異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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二百五十九話

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 ガリュウ軍が西の都、蓬莱渠ほうらいきょに到達するまで残り四日。
 東方軍参謀、ミューティスが打ち鳴らした警鐘より、閑泉全体が思わぬ緊張に包まれた。
 北の閑泉から蓬莱渠までは、陸龍で向かえば三日で着くが、今から兵を集めるとなると最低でも一日は準備に費やさないといけない。

 現段階で時間は、あまり残されてはいない。
 ナンダに別れを告げる間もなく、次の戦に赴かないといけない兵士たち。
 しかも、敵対していた相手からの要望だ。
 ギデオンが王位継承権を得たとは言え彼らを説得するのには、かなり骨が折れた。

 継承戦に参加するにあたって、大元や他の将たちからは別段、反対されることはなかった。
 ただ一つ、東側の真意が見えてこない以上、閑泉の防衛を手薄にすることは危うい。
 反乱軍から兵は出せないと、大元たちにハッキリと言われてしまった。
 ともあれ、敵の言い分を真に受けて、物事を推し進めるのは、癪だ。

 北軍にいた8,000の兵士たちも、いまや1,500人しか揃わない。

「ギデオン、私も同行しよう。もともと、公国屈指の剣聖であるリュウマを追ってきたのだからな。大元先生の話によると奴は、西の陣営に加わっているようだ。このタイミングを逃せば、奴に近づくのも困難となる」

「ランドルフ……気持ちは分からなくもないが、目的を見失うなよ。僕たちがもっとも優先しなければいけないのは、カナッペの救出だ! その折にマナシを狩り取る……それでいいんだよな? ロッティ?」

「リュウマによって連行されたのだろう? 貴殿の友人は、西地区にいると見てまず、間違いないなかろう」

「じゃあ「嗚呼ああ―――と! ワスは、西には行かないからな。いくら、北に鞍替えしたとはいえ……西のマナシ殿やフキ様には恩義を受けた。これ以上、二人を裏切るような真似はしたくはないのだ!」

 ロッティの申し出にギデオンは無言でうなづく。
 今回の進軍は、東側から強制されているものだ。
 おまけに、ギデオン自身の行動選択の自由は、ほぼ無いに等しい。
 程度が低い戦に周囲を巻き込むことも、戦闘を無理強いする気も、最初からない。
 何をどうすべきなのか、他者ではなく本人が決めることだ。
 皆の心を尊重し、軍を率いるのがギデオンが抱いている指標でもある。

 いきなりではなく……まずは小さな一歩を念頭に。

 翌日、ギデオンの軍は閑泉を出発した。
 ランドルフの他に、同行する将はレプラゼーラという不愛想な男。
 それと、クロオリに搭乗して移動するオートマタのエイルだ。

「ギデ……コアの浄化と解析が昨日、完了しました。予想どおり、水晶の中には膨大な気が蓄積されています……」

「実質、パワースポットをまるごと持ち運んでいるわけか……キンバリーの暗号については進展はあったのか?」

「手帳に記されている暗号は二種類。文字の羅列と計算式となっていました。解読を試みた結果、ヒトゲノム……塩基配列の一部であるとこが判明しました。なお、計算式についてはデータに該当なし。現在、ロッティ博士に継続して調べてもらっています」

 ここに来て、ようやくキンバリーの遺産……その概要が明らかになってきた。
 塩基配列とは生き物の構造が書いてあるマップそのもの。
 手帳には、人の遺伝子を組み換える方法が記載されているらしい。
 無論、生物学者以外にとっては馴染みのないデータである。
 何をどう扱っていいのか? 素人には分からない……そこばかりは学者の判断に頼るしかない。

「ギデ……さん。とか、言ったな。その機械人形は本当に安全なのかよ?」

「問題ない。彼女は自らの意思で行動することができる、他のオートマタがどういったモノなのか? 想像もつかないが保証しよう。エイルは人に危害を、加えたりはしない」


 前途多難の行軍が続く。
 特にエイルは、人目をひくほど目立っている。
 元ナンダ軍の連中は依然として警戒を強めているが、そんな様子では、戦時に連携を取り合うことなど、夢のまた夢だ。

「そう根を詰め過ぎるな、ギデ。いざという時に、動けなくなるぞ」

「分かっているさ……」

 ランドルフが察知したとおり、大群を指揮したことがないギデオンにとって、超時間の移動は心労が絶えなかった。
 休憩する暇もまったく取れずに、時間だけが過ぎてゆく。
 何としても、南の彼らよりも早く蓬莱渠に入らなればならない。
 その一念にかられ、陸龍の手綱大きく揺らす。

「ん? あれは、ロッティが言っていた大渓谷か……」
 蓬莱渠と近隣の村をまるっと囲う岩山。
 目の前に立ちはだかる、岩壁には谷となる隘路が複数存在している。
 複雑に入り組んだ道と、各所に仕掛けられた侵入者よけのトラップは、凄まじく厄介ではある。
 その姿はまさに天然の防護壁と言えた。
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