異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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百九十二話

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「いきなり、聖獣って言われても……」
 シルクエッタが困惑するのも無理はない。
 ギデオンたちと共に舞い降りてきたのは、どう見ても普通の野鳥だ。
 全身が真っ白だということ以外は魔力すら感じられない。
 先程の神気を本当に、このミミズクが放ったとしたら、それは鳥の姿をした神ということになる。

 再会した直後に、神様をつれてきたと告げられても、状況の整理が追いつかなくなるばかりだ。
 そもそも、何を定義として聖獣と判別できたのか? 彼女には難問だった。

『そう、難しい顔はしなくもいいぞ。シルクエッタさん』

「念話? この声って……ジェイクさん?」

『そうだ。わけ合って、このような姿になってしまったが、魔導四輪を運転していたジェイクだ』

「本当に貴方が聖獣なんですね?」

 その問いに、ミミズクがひょいと首をすくめた。
 それまでケサランパサランだった彼が、どうしてミミズクになったのか?
 経緯を語るとギデオンが球体の雲を狙撃したところから始まる。
 
 ジェイクを潜り込ませた弾丸は、みごと雲の中央部分にヒットした。
 人々の畏怖が一塊となったそれは、ある意味、残留思念と呼ぶべきモノであった。
 本質的にネガティブな、その塊は触れただけで悪影響を受ける。
 触れても問題ないのはファルゴのみ、それ以外の者が接触すればたちまち精神に異常をきたす。

 ところが、ジェイクは雲の中をスイスイと泳いでいた。
 恐怖や自己否定といった怨嗟に苛まれながらも、まったくの平常運転でやり過ごしていた。
 これも、またゴールデンパラシュートの能力あってのことだった。
 信じられないことに、ジェイクは思念に幸運を前倒しさせたのだ。
 自分のもとに帰りたくとも、一度、引き離されてしまった想いは戻ることが叶わない。
 だが、本体との繋がりは依然結ばれている。

 ならばと、彼は本体の方から、幸福を回収し思念と混ぜあわせ調和することに成功したのだ。
 あとは、ゴールデンパラシュートの利息能力で思念を自身のモノとして取り込んだ。
 それにより、ケサランパサランがミミズクとして新たに生誕した。

「僕が合図したら……シルクエッタ、君は聖法で広場、すべてを浄化してくれ!」

 有無など言っていられる余裕がなかった。話を進めている合間にも惨状が街全体をおおってゆく。
 悪意による強制的な混乱……これほどにまで厄介なことになるとは誰が想定していただろうか?
 もとを辿れば、デビルシード保有者を従わせるためだけの力だった。
 そこを、つけこんできたのは悪魔のほうだ。
 もっと、残虐な使い道があることに気づいていたのだ。

「ファルゴ! ウィナーズカースの能力で、街全体から混沌と狂気を取り除け」

「……オマエら、約束を違えんなよ。ウィナーズカース!! デビルシードの脅威をジェイク・イスタムニールに分配する」

 ウィナーズカース発動と同時に、民衆の胸元からドス黒いもやが発生した。
 至る所から、一斉に靄が立ち込め濃霧ようになってきた。
 空気が汚染されてゆく中でザサンの残灰に集結しようとしている。
 思念の行進が始まった。足音は無い。
 只々、宙に浮かぶ黒い霧がこぞって迫ってくる。
 ゴールデンパラシュートが神気を解き放ち、不浄を清浄へと反転させる。
 陰と陽、二極の総入れ替え、対立する流れの中で、負の感情を失った人の群れが呆然と立ち尽くしていた。

「今だ、シルクエッタ!」

「皆、正気を取り戻して! ホーリーソング!!」

 投じられた一石が、運命という水面に波紋を広げた。
 滅びの一途を辿ろうしていた世界に新たなる道筋が刻まれた。
 治癒師からもたらされる浄化の祈りに柔らかな光。
 それまでの絶望が希望へと変わった瞬間、民衆は睡魔に誘われるかのごとく、その場に倒れ込み爆睡し出した。
 暴徒と化していた彼らが悪夢から解放され、ようやく自分らしさを取り戻した。

 悪魔たちが何故、このような行動を取ったのかは謎のままではある。
 しかし、それを気にしている暇は、ギデオンたちには無い。

「どうやら、片がついたようだね……」
 ザっと砂利を踏み鳴らし、広場に現れたのは勇士学校の理事を務めるゴーダ・マーシャルだった。

「学長……約束通り、最悪は回避しました」

「見たいだね。二人ともよくやってくれた! 後のことはナズィール地区代表の私の仕事だ。この祭りのファイナルは私が責任を持って進行役を務めさせてもらうよ」

 ゴーダは、ギデオンに対し力強く頷いた。
 それは最終イベントの準備を促す合図でもあった。

「キュアライト!」

「シルクエッタ? あまり無理をするなって……魔力だって、そんなに残っていないだろう?」

「これぐらい、大丈夫さ。君にはまだ、決着をつけないといけないことがあるんでしょう? だから、万全を期しておかないと」

「すまない、感謝する」

 よろけるシルクエッタの身体を支えながら、ステージわきに座らせる。

「しばらく、安静にしているんだぞ!」そう告げるとギデオンは劇場の方へと足を向けた。
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