異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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百九十四話

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 カルマを清算するべき時がガルベナールに訪れた。
 舞台の上に立つ、老紳士に向けられる人々の視線。
 それは怒りを現わしたものではなく、それすら通り越した冷酷な何かだった。

 無言の重圧により、ガルベナールの発汗量が増してゆく。
 身体が溶けだしているんじゃないかと思うほど、手や首筋は汗だくになっていた。

「さ、裁判だと? 何を持って私を裁こうというのだ? 私は他国の要人だぞ! 私の盾付くということは、聖王国に敵意を示すことになるんだぞ!!」

 精神的に追い詰められた宰相は、ゴーダへと怒りの矛先を向けてきた。
 立場をわきまえている学長なら、強く言っておけば、たじろぐだろう。
 そう、安直に考えるガルベナールは、感覚がマヒしていた。
 自身が人の上にある立場であると勘違いし、周囲の眼など気にも止めていなかった。

 ゴーダは、彼の言葉に耳を貸そうとしなかった。
 宰相である自分が、歯牙にもかけられていない状況に、ガルベナールは打ちのめされていた。
 完全に耐えられず発狂しそうなほどに、頭を抱え込んでいる。
 迫り来る、過去の罪状がガルベナール自身の退路を断っていた。
 完全に道を誤った者を、当然ながら為政者として見るわけにもいかない。

「ガルベナール殿、ここは聖王国ではないし、ましてや貴殿の土地でもなかろう。共和国は共和国でしきたりがある」

「仕来りだと!? そんなモノにこだわるとは、何とも理解しがたいものだ」

「貴殿がおこなったことは、同盟国の宰相に許可された範疇を遥かに越えている。他国の規律を踏み荒らした暴挙に過ぎない」

「黙れぃ!! 貴様たちの王であるグランドルーラーなど、いてもいなくとも関係ない。単なる軽い神輿ではないか!?」

 図々しくも引き下がろうとしない、そんな愚か者が痛いところをついてくる。
 確かに現グランドルーラーは、戦争のことばかり夢中でおいかけ自国の民の苦しみすら、ろくに知ろうともしない。
 国を護る為に敵の進入を塞ごうとするのも分かる。
 が現実的な統治でない……無益な戦闘しか行っていない。
 どこをどう見ても暗君と言わざるを得ない。

「が……、それが何だというのだ!? それは我々の共和国民の問題だ! 聖王国の人間が心配することなどほとんどなかろう!?」

 重い空気を打ち破るゴーダの意見に、賛同の声が広まった。
 形勢が不利とみるいなや、狡猾な老人はすぐさま、論点をずらしてくる。

「そもそも、私が何をしたというのだ。街中では大騒ぎがあったようだが、私はずっと、そこにいる者共に監禁されていたのだ。犯罪とは事実無根の潔白な人間をどう裁こうというのだ?」

「潔白だと? これを見ても、そんな余裕でいられると?」
 ギデオンが手を振り合図を送る。
 ビュワーが稼働し、ステージの上にスクリーンが出現した。
 投影機に設置されたメモリージェムが、真実を公のもとさらしてゆく。
 映像はジェイクが撮影したブラックブロックの製薬研究所での一連のやり取り。
 悪の種がどうやって生み出されてきたのか、その記録を上映した結果、民衆がどよめきたった。
 二本目のメモリージェムはキンバリーの隠し研究施設でジェイクが入手したものだ。
 こちらは、迎賓館にてギデオンたちが視聴したモノと同じ内容だった。
 戦争を利用して利益を貪ろうとするガルベナール自身が、何者かに向けて送ったメッセージ……。

 それを見たガルベナールは、口を開いたまま硬直していた。
 言い逃れなど完全にできない空気になっていた。当の本人が画面越しに画策した内容を吐露しているのだから。

「何か、言いたいことはあるか!? ガルベナール!! これが、お前が仕組んだ悪行の証だ」

「あああ―――うっ――――、ええ―――――!!」

 ギデオンの追求に、返す言葉も失っていた。
 まるで幼児のように、狼狽えるばかりで知性や品性の欠片すら見えない。
 これが一国の宰相を担っていた男の末路だというのだから目も当てられない。

「それでは、判決を取ります」ゴーダが民衆へと呼びかける。

「ま、待って……待ってくれ。あの映像は捏造……そうだ! 何者かが私に成りすましているだけの狂言だ」
 懲りもせずに、まだガルベナールは食い下がっている。
 もはや、見苦しさだけしか残っていない。

「お言葉ですが、私には宰相本人にしか見えませんが?」

「スキルを使えば、他人そっくりになるのも可能であろう!? コイツは偽物だぁぁああ! 断じて私ではない!」

「あれは貴方様ですよ、ガルベナール宰相。この悪魔たちから話は伺いましたので確定です」

 ステージ上に、ボコボコにされ身動き一つままならない翼の生えた魔物たちが放り投げられた。
 悪魔と呼ばれる種族の魔物。
 この街にうろついていた招かれざる客を、一人で接待していたのは、勇士学校教諭のミチルシィ・エンピだった。
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