異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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三百二十七話

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 ハッキリと自己を否定されるもクドは眉一つ動かさなかった。
 なのに、悲壮感に満ちた声を上げて訴えてくる。

「酷いじゃないか! 悪魔呼ばわりなんて。 自分にとって都合の良いことばかりを言う奴は、ごまんと居るだろう!? 俺たちの周りにもたくさんいた」

 ギデオンは瞳を閉じながら首を横に振った。
 思い出したくはない忌々しい過去だが、クドのソレとは別物だ。

「クド、お前は悪意を悪と感じていないフシがある。お前の言葉は偽りでも、信じ込ませる力がある。なぜなら、相手が欲しがっているモノの核心を的確についてくるからだ。使い方によっては、他者の意思を無視し意のままに操ることも可能な危険な能力だ。そうと知っておきながら、使うことを躊躇わない! これこそ、悪魔の囁きだ」

「ああ……そうだったな。ギデオン、お前は昔から口うるさいところがあったな。俺の嘘を得意の鼻で嗅ぎ当てる。迷惑この上ないことだが、その能力は折り紙つきだと言うしかない」

「嘘のニオイしかしない奴よりはマシだ! 考え直せ、クド!! お前が望むモノは争いの世界なのか? このまま戦いが続ければ、王族に対するドルゲニアの民の反感と憎悪が増してゆくばかりだぞ!!」

「分かっていないな……」

 今度はクドの方が背を向けてしまった。
 その一言にどんな意味が込められているのか? 
 本人にしか分からないことだが、少なくとも人の話を聞き入れそうな雰囲気ではない。
 立ち上がれないヒューズを片手で引っ張り上げ、再度ギデオンの方を振り向いた。
 もう、ここには興味がないとも取れるクドの高圧的な様子に不安が過る。

「じゃあな、ギデオン。俺たちもここでグダグダとやっている暇はない」

「逃がすと思うのか!? 時間を稼いだようなことを言っていたが何をしていた?」

「城に行けば、すべてが明らかになるよ。 全軍!! 攻撃停止!! すぐに敵から離れて、帰還準備を済ませろ」

 将軍じきじきの命が戦場で轟いた。
 東の兵士たちは、それぞれ戦いの手を止めると引き下がってしまった。
 追撃を試みようとした南の騎龍隊が思わず、仰天していた。
 今まで、間近にいた三万もの大所帯が煙りのように忽然と姿を消してしまっている。
 なんと言い表せない感覚が、場を支配していた。
 何が現実で、何が虚構なのか?
 ガリュウ兵たちが辺りを見回し困惑するほど、物静かな撤退であった。

「俺を追いたければ、北の迷宮遺跡に来い! どのみち、東の天楼閣に向かうにはそこを通らないと辿り着けないと思うがな」

「何がしたんだ!? クド、目的は何だ?」

「そう慌てるなよ。次に会う時には、俺の心意を理解できるようになっているさ」

 吹き荒れる風に舞う枯葉がギデオンの視界を遮った。
 すでに、そこにはクドたちの姿はなく街道には南の兵士たちだけが取り残されていた。
 当然ながら、討ち取った敵の骸はそのままの状態で残されていた。
 ここで合戦があったことを示す唯一の証拠となったが、ガリュウ軍の被害もかなり深刻だ。
 十三万人いたとされる軍団も、パッと見で半分以下になっている。
 それだけでは留まらず、満願の都もヒドイ有り様だった。

 満願に急行したギデオンを待ち受けていたのは、これが戦争だという現実だった。
 所々、損壊した建屋の下で大勢の民が逃げ惑っていた。
 皆、安全な場所に行こうと一塊に逃げ出し、押し合い、へし合いをして互いの行く手を塞いでいる。
 兵士たちが敵軍の撤退を知らせても、街の大混乱は収束しない。
 敵がいようが、そうでなくとも、彼らにとっては住む場所を追われることには変わりない。
 一度、芽生えた恐怖はそう簡単に払拭できない。
 それに、統治者たるガリュウの姿が見えないのも、人々の不安を煽る要因となっていた。

 争う音、苦痛を訴える声、救いを求める祈り、絶えず止まない泣き声…………。
 そのすべてが燃え盛る火炎と爆発でかき消されてしまう。
 地獄とは、こんな感じなのか――――

 白煙と粉塵、火の粉により、ガリュウの城を目指そうにも進路が定まらない。
 そこら中、有毒な煙やガスが噴き出ていて、とてもじゃないが嗅覚頼みでどうにかするのは望み薄だ。

「スコルで空を飛べば、悪戯に混乱を増長させかねない……なら、頼むぞ! ハーティ」

 白きアサルトライフルが、獣の姿へとたちまち変貌してゆく。
 雪のように毛並みをした狼は主に呼び出さると周囲を見渡しながら、素早く人波をすり抜けていく。
 その後をついてゆくと、不思議と通れる道が出来ている。
 正確には、適切なタイミングでのみ通過できる道筋をハーティは導き出していた。
 聖獣に案内されながら、なんとか大通りをすり抜けて城門を越えることができた。

「助かったぞ、ハーティ」

 軽く喉元をさすってやるとハーティは眼を細めながら気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らしていた。
 ギデオンは膝を上げると城と向き合い、広大な城の風貌を凝視していた。
 この中に、南の守護代ガリュウがいる。
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