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三百二十六話
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黒き炎がギデオンの姿をおおい隠す。
魔銃から吐き出された炎が危険なモノだと一目で理解したのか? チルルの表情が一瞬だけ強張った。
皮肉なことに自ら、加速しすぎた少女に事態を拒否する権限は与えられなかった。
成す術なく、黒炎のカーテンへと突っ込んでゆく。
「まだ、まだぁああああ!!」
その身を炎で焦がしながらチルルは絶叫した。
痛みでも恐怖からでもない。むき出しとなった闘争心によって突き動かされていた。
消えない炎を抑えるべく、羽衣を振りタンバールカットで超振動を起こす。
しかし、それも一時にすぎない。羽衣にも火が燃え移っていた。
だったら、刺し違えてもという覚悟なのだろう。
ギデオンに触れて炎の巻き添えしてやろうと腕を伸ばしてくる。
「残念だったな、何の対策も講じずに、リスクの高い攻撃するのは既に懲りているんだ。今の僕にはスコルの火炎を防ぐことができる」
白き光がギデオンの両腕を包んでゆく。
艶やか光は、塗膜のように皮膚に重なり防護膜となる。
暴れ回るチルルの蹴りを素手で掴むと、そこからは力と力のぶつかり合いとなった。
強靭な脚力が生み出した破壊力が、ギデオンの身体に重く圧し掛かってくる。
真っ向から受け止めるのは、決して正解とは言えない。
両足が地面から離れ、後方へと押し流せれてゆく。
障害となるものは、刃をぶつけ合う戦士たちの群れのみ……。
とは、いえ激突したら甚大なる被害がでる。
人一人が宙を滑走するほどの衝撃を抱えながら、何かにぶつかったら互いにグシャグシャになるだけだ。
「くぅの、ままで行くか……だりゃゃあああああ―――――!!!」
ギデオンの眼光が淡く輝く。
強引に地面を蹴りつけブレーキをかけようとする。
極天蒼炎鸞を発動させると右足が地面を大きく削っている。
かかとを軸に重心を乗せて回転するとギデオンとチルル、二人の位置が逆転した。
入れ替わるタイミングで掴んでいた手を離すとチルルだけが、兵士たちの集団の中へと消えていった。
相手を投げた反動によりギデオンもまた地面へと叩きつけられながら転がってゆく。
「つぅ――――状況はどうなったんだ?」
倒れた際、強打した腰をさすりながらギデオンは身体を起こした。
以前として周囲からは合戦の声が響き渡っている。
どうやら、防戦一方かと思っていた局面が、わずかに南軍の方に傾いたようだ。
想像よりも、ガリュウ軍が目覚しい活躍を見せた。
六鬼衆も今は4人しか動けないが、なかなか健闘している方だ。
「敵将、捕らえたりぃぃぃぃ!!」
騒がしく声を張り上げて、獏王はヒューズを縛り上げていた。
万単位の兵士たちがいても、六鬼衆の筆頭頭と渡り合える逸材はそうはいない。
むしろ、関わらないように距離を取っている。
獏王が弱いように思えるのは、ギデオンが人の枠組みから大きく外れているせいである。
ただし、すぐに調子に乗るのが獏王の悪い癖だった。
見せしめと言わんばかりに捕らえたヒューズをジワジワと痛めつけていた。
チリリィ―――ン
「随分と手荒なことをしてくれたな。だから、お前の様な単細胞はキライなんだ」
「はへぇ?」
いつの間にか、獏王の真後ろにクドが立っていた。
その腕には手足に火傷を負ったチルルが抱きかかえられていた。
振り向こうとした、その首がポロリと地面に落ちた。
残された胴体から噴水のごとく血が噴き出し辺りに鮮血の雨を降らせた。
「すまねぇ……クド。俺が不甲斐ないばかりに面倒をかけちまった」
駆けつけてきた仲間にヒューズは項垂れ陳謝した。
「気にするな、ヒュー。相手はギデオンだ。お前たちが時間を稼いでくれたおかげで目的は完遂できた」
クドは、微笑みながらゆっくりとギデオンの方へ顔を向けた。
返り血で半分、髪が赤黒く染まっているが元から紅いので然程、目立たない。
「チルルがやり過ぎたとはいえ、お前もお前だ。この代償は高くつくぞ……と言いたいところだが俺と一緒に来い、ギデオン! シルキーもお前のことを待っているぞ」
「待っているだと? 元々、お前は強引なところがあったが今ので確信した。やはり、シルクエッタを無理やり連れていったな!」
「だとしたらどうする? お互い、知らない仲ではない。シルキーは理解がある、こんな俺でも受け入れてくれる。そうは思わないか?」
さも誠実そうに語りながらも感情が空白なのは、今も昔も変わりない。
出会ったころは、こんな奴ではなかったのに……聖歌隊でのトラウマがクドの性格を歪めてしまった。
過去を知るギデオンは、深くため息をつくとクドに告げた。
「思わない、シルクエッタならお前を止めるはずだ! 耳障りの良い事ばかり言うのは、悪魔とお前ぐらいだ!! 人の弱さにつけ込もうとするなっ!!」
魔銃から吐き出された炎が危険なモノだと一目で理解したのか? チルルの表情が一瞬だけ強張った。
皮肉なことに自ら、加速しすぎた少女に事態を拒否する権限は与えられなかった。
成す術なく、黒炎のカーテンへと突っ込んでゆく。
「まだ、まだぁああああ!!」
その身を炎で焦がしながらチルルは絶叫した。
痛みでも恐怖からでもない。むき出しとなった闘争心によって突き動かされていた。
消えない炎を抑えるべく、羽衣を振りタンバールカットで超振動を起こす。
しかし、それも一時にすぎない。羽衣にも火が燃え移っていた。
だったら、刺し違えてもという覚悟なのだろう。
ギデオンに触れて炎の巻き添えしてやろうと腕を伸ばしてくる。
「残念だったな、何の対策も講じずに、リスクの高い攻撃するのは既に懲りているんだ。今の僕にはスコルの火炎を防ぐことができる」
白き光がギデオンの両腕を包んでゆく。
艶やか光は、塗膜のように皮膚に重なり防護膜となる。
暴れ回るチルルの蹴りを素手で掴むと、そこからは力と力のぶつかり合いとなった。
強靭な脚力が生み出した破壊力が、ギデオンの身体に重く圧し掛かってくる。
真っ向から受け止めるのは、決して正解とは言えない。
両足が地面から離れ、後方へと押し流せれてゆく。
障害となるものは、刃をぶつけ合う戦士たちの群れのみ……。
とは、いえ激突したら甚大なる被害がでる。
人一人が宙を滑走するほどの衝撃を抱えながら、何かにぶつかったら互いにグシャグシャになるだけだ。
「くぅの、ままで行くか……だりゃゃあああああ―――――!!!」
ギデオンの眼光が淡く輝く。
強引に地面を蹴りつけブレーキをかけようとする。
極天蒼炎鸞を発動させると右足が地面を大きく削っている。
かかとを軸に重心を乗せて回転するとギデオンとチルル、二人の位置が逆転した。
入れ替わるタイミングで掴んでいた手を離すとチルルだけが、兵士たちの集団の中へと消えていった。
相手を投げた反動によりギデオンもまた地面へと叩きつけられながら転がってゆく。
「つぅ――――状況はどうなったんだ?」
倒れた際、強打した腰をさすりながらギデオンは身体を起こした。
以前として周囲からは合戦の声が響き渡っている。
どうやら、防戦一方かと思っていた局面が、わずかに南軍の方に傾いたようだ。
想像よりも、ガリュウ軍が目覚しい活躍を見せた。
六鬼衆も今は4人しか動けないが、なかなか健闘している方だ。
「敵将、捕らえたりぃぃぃぃ!!」
騒がしく声を張り上げて、獏王はヒューズを縛り上げていた。
万単位の兵士たちがいても、六鬼衆の筆頭頭と渡り合える逸材はそうはいない。
むしろ、関わらないように距離を取っている。
獏王が弱いように思えるのは、ギデオンが人の枠組みから大きく外れているせいである。
ただし、すぐに調子に乗るのが獏王の悪い癖だった。
見せしめと言わんばかりに捕らえたヒューズをジワジワと痛めつけていた。
チリリィ―――ン
「随分と手荒なことをしてくれたな。だから、お前の様な単細胞はキライなんだ」
「はへぇ?」
いつの間にか、獏王の真後ろにクドが立っていた。
その腕には手足に火傷を負ったチルルが抱きかかえられていた。
振り向こうとした、その首がポロリと地面に落ちた。
残された胴体から噴水のごとく血が噴き出し辺りに鮮血の雨を降らせた。
「すまねぇ……クド。俺が不甲斐ないばかりに面倒をかけちまった」
駆けつけてきた仲間にヒューズは項垂れ陳謝した。
「気にするな、ヒュー。相手はギデオンだ。お前たちが時間を稼いでくれたおかげで目的は完遂できた」
クドは、微笑みながらゆっくりとギデオンの方へ顔を向けた。
返り血で半分、髪が赤黒く染まっているが元から紅いので然程、目立たない。
「チルルがやり過ぎたとはいえ、お前もお前だ。この代償は高くつくぞ……と言いたいところだが俺と一緒に来い、ギデオン! シルキーもお前のことを待っているぞ」
「待っているだと? 元々、お前は強引なところがあったが今ので確信した。やはり、シルクエッタを無理やり連れていったな!」
「だとしたらどうする? お互い、知らない仲ではない。シルキーは理解がある、こんな俺でも受け入れてくれる。そうは思わないか?」
さも誠実そうに語りながらも感情が空白なのは、今も昔も変わりない。
出会ったころは、こんな奴ではなかったのに……聖歌隊でのトラウマがクドの性格を歪めてしまった。
過去を知るギデオンは、深くため息をつくとクドに告げた。
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