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神器争奪編
四百六十一話
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「聖王国が誇る騎士の品位もずいぶんと落ちたものだな。その子が嫌がっているのが分からないのか?」
「何、アンタ? 彼女の何なの? 一般人の分際で我々を侮辱するとは良い度胸じゃないか」
言葉を交わすなり両者の間に険悪なムードが漂いだした。
「自分たちは寄宿舎の中を案内しようとしただけだ」と取って付けた言い訳にギデオンもホトホト呆れていた。
下心を丸出しにしている輩が、自分たちの正当性を主張することほど滑稽なものはない。
普段なら、威嚇射撃で脅して済ませるが、ここは騎士団の施設。
ラスキュイから忠告されていた手前、ここは話合いで穏便に済ませるようにしたい。
が……ギデオンとの相性が悪すぎる。
「待ってくれ。私は教会から派遣された審問官のラスキュイで彼は友人だ。
そこにいる女性は彼の知り合いで、これから治療しないといけない。
そういう事だから、今回はお引き取り願えないか?」
このままだと事態が悪化し兼ねない。
それを見越してラスキュイが先に事情を話した。
審問官と名乗り上げると騎士たちの顔色が変わった。
育ちが良い彼らは肩書というものには敏感だ。
すぐに手の平を返し、ラスキュイにはニコニコと笑いかけていた。
「これは失礼した、審問官殿。
お噂はかねがね伺っております。
奇跡を起こせる者とは、貴殿のことだったのですね」
「そんな大それた者ではないよ。
少しだけ癒しの力があるだけさ。
寄宿舎をお借りして申し訳ないが、教会の活動に協力して頂けると助かります」
当たり障りのない、やり取りでどうにか大事にはならずに済んだ。
審問官の要望には逆らえないと連中も大人しく下がっていった。
「アイツら、目が笑っていなかったな。すぐにまた、同じことを繰り返すぞ」
「ギデオン、なんでも力づくでも解決する姿勢は感心しないぞ。
時は、言葉を交わす必要もある。
できるだけ、誰かを傷つけないようにしてゆくことで人々は心の乱れを正し、より良い社会を築くことができる。
少なくとも私はそう信じている」
「ラスの考えは立派だと思うが、結局は力だろう。
武力が権力に変わっただけだ。
誰も抗えないのさ、力の支配には……孤立するのを恐れて、どこかで繋がれていたいと思ってしまう。
皮肉な話だな、支配力が人の結束を強固にするなんて」
「これ以上は、価値観の押し付け合いでしかないな」
友の意見にギデオンも同意した。
無闇に議論を重ねたところで、どちらかが正しいとは言い切れない。
お互い、理念と私情が絡み合って出た主張だ。
一致する方がかえっておかしい。
対立するよりも、個々の意見として尊重することを二人は選んだ。
「カナッペ、大丈夫か? 連中に何かされなかったか?」
ギデオンが問うと彼女はしきりに首を横に振ってみせた。
ドアの方を指差しハンカチを取り出し見せてきた。
触れるとそれは微かに湿っている。
カナッペが何かを必死で訴えている。
そのことを察した二人は急ぎ部屋の中へと飛び込んだ。
中に入るなり、ベッドの方から微かに誰かの声が聞こえる。
見ると全身汗だくとなったシユウが苦痛でうなされていた。
「酷い熱だ。いつからこうなった?」
シユウの額に触れたラスキュイが、カナッペに訊ねた。
答えられない代わりにメモ用紙に書き記すと彼女は用紙をギデオンに手渡した。
「昨晩からだそうだ。ラス、戻せそうか?」
「不浄な力がこの少年の身体を蝕んでいるな。
今はまだ、微弱だが放置すれば負の力が増してゆく一方だ」
ラスキュイの手元が淡く発光すると、彼は見えない何かを掴んだ。
綱を引くようにグッと力を込めて勢い良く引っ張り上げた。
マリーヴェンシルの時と同様、すぐに小瓶を取り出しシユウの体内から取り出したものをその中に封じ込めた。
「よし、どうにか戻せた。次は君だな、手を出して見せてくれ」
言われた通り、手を差し出すとラスキュイは彼女の指先に触れた。
瞳を閉じて二、三度うなづき、空いた方の手を水平に動かしてゆく。
横一閃に敷かれた光の軌跡がカナッペのくびきを絶った。
「終わったぞ、すぐには回復しないが二人とも徐々に治ってゆくはずだ」
「あ……ああっ――――」
「無理はしなくて良い。焦らず、ゆっくりとリハビリすればすぐに良くなる」
引き戻しの能力は、ギデオンが思っていた通り絶大な効果を発揮した。
まだ喋ることはままならないが、発声音が出せるようになったカナッペも嬉しそうに眼を細めていた。
さきほどまで、息を切らせて苦しんでいたシユウも大分落ち着いてきた。
今はスヤスヤと寝息を立てている。
「感謝するよ、ラス。本当に君がいてくれて良かった」
「構わないさ。それで、もう一人いると聞いていたがどこに居るんだ?」
「それなんだが……彼女は別の場所にいる。悪いがついて来てくれ」
「何、アンタ? 彼女の何なの? 一般人の分際で我々を侮辱するとは良い度胸じゃないか」
言葉を交わすなり両者の間に険悪なムードが漂いだした。
「自分たちは寄宿舎の中を案内しようとしただけだ」と取って付けた言い訳にギデオンもホトホト呆れていた。
下心を丸出しにしている輩が、自分たちの正当性を主張することほど滑稽なものはない。
普段なら、威嚇射撃で脅して済ませるが、ここは騎士団の施設。
ラスキュイから忠告されていた手前、ここは話合いで穏便に済ませるようにしたい。
が……ギデオンとの相性が悪すぎる。
「待ってくれ。私は教会から派遣された審問官のラスキュイで彼は友人だ。
そこにいる女性は彼の知り合いで、これから治療しないといけない。
そういう事だから、今回はお引き取り願えないか?」
このままだと事態が悪化し兼ねない。
それを見越してラスキュイが先に事情を話した。
審問官と名乗り上げると騎士たちの顔色が変わった。
育ちが良い彼らは肩書というものには敏感だ。
すぐに手の平を返し、ラスキュイにはニコニコと笑いかけていた。
「これは失礼した、審問官殿。
お噂はかねがね伺っております。
奇跡を起こせる者とは、貴殿のことだったのですね」
「そんな大それた者ではないよ。
少しだけ癒しの力があるだけさ。
寄宿舎をお借りして申し訳ないが、教会の活動に協力して頂けると助かります」
当たり障りのない、やり取りでどうにか大事にはならずに済んだ。
審問官の要望には逆らえないと連中も大人しく下がっていった。
「アイツら、目が笑っていなかったな。すぐにまた、同じことを繰り返すぞ」
「ギデオン、なんでも力づくでも解決する姿勢は感心しないぞ。
時は、言葉を交わす必要もある。
できるだけ、誰かを傷つけないようにしてゆくことで人々は心の乱れを正し、より良い社会を築くことができる。
少なくとも私はそう信じている」
「ラスの考えは立派だと思うが、結局は力だろう。
武力が権力に変わっただけだ。
誰も抗えないのさ、力の支配には……孤立するのを恐れて、どこかで繋がれていたいと思ってしまう。
皮肉な話だな、支配力が人の結束を強固にするなんて」
「これ以上は、価値観の押し付け合いでしかないな」
友の意見にギデオンも同意した。
無闇に議論を重ねたところで、どちらかが正しいとは言い切れない。
お互い、理念と私情が絡み合って出た主張だ。
一致する方がかえっておかしい。
対立するよりも、個々の意見として尊重することを二人は選んだ。
「カナッペ、大丈夫か? 連中に何かされなかったか?」
ギデオンが問うと彼女はしきりに首を横に振ってみせた。
ドアの方を指差しハンカチを取り出し見せてきた。
触れるとそれは微かに湿っている。
カナッペが何かを必死で訴えている。
そのことを察した二人は急ぎ部屋の中へと飛び込んだ。
中に入るなり、ベッドの方から微かに誰かの声が聞こえる。
見ると全身汗だくとなったシユウが苦痛でうなされていた。
「酷い熱だ。いつからこうなった?」
シユウの額に触れたラスキュイが、カナッペに訊ねた。
答えられない代わりにメモ用紙に書き記すと彼女は用紙をギデオンに手渡した。
「昨晩からだそうだ。ラス、戻せそうか?」
「不浄な力がこの少年の身体を蝕んでいるな。
今はまだ、微弱だが放置すれば負の力が増してゆく一方だ」
ラスキュイの手元が淡く発光すると、彼は見えない何かを掴んだ。
綱を引くようにグッと力を込めて勢い良く引っ張り上げた。
マリーヴェンシルの時と同様、すぐに小瓶を取り出しシユウの体内から取り出したものをその中に封じ込めた。
「よし、どうにか戻せた。次は君だな、手を出して見せてくれ」
言われた通り、手を差し出すとラスキュイは彼女の指先に触れた。
瞳を閉じて二、三度うなづき、空いた方の手を水平に動かしてゆく。
横一閃に敷かれた光の軌跡がカナッペのくびきを絶った。
「終わったぞ、すぐには回復しないが二人とも徐々に治ってゆくはずだ」
「あ……ああっ――――」
「無理はしなくて良い。焦らず、ゆっくりとリハビリすればすぐに良くなる」
引き戻しの能力は、ギデオンが思っていた通り絶大な効果を発揮した。
まだ喋ることはままならないが、発声音が出せるようになったカナッペも嬉しそうに眼を細めていた。
さきほどまで、息を切らせて苦しんでいたシユウも大分落ち着いてきた。
今はスヤスヤと寝息を立てている。
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