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二百三十三話
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導士、アビィの並みならぬ決意。
それは、北地域の守護代であるナンダに向けられた敵対心と呼べるものだった。
一行は採掘場を後にし麓《ともと》に下りると、そこから半日かけ北の主要都市、閑泉に辿りついた。
閑泉は主要とは名ばかりの田園都市で、慎ましくも整えられた街並みと周囲を囲う田畑からなる、邑であった。
北方は東西南北、四大地域の中でも農業に適さない荒涼な土地ばかりで豊かさとは、無縁の地域であった。
瘦せ細った土地の中で閑泉や一部の地域は、農地改革に成功しちゃんとした農作物を育てることが出来る。
しかし、それだけでは北全域の民の飢えを満たすことができない。
自給自足だけでは賄えないため、他の地域との交易により食料を確保している。
当然ながら、取引するたびにまとまった金額を要する。
貧しいばかりの北の窮地を救ったのは、この地に伝わる先祖代々から受け継がれてきた医療術だった。
先人たちは、これを錬金の術とし閑泉は公国随一の医療都市として大いに栄えた。
そうした経緯もあり街の中では医療関係の店をよく目にする。
片田舎の村をわずか十年たらずで人口、八万人の都市まで肥えさせた。
それはナンダの商才というよりも、彼の補佐を務めていた大元の存在が大きい。
「病が発症したら大元に診てもらえ」そんな言葉が生まれるほど、医師として大元は人気だった。
国中の上流階級たちの耳に届くまで名をとどろかせていた。
「で……アンタはこの街のボス、ナンダの首を狙っていると?」
「しぃ! あまり大きな声を出さないの。ナンダ自身よりも、この街を取り戻すのが目的よ」
街に到着するや、いなや、ギデオンたちはソバ屋の暖簾を構わずくぐった。
丸、半日以上は何も口にしていないのだ。文句つける者は誰もいない。
「らっしゃい」えらく貫禄のある顔をした年輩の大将が不愛想に出迎えてきた。
一人で店を切り盛りしているらしく大将以外の従業員の姿は見えない。
ギデオンが座敷に腰を下ろすと、エイルがいないことに気づいた。
もしやと思い、振り返ると店先でクロオリが戸に引っかかり進めずにいた。
どこに行っても邪魔にしかならない荷を下ろさせ、どうにかエイルを店内に入れた。
ロッティがクロオリを盗まれないかと不安がっていた。
どこをツッコんでいけばいいのか……? 分からないが冗談には聞こえない。
数百キログラムはゆうにある重量のクロオリは、通行人にとって障害物にしかならないだろう。
普通に考えても容易に待ち運ぶことなどままならないだろう。
丁度、テーブル向かいに座ったままのアビィがメニュー表を凝視していた。
基本、北の紅州地域は食材の物価が高い。
買い物は財布と相談をして決めないと手持ちがすぐに足りなくなってしまう。
「酒禁止な」すかさず、彼女の迷いを読み取り忠告する。
「なっ……」ギデオンに核心をつかれた以上、アビィはエールを断念せざるを得なかった。
「それよりも、アビィよ。ワスやギデに話すことがあるんでないか? ちょうど、店の中には我ら以外の客が入っていない。話すのなら、今のうちだぞ」
「なんで、ロッチさんが仕切るのよ~!」
「貴女が、何を思ってナンダを討とうとしているのか? ワスには分かるからだ」
「まぁ、元よりそうするつもりだったから……構わないけどさ。ここに来た目的は、ご察しとおりアイツを狙うためだよ。ワタシたちの土俵に引きずり出さないと奴には歯が立たないからね」
アビィの会話にはいくつか、腑に落ちない点があった。
何故? 今頃になってナンダを討伐しようとしているのか?
そもそも、北の守護代に対して兵を募らず単騎で挑もうとしているのもおかしい。
そして、一番の謎が三大導士と世に謳われる練功の達人が、なにゆえ首魁を自力で討とうしないのか?
疑問だらけでキリがない。
ただ、一つだけ確実に言えることがある。
ナンダは、勢い任せでどうにかできる相手でない。
にもかかわらず、アビィは何一つ入念な準備もせず、策とも呼べない稚拙な計画を講じようとしている。
何が彼女から冷静な判断力を奪っているのか?
アビィが抱いているのは、明らかに焦り似た感情だった。
「先に謝っておくよ、ギデ君。不本意ながら君を巻き込んでしまった。けど……ワタシには君が必要だった。極天……属性持ちの練功を扱える人物を長年、探していたの。こればかりは、君と巡り合わせてくれた大元に感謝しないといけない」
「極天がどう関わっているんだ? アビィには使えないのか……?」
「残念だけど……属性持ちの気を持っているのか、どうかは生まれ持った体質で決まる。ナンダもある意味では特異体質だ。アイツには通常の練功が通じない、他者の気の流れを受けつけない体質なんだ。だからワタシがいくら攻撃してもアイツは無傷だ。唯一、それをくつがえせるのは――――」
「極天というわけか。いずれにせよ、一度、情報を集めた上で策をしっかりと練るべきだ。このままでは、勝てる戦も勝てなくなるぞ」
それは、北地域の守護代であるナンダに向けられた敵対心と呼べるものだった。
一行は採掘場を後にし麓《ともと》に下りると、そこから半日かけ北の主要都市、閑泉に辿りついた。
閑泉は主要とは名ばかりの田園都市で、慎ましくも整えられた街並みと周囲を囲う田畑からなる、邑であった。
北方は東西南北、四大地域の中でも農業に適さない荒涼な土地ばかりで豊かさとは、無縁の地域であった。
瘦せ細った土地の中で閑泉や一部の地域は、農地改革に成功しちゃんとした農作物を育てることが出来る。
しかし、それだけでは北全域の民の飢えを満たすことができない。
自給自足だけでは賄えないため、他の地域との交易により食料を確保している。
当然ながら、取引するたびにまとまった金額を要する。
貧しいばかりの北の窮地を救ったのは、この地に伝わる先祖代々から受け継がれてきた医療術だった。
先人たちは、これを錬金の術とし閑泉は公国随一の医療都市として大いに栄えた。
そうした経緯もあり街の中では医療関係の店をよく目にする。
片田舎の村をわずか十年たらずで人口、八万人の都市まで肥えさせた。
それはナンダの商才というよりも、彼の補佐を務めていた大元の存在が大きい。
「病が発症したら大元に診てもらえ」そんな言葉が生まれるほど、医師として大元は人気だった。
国中の上流階級たちの耳に届くまで名をとどろかせていた。
「で……アンタはこの街のボス、ナンダの首を狙っていると?」
「しぃ! あまり大きな声を出さないの。ナンダ自身よりも、この街を取り戻すのが目的よ」
街に到着するや、いなや、ギデオンたちはソバ屋の暖簾を構わずくぐった。
丸、半日以上は何も口にしていないのだ。文句つける者は誰もいない。
「らっしゃい」えらく貫禄のある顔をした年輩の大将が不愛想に出迎えてきた。
一人で店を切り盛りしているらしく大将以外の従業員の姿は見えない。
ギデオンが座敷に腰を下ろすと、エイルがいないことに気づいた。
もしやと思い、振り返ると店先でクロオリが戸に引っかかり進めずにいた。
どこに行っても邪魔にしかならない荷を下ろさせ、どうにかエイルを店内に入れた。
ロッティがクロオリを盗まれないかと不安がっていた。
どこをツッコんでいけばいいのか……? 分からないが冗談には聞こえない。
数百キログラムはゆうにある重量のクロオリは、通行人にとって障害物にしかならないだろう。
普通に考えても容易に待ち運ぶことなどままならないだろう。
丁度、テーブル向かいに座ったままのアビィがメニュー表を凝視していた。
基本、北の紅州地域は食材の物価が高い。
買い物は財布と相談をして決めないと手持ちがすぐに足りなくなってしまう。
「酒禁止な」すかさず、彼女の迷いを読み取り忠告する。
「なっ……」ギデオンに核心をつかれた以上、アビィはエールを断念せざるを得なかった。
「それよりも、アビィよ。ワスやギデに話すことがあるんでないか? ちょうど、店の中には我ら以外の客が入っていない。話すのなら、今のうちだぞ」
「なんで、ロッチさんが仕切るのよ~!」
「貴女が、何を思ってナンダを討とうとしているのか? ワスには分かるからだ」
「まぁ、元よりそうするつもりだったから……構わないけどさ。ここに来た目的は、ご察しとおりアイツを狙うためだよ。ワタシたちの土俵に引きずり出さないと奴には歯が立たないからね」
アビィの会話にはいくつか、腑に落ちない点があった。
何故? 今頃になってナンダを討伐しようとしているのか?
そもそも、北の守護代に対して兵を募らず単騎で挑もうとしているのもおかしい。
そして、一番の謎が三大導士と世に謳われる練功の達人が、なにゆえ首魁を自力で討とうしないのか?
疑問だらけでキリがない。
ただ、一つだけ確実に言えることがある。
ナンダは、勢い任せでどうにかできる相手でない。
にもかかわらず、アビィは何一つ入念な準備もせず、策とも呼べない稚拙な計画を講じようとしている。
何が彼女から冷静な判断力を奪っているのか?
アビィが抱いているのは、明らかに焦り似た感情だった。
「先に謝っておくよ、ギデ君。不本意ながら君を巻き込んでしまった。けど……ワタシには君が必要だった。極天……属性持ちの練功を扱える人物を長年、探していたの。こればかりは、君と巡り合わせてくれた大元に感謝しないといけない」
「極天がどう関わっているんだ? アビィには使えないのか……?」
「残念だけど……属性持ちの気を持っているのか、どうかは生まれ持った体質で決まる。ナンダもある意味では特異体質だ。アイツには通常の練功が通じない、他者の気の流れを受けつけない体質なんだ。だからワタシがいくら攻撃してもアイツは無傷だ。唯一、それをくつがえせるのは――――」
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