幻想世界の統合者

砂鳥 ケイ

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第九十六話:出発の日

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魔界から戻ってから数日が経過していた。

サナを含めた各国の王女とそのパートナー達は、この数日の間に自国へと戻って行った。

今回の一件、説明の出来ない不可解な事が多すぎる事から、人々から”神の悪戯”などと呼ばれていた。

全てを知っている俺としては、少しだけ罪悪感に苛まれるが、話す訳にもいかないので致し方ない。

ただ一人だけ、バーン帝国のムー王女が去り際に放った言葉が非常に気掛かりだった。

”是非、近くを立ち寄った暁には妾のバーン帝国にお立ち寄り下さい。今回の一件を肴に語り尽くそうぞ”

フランさんの魔術で記憶を失くしているはずなんだが、彼女は魔女の称号を持っている。大丈夫だとは思うが、ボロが出ないように振る舞いには気を付けよう。

戻って来てからというもの、ユイが一日中ベッタリとくっついて離れようとしない。
今回は連絡も出来ない非常事態だったので、相当に心配させてしまったようだ。

「3日分のお兄ちゃん成分を吸収するんだもん!」

何やら意味不明な発言をしているが、気にしないでおこう。

「マスター、命令を下さい」

暇でする事がないのか、アリスが日に何度も命令を要求してくる。

「よし、アリス。一つ仕事を頼まれてくれないか」

ストレージからメモ用紙を一枚取り出す。

「ここに書いてあるものを買って来て欲しいんだ」

紙には、旅の必需品である食糧や錬金術に使用する薬品がギッシリ記載してあった。
食糧と言っても、調味料などのかさばらない物だ。

「リン、一緒に頼めるか?」
「分かりました」
「延び延びになってしまったが、明日には此処を出発しようと思っている。ユイもクロもみんなにお別れを言っておくんだぞ」

何かを思い出したようにユイが手を挙げている。

「お兄ちゃん!私、孤児院のみんなにお別れを言いたい!」
「クロも」
「ああ、そうだな。あれ以来結局顔出せず仕舞いだったからな、最後くらい挨拶しないとな」

この王国にまだ来たばかりの頃、卑怯な方法で孤児院が取り壊されそうになっていた所を俺達が救う手助けをしたのだ。
無事に解決したのだが、その後の動向は確かに気になる。

と言うわけでユイとクロと一緒に孤児院の前に来ていた。
ジラはシャロンの所に行っている。
趣味の裁縫をシャロンに指南してもらっているのだそうだ。
俺達が戻ってきて、この3日毎日通い詰めている。
そこでは、シャロンの事を”先生”と呼んでいるそうだ。

「すみませーん」

俺は孤児院のドアを軽くノックした。

孤児院の見た目は特に変わりはないようだ。
無くなっていたらどうしようかと思っていたが、それは俺の杞憂に終わった。

ドアを開けて中から出てきたのは、なんと貴族のヴィランだった。

「あれ、あんたは確か・・」

続いて出てきたのは、シスターシルキーだ。

「あ、ユウさんじゃないですか!お久しぶりです」

ヴィランを押し退けて俺の手を掴む。

「あ、うん、久しぶり。シルキーと、、、ヴィランさん」

ヴィランとは、ちょっと気まずかったりする。
シルキーを守る為に少しだけ争った事がある。
争うと言ってもただ一方的に俺のターンだったんだけどね。
思えば直接顔を合わすのは、それ以来だったりする。

「それに、ユイちゃんと、クロちゃんも!ささ、中へどうぞ」
「みんな!ユイちゃんとクロちゃんが来たわよ!」

入り口の所で少し話をするだけのつもりだったが、断る道理もないので、中にお邪魔する事にする。

中へ入ると、ここに住んでいる子供達がダーッと押し寄せてきて、ユイとクロを連れて行ってしまった。

「子供達の人数増えてません?」
「そうなんですよ。あの頃から2倍くらいに増えてます。私と老シスターだけではさすがに手が回らない時があるので、こうやってヴィランが時々お手伝いに来てくれるのよ」
「ま、まぁ、僕は子供が大好きだしね!あやすなんてのは朝飯前さ」

なるほど、彼がいるのはそういう事だったのね。
それにしても、まさか二人がここまで仲良くなっていようとは、初の恋のキューピットをさせられたんだ。二人にはこの恋が成就して欲しいと心から願っている。

「今日は老シスターはいないのですか?」
「そうなんです。今日は各孤児院を周回する日ですので、夜まで戻らないんです」

老シスターに会えなかったのは残念だが、アポなしで訪れたこちらが悪いしね。
俺は明日このガゼッタ王国を出発する事をシルキーに話した。
ヴィランは何か用事を思い出したとか言って席を外してしまった。
そりゃ、ボコボコにした張本人が前にいたのでは、この場に居づらいのも頷ける。

「そうですか・・。ユウさんは冒険者ですものね、いずれは次の場所に行ってしまわれると思っていましたから、驚きはありません」

淡々と語るシルキーだったが、その横顔は何処となく寂しそうだった。

「でもユウさん達には感謝しています。今のこの孤児院があるのはユウさん達のおかげですので」
「俺一人の力じゃどうしようもなかったですよ。あくまでも力を貸しただけです。それに、今はもう俺なんかよりも頼りになる相手がすぐ近くいるみたいですしね」

少し茶化してみた。
シルキーが少しだけ頬が赤くなっている。

「彼は、あれから本当に変わったんですよ。私の事も良くしてくれますし、それに子供達にもだいぶ懐かれちゃって」

ウィランの事を本当に嬉しそうに話しているシルキー。
少し妬いてしまうなんて事はない。決してない!

暫く雑談していると、ユイとクロが戻って来た。

「お兄ちゃん、ミゥちゃんの怪我を治せる?」

若干潤んだ瞳で懇願してくる。
ユイ、だからその手は卑怯だって・・。
そんな顔されたらお兄ちゃん断れないだろ。
ま、断る気もないけど。
隣の部屋に移動する。

「見せてみて」

ユイの後ろに隠れていた犬人(シエンヌ)の少女がクロに引っ張られてひょっこり顔を出す。
右手が肘の所から無くなっていた。

「部位欠損か」
「難しい?」

俺にとってはどうって事はないのだが、何でもかんでも治してしまうのもどうかと思うわけで、

「ミゥちゃん。その腕の事を聞いてもいいかい?」

依然としてモジモジしていたが、コクりと頷いて徐に話し出した。

別にすぐに治してあげても良いのだが、治してしまうともう元には戻せない。
戒めと過去の自分への決別の意味を込めて、治す前にどういった経緯でそうなってしまったのか、俺は聞くようにしていた。

彼女は前の孤児院に居た時に獣人族だからという一方的な理由で酷いイジメを受けていたそうだ。
その時に負った傷が元で腕を失う結果になったそうだ。話している途中に涙をボロボロとこぼしていた。

「話してくれてありがとう。辛い事を思い出させてごめんな」

俺はミゥの頭を優しく撫でる。

「目を瞑って」

MAXレベルの治癒ヒールをミゥに使用する。
部位欠損を治すには、レベル5の治癒ヒールでなければならない。

「目を開けて」

ミゥは、恐る恐る片目ずつ開けていた。

「私の腕が・・。治ってる・・・・うわぁぁん・・」

今度のは嬉し泣きだろう。

「ユイ、一緒にいてあげてくれるか?」

ユイがミゥの元に駆け寄り、抱きしめていた。
その光景を微笑ましく思いながら、部屋を出ようとした時だった。

「っひっぐ、お兄さん、っありがとうございます」
「どういたしまして、ミゥちゃん」

シルキーのいる部屋に戻った。

「ユウさん、いつもすみません」
「いえいえ、俺に出来る事でしたら」

暫く話をしていると、ユイとクロが戻ってきた。

「お別れの挨拶は済んだのか?」
「うん!でもお別れじゃないよ!また来るもん!絶対!」
「そうだな」 

挨拶を終わり、孤児院を後にする。
俺にはもう一つだけ最後に行っておきたい場所があった。
大聖堂だ。
大聖堂に用があるという訳ではなく、五大神である神メルウェルに用がある。

早速、高位聖職者であるレミリアさんに参拝の儀をしてもらう。


「また会えましたね」
「はい、今日は話があってきました」

神メルウェルは、優しく微笑んでいた。

「本当に貴方は凄い人ですね。魔界まで足を運び、魔王の代弁者とも仲良くなってしまうのですから」
「なんでもお見通しなんですね。俺的には、全て神様の掌の上で踊らされている気がしてならないですけど」
「うふふ。そこはノーコメントですよ」

普段は神々しい雰囲気を醸し出しているが、時々こうやって、茶目っ気を出してくる。
嫌いではないけどね。

「これから起こり得る、巨大な歪みに対抗する準備をこれまで通り進めて下さい」
「相変わらず、何が起こるのか、何をした方が良いのかは教えて貰えないんですね」
「ごめんなさい。ギリギリ言えるのはここまでなのです。お詫びと言ってはなんですが、私を叩いてくれても構いませんので」
「いえ、結構です」

即座に拒否する。

前回の時もそうだったが、神メルウェルは間違いなくMだろう。

「次の街に移動しようと思います。海を越えて、新しい大陸へ」
「はい、良いと思います。どこに居ようと私が見守っていますよ」

ツッコミはしないぞ。

「この方法以外でメルウェル様に会うにはどうすれば?」
「これを使って下さい」

名前:神札
説明:神と対話する事が出来る。

「それを持ち、念じるだけで私と対話する事が出来ます。ですが、使用する度に私の神珠(しんじゅ)を消費しますので、滅多な事では使用しないで下さいね」

神珠とは、神が行使できる所謂(いわゆる)MPみたいなものだ。スキルを使用するのにMPを消費するのは当たり前だが、消費してしまった神珠は膨大な時間を要しないと回復しないそうだ。

「貴方に神のご加護があらん事を」

貴女が神でしょ!
とツッコミを入れたいが我慢だ。

宿屋へと戻ってきた俺達は、意外な訪問者と顔を合わせていた。

「ユウさん!ジラさんに聞きましたよ!明日、この王国を立ってしまうそうじゃないですか!」

この王国の王女でもあるシャロン王女だ。

「ごめんごめん、勿論挨拶に行くつもりだったよ」
「本当かな~?  どちらにしても明日は一日中王宮から出られないので、見送りはできそうにありません」
「いやいや、見送りなんていいよ。一国の王女が一冒険者の俺の見送りなんて、側から見たらおかしいだろ?」
「本当に行っちゃうんですね・・」

何処かしら寂しそうな顔をしている。

「ああ、冒険者だしな」
「また・・・。また会えますか?」
「この世界を周って、いつかまた戻ってくるつもりさ」
「待ってますよ。ユウさんは、私の・・・恋人役であり、私の騎士様なんですから、私のピンチの時にはちゃんと助けに来てくださいね?」

そんな、ヒーローじゃあるまいし。
そんな事が可能な、魔術や魔導具があれば、迷わず手に入れたいとは思うけどね。

「おおぅ。ちゃんと俺の名前を呼ぶんだぞ?」

そして、出発の当日を迎える。
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