異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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百九十三話

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「―――ここまでが、今まで起きたことのすべてだ」

 目の前に佇む、少年の言葉をガルベナールは、鵜吞みにできなかった。
 自分が無惨にも捕虜となっただけでなく、最強のシオン賢者とうたわれた孫の敗北は、あってはならない屈辱だった。
 話を聞くうちに目は血走り、口元はガタガタと震えてきた。
 とっても老獪ろうかいな宰相とは思えないほど、みすぼらしく見える。

「おおお、思い出したぞ! 貴様ぁ! グラッセ子爵の子倅こせがれだな」

「ようやく、思い出したか。鳥頭」

「貴様はアドミラルに始末されたはず……? 何故、生きている!? それに、この横暴……許されると思っているのかぁああ!?」

「誰が、何を、どう、許すんだ?」

 宰相が座る、椅子の脚に強烈な蹴りが入った。
 バランスを崩した勢いで、床に頭部を強打しガルベナールは身悶える。
 うずら卵のような額から血をにじませつつ、睨みをきかせている。

「悪くはないぞ。その悪態っぷり、それでこそ潰しがいがあるというもんだ」

「わ……私が貴様に何をしたというのだ!? 貴様に、恨まれるようなことした覚えなどないぞ!!」

「しらばっくれるなよ。自分がしたことを忘れたとは言わせないぞ! 人に悪意を植えつけた挙句、司教様を襲わせようとしただろう!!」

「そ、それは――――私ではない!! 確かに、デビルシードを貴様に移植するように命じたのは、認めよう。だが! 司教殺しには関与していないぞ、私はぁああ!! そうだ! モーリッチ、モーリッチの奴が暗殺を企てたんだ!!!」

 無実を主張する宰相の声に、耳をかたむけるわけもなかった。
 ギデオンにとって、司教を殺害したこと以前に、この男の蛮行が許せなかった。
 多くの人々を戦火の渦に巻き込み、不幸のどん底にまで蹴り落としておきながら、自分だけは私腹を肥やし、ノウノウと生きてきた。

 政治家とは、国民のために正しき道を示し、悲しみや苦しみといった痛手から世の中を救うのが存在意義であったはずだ。
 なのに……この男は、責務を放棄し、国民を欺き続けた。
 その傍らで、異国の地に戦争を勃発させ無益な争いにより血が流れるのを、面白おかしく観賞していたのだ。

「さっさと車椅子に乗れ! 最初に言ったとおり、お前ために一大イベントを用意しておいたんだ。存分に、堪能してくれ」

 強引に車椅子へ乗せると、ガルベナールを劇場から外へと運んでゆく。
 劇場内をメイン舞台に設定しなかったのは、人数オーバーを危惧したからである。
 それに野外の方が、このイベントを執り行うのに最適だったからだ。

 ステージの周りに人の波ができていた。
 この街にいる者の半数以上が、最後のを見届けるために集結した。

 想像以上の人の気に当てがわれ、ガルベナールは卒倒しそうになった。

「爺ちゃん!!」ステージに上がったばかりの男を呼ぶ、孫の声が聞こえた。
 空耳などではない。
 舞台の中央に、備付けられている証言台のまえで両膝を折ったまま、縄で縛り上げられているファルゴがいた。
 念願の、再会を果たすことが無事にできた孫。
 彼にとっての祖父とは特別、思い入れがある存在のようだ。くたびれていた表情かおに活力が戻りつつある。
 そんな、孫に対してガルベナールは、満面を笑みを浮かべながら問う。

「ファルゴや。本当に、この男に負けたのか?」

「す、すまねぇ……もう少しだったのに、押し負けた」

「本当に、ホントぉ―――に? 醜態をさらしたのか?」

「くっ―――ああ」

「情けないのぅ、使えないないのぅ。お前が無能なせいで、私はナズィールに来てから、ずっと酷い目に会っていたのだぞ!!」

「嘘だろっ、爺ちゃん……何で、そんなことばかり言うんだよぉ? いつもなら、仕方ないって言って許してくれるだろ」

「もう、家族ごっこは終いだ。ファルゴよ、孤児だったお前を引き取り、英才教育を与えてやったのは、この私だ。お前が王者である限り、何でも許された。それがどうだ、むざむざと私の顔に泥を塗ってくれたばかりか、恥じも外聞もなく縋ってくるとはな……嘆かわしいわい!!」
 
 ガルベナールから罵倒を受け、ファルゴは失意の底に落とされていた。
 虚ろな瞳で、見据えるその先に稼動するビュワーが見える。

 ギデオンに車椅子を押されながら、彼は孫と一緒に証言台に立つこととなった。

「これより、聖王国宰相ガルベナール・エンブリオンに対する市民裁判を執り行う。進行役は私、ナズィール地区代表兼、ルヴィウス勇士学校理事のゴーダが務めさせていただく。異論がある者は挙手をお願いする」

 舞台端の演台から、マイクを手に取りゴーダが始まりの一声を上げる。
 彼に反対する者など誰一人おらず、むしろ拍手が巻き起こるほどだ。
 と聞いた途端、ガルベナールの顔が真っ青になった。
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