「賊だ!みんな警戒体勢を!」

俺はグリムに馬車を止めるように命令する。
ここまでの道中で、モンスターテイマーのレベルが上がり、グリムとの意志疎通が念話により可能になっていた。
同時にグリムの心情も手に取るように分かるようになった。
例え不意打ちを喰らったとしても、今の俺達に敵う賊はそうそう現れないだろう。
だが、油断は禁物だ。

馬車から降り、ユイとクロが正面に立つ。
ジラは荷台の上、リンは後方の警戒だ。
アリスは馬車の中で待機している。

両脇に隠れていた賊と思われる連中は、小道を塞ぐ形で横一列に整列していた。

「ここは通行止めだ。通りたくば通行税を支払う必要がある!」

中央にいる、恐らく賊のリーダーであろう男が喋っていた。
レベルを確認したが、10~20の平凡な連中のようだ。
相手の人数は8人いたが、ユイ一人でも十分お釣りが来るだろう。

「生憎、アンタ達に払うお金は持ち合わせていないな」

キッパリと断った。

「ならば、力尽くで奪うまでだ!」

どんな作戦をこうじてくるかと思いきや、真正面からただ突っ込んでくるだけのようだ。
もう少し頭を使えないのだろうか。

「ユイ、クロ応戦だ。気絶させるまでだぞ」
「ラジャー!」
「了解」

ものの数秒で襲い掛かる賊共を一人残さずKOしてしまった。

気を失った連中を横目に、俺達は通りすぎる。
悪いけど放置だ。

その後も似たような賊に絡まれる事・・・7回。
7回って、多すぎだろ!
あれか、地形が恵まれているからなのか?
一本道である以上、通行者は文字通り逃げ場がない。

この大樹海を抜けるにはここと同じような道が何本かあるのだが、ハズレの道を引いてしまったのかもしれない。

最初こそは律儀に馬車から降りて賊の出方を待っていたが、途中からは面倒なので、馬車すら止めずにジラの風魔術で賊を撃退し、走り去っている。

暫く進むと、開けた広い場所に辿り着いた。

一時休憩エリアだろうか。
他に数台の馬車も止まっていた。
俺達同様に他の馬車も道中賊に襲われなかったのか不思議だったが、観察していると馬車とは別に鎧をまとった護衛の騎馬が最低でも2人はいる事が分かった。

対する俺達は護衛なし。
これでは賊に襲ってくれと言ってるようなものだろう。
俺達も護衛役を準備した方が良いかもしれないな。

日も暮れてきたので、今日はここに停泊する事にしよう。

そうと決まれば、夕食の準備だ。
馬車生活での食事は俺の担当だ。
他は誰一人包丁すら握ったことのない、つわもの揃いだ。
時々手伝って貰ったりはするんだけどね。
あれ、もしかしてこの中で一番女子力が高いのって俺か?

「お兄ちゃん、今日のご飯はなーに!お肉?」
「そうだなぁ、ここ数日モンスターとの交戦もなかったから、肉が品薄なんだよね。久しぶりに鍋でもするか」

最初、肉がないと言った時は、あからさまにガッカリした顔をしていたユイだったが、鍋と聞いた途端に目をキラキラさせていた。

ストレージから大きな土鍋を取り出す。

ガゼッタ王国の金物屋で購入した物なのだが、見つけた瞬間に即購入した。
見た目は土鍋そのまんまなのだが、本来の使い方は、錬金術の錬金釜の一種のようだ。
見れば、蒸気を逃がす為の穴もない。
しかし、これを錬金術の道具として終わらせるのは非常に勿体ないと思い、穴を開けて土鍋として利用している。
実にいい買い物だった。

同じくストレージから食材を取りだし、手際よく切りきざんでいく。
そしてグツグツと火魔術により熱せられる事数分。魚と野菜中心のヘルシー鍋の完成だ。

量から言えば、軽く10人前はあるだろう。
決して作りすぎた訳ではない。ユイ一人で5人分超の計算なので、だいたい計算通りだろう。

食事も中盤に差し掛かった頃、こちらに近付いてくる反応が二つ。

馬車の外からこちらを覗いていたのは、人族の二人の少女だった。姉妹だろうか?
恐らく近くに停泊している馬車から来たのであろう。
鍋の臭いに釣られてきたのかな?

少女達の視線は鍋にロックオンだ。

「一緒に食べるかい?」
「え、いいの?」

片方の少女が馬車の荷台によじ登ってくる。

「こら、リリ!」

リリと呼ばれた少女の動きがビクッと震えて止まる。

「すみません、すぐに帰りますので」

ペコリとお辞儀をしてリリの腕を引っ張る。

その時、ぐぅーという音が聞こえた。
恐らく聞こえたのは、本人と俺だけだろう。
姉?の方の顔が沸騰するんじゃないかという程、赤くなっていた。

おっとこれは気まずい。救いの手を差し伸べないと。

「たくさんあるから遠慮せず食べていってよ」

俺の言葉にリリが姉の顔を伺う。

「えと、じゃ、じゃあ、お言葉に甘えさせて頂きます」

そうそう、子供が遠慮したらだめだぞ。
育ち盛りの子は、食べるのが仕事なんだから。

ユイが自分の分を食べられてしまうと思ったのか、勢いよく箸を動かしている。

前言撤回だ。ユイは子供だが少しは遠慮しなさい。
物凄い勢いでがっついている。
ユイを少しだけ威圧を込めた目で睨んでみた。

威圧視線を感じたのか、ビクッと箸の動きを止めた。

二人にお碗と箸を渡す。

「熱いからフーフーしながら食べてね」

食事しながらお互いに自己紹介をする。
二人の名前はリリとルル。
双子の姉妹で、しっかりしているルルの方が姉かと思えば、意外にも姉はリリの方だった。
家族で旅をしているそうだ。
目的地は同じく、この大樹海を越えた先の港町アラザードだった。

食後のデザートにポポの実という、見た目は黄色いブドウ、味はイチゴに似た果物を食卓に並べた。

「あまーい!」
「美味しいです!」

どうやらリリとルルも満足してくれたらしい。
というのも、売り物ではなく旅の道中に偶然見つけた実なのだが、調べてみると食べれると分かったので大量に採取していた。
俺達は好んで食べていたが、他の人の口に合うのか少し心配だったが、大丈夫だったようだ。

「ユウさん、ご馳走様でした」
「おいしかった!」
「また機会があったら食べにおいで」

二人ともペコリとお辞儀をして帰って行った。



朝になり、俺は何かの気配を察知して目が覚めた。
夜はローテーションで誰かが起きて見張りをするようにしている。今はジラの番だ。

「おはようジラ、何か変わった事はなかった?」
「おはようございますユウ様。停泊していた人達が朝方に出発していった以外は特に動きはありませんでしたよ」
「気のせいだったか」

周りを見ると、確かに停泊していた馬車が全ていなくなっていた。範囲探索エリアサーチ圏内にもいないな。
ゆっくりしていた訳ではないのだが、旅人の朝は早いようだ。

「俺達も朝食を食べたら出発しようか」

脚は俺達の方が早く、道は一本道なので、直ぐに追いつけるだろう。


馬車を走らせてから数時間が経過した時だった。
まだ先の方だが、モンスターと思われる雄叫びが聞こえた。
同時に煙が上がっているのが視認できる。

「なんでしょう、嫌な予感がしますね」

お立ち台にいるリンもその異様な気配に不安感を募らせていた。

そして、俺達はその正体に驚愕する。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完結】嫌われ公女が継母になった結果

三矢さくら
恋愛
王国で権勢を誇る大公家の次女アデールは、母である女大公から嫌われて育った。いつか温かい家族を持つことを夢見るアデールに母が命じたのは、悪名高い辺地の子爵家への政略結婚。 わずかな希望を胸に、華やかな王都を後に北の辺境へと向かうアデールを待っていたのは、戦乱と過去の愛憎に囚われ、すれ違いを重ねる冷徹な夫と心を閉ざした継子だった。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

処理中です...