異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

文字の大きさ
195 / 545

百九十五話

しおりを挟む
「部下の管理がなっておりませんな。少し、小突いただけで貴方の名を出してきたぞ、宰相殿」

「あ―――、くま? 何のことかな? 違う違う、誰かが私を陥れようとしているんだ!!」

 宰相による迫真の演技は、尚も続いた。
 これだけの状況証拠があげられているのにも関わらず、無実を主張する。

「オマエたちに街中で暴れるよう指示を出したのは誰だ?」
 ガルベナールに引導を渡すべく、ミチルシィが一匹の悪魔に問い詰める。
 首根っこを掴まれながら、悪魔はやはり老宰相を指さした。

「やめろ! 私じゃない私じゃない私じゃない私じゃない私じゃなぁっぁああああああああい!!」
 血相を変えて自己擁護するが、ここに彼の弁護人はいない。
 いるとすれば、孫だけだった……その孫も自身で切り捨てしまったせいで、役に立ちそうにない。

「どこまで無能なのだ……貴様は」

「爺ちゃん、もう……これ以上は無理だ。ここは聖王国じゃないんだ! いくら爺ちゃんでも、どうにも出来ない」
 難色を示す孫の顔にガルベナールは、激昂した。
 額に血管を浮き上がらせ、何を言ってるのか、分からないほどに喚いている。
 だが、それも長くは持たなかった。

 義憤に駆られている民衆の我慢が限界を迎えてしまった。

「処刑だ! ここで絞首刑にしろ!!」
「そうよ! 私たちの家族はこの男に殺されたも同然、処刑するべきだわ」
「何が、宰相だぁ。口先だけのゲス野郎じゃねぇーか!」
「聖王国は、こんな者を大臣にするとは国として終わっておるわい」
「何処の誰だろうが、我々の故郷を滅茶苦茶したんだ。法で裁けないなら、俺たち共和国民が動くだけだ!!」
「これもまた、女神様の導き、悪党は滅するべきです」
「コイツ……反省どころか、まったく悪びれていねぇ!! こんなのを生かす価値はねぇ、そうだろ!? 皆!!」
「私たちは、オマエのしたことを許さないし赦せない。オマエ、一人のせいでどれだけの人間が犠牲になったのか、考えたことはあるのか? オマエの死をもってしても、この咎は消えぬぞ」

 民衆の意識は、処刑一色に拡がっていた。
 どれだけ、怨恨を持ち出しても、どれほど怨怒えんどを吐き出しても、ガルベナールというには理解できない。
 人の不幸を糧として生きていた存在に、もはや神ですら救いの手を差し伸べることはないだろう。
 ガルベナールは死罪――――それが妥当な処分だと、共和国民一同は判決を下した。
 ここで情けをかけてしまえば、同類の悪党がまた誕生しかねない。

 聖王国との禍根を絶つには、それしか方法がなかった。
 でなければ、ここに集まった者たちは誰一人として納得がいかない。

「静粛に! 皆さん、少し落ち着いて。ガルベナール・エンブリオンの身柄は、しばらく、私に預けて貰えないだろうか? 今日は英誕祭、祝祭日を悪党の血で穢すわけにもいかない。それに、この男の処断は聖王国側ときっちりと話合う必要がある」

「けどよ、ゴーダさん! 俺たちは、その男を絶対に許せねえー!!」
「そうだ! そうだ!」

「気持ちは痛いほど分かる、私とて皆と同じだ。しかし、一時の感情に流されないで欲しい。現状……我々には、他国と争うような国力は残ってはいない。それに、すべてを決断するのは我々ではなくグランドルーラーだ! その事を忘れないで欲しい」

 ゴーダの説得に、一旦は殺意をむき出しにしていた民衆も我に返り、どうにか矛をおさめた。
 場が静まり、勇士学校の面々が安堵したのも束の間……。

「ぐあああああっ!! 何を……するんだ」

「ふはははあっ、どうせなら最後ぐらいは約に立ってもらうぞ、ファルゴよ」

 ガルベナールによって、その均衡は崩れ去った。
 口から吐き出した入れ歯が、ゴムのように伸びファルゴの首筋を噛んでいた。
 たんに噛みついたのではない、その血をすすっている。

 血を吸収した入れ歯は再び、ガルベナールの口内へと戻る。
 まるで生きているかのような動作だ。

「惜しかったのう~。ゴーダ、そしてグラッセ。デビルシードを移植したのは、ファルゴだけではない! 私もまた保有者の一人なのだよ」

 したり顔でギデオンたちに微笑む。
 ガルベナールは車椅子から立ち上がると老人どころか、人ならざる速度で群衆の中へと飛び込んだ。

「アイツ、逃亡を謀る気か!?」

『ギデオン! 奴を追え!! ここで取り逃すわけにはいかない』

「分かっている! しかし、人混みを紛れて、どこにいるのか分からないぞ」

『こっちだ。私について来い』

 羽ばたくジェイクと共にギデオンはステージから降りた。

 ガルベナールの暴挙に人だかりの中から早くも悲鳴が上がっていた。

「とてもじゃないが、人が密集しすぎてあの中には入れないな」

『その銃、何をするつもりだ?』

「こう使うんだ! 頼むぞ、スコル!!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

修学旅行のはずが突然異世界に!?

中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。 しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。 修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!? 乗客たちはどこへ行ったのか? 主人公は森の中で一人の精霊と出会う。 主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

処理中です...