最後の魔女

砂鳥 ケイ

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最後の魔女28 大司教の策略

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 私たちは、教会の前までやって来た。
 隣には勿論サーシャとキャシーさんがいる。一緒にいるのは私たちだけではない。この国の衛兵その数50人。その傍らには青の教の聖女様とその護衛数人の姿も見える。
 レイランの蓄積していた教会に関する情報は全て王宮検察官に証拠と一緒に提出したのだ。
 王宮検察官とは、この国の法を司る番人たちの総称。これまで教会の行って来た行為がこの国の法に反する疑いがあると言うことが認められ、ついに国がその重たい腰を上げた。

 治療を求めやって来た人たちはこれから起こる事に対して、心配そうに只々眺めているばかりだった。

 そうしていると、教会の中から見慣れた一人の神官が出てくる。
 件の幼い聖女様の教育係でもあるマリア様だ。

「こんなに大勢の方が、一体全体どのようなご用件でしょうか? 今はご覧の通り神聖なる治療のお時間です。急ぎの要件でなければ、夕刻までお待ち頂けませんか?」

 群集を掻き分け、1人の人物がマリア様の前に歩み寄る。

「私は、筆頭王宮検察官のグレイブだ。貴殿は、マリア殿で間違いないな」
「はい、そうでございます」

 筆頭王宮検察官はマリア様に何やら紙の束を手渡した。

「これは?」
「今まで教会が裏で行って来た罪状の数々だ。一番古いもので45年前に遡っている。これらの件について詳しくお聞かせ願いたいので、教会の最高責任者である教皇様に取り次ぎ願いたい」
「ちょっと待って下さい。本気で言われているのでしょうか? ここは王都のシンボル、顔でもある教会なんですよ? その教会が罪を働くなんてあり得るはずがありません」
「知らぬと言うなら知っている人物に話を聞くまで。こちらとて教会の神官全員が加担しているとは思っていない。だがマリア殿、私が入手した資料によると貴殿も中心人物の1人だと書いてあるのだがな」

 いつもは聖母様のようなマリア様もその表情に少し焦りが見えている。

(ご主人様、気が付いているかにゃ?)
(⋯⋯誰に言ってるの? 教会の奥の方から膨大な魔力が迸っている事でしょ?)
(そうにゃ。今まで感じた事がにゃい程におぞましい感じにゃ。きっと悪い奴にゃ)

 確かに駄猫の言う通り。言われてから気が付いたのは黙っておく。異質な感じの魔力。魔族とはまた違った何かが、教会内部にいると言う事かしら。

「証拠はお有りなのですか? いきなり大勢で押し掛けて来られて、罪を認めて下さいなどと、少し一方的ではありませんか? この場所は神の祀られし教会本部なのですよ」

 2人の言い合いに近付くもう1人の存在。

「こ、国王様!?」

 マリア様は、膝をつき頭を下げる。

「まずは、このような時間帯に押し掛けてしまった事、謝罪致そう。じゃが、事が事じゃからな。それにグレイブ検察官。こんな場所でする話でもないじゃろう。場所を変えてはどうかな?」
「はっ、申し訳ございません!」

 国王様の介入により、主要関係者のみだけで話し合いの場が設けられた。

 その他の主に兵たちは、教会外で待機する事となった。
 私?
 私は勿論主要関係者の1人として話し合いに参加してる。
 サーシャがどうしても居て欲しいと懇願してくれたからなんだけど。
 そうでなければ、唯の第2付き人の私なんておまけのおまけみたいな存在でしかない。

 キャシーさんにサーシャを頼みますと言われてしまった。大丈夫、私が命に代えてもサーシャを守るから。
 ちなみに国王様は他に用事があるそうで、この場にはいなかった。流石にこの国のトップが居たんじゃ、お互いが気を使っちゃうから配慮したのかな?

「それで、教皇様はお越しになるのですか?」

 気弱そうな神官の一人が汗を流しながら応える。

「何分教皇様もお年を召しており、長期で療養中の身でありますもので⋯この場にお呼びするのは難しいと思われます⋯」
「ならば、次に権限を持っておられる方を呼んでは頂けませんか?」

 筆頭王宮検察官は、苛立ちを隠せないのだろう。
 さっきから、机の下で繰り広げられている貧乏揺すりが半端ない。

 長期療養中?
 そもそもが疑問だったんだけど、教皇様って姿を見た事がないんだけど、実在してるの?

 話から察するにかなりの高齢らしいし、下手をすれば私以上かもしれない。
 もしそうなら、確かに寝たきりなのも頷ける。
 私はまだ元気でピチピチだけど。

「お待たせしており申し訳ございません。只今大司祭様をお呼びしております」

 部屋の中に入って来たのは、マリア様だった。

 少しの間姿を見なかったけど、一体どこで何をしていたのやら。
 それから数分の後、小太りのいかにもな大司祭様が現れた。着席していた全員が起立し、立礼を持ってそれに応える。

 筆頭王宮検察官のグレイブから今回の訪問に至った経緯を簡単に説明すること小一時間…
 少しだけウトウトしかけた所で、ハッと目が覚めてしまった。

(リアちゃん)

 姿を隠して、教会の内部調査に向かわせていたミーアからの連絡だった。

(どうしたの?)
(最後の一部屋を残して教会の中は隅々に探したんだけど、例の教皇の姿は何処にもないわね。それで最後の部屋なんだけど、中から特殊な力で鍵を掛けられてるみたいね。すり抜ける事が出来ないわ)

 魔法で閉ざされた扉か。
 そう言えば、アンのお墓があるのも教会地下も特殊な力によって閉ざされた場所だったわね。

(入れそう?)
(こじ開ける事は容易いけど、その場合絶対にバレるわよ?)
(だよね。うーん、今バレるのはちょっとマズい。考えるから、その場に待機してて)

 教皇様か、一体何者なのだろう。
 先程感じた禍々しい魔力も気になるし、何か嫌な予感がする。

「全て、全く根も葉もない事例ですな。そもそも神に仕える我々神官が神のご意向に背く行為をするはずがありません。そんな事をすれば、天から罰が与えられてしまうでしょう」
「はぁ、ではこれらの証拠の数々はどう説明されるつもりですか?」
「まだ全てに目を通した訳ではありませんが、先の診療所襲撃の件にしても、教会が関与しているなどと言った証拠は、あくまでも襲撃犯の供述のみで決定的な証拠などないように見えますが? それにご本人様の居られる前で恐縮ですが、聖女様暗殺の件にしても我々教会に恨みを持っている連中の仕業だと調べがついていたはずです。大方、我々の事を疎ましく思っておられるそちらの青の教の方々の仕業なのではないですか? なすり付けとは甚だ遺憾ですな」

 ここに来るまでの短い間に資料に目を通していたみたい。
 まぁ、確かに決定的な証拠がない以上、しらばっくられたら逃げられてしまう。
 そんな事は最初から分かっていた。
 ならば、言い逃れの出来ない証拠をぶつけるだけ。

「ではこちらをご覧下さい」

 筆頭王宮検察官のグレイブは、拳大ほどの黒い箱を机の上に取り出した。良く見ると天面に無数の穴が空いている。

「それは何ですか?」
「これは、音声を記録出来る魔導具です」

 魔導具とは、魔法で作られた術式で構築された品物で、その種類は数多存在している。
 しかし、現存するその殆どが魔法を扱う魔女たちによって創り出されたもので、魔女なき今、魔導具を新たに創りだせるのは実質私1人。
 付与する効果によって、作成難易度が全然違う。
 かく言う私も魔導具作成はあまり得意ではない。

 グレイブが魔導具を起動させると、その中に記録されている音が流れ出した。

(彼女、絶対私たちの裏事情を知ってるわよ。いくらなんでもタイミングが良すぎるもの)
(いやだが、だとしてもだ⋯我々には彼女に手を出すことは出来んぞ)
(でも、どうして教会が極秘裏に進めているあの計画がバレてるのよ⋯)
(いや、まだバレたとは限らないぞ。たまたま本当に巡礼目的なのかもしれん)
(私はね⋯相手の考えてることがある程度分かるの。あの聖女の目を見た時に、絶対何かを勘ぐってる感じだったわ)
(だが、仮にバレていたとしても、彼女に何か出来るとは思えんがな)
(ダメよ。何かをされる前に消すわ)
(何を言ってる! 他の国の聖女を消そうなど、あの方の命令でもなければそんな事許されるはずがない)
(あなたこそ何を言ってるの? 私は、あの方の全権代理を任されてるのよ? すなわち私の言葉は、あの方の言葉だと思いなさい)
(作戦決行は明日の正午よ。流石に教会の中での襲撃は、こちらの警備体制を疑われるわ。だから、教会から外に出た時を襲う)

 そう、この証拠は私が提供したもの。
 いつだかの教会の天井裏に侵入した時のマリア様の会話を録音したもの。

「ちなみにこれは、聖女襲撃の前日に録音された会話だ。録音されている声の1人はマリア殿のものである事が既に確認出来ている」
「デタラメよ! 捏造だわ! 一体誰がそんなものを」
「マリア。神官たる者、声を荒げるとは見っとも無いですよ。これでは寧ろ事実だと認めているようなものですね」

 大司祭様がマリア様を諌める。

「大司祭様⋯すみません」

 いつもの自信満々なマリア様の姿はそこにはなかった。
 化けの皮が剥がれた事は喜ばしい。だけど、大司祭様の表情には依然として余裕が窺いしれる。

「魔導具は簡単には捏造出来るものではないとご存知のはず。お認めになりますか?」

 教会側は、ボロを出さない。
 何か行動を起こそうにも自分たちの手は汚さず第3者を動かす。
 その際、決して自分たちの行いだとバレないように何重にも布石を張っている。
 ならば、証拠を作るしかない。あちらが考えもしないような方法で。

「確かにマリア本人の声で間違いありませんね」
「大司祭様!?」

 あれ、てっきり庇うと思ったのだけど、まさか認めるつもりなのかしら?

「では教会が聖女暗殺を認めたと言う事で宜しいか?」
「そうですね、認めましょう⋯ですが、これは教会が関わっているのではなく、あくまでマリアが勝手に行動したもの。これに一切教会は関与していないと断言します」
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