232 / 545
二百三十二話
しおりを挟む
「アッハア……まさか、君がここまで堪え性ではなかったとは思わなかったよ」
「よく言う……僕が見て見ぬふりができないのを分かっていて巻き込んだな! こっちはロッティとの契約すらまだまとまっていないというのに」
「お喋りの続きは後よ。今はコイツら片づけるのが先決よ!」
騒ぎを聞きつけた役人たちが続々と集まってきた。
弓を持つ者が四人。剣をたずさえた者が七人。
辺りを警戒しながら、犯人を捜している。
ギデオンが狙撃したポイントは、洞窟を出てすぐ右手にある窪地からだった。
身を低くし伏せれば丁度、姿が隠せられ、敵に気づかれにくい。
またロングレンジで狙ったこともあり、すぐに出入口の方を調べようとする者はいなかった。
とはいえ、身を隠すことができる場所は限られている。
敵に居場所が特定されるのも時間の問題だろう。
ギデオンたちにとって何が一番、困難な障害となるか……それは、採掘場で重労働させられている人々だ。
ナンダの息がかかっている者たちが、彼らのそばにいる限りに、人質を取られているのと同様だ。
そうさせないためにも、残り十一人を電撃戦で処理しなければならない。
「ギデ君、弓の奴らを頼むよ。帯刀している連中はワタシがどうにかするからさ」
「待った! 奴らもバカじゃない。互いに距離を置くことで幅広く、侵入者の動きを察知し、誰かが襲撃を受けたら即座にフォローし合えるように陣取っている」
「だから何? 相手が気づくことなく事が運べばいいだけでしょ? 禁術、可視! 我を瞳に宿すことを禁ずる」
自身の身体に術を施したアビィが視界から突如として消えた。
どうやら、ギデオンの思い過ごしで済みそうだ。
気配まで絶てば、誰一人としてアビィの位置は特定できない。
「があっ!」二人目の悲鳴が上がった。
それを皮切りに残りの面子も喉元を刃物で斬られ、周囲を鮮血で染めながら散ってゆく。
弓師たちは、事態がのみこめないまま物見櫓へと退避している。
完全に防御体勢が機能していない。
隙だらけとなった相手を狩るのは、造作もないことである。
バハムートによる四連速射で役人たちを手傷を負わせ、行動不能にした。
ギデオンとアビィはものの五分足らずで採掘場を制圧してしまった。
「なっ、なんて…………ことをしてくれたんだぁぁ!! お前たち、もう生きて平穏な日々を過ごせるとおもうなよ!!」
重労働から解放されたはずの人々から拍手喝采されるどころか、罵倒が飛び交ってきた。
皆がここまで否定してくるのには、ちゃんしたと理由がある。
彼らは全員、北の守護代ナンダの報復を恐れていた。
ここいる連中は、末端の存在でしかない。
ナンダの手下は北域全域に散らばっている。
執念深く、陰湿なナンダに睨まれれば、それこそ逃げ場がなくなるとまで言われている。
一生、追われ続ける生活を誰が望むというのだろう?
例え間違った方法でも、人は追い詰められた時にこそ何かに縋ろうとする。
それが、自分を苦しめる悪であってもだ。
「無駄足だったと思う?」
「それをアンタが訊くのか……ああいう輩は放っておけよ。自分のことしか、今は考えられないんだろう。それよりアンタが何を企んでいるのか、話してもらうぞ」
ギデオンの問いにアビィは肩をすくめた。
あまり、詮索して欲しくはなさそうな身振りではあるが、一々、応じるわけにもいかない。
「ここにいる連中が何を掘っているのか? 分かるかい。不老不死の源泉を探しているんだ」
「不老不死だと、そんなのおとぎ話でしか聞いたことないぞ、馬鹿げている!!」
「そのバカをやってのけようとしているのが、ナンダなのさ。現にこの霊峰の温泉には肉体の治癒力を促進させる効能がある。奴が不老不死を求める理由は、単純に一つ。それが金になるからさ! 温泉の効能を拡大解釈して、自国他国、問わず金持ち相手に長寿の水と謳って温泉の水を売っているんだ」
「耳を疑いたくなる話だな。本当に長生きできると言い切れる保証はないだろうに。その水を買う連中の気が知れない。どうして、言葉巧みにに惑わされ信用してしまうんだ?」
眉をひそめる少年の素朴な疑問に、アビィは答えなければいけなかった。
純粋過ぎる物事の考え方は、今後、彼の理性を狂わせてしまう危険性がある。
人の心理とは何か……? それを知っているのと知らないのでは、世界の見方がまるっきり異なる。
「こういうモンは、正しいとか間違っているとかではないんだよ。いいかい、人というのは自らにとって都合の良い現実を選択しようとする生物なんだ。モノの解釈にしてもそう、無意識のうちに自分が求めている物を想像で生み出してしまうんだ。それは決して悪いことでも、過ったことでもない。ただ……この世界にはナンダのように人の心理の隙をついて悪事を働く極悪人がいる。ワタシたちは、そいつらを許さない……許してはならないんだ!!」
「よく言う……僕が見て見ぬふりができないのを分かっていて巻き込んだな! こっちはロッティとの契約すらまだまとまっていないというのに」
「お喋りの続きは後よ。今はコイツら片づけるのが先決よ!」
騒ぎを聞きつけた役人たちが続々と集まってきた。
弓を持つ者が四人。剣をたずさえた者が七人。
辺りを警戒しながら、犯人を捜している。
ギデオンが狙撃したポイントは、洞窟を出てすぐ右手にある窪地からだった。
身を低くし伏せれば丁度、姿が隠せられ、敵に気づかれにくい。
またロングレンジで狙ったこともあり、すぐに出入口の方を調べようとする者はいなかった。
とはいえ、身を隠すことができる場所は限られている。
敵に居場所が特定されるのも時間の問題だろう。
ギデオンたちにとって何が一番、困難な障害となるか……それは、採掘場で重労働させられている人々だ。
ナンダの息がかかっている者たちが、彼らのそばにいる限りに、人質を取られているのと同様だ。
そうさせないためにも、残り十一人を電撃戦で処理しなければならない。
「ギデ君、弓の奴らを頼むよ。帯刀している連中はワタシがどうにかするからさ」
「待った! 奴らもバカじゃない。互いに距離を置くことで幅広く、侵入者の動きを察知し、誰かが襲撃を受けたら即座にフォローし合えるように陣取っている」
「だから何? 相手が気づくことなく事が運べばいいだけでしょ? 禁術、可視! 我を瞳に宿すことを禁ずる」
自身の身体に術を施したアビィが視界から突如として消えた。
どうやら、ギデオンの思い過ごしで済みそうだ。
気配まで絶てば、誰一人としてアビィの位置は特定できない。
「があっ!」二人目の悲鳴が上がった。
それを皮切りに残りの面子も喉元を刃物で斬られ、周囲を鮮血で染めながら散ってゆく。
弓師たちは、事態がのみこめないまま物見櫓へと退避している。
完全に防御体勢が機能していない。
隙だらけとなった相手を狩るのは、造作もないことである。
バハムートによる四連速射で役人たちを手傷を負わせ、行動不能にした。
ギデオンとアビィはものの五分足らずで採掘場を制圧してしまった。
「なっ、なんて…………ことをしてくれたんだぁぁ!! お前たち、もう生きて平穏な日々を過ごせるとおもうなよ!!」
重労働から解放されたはずの人々から拍手喝采されるどころか、罵倒が飛び交ってきた。
皆がここまで否定してくるのには、ちゃんしたと理由がある。
彼らは全員、北の守護代ナンダの報復を恐れていた。
ここいる連中は、末端の存在でしかない。
ナンダの手下は北域全域に散らばっている。
執念深く、陰湿なナンダに睨まれれば、それこそ逃げ場がなくなるとまで言われている。
一生、追われ続ける生活を誰が望むというのだろう?
例え間違った方法でも、人は追い詰められた時にこそ何かに縋ろうとする。
それが、自分を苦しめる悪であってもだ。
「無駄足だったと思う?」
「それをアンタが訊くのか……ああいう輩は放っておけよ。自分のことしか、今は考えられないんだろう。それよりアンタが何を企んでいるのか、話してもらうぞ」
ギデオンの問いにアビィは肩をすくめた。
あまり、詮索して欲しくはなさそうな身振りではあるが、一々、応じるわけにもいかない。
「ここにいる連中が何を掘っているのか? 分かるかい。不老不死の源泉を探しているんだ」
「不老不死だと、そんなのおとぎ話でしか聞いたことないぞ、馬鹿げている!!」
「そのバカをやってのけようとしているのが、ナンダなのさ。現にこの霊峰の温泉には肉体の治癒力を促進させる効能がある。奴が不老不死を求める理由は、単純に一つ。それが金になるからさ! 温泉の効能を拡大解釈して、自国他国、問わず金持ち相手に長寿の水と謳って温泉の水を売っているんだ」
「耳を疑いたくなる話だな。本当に長生きできると言い切れる保証はないだろうに。その水を買う連中の気が知れない。どうして、言葉巧みにに惑わされ信用してしまうんだ?」
眉をひそめる少年の素朴な疑問に、アビィは答えなければいけなかった。
純粋過ぎる物事の考え方は、今後、彼の理性を狂わせてしまう危険性がある。
人の心理とは何か……? それを知っているのと知らないのでは、世界の見方がまるっきり異なる。
「こういうモンは、正しいとか間違っているとかではないんだよ。いいかい、人というのは自らにとって都合の良い現実を選択しようとする生物なんだ。モノの解釈にしてもそう、無意識のうちに自分が求めている物を想像で生み出してしまうんだ。それは決して悪いことでも、過ったことでもない。ただ……この世界にはナンダのように人の心理の隙をついて悪事を働く極悪人がいる。ワタシたちは、そいつらを許さない……許してはならないんだ!!」
0
あなたにおすすめの小説
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
不要とされる寄せ集め部隊、正規軍の背後で人知れず行軍する〜茫漠と彷徨えるなにか〜
サカキ カリイ
ファンタジー
「なんだ!あの農具は!槍のつもりか?」「あいつの頭見ろよ!鍋を被ってるやつもいるぞ!」ギャハハと指さして笑い転げる正規軍の面々。
魔王と魔獣討伐の為、軍をあげた帝国。
討伐の為に徴兵をかけたのだが、数合わせの事情で無経験かつ寄せ集め、どう見ても不要である部隊を作った。
魔獣を倒しながら敵の現れる発生地点を目指す本隊。
だが、なぜか、全く役に立たないと思われていた部隊が、背後に隠されていた陰謀を暴く一端となってしまう…!
〜以下、第二章の説明〜
魔道士の術式により、異世界への裂け目が大きくなってしまい、
ついに哨戒機などという謎の乗り物まで、この世界へあらわれてしまう…!
一方で主人公は、渦周辺の平野を、異世界との裂け目を閉じる呪物、巫女のネックレスを探して彷徨う羽目となる。
そしてあらわれ来る亡霊達と、戦うこととなるのだった…
以前こちらで途中まで公開していたものの、再アップとなります。
他サイトでも公開しております。旧タイトル「茫漠と彷徨えるなにか」。
「離れ小島の二人の巫女」の登場人物が出てきますが、読まれなくても大丈夫です。
ちなみに巫女のネックレスを持って登場した魔道士は、離れ小島に出てくる男とは別人です。
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました
白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。
そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。
王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。
しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。
突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。
スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。
王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。
そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。
Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。
スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが――
なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。
スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。
スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。
この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる