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三十二話
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密林の中での会合。
目論み通り、彼のメッセージは彼らに届いたようだ。
果樹園にてギデオンを待っていたのは、いつもの少女。
その隣にはスラっとした背丈に髪をツインテールでまとめた別のエルフがいた。
少女とは対照的に、ツインテールの彼女は大人びている感じがした。
大弓を背負う彼女は、これぞアマゾネスといった動きやすさ重視の独創的な格好をしている。
もしも、彼女が人里に下りたら数多の男たちをたちまち虜にするだろう。
何せ、布切れ一枚でお尻を隠し、両脇などは丸っきり隠せていない。
とにかく露出が激しいので、なかなか直視し難い。
「あらためてまして、私はローゼリア。こっちは……」
「村長代理のフォルティエラという。早速だが、人間。お前のメッセージ、確かに受け取った。立ち話も何だ、ささやかながら席を用意したので話はそこで」
フォルティエラに案内され、大きな切り株テーブルを囲うように置かれていた椅子に腰を下ろす。
テーブルには、山盛りになったフルーツに山の幸や川魚が、ふんだんに盛り込まれた料理が並べられている。
木の葉や木の器というのがなんともエルフらしい。
彼らは常に緑と共にあり、自分たちが自然の恩恵を受ける代わりに、外敵から自然を守るのが自らの役割だと自負している。
「どうだ? 口に合うか?」
「美味いな。シンプルな味付けながらも野菜や肉、魚はどれも新鮮でドンドン、口に入っていく。これは?」
「芋虫の幼虫……」
「げほげほげほっ!!」
エルフの少女、ローゼリアの言葉にギデオンの手が止まった。
未遂に終わったとはいえ、料理に虫が使われていたのがよほどショックだったのだろう。
咳込みながら、果実酒を手に取る。
「すまない、虫はどうも苦手なんだ」
「気にするな。我々も人間が苦手なんだ、それと大差ないだろう。お前の行いは、我々にとしては助かるが同時に、新たな厄介ごとを持ち込んでくれた。あの数の人攫いをどうするつもりだ? ローゼリアに聞いたが、敵の大将が無事である以上、奴らは今よりも総力をあげて攻撃をしかけてくるぞ」
「ずいぶんと、慎重なんだな。そうなるのは、時間の問題だろう。何もしなくとも、いずれは此処を奪いに大軍を率いてくるはずだ。君たちのやっていた事は時間稼ぎにすぎない」
「その時間が必要だと言っている。時間さえあれば反撃のチャンスもあろう、兵も武器も増やすことができる」
「それは、向こうも同じだ。いや、向こうの方が人数は多い……時間が経てば経つほど戦力差は拡がっていくぞ」
フォルティエラ。
彼女の考えはギデオンにとっては楽観視したものに等しかった。
今はどうにかできても、このまま防衛戦を徹底していれば、大軍を投入されアマゾネスエルフたちは窮地に立たされてしまうのは確実だ。
それに此処は防衛拠点として致命的な欠点がある。
周りが木々で覆われている以上、密林に火を放たれたら一巻の終わりだ。
もっとも、エルフの鹵獲自体がフリードマンの目的。
その手段を用いる確率は極めて少ない……が絶対という保証はない。
長期戦になる事だけは避けないといけない。
「すでに黒幕は判明している。エルケリッヒ・フリードマン、エンデリデの王が首謀者だ! これで分かったろ? 君たちが相手にしているのは奴隷商なんて小さなモノではない。この島、そのものを敵に回しているんだ!」
ギデオンの証言に、ローゼリアもフォルティエラも目を見開いていた。
島全体の兵力を相手に彼女たち戦って無事でいられる可能性はゼロでしかない。
腕で眼元を覆い、天を仰ぐフォルティエラが叫ぶ。
「またか! また、我々は土地を追われるのか!? 冗談じゃない……集落には年老いたエルフだっているんだぞ!
今更、行くあてもなく定住地を探すなんてできるわけがない……」
「フォルティエラ……私はここからはなれない。私がいなければ、この果樹園を世話するものがいなくなる」
「ローゼリア、お前はまだ若い。人里に隠れ住むことだって……そうか、そうだよな。この果樹園は、お前にとって大切は場所だったな」
二人のエルフたちが互いに頷く。
状況からして、彼女たちがジャングルを捨てる選択はなさそうだ。
元より、ギデオンもエルフたちを移動させようとは思っていない。
いくら防衛拠点として不安を残していても、エルフ民を全員を守り切るには聖域が存在するこの地を置いて他にないからだ。
「僕なら、この問題を解決できる。けれど、君たちの集落に辿りつけない限りどうにも手が出せない」
「詭弁を! 我々がどうにもできない相手をお前一人で対処するとでも……それに、人間ではここの結界を突破する方法など―――」
「嘘だな、アンタの怯えた表情見ればわかる。ローゼリア、君は僕の言葉を信じてくれるか?」
薄墨色の瞳に映る少年。
彼は、一片の曇りもない眼差しでこちらを見つめている。
ローゼリアの胸がトクンと小さく脈打つ。
信じるか、信じないかではない。
彼女は自身がそうしたいと望んだ方を選択した。
「マッパー……地図作製のスキルを持った人間がいれば、結界のひずみを見つけられる……」
「ローゼリア、それは……掟を破った事に……」
「構わないよ!」
同胞に向ける、ローゼリアの眼光はいつになく鋭かった。
目論み通り、彼のメッセージは彼らに届いたようだ。
果樹園にてギデオンを待っていたのは、いつもの少女。
その隣にはスラっとした背丈に髪をツインテールでまとめた別のエルフがいた。
少女とは対照的に、ツインテールの彼女は大人びている感じがした。
大弓を背負う彼女は、これぞアマゾネスといった動きやすさ重視の独創的な格好をしている。
もしも、彼女が人里に下りたら数多の男たちをたちまち虜にするだろう。
何せ、布切れ一枚でお尻を隠し、両脇などは丸っきり隠せていない。
とにかく露出が激しいので、なかなか直視し難い。
「あらためてまして、私はローゼリア。こっちは……」
「村長代理のフォルティエラという。早速だが、人間。お前のメッセージ、確かに受け取った。立ち話も何だ、ささやかながら席を用意したので話はそこで」
フォルティエラに案内され、大きな切り株テーブルを囲うように置かれていた椅子に腰を下ろす。
テーブルには、山盛りになったフルーツに山の幸や川魚が、ふんだんに盛り込まれた料理が並べられている。
木の葉や木の器というのがなんともエルフらしい。
彼らは常に緑と共にあり、自分たちが自然の恩恵を受ける代わりに、外敵から自然を守るのが自らの役割だと自負している。
「どうだ? 口に合うか?」
「美味いな。シンプルな味付けながらも野菜や肉、魚はどれも新鮮でドンドン、口に入っていく。これは?」
「芋虫の幼虫……」
「げほげほげほっ!!」
エルフの少女、ローゼリアの言葉にギデオンの手が止まった。
未遂に終わったとはいえ、料理に虫が使われていたのがよほどショックだったのだろう。
咳込みながら、果実酒を手に取る。
「すまない、虫はどうも苦手なんだ」
「気にするな。我々も人間が苦手なんだ、それと大差ないだろう。お前の行いは、我々にとしては助かるが同時に、新たな厄介ごとを持ち込んでくれた。あの数の人攫いをどうするつもりだ? ローゼリアに聞いたが、敵の大将が無事である以上、奴らは今よりも総力をあげて攻撃をしかけてくるぞ」
「ずいぶんと、慎重なんだな。そうなるのは、時間の問題だろう。何もしなくとも、いずれは此処を奪いに大軍を率いてくるはずだ。君たちのやっていた事は時間稼ぎにすぎない」
「その時間が必要だと言っている。時間さえあれば反撃のチャンスもあろう、兵も武器も増やすことができる」
「それは、向こうも同じだ。いや、向こうの方が人数は多い……時間が経てば経つほど戦力差は拡がっていくぞ」
フォルティエラ。
彼女の考えはギデオンにとっては楽観視したものに等しかった。
今はどうにかできても、このまま防衛戦を徹底していれば、大軍を投入されアマゾネスエルフたちは窮地に立たされてしまうのは確実だ。
それに此処は防衛拠点として致命的な欠点がある。
周りが木々で覆われている以上、密林に火を放たれたら一巻の終わりだ。
もっとも、エルフの鹵獲自体がフリードマンの目的。
その手段を用いる確率は極めて少ない……が絶対という保証はない。
長期戦になる事だけは避けないといけない。
「すでに黒幕は判明している。エルケリッヒ・フリードマン、エンデリデの王が首謀者だ! これで分かったろ? 君たちが相手にしているのは奴隷商なんて小さなモノではない。この島、そのものを敵に回しているんだ!」
ギデオンの証言に、ローゼリアもフォルティエラも目を見開いていた。
島全体の兵力を相手に彼女たち戦って無事でいられる可能性はゼロでしかない。
腕で眼元を覆い、天を仰ぐフォルティエラが叫ぶ。
「またか! また、我々は土地を追われるのか!? 冗談じゃない……集落には年老いたエルフだっているんだぞ!
今更、行くあてもなく定住地を探すなんてできるわけがない……」
「フォルティエラ……私はここからはなれない。私がいなければ、この果樹園を世話するものがいなくなる」
「ローゼリア、お前はまだ若い。人里に隠れ住むことだって……そうか、そうだよな。この果樹園は、お前にとって大切は場所だったな」
二人のエルフたちが互いに頷く。
状況からして、彼女たちがジャングルを捨てる選択はなさそうだ。
元より、ギデオンもエルフたちを移動させようとは思っていない。
いくら防衛拠点として不安を残していても、エルフ民を全員を守り切るには聖域が存在するこの地を置いて他にないからだ。
「僕なら、この問題を解決できる。けれど、君たちの集落に辿りつけない限りどうにも手が出せない」
「詭弁を! 我々がどうにもできない相手をお前一人で対処するとでも……それに、人間ではここの結界を突破する方法など―――」
「嘘だな、アンタの怯えた表情見ればわかる。ローゼリア、君は僕の言葉を信じてくれるか?」
薄墨色の瞳に映る少年。
彼は、一片の曇りもない眼差しでこちらを見つめている。
ローゼリアの胸がトクンと小さく脈打つ。
信じるか、信じないかではない。
彼女は自身がそうしたいと望んだ方を選択した。
「マッパー……地図作製のスキルを持った人間がいれば、結界のひずみを見つけられる……」
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「構わないよ!」
同胞に向ける、ローゼリアの眼光はいつになく鋭かった。
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