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百九十六話
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宰相一人に対し、民衆総出の鬼ごっこが始まった。
人々の逆鱗に触れたあまりに、ガルベナールは血相を変えて逃げなければならなかった。
自業自得の逆鬼ごっこというわけだ。
普段は、ろくに走ってもいなかったのだろう?
やせ細った身体では、どうこうできず周囲の大人たちに殴られたり、蹴られたりと揉みくちゃにされ、次第に人だかりの中で溺れていってしまった。
それでもなお、執念すさまじく、逃亡劇は続く。
人混みから抜け出し再度姿を見せた時には、着ていた礼服がボロキレに見えるほど悲惨なことになっていた。
「追えぇ――!! 大罪人を絶対にがすなぁあああ」
「先まわりして退路を塞いだぞぉぉぉ!!」
ナズィールの人々は、報復の念に駆られ凄まじい形相になっていた。
何としてでも、生け捕りにし処刑台の上に乗せてやるという意気込みが、彼らをどこまでも突き動かしているようだ。
ギデオンは猟銃を魔獣形態にすると、潜影能力を行使させ地面の中を伝い移動するように命じていた。
魔獣ガルムであるスコルは、実体を影に変化させる特殊能力を所持している。
その特性は、今回のように何かによってう行動が制限されてしまった場合に大いに活躍する。
すでにガルベナールの臭いは覚えさせた。あとは狩猟犬のように獲物を追い立て喰らいつくだけだ。
「んがあああわあああ――――」
地中から顎を出したスコルに足元を噛まれ、ガルベナールは大きく転倒した。
今の彼に、少し前までの威光や栄光など微塵も感じられない。
年相応のみすぼらしい老人でしかなかった。
いかに、社会的地位によって着飾っていたのか……よく、うかがえる。
己の立場ばかり気にして、自身に意識を向けていなかった者の末路がそこにあった。
「汚ねえぇええ! この爺ぃ、漏らしやがった!!」
「構わねえ、さっさと捕まえてザサンのように絞首刑にするぞ!!」
ザサンの残灰――――その名は一昔前、この広場で処刑された。
領主ザサンの名に由来する。
領民たちから重度の年貢を取り立てて、彼らを苦しめさせた悪行三昧な輩だった。
民が、領地から逃げ出さないように、あえて借金を作らせ、払えないのなら借金のかたに、その者の家族を連れ去り人質に取る。
ザサンは悪知恵がよく働いた。
残念なのは、普通に頭が愚かだったことと、怒り狂った民衆の力を見くびっていたことだ。
暴走した民により、彼は捕まってしまった。
いくら、家族を盾に脅しても所詮はただの人間、大人数に囲まれたら一溜りもない。
人々は領主という名の悪党を絞首刑にしようと決めた。
実際、この場所で処刑が執り行われた記録も残されている。
それによると、ザサンは刑が執行される最後まで反省することなく、領民を罵っていたそうだ。
処断されるのを嫌がり、首吊り縄を首に掛けられた際にザサンが大暴れした。
腕は身体ごと縄で縛られていても、脚はフリーだった。
振り回した脚が偶然近くにあった火のついた油皿に当たった。
その身に油をかぶったザサンは灯火が引火し、一瞬にして燃え盛る炎に包まれてしまった。
嘘か真か、壮絶なる最期を迎えた悪党が燃えた後には、遺灰すら残されていなかったという。
灰となった今もなお、亡者となったザサンはこの街を徘徊している。
根も葉もない噂が後付けされるほど、この話はナズィールの民に広く知れ渡っている。
悪事を働いた者には相応の最期が待っているという教訓だが、ガルベナールは大人しく民衆に捕まるほど間抜けではなかった。
「ぎゃやあやあああ!!」
宰相を追い詰めていた人々の中から血しぶきが舞った。
見ると、ガルベナールの口から飛び出した入れ歯が、先ほどと同じく人々を噛み千切っていた。
とてもじゃないが、アレは入れ歯とはいえない。はっきりいって魔物の類だ。
「これ以上の犠牲者は出させないぞ!」
ギデオンは、スコルに飛び掛かるよう念じた。
想像通りの機敏な動きで、伸びた入れ歯を避けて宰相に爪を立てた。
何が起きたのか? すぐには分からなかった。
飛び掛かったはずのスコルがこちらに投げ返されてきた。
「くっ、銃になれ! スコル」
魔銃に戻った彼をギデオンがキャッチするとガルベナールの両脚を狙い二発、撃ち込んだ。
キィーン! と金属音を鳴らし魔法弾が弾かれてしまった。
「ぐふふふっ、機は熟したぞ! 残念、あと一歩だったな、小僧。私の能力はノーネームだが……血を啜った相手の能力を一時的に得ることができるのだ!」
「そんな、馬鹿正直にネタばらししても大丈夫なのか?」
「愚問! なぜならば、お前は私を捕まえることができないからだ。オマエだけじゃない、ゼンブ、誰もワタシのジャマはさせナイ……」
老人だった、その身に変異が起こった。
ファルゴと同じ、否……それ以上に肉体が変貌してゆく。
瞳が爬虫類のようになったかと思えば蝙蝠のような翼が生え、腰の辺りから尻尾が飛び出てきた。
全身の筋肉が肥大化し、黒色のウロコに覆われてゆく。
口元が裂け、それに合わせて入れ歯も鋭い牙に変化していた。
龍―――聖王国の宰相だった老人が、この世界でもっとも獰猛な生物となりギデオンの前に立ちはだかる。
人々の逆鱗に触れたあまりに、ガルベナールは血相を変えて逃げなければならなかった。
自業自得の逆鬼ごっこというわけだ。
普段は、ろくに走ってもいなかったのだろう?
やせ細った身体では、どうこうできず周囲の大人たちに殴られたり、蹴られたりと揉みくちゃにされ、次第に人だかりの中で溺れていってしまった。
それでもなお、執念すさまじく、逃亡劇は続く。
人混みから抜け出し再度姿を見せた時には、着ていた礼服がボロキレに見えるほど悲惨なことになっていた。
「追えぇ――!! 大罪人を絶対にがすなぁあああ」
「先まわりして退路を塞いだぞぉぉぉ!!」
ナズィールの人々は、報復の念に駆られ凄まじい形相になっていた。
何としてでも、生け捕りにし処刑台の上に乗せてやるという意気込みが、彼らをどこまでも突き動かしているようだ。
ギデオンは猟銃を魔獣形態にすると、潜影能力を行使させ地面の中を伝い移動するように命じていた。
魔獣ガルムであるスコルは、実体を影に変化させる特殊能力を所持している。
その特性は、今回のように何かによってう行動が制限されてしまった場合に大いに活躍する。
すでにガルベナールの臭いは覚えさせた。あとは狩猟犬のように獲物を追い立て喰らいつくだけだ。
「んがあああわあああ――――」
地中から顎を出したスコルに足元を噛まれ、ガルベナールは大きく転倒した。
今の彼に、少し前までの威光や栄光など微塵も感じられない。
年相応のみすぼらしい老人でしかなかった。
いかに、社会的地位によって着飾っていたのか……よく、うかがえる。
己の立場ばかり気にして、自身に意識を向けていなかった者の末路がそこにあった。
「汚ねえぇええ! この爺ぃ、漏らしやがった!!」
「構わねえ、さっさと捕まえてザサンのように絞首刑にするぞ!!」
ザサンの残灰――――その名は一昔前、この広場で処刑された。
領主ザサンの名に由来する。
領民たちから重度の年貢を取り立てて、彼らを苦しめさせた悪行三昧な輩だった。
民が、領地から逃げ出さないように、あえて借金を作らせ、払えないのなら借金のかたに、その者の家族を連れ去り人質に取る。
ザサンは悪知恵がよく働いた。
残念なのは、普通に頭が愚かだったことと、怒り狂った民衆の力を見くびっていたことだ。
暴走した民により、彼は捕まってしまった。
いくら、家族を盾に脅しても所詮はただの人間、大人数に囲まれたら一溜りもない。
人々は領主という名の悪党を絞首刑にしようと決めた。
実際、この場所で処刑が執り行われた記録も残されている。
それによると、ザサンは刑が執行される最後まで反省することなく、領民を罵っていたそうだ。
処断されるのを嫌がり、首吊り縄を首に掛けられた際にザサンが大暴れした。
腕は身体ごと縄で縛られていても、脚はフリーだった。
振り回した脚が偶然近くにあった火のついた油皿に当たった。
その身に油をかぶったザサンは灯火が引火し、一瞬にして燃え盛る炎に包まれてしまった。
嘘か真か、壮絶なる最期を迎えた悪党が燃えた後には、遺灰すら残されていなかったという。
灰となった今もなお、亡者となったザサンはこの街を徘徊している。
根も葉もない噂が後付けされるほど、この話はナズィールの民に広く知れ渡っている。
悪事を働いた者には相応の最期が待っているという教訓だが、ガルベナールは大人しく民衆に捕まるほど間抜けではなかった。
「ぎゃやあやあああ!!」
宰相を追い詰めていた人々の中から血しぶきが舞った。
見ると、ガルベナールの口から飛び出した入れ歯が、先ほどと同じく人々を噛み千切っていた。
とてもじゃないが、アレは入れ歯とはいえない。はっきりいって魔物の類だ。
「これ以上の犠牲者は出させないぞ!」
ギデオンは、スコルに飛び掛かるよう念じた。
想像通りの機敏な動きで、伸びた入れ歯を避けて宰相に爪を立てた。
何が起きたのか? すぐには分からなかった。
飛び掛かったはずのスコルがこちらに投げ返されてきた。
「くっ、銃になれ! スコル」
魔銃に戻った彼をギデオンがキャッチするとガルベナールの両脚を狙い二発、撃ち込んだ。
キィーン! と金属音を鳴らし魔法弾が弾かれてしまった。
「ぐふふふっ、機は熟したぞ! 残念、あと一歩だったな、小僧。私の能力はノーネームだが……血を啜った相手の能力を一時的に得ることができるのだ!」
「そんな、馬鹿正直にネタばらししても大丈夫なのか?」
「愚問! なぜならば、お前は私を捕まえることができないからだ。オマエだけじゃない、ゼンブ、誰もワタシのジャマはさせナイ……」
老人だった、その身に変異が起こった。
ファルゴと同じ、否……それ以上に肉体が変貌してゆく。
瞳が爬虫類のようになったかと思えば蝙蝠のような翼が生え、腰の辺りから尻尾が飛び出てきた。
全身の筋肉が肥大化し、黒色のウロコに覆われてゆく。
口元が裂け、それに合わせて入れ歯も鋭い牙に変化していた。
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