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百四十六話
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「この程度の剣戟で剣を語るとは、笑止」
その無法者の目元は編み笠で隠された。
ただ、剥き出しとなっている口元は絶えず口角を広げていた。
枯れ枝のような、男の指先が黒塗りの柄をつかむ。
すると、正体不明の空気の層がランドルフに押し寄せてきた。
得体の知れない違和感……。
殺意でも敵意でもない、それはランドルフの心を大いに揺さぶってくる。
男が並みの剣士でないことは対峙した時から感じていた。
――近いモノは遠く、遠いモノは近くに。
ランドルフは観の目で、相手の全体像を捉えようとしていた。
肉体の動作を見るのではない。注目すべきは相手の心情、内面だ。
自分の動きに合わせ無法者はどう動いてくるのか? 何度も脳内シュミレートしてみる。
レイピア一本で、真向勝負を挑むか。
それとも、二刀流でトリッキーに立ち回るか。
様々な攻撃パターンを思い描くが剣先が男に届くイメージがまったく浮かばない。
考えれば考えるほど、焦燥感が増してくる。
「なまじ、腕に覚えがあるようだが……ワシにオマエの剣が通じると思うてかぁ!」
「みくびるな――! 剣は一手ですべてを変える。貴様に、私の太刀筋が見切れるか!?」
『極限の無呼吸』が発動した。
敵に放つ、一突きが幾重もの連撃に変化する。
怒涛のラッシュで無法者のガードを突き崩そうとレイピアが空を切り裂く。
「フン……」黒刀の柄の先端(茎尻)が大技の刺突を的確に捌く。
ランドルフと同等……いや、それ以上に返しの刀が速い。
「一閃百撃とは、恐れ入った。だが! ワシのは一閃千撃だよ」
「ごはっ!!」
茎尻が青年の鳩尾に深くめり込んでいた。
その場で身を屈め、苦痛にあえぐ。
もし、あの今の攻撃が連撃だったら即死だったであろう。
妙な手心を加えられ、鼻持ちならないが、それだけ実力差はひらけている。
やはり、二刀を用いて翻弄するのが正解なのか……。
「ロールスライサー!」
素早くカトラスをに抜き取ると立ち上がり際に、刃を揮う。
ほぼ、ゼロ距離だというのにあと一歩が届かない。
尋常ならざる反射神経を持つ男。
無法者を相手に、ランドルフは為す術もなく消耗してゆく。
どれだけ強固な一撃を放つことが出来ても、腕自体をつかまれてしまえば何も出来ない。
無防備となったところに凶悪な膝蹴りが飛ぶ。
「うぐぅ―――」悲鳴が声にならない。
男の剛腕が喉元をガッシリとつかんでいる。
「訊こう。何故? あの御方がこんな場所にいる?」
「な……んの話……だ」
「まったく、ガルベナールの奴め。 面倒事ばかり増やしおって……まぁ、よい。あの方は公国にとっては宝、返してもらうぞ」
「貴様……宰相と、どういう――――」
「死して眠れ」
ランドルフの鮮血が散った。一瞬にして、手足の腱を斬られ地べたに横たわる。
いつ、どうやって斬られたのか分からない。
間近に転がるレイピアを拾い上げようとするが、指先一つ動かない。
「ほう、まだ息があるのか? だが、この出血だ。そう長くは持たんだろう」
男は瀕死のランドルフには、目もくれず迎賓館の扉を蹴り破った。
カラン――コロン――と下駄の音だけが確かに響く。
館内で銃の発砲音と悲鳴が上がった。
突然の襲撃は、惨劇を生み出す。
男の正体すら分からないまま、ランドルフは意識を失った―――――
*
迎賓館を離れたシルクエッタはとある場所に向かっていた。
聖職者である彼女は、ごくまれに神託を授かることがある。
神託とは、心の中で聞こえる自分以外の誰かの声。
その声はゴーダ学長と面会した翌日から、少しづつ聞こえ始めた。
『厄災が近づいている。厄災をこの街に入れてはダメ!』
そうハッキリと聞こえた以上、無視を決め込むことはできない。
明らかに、最悪の訪れを告げている。
シルクエッタは、ナズィール駅方面を目指していた。
エリエから鉄道でやってきた、それは長身の道化師だった。
人目をひく白と紫の縦じまの衣装をまとい鉄の兜を頭からスッポリとかぶっている。
懐には長方形の木箱を大事そうに抱えていた。
道化師は、楽師だった。
マジックや大道芸は、彼の得意とする分野ではなく、楽器演奏こそが生きがいであり、自身が他者に誇れるものであった。
今宵は、英誕祭。
大昔、この地に現れた英雄を祀る日
日が暮れると共に、街中がお祭りムード一色に染まる。
年に一度の祭りを楽しみしていた人々が集い、歌い踊る。
道化師にとって演奏するのには、これ以上はない最高の舞台だった。
ナズィールの街並みを眺めながら、彼は笑った。
「今日は歴史に残るメモリアルデーになる。フフェフフェフフェ~」
その無法者の目元は編み笠で隠された。
ただ、剥き出しとなっている口元は絶えず口角を広げていた。
枯れ枝のような、男の指先が黒塗りの柄をつかむ。
すると、正体不明の空気の層がランドルフに押し寄せてきた。
得体の知れない違和感……。
殺意でも敵意でもない、それはランドルフの心を大いに揺さぶってくる。
男が並みの剣士でないことは対峙した時から感じていた。
――近いモノは遠く、遠いモノは近くに。
ランドルフは観の目で、相手の全体像を捉えようとしていた。
肉体の動作を見るのではない。注目すべきは相手の心情、内面だ。
自分の動きに合わせ無法者はどう動いてくるのか? 何度も脳内シュミレートしてみる。
レイピア一本で、真向勝負を挑むか。
それとも、二刀流でトリッキーに立ち回るか。
様々な攻撃パターンを思い描くが剣先が男に届くイメージがまったく浮かばない。
考えれば考えるほど、焦燥感が増してくる。
「なまじ、腕に覚えがあるようだが……ワシにオマエの剣が通じると思うてかぁ!」
「みくびるな――! 剣は一手ですべてを変える。貴様に、私の太刀筋が見切れるか!?」
『極限の無呼吸』が発動した。
敵に放つ、一突きが幾重もの連撃に変化する。
怒涛のラッシュで無法者のガードを突き崩そうとレイピアが空を切り裂く。
「フン……」黒刀の柄の先端(茎尻)が大技の刺突を的確に捌く。
ランドルフと同等……いや、それ以上に返しの刀が速い。
「一閃百撃とは、恐れ入った。だが! ワシのは一閃千撃だよ」
「ごはっ!!」
茎尻が青年の鳩尾に深くめり込んでいた。
その場で身を屈め、苦痛にあえぐ。
もし、あの今の攻撃が連撃だったら即死だったであろう。
妙な手心を加えられ、鼻持ちならないが、それだけ実力差はひらけている。
やはり、二刀を用いて翻弄するのが正解なのか……。
「ロールスライサー!」
素早くカトラスをに抜き取ると立ち上がり際に、刃を揮う。
ほぼ、ゼロ距離だというのにあと一歩が届かない。
尋常ならざる反射神経を持つ男。
無法者を相手に、ランドルフは為す術もなく消耗してゆく。
どれだけ強固な一撃を放つことが出来ても、腕自体をつかまれてしまえば何も出来ない。
無防備となったところに凶悪な膝蹴りが飛ぶ。
「うぐぅ―――」悲鳴が声にならない。
男の剛腕が喉元をガッシリとつかんでいる。
「訊こう。何故? あの御方がこんな場所にいる?」
「な……んの話……だ」
「まったく、ガルベナールの奴め。 面倒事ばかり増やしおって……まぁ、よい。あの方は公国にとっては宝、返してもらうぞ」
「貴様……宰相と、どういう――――」
「死して眠れ」
ランドルフの鮮血が散った。一瞬にして、手足の腱を斬られ地べたに横たわる。
いつ、どうやって斬られたのか分からない。
間近に転がるレイピアを拾い上げようとするが、指先一つ動かない。
「ほう、まだ息があるのか? だが、この出血だ。そう長くは持たんだろう」
男は瀕死のランドルフには、目もくれず迎賓館の扉を蹴り破った。
カラン――コロン――と下駄の音だけが確かに響く。
館内で銃の発砲音と悲鳴が上がった。
突然の襲撃は、惨劇を生み出す。
男の正体すら分からないまま、ランドルフは意識を失った―――――
*
迎賓館を離れたシルクエッタはとある場所に向かっていた。
聖職者である彼女は、ごくまれに神託を授かることがある。
神託とは、心の中で聞こえる自分以外の誰かの声。
その声はゴーダ学長と面会した翌日から、少しづつ聞こえ始めた。
『厄災が近づいている。厄災をこの街に入れてはダメ!』
そうハッキリと聞こえた以上、無視を決め込むことはできない。
明らかに、最悪の訪れを告げている。
シルクエッタは、ナズィール駅方面を目指していた。
エリエから鉄道でやってきた、それは長身の道化師だった。
人目をひく白と紫の縦じまの衣装をまとい鉄の兜を頭からスッポリとかぶっている。
懐には長方形の木箱を大事そうに抱えていた。
道化師は、楽師だった。
マジックや大道芸は、彼の得意とする分野ではなく、楽器演奏こそが生きがいであり、自身が他者に誇れるものであった。
今宵は、英誕祭。
大昔、この地に現れた英雄を祀る日
日が暮れると共に、街中がお祭りムード一色に染まる。
年に一度の祭りを楽しみしていた人々が集い、歌い踊る。
道化師にとって演奏するのには、これ以上はない最高の舞台だった。
ナズィールの街並みを眺めながら、彼は笑った。
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