幻想世界の統合者

砂鳥 ケイ

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第百五十一話:水の魔女

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ここは、とある奴隷商の館。
地下3階の檻の前だった。

眼前には、鉄格子があり、その中には1人の少女が小刻みに震えながら体育座りでうずくまっていた。
背中に黒い羽を纏っているその少女は、吸血鬼族という非常に珍しい種族だった。

「リュイ・・」

声を発したのは、少女と同じ吸血鬼族の少年。
名をサテラと言い、目の前の少女の兄でもある。
サテラは、言い知れぬ不安を抱えてこの場に赴いている。
吸血島から遥々1ヶ月程を費やして、妹を探しに来たのだ。

ただ無事でいる事を信じて・・

少女は発せられた声に驚いて、その小さな身体をビクッと震わせる。
そして、何処か聞き慣れた声に、ハッと目を見開きその声のする方へと顔を上げる。

「サテラ兄ちゃん・・・なの・・?」

長らくこの暗がりの中に閉じ込められていたのだろう。正面の光によって影になっていたせいもあるかもしれない。
ハッキリと顔を認識する事がすぐには出来なかったようで、だけど、確かに聞き覚えのある声、背格好、間違いない、目の前の人物は、彼女の兄だと確信出来るのにそんなに時間は掛からなかった。

2人は会話はなくとも、鉄格子ごしで、抱き合い泣いている。
助けなど来るはずがないと、願いはしてもその願いが叶うはずなどない事は、幼いリュイですら分かる程に「あり得ない」と切り捨ててしまう程に可能性として限りなく0に近かった。
もう2度と会えないと思っていた存在に、こうして再開出来た事の喜びは大きいだろう。

だが、いつまでも再開の喜びに浸っている時間はない。
ここはまだ敵のアジトの中なのだから。

「挨拶は後でする。まずこの牢屋から出すから下がっててくれ」

感動の再会の所に水を差してごめんね。
涙を拭きつつ、サテラがリュイに後ろに下がるように促す。

「アリス頼む」
「了解マスター」

アリスの握力は、普通の人族の100倍以上だ。
故にこの程度の鉄柵ならば、簡単に捻じ曲げる事ができる。
レベルにより肉体機能が強化している俺でも出来るかもしれないが、ここは仲間を頼らせてもらう。
決して、ビクともしなかった場合が恥ずかしいからという理由ではない。断じて違う。

アリスにより、いとも簡単にひしゃげてしまった鉄柵からリュイを救出し、その場から逃げようとする。
しかし、リュイの足元はおぼつかない。
考えてみれば何日もこんな暗い所に放り込まれ、鎖で繋がれていれば精神的にダメージを受けないはずはない。ましてや、何日も塞ぎ込んでいて、急に歩けと言われて歩ける訳がない。

「お兄さんじゃなくて悪いけど、ここから脱出するまでの間、俺がおぶっていってもいいかい?」
「あ、えと、、お、願いします」

リュイは少し頬を赤らめモジモジしている。
年相応の恥ずかしさだろうと勝手に解釈する。

吸血鬼少女を優しくお姫様抱っこした俺は、脱出ルートを考えていた。
その姿を見たユイが何故だか指を咥えているが、見なかった事にする。

「脱出するぞ!」

元きた道を引き返す、なんて事はしない。
そんな事をすれば追ってきた連中に鉢合わせるに決まっている。
俺は争いはなるべく避け、穏便に済ませたいと思っている。
と、いう事で、壁に穴を開けて脱出する事にした。
アリスに人が通れるくらいにレーザービームを使って穴を開けて貰う。
1枚の壁をくり抜くのに必要な時間は5秒ほどだった。
通り終わったら、壁を元どおりに嵌めておく。
壊したものは、ちゃんと直さないとね。
傷は残るけど。

そして、結果的に誰とも遭遇せずに宿泊している宿まで戻ってくる事が出来た。

お姫様抱っこが恥ずかしかったのか、移動中も終始落ち着きがない感じでモジモジが止まらなかった。

今は、ベッドの上に横に寝かせている。
一応、治癒ヒール状態回復リフレッシュは施している。
側にはサテラが、妹の手を握って語り合っていた。

取り敢えず良く良く考えてみると、俺たちは強盗紛いな事をしたんだよな。
「大義は我にあり!」と叫んでも、強引に救出した事には変わりはない。

「どうしたものか・・」

塞ぎ込んで考えていると、いつの間にか出てきたセリアが俺の肩にチョコンと座っていた。

「ユウさんは良い事をしたんですから、あまり悩まないで下さい」

相変わらず、俺の心の声を読んでいらっしゃいますね、セリアさん。

「確かにブタ男らは、リュイを強引に拉致した奴らだ。同情の余地はないさ。だけど、同じ手を使い取り戻した俺も奴らと同じ事をしたんじゃないかってね考えてしまうんだ」
「違うよ!」

急に声を荒げるユイに全員の視線がそちらへと向かう。

「お兄ちゃんは、困ってる人を助けただけだよ、あんな人たちとは違うよ!」

その言葉にシュリも続く。

「人族なぜ奴隷と称し他種族を虐げる?私もユウしたこと間違ってない思う。悪いのはあいつら」

確かに、奴隷などと他種族をましてや同族を虐げるのは人族だけなんだよな・・。
他種族から見れば、俺が思ってる様に奴隷制自体が意味不明な代物に違いない。

妹の身を案じていたサテラが徐にこちらへと振り向く。

「兄ちゃん、本当にありがとなー兄ちゃんのおかげでリュイが無事に戻って来たんだ。本当に、本当に心から感謝してる」

少し荒んでいた心が皆の思いで晴れ渡って行くのが、何となく実感できる。

ムクリとベッドから起き上がり、スタスタと俺の前に吸血鬼少女のリュイがやってきた。

「起き上がっても大丈夫なのかい?」
「はい。あの、えと、助けてくれてありがとうございました」

仰々しくペコリと頭を下げる。

「無事で良かったよ。それと、どうやら俺は変な事で悩んでたみたいだね。悪かった」
「そうですよ!居辛くなったら、とんずらしちゃえばいいんですよ!」
「それは逃げるみたいで、流石にな、あと、どの道落とし前はつけに行くつもりだったしな」
「もう一度乗り込んで今度はめちゃくちゃに潰しに行くんだね!」
「いや、ユイ流石にそれはないぞ」

「ちぇ」っと言う舌打ちが聞こえる。
相変わらずの戦闘狂振りにも困ったものだ。

「じゃぁ、この国の治安維持を守ってる所に密告でもする?」
「それも難しいな。そもそも合法的に奴隷と言うものが認められている世界だからな。警備の連中に言っても恐らく厳重注意くらいだろう」

俺が懸念しているのは、また同じ事が起きやしないかって事。
リュイみたいな被害者をこれ以上増やしたくない。

「何か策はあるの?お兄ちゃん」
「うん、まぁ、策というか宛てかな」

あの人がいれば、あるいは・・・。
ダメもとで助けを求めてみるか。

「と言うわけで、少し外に出てくるから、留守番頼むよ」
「え、ユイも行く!」
「いや、少し考えがあるんだ。悪いけど、リュイとステラを頼む。もし追っ手が来た場合は、逃げるんだぞ。それになるべく追っ手には手は出さないでくれ」
「うーー。危険な事じゃないよね?」
「ああ、知人に会ってくるだけだよ」
「うん、分かった。お留守番してるね」
「何かあればすぐ連絡してくれ」

そのまま宿を出た俺は、一直線にある場所を目指した。

それにしても、この移動手段は便利すぎるよな。
真面目に歩けば、何日も掛かる距離だろう。

 それが、この短距離転移装置を使うと一瞬なんだよね。
是非、これが大陸全土へと広まって欲しいものだな。

さてと、すぐに逢えるといいんだけどな。ていうか門前払い喰らわなければいいけど・・。

眼前には、城というよりも強固で巨大な砦がそびえ立っていた。

短距離転移装置で城に辿り着いたのはいいが、この場には、本来あるべきものがない。
さっきから城の周りをグルグルと歩いているんだが・・・。

「一体、何処に入り口があるんだ?」

ていうか、誰かに聞こうにも周りに誰一人いないとは、これいかに・・。
城内にはたくさんの反応があるんだけどな。

一人途方に暮れていると、何かの気配が近寄って来る。
そちらの方へと視線を向けると、イキナリ魔術が飛んで来る。
首を傾けて、危なげなくそれを躱すと、今度は長剣を手に何者かが突進してくる。
縦横無尽に振り回された剣撃は、全てが急所狙いの容赦のない攻撃だった。
俺はただ躱すのみに徹する。反撃出来なかった訳ではない。
攻撃の一つ一つに全く殺気が感じられなかったのと、目の前の人物が、俺の知り合いだったからだ。

「一体何の冗談ですか?ムー王女」

俺の声に反応して仮面を被っている目の前の人物は、動きを止めた。

「流石じゃな。妾も少しは腕を上げたつもりだったのじゃが、全く相手にならんようじゃの。相変わらず規格外じゃ」
「久し振りに逢う相手に対しての行動と言葉じゃない気がするんだけど」

俺が少し呆れていると、彼女が仮面を取り外す。

「敢えてツッコまないが、俺が来たことはー」
「千里眼で見ていた」
「ある奴隷商に追われている事もー」
「千里眼で見ていた」
「話が早いな。じゃ、ここへ来た理由ー」
「勿論知ってるわ」

流石は、水の魔女の称号を持つ魔女だ。
何でもお見通しのようだ。
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