最後の魔女

砂鳥 ケイ

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最後の魔女91 呪怨

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解析を使い、シルフィの母親ターニャさんの容体を確認する。

 うう。確かに、呪怨と書いてあるね。

「⋯⋯シル、帰った⋯の」

 苦しそうに咳き込んでる。これは本当にもう時間がないのかも。でもまだ間に合うよシルフィ。
 布団で目隠しになってるから治療の光も隠してくれるかな。こっそりと治療を施す。

 うぬぬ⋯⋯やっぱり駄目か。相当強い呪怨みたい。

「お母様、今戻りました。起き上がれますか?」

 アリシアさんが、ターニャさんの身体をゆっくりと起こし、シルフィが解呪薬を飲ませる。

 その状態のままシルフィがソワソワしながら暫く待つ。

「お母様、少しは楽になった?」
「えぇ⋯そうですね。少しだけ⋯楽になった気がしますよ」

 シルフィが涙を零し、母親に抱き付く。

 シルフィ、私の目にはまだ見えてるんだよ。呪怨と言う2文字が。やはり、解呪薬でも効かないかぁ。もしもを思って万能薬を作っておいて良かった。
 だけど、これで効かなければ⋯⋯ううん、絶対これで大丈夫。私が信じないと駄目だよね。

「シルフィ、これを飲ませてあげて」

 私は、小瓶に移し替えた万能薬をシルフィに手渡す。

「これは何ですか?」
「栄養剤。病気が治っても体力は回復しないから。これも飲んだ方がいい」

 シルフィは、笑顔でそれを受け取り、母親へと飲ませる。
 すると、どうだろうか。ターニャさんの顔色が見る見る内に回復していく。

「えっ、あれ⋯私、あれ?」

 今度はターニャが大粒の涙を溢す。

「ど、どうしたの、お母様! 何処か痛いところでも──」
「身体が、身体がすごく軽くなって、息が苦しかったのが嘘のように消えたの!」

 確かに呪怨の文字が消えていた。良かったぁ。アルナ、ありがとね。
 治ったのは当然栄養剤のせいではなく、解呪薬の時間差せいだと言うことにしておいた。
 二人が抱き合い、泣き合う。私たちはお邪魔なので、リグの袖を引っ張り部屋を出た。すぐに小間使いのアリシアさんも一緒に出て来て、私たちにお辞儀をする。そのまま別の部屋に通された。

 一体、誰が呪怨なんてものを残したのかね。第1王妃の存在を疎ましく思っている存在。話を聞いた限りでは彼女の敵は多そうだけど。

 暫くすると、シルフィとターニャさんが入ってくる。
 もう歩けるのね。ずっと寝たきりだったんだからまだ寝ていた方がいいんしゃないかな。

「娘から話は聞きました。この子の命を救い、私の病気を治す為に尽力して下さったとか。リアさん、リグさん、本当にありがとうございました。何とお礼を言っていいのか」
「これでまた王城でみんなで住めるね」

 シルフィが跳び上がってはしゃいでいる。

「安心するのまだ早い」

 そう、もし元気なターニャさんの姿を見られたら?
 もし、呪怨が解呪されたことを知られたら。施した本人に知られたらきっと、また次の手を打ってくるに違いない。だから、この問題は犯人を捕まえない限り解決じゃない。

 リグがシルフィのおでこにデコピンをお見舞いする。その場所を手で押さえ『なんで!』と涙目になり抗議するシルフィ。

「お姉様の言う通り。これで終わりじゃないのよ。あんたねぇ、誰がこんな周りくどい呪怨なんてものを使ったのか心当たりはないの!」

 シルフィには心当たりはないのか、涙ぐんだ目で母親の方へと顔を向ける。

「全ては⋯⋯エルスレイン様が来られてからなんです。あの人が別人のように変わってしまったのもそんな頃からです」

 ターニャさんは暗い顔をして語り出した。

 バラム王国の国王であるバングは、ターニャさんを一途に愛していた。それは八年経っても変わることはなかった。
 しかし、何処かから現れたエルスレインと名乗る平民が第二婦人となった。ターニャさんは当然そんな話はバングからは聞いておらず、この事を問いただした。1夫多妻は当たり前。特段問題はないのだけど、妻であるターニャさんに何の相談もないのは本来あり得ない。バングはそれに対し答えた。『これからは彼女を愛することにした』と。
 信じられなかった。急にそんなことを言い出したバングもそうだが、ターニャさんを見る目が明らかに変わったのだ。それはまるでゴミでも見るかのように。

「それからあの人の私への態度は日に日に悪化して行きました。次第に暴力を振るわれるようになり、身体を壊して寝たきりの生活が続きました」
「何でそこまでされてここを出ようと思わなかったのさ」

 リグって、聞きづらい事をサラッと聞くよね。私としては有難いんだけど。

「それは、それでも私はあの人を愛しているからですわ」

 これだけの事をされても尚、夫であるバングを愛している。

「ターニャ様は信じておられるのですね」

 最近、ターニャさん専属となった小間使いのアリシア。一眼見たときから気にはなっていたのだけど。この人──。

 入り口の扉を叩く音が聞こえる。

「おい! シルフィ様はいらっしゃるか!」
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