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二百五十八話
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「シルクエッタ! 君なのか?」
思わぬ相手からの連絡に、ギデオンは思わず手にした通信機を力強く握り締める。
通信が可能になったということは、彼女が国境を越えドルゲニアに入ってきたことを意味する。
ランドルフもそうだが……シルクエッタが聖王国に戻らなかったのはギデオンにとっては予想外の出来事だった。
共和国で発生した事件。
一国の宰相であるガルベナールが、国家を揺るがすレベルで大罪を犯したという事実は、聖王国と共和国の両国間に大きな影を落とすカタチになった。
本来、こうした不測の事態が発生した場合、教会関係者が早急に神聖庁へと報告するのが取り決めだ。
その上で、フェルガディウス城で聖王との謁見を求める必要があった。
シルクエッタがここにいるということは、共和国にいた他の神官が聖王国に戻ったのか……あるいは共和国側が使者を遣わしたのか。
いずれにせよ、今回の件は聖王、自らが動いてもおかしくはない。
共和国への謝罪と賠償もそうだが……まずは、両国合同で徹底して事件の洗い直しをしなければならないのだろう。
なにせ、ことがデカすぎる。
聖王国の宰相と共和国現職のグランドルーラーが結託して戦争を引き起こしていたのだ……共和国民が抱く為政者への不信感は並大抵のモノではない。
『貴方がギデオン・グラッセですか……』
通信機から流れ出た音声は、シルクエッタとは似ても似つかない、大人びた女性のものだった。
名乗ってもいないのに、グラッセという本名を知っている時点で悪い予感しかしない。
「シルクエッタではないようだが、何者だ?」
『申し遅れました。私は東方軍作戦参謀、ならびにドルゲニア公国、第一王子ガイサイ=レグ=ドルゲニア殿下の秘書官を務めさせて頂いております。ミューティス・エステイトです』
「東方? 大王軍か……? どうして、シルクエッタの通信機を持っているんだ!? 彼女は、どこにいるんだ? 無事なのか!?」
東方軍の名を聞いた途端、ギデオンの心は激しくかき乱された。
実際のやり取りをしているミューティスは非常に落ち着いた感じで話かけてくるも、第一王子の側近である。
ガイサイは、他者が苦しみ暴れる姿に興奮を覚え、虐殺すら嬉々としてやってのけるクズな性格した人物だと聞き及んでいる。
そんな連中に、シルクエッタが捕らえられてしまったのであれば、急いで救出に向かわなければならない。
『落ち着いて下さい。彼女やお仲間さんたちは我々の方で丁重に保護しております。貴方が我々との交渉に快く応じてくださる限り、シルクエッタさんたちの無事は保証しましょう』
「脅迫しているのか……? 分かった、交渉の席につこう。それで、あんたら東方軍は何を画策している?」
『ギデオンさん、私たちの要求は大きく二つ。貴方の王位継承戦参加と西への進軍です』
「はっ、王位継承戦だと? 意味がわからないんだが……。ドルゲニア王家の血すらひいていない、僕に参戦する資格があるわけないだろう……」
『大王様、たっての御命令です。しかも、貴方がドルゲニア王族だと名乗るのを許可するそうです。幸い、北は未だに候補者を出していません……どうでしょう? 貴方だけではなく閑泉に駐留したままの、北軍全体にとっても悪い話ではないと思いますが』
「あんたたちは、それで納得できるのか? ガイサイ王子を後継者にするのが目的だというのに、いまさら敵対勢力を増やしてどうするんだ!」
コチラから揺さぶりをかけても、参謀であるミューティスの反応に変化は見受けられない。
首都の勢力にとって最初から、北軍など数の内にも入っていない。
なぜなら、シルクエッタたちの身柄を確保している以上、主導権は東方軍にあるも同然だからだ。
『将軍から伺っております。貴方はお友達を大事にする御方だと……。約束どおり、西のマナシの討伐に赴いてください』
「悪いが軍の指揮権どころか、動かせる兵士を僕は持っていない。西に向かっても、少数でしか行動できないのは目に見えているぞ」
『それでしたら、問題はございません。貴方が王位継承戦に参戦することは各陣営に通達されます。それに主の敵討ちだと言えば、彼らも勇んで貴方の兵士として従軍するはずです』
「まさか……」ギデオンは唇を噛みしめた。
こともあろうに、東の連中はナンダの私兵を戦力としてあてがえと言ってきたのだ。
ナンダを殺害したのは、おそらく東側の息がかかった者だろう。
それを西方のせいにして、ぶつけさせるというのは、兵士たちにとっては最低最悪のシナリオでしかない。
完全に使い捨ての駒だ……人を人だと思わぬ、やり方に義などはない。
噂以上に悪逆非道な東方軍の命令に従うのは受け入れ難い。
戸惑うギデオンに、ミューティスが追い打ちをかける。
『迷っている暇などありませんよ。じきに南のガリュウ軍が西への軍行を開始します』
思わぬ相手からの連絡に、ギデオンは思わず手にした通信機を力強く握り締める。
通信が可能になったということは、彼女が国境を越えドルゲニアに入ってきたことを意味する。
ランドルフもそうだが……シルクエッタが聖王国に戻らなかったのはギデオンにとっては予想外の出来事だった。
共和国で発生した事件。
一国の宰相であるガルベナールが、国家を揺るがすレベルで大罪を犯したという事実は、聖王国と共和国の両国間に大きな影を落とすカタチになった。
本来、こうした不測の事態が発生した場合、教会関係者が早急に神聖庁へと報告するのが取り決めだ。
その上で、フェルガディウス城で聖王との謁見を求める必要があった。
シルクエッタがここにいるということは、共和国にいた他の神官が聖王国に戻ったのか……あるいは共和国側が使者を遣わしたのか。
いずれにせよ、今回の件は聖王、自らが動いてもおかしくはない。
共和国への謝罪と賠償もそうだが……まずは、両国合同で徹底して事件の洗い直しをしなければならないのだろう。
なにせ、ことがデカすぎる。
聖王国の宰相と共和国現職のグランドルーラーが結託して戦争を引き起こしていたのだ……共和国民が抱く為政者への不信感は並大抵のモノではない。
『貴方がギデオン・グラッセですか……』
通信機から流れ出た音声は、シルクエッタとは似ても似つかない、大人びた女性のものだった。
名乗ってもいないのに、グラッセという本名を知っている時点で悪い予感しかしない。
「シルクエッタではないようだが、何者だ?」
『申し遅れました。私は東方軍作戦参謀、ならびにドルゲニア公国、第一王子ガイサイ=レグ=ドルゲニア殿下の秘書官を務めさせて頂いております。ミューティス・エステイトです』
「東方? 大王軍か……? どうして、シルクエッタの通信機を持っているんだ!? 彼女は、どこにいるんだ? 無事なのか!?」
東方軍の名を聞いた途端、ギデオンの心は激しくかき乱された。
実際のやり取りをしているミューティスは非常に落ち着いた感じで話かけてくるも、第一王子の側近である。
ガイサイは、他者が苦しみ暴れる姿に興奮を覚え、虐殺すら嬉々としてやってのけるクズな性格した人物だと聞き及んでいる。
そんな連中に、シルクエッタが捕らえられてしまったのであれば、急いで救出に向かわなければならない。
『落ち着いて下さい。彼女やお仲間さんたちは我々の方で丁重に保護しております。貴方が我々との交渉に快く応じてくださる限り、シルクエッタさんたちの無事は保証しましょう』
「脅迫しているのか……? 分かった、交渉の席につこう。それで、あんたら東方軍は何を画策している?」
『ギデオンさん、私たちの要求は大きく二つ。貴方の王位継承戦参加と西への進軍です』
「はっ、王位継承戦だと? 意味がわからないんだが……。ドルゲニア王家の血すらひいていない、僕に参戦する資格があるわけないだろう……」
『大王様、たっての御命令です。しかも、貴方がドルゲニア王族だと名乗るのを許可するそうです。幸い、北は未だに候補者を出していません……どうでしょう? 貴方だけではなく閑泉に駐留したままの、北軍全体にとっても悪い話ではないと思いますが』
「あんたたちは、それで納得できるのか? ガイサイ王子を後継者にするのが目的だというのに、いまさら敵対勢力を増やしてどうするんだ!」
コチラから揺さぶりをかけても、参謀であるミューティスの反応に変化は見受けられない。
首都の勢力にとって最初から、北軍など数の内にも入っていない。
なぜなら、シルクエッタたちの身柄を確保している以上、主導権は東方軍にあるも同然だからだ。
『将軍から伺っております。貴方はお友達を大事にする御方だと……。約束どおり、西のマナシの討伐に赴いてください』
「悪いが軍の指揮権どころか、動かせる兵士を僕は持っていない。西に向かっても、少数でしか行動できないのは目に見えているぞ」
『それでしたら、問題はございません。貴方が王位継承戦に参戦することは各陣営に通達されます。それに主の敵討ちだと言えば、彼らも勇んで貴方の兵士として従軍するはずです』
「まさか……」ギデオンは唇を噛みしめた。
こともあろうに、東の連中はナンダの私兵を戦力としてあてがえと言ってきたのだ。
ナンダを殺害したのは、おそらく東側の息がかかった者だろう。
それを西方のせいにして、ぶつけさせるというのは、兵士たちにとっては最低最悪のシナリオでしかない。
完全に使い捨ての駒だ……人を人だと思わぬ、やり方に義などはない。
噂以上に悪逆非道な東方軍の命令に従うのは受け入れ難い。
戸惑うギデオンに、ミューティスが追い打ちをかける。
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