異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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三百五十話

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 天より落ちた無慈悲の雨、悪魔の箱庭を埋めつく刀剣によりピラミッドは針の山と化していた。
 ダモクレスの剣が降りしきる直前まで確かに彼らはいた。
 エゼルキュ―トは迷い込んできた人間たちの魂を探し彷徨っていた。
 すぐ近くにあるはずの生命の結晶、されどいくら探しても残滓ざんしすら見当たらない。

『ウオオオォォワァアアアア――――』言葉にならない悲鳴を上げて悪魔を上空を見上げた。
 折角、用意した玉座は空席のまま、支配者たる王が不在のままではセカイは成長しない。
 箱庭からの脱却、それがエゼルキュ―トの願いであり憤りでもあった。
 もうこれ以上は変わり映えしない世界を見ていられなかった。

 この玉座の主として相応しい少女は、外の世界へと去っていた。
 あれだけ頼んだのにも関わらず、彼女は箱庭より元居た場所へと帰ることを望んだのだ。

 その翼を大きく拡げ、悪魔は飛翔した。
 自分が迎えにいかなければならないと、歪な想いに抱きしめながらビィスの大穴を開いた。

 背筋をかける肌寒さにシルクエッタは両腕をさすった。

「悠長に構えている暇はない! 全員、蜜蝋場所へ移動して火を灯せ!!」

 ラスキュイが合図を送り、五人はそれぞれの持ち場に移動を開始した。

 丁度、魔法陣に描かれている星型の頂点に蝋燭が一つずつ置かれている。
 輪を作るようにして全員が魔法陣を囲う。
 傍に置かれた松明を手に蝋燭に炎を灯すと両隣のラインから光が走る。
 他のラインから流された輝きが途中で合流し一本の線を築いていた。
 あっという間に、白銀に染まる魔法陣が一行の前に姿をあらわにした。

 魔法陣が完成したのとほぼ同じタイミングで、地の底からエゼルキュ―トが浮上してきた。
 自分たちの庭とは勝手が違い聖なる魔法陣の影響で悪魔は人型の姿を保てなくなっていた。
 溶けだしたその身は、絵具のように流れ落ちながら、地面に拡がってゆく。
 魔法陣を消そうと試みているようだが、そうことは上手く運ばない。
 溶けだすその身は止まることはなく、辺り一面をびしょびしょにらした。
 そこから、エゼルキュ―トの意思とは関係なく溶け落ちた肉体が再構築されてゆく。

「来るよ! 皆、祝詞を唱えて!! 退魔の魔法陣の効力を高めるんだ」

「ぐっ……なんてプレッシャーだ。少しでも気を緩めれば、コッチにも悪影響を及ぼすというのか!?」

 シルクエッタの号令が出る中で、必死に祝詞を唱える聖歌隊。
 その中でも魔法が使えないギデオンにとってはかなり困難な状況だった。

『けて――――助け……助けてくれ!!! 悪魔に食われたくない。私はこんなところで朽ちるワケには……いか……なっ」』

『イヤアアァア――――!! 赦して……赦してください、お願いです! 神様。愚かな、我が罪を』

『ハハッハァァア!! いい気味だ。穢れた奴らはすべて食われてしまえばいいのさ。えっ? あっ…………僕? どうして? なんでぇ? 僕を喰らっているんだぁあああ!!』

 悪魔の一部だったものが自動で再構築された。
 それは見るに耐えないほど、凄惨で醜悪な光景―――――犠牲者たちの魂は未だ、エゼルキュ―トの中に取り込まれたままだった。
 彼らの記憶がカタチとなり石像群を形成していた。
 それは、素っ裸で逃げ惑う娼婦や、金貨の入った袋を握りしめる盗人の青年、あるいは宝飾品を差し出しながら命乞いをする貴族だったりと様々だった。

 その中で一際、異質だったのは真っ黒なローブを来た集団である。
 彼らが手にする経典は、聖王国では見かけない一風変わった物だ。
 異教徒もしくは、悪魔を呼び出したとされる例の黒魔術教団。
 いずれせよ、すでに彼らは手遅れだ。
 生死でだけではなく、その後も救われることはない。

 悪魔に取り込まれるというのは、そういうことである。

「醜い、なんて汚いんだ! 喰われて当然だろう……こいつらは自分さえ助かれば良いと思って誰も助け合おうとはしない。悪魔を呼びだした奴らもそうだ! 自分たちのことばかりで周りがまったく見えていない。悪魔を使役しようとすれば、どれだけ多大な犠牲を払うか? すこしでも考える頭があれば分かるだろうに!!」

 吐き捨てるかのようにクドが不快感をあらわにしていた。

「集中しろ、クド! ここでどうにか取り押さえられれば――――」

「シケタこと言ってんじゃねぇよ、ラスキュイ。奴を倒さなければ何も解決しないぞ」

「相手の力量を見誤るな! 最初から僕たちの目的はシルクエッタの救出であり、奴を倒すことじゃない!!」

 炎帝剣を掴もうとするクドをギデオンが一喝いっかつした。
 クドの言う通り、悪魔を弱体化させただけでは問題の解決には至らない。
 再度、復活すればシルクエッタや自分たちを襲ってくる可能性は大いにある。
 けれど、エゼルキュ―トを撃退するのは今ではなく、ましてや自分たちの役割ではないと彼は感じていた。
 悪魔をどうするのか? その判断は、じきにやってくる恩師にゆだねられていた。
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